星の一生の最期に新たな形態が存在

ー中性子星の誕生が引き起こすガンマ線バーストと超新星の発見ー

  1. 星の進化と超新星爆発
  2. ガンマ線バーストと超新星
  3. 今回のガンマ線バーストとそれに付随した超新星
  4. 超新星観測結果の解釈
  5. 結論
  6. 今後に与えるインパクト

1. 星の進化と超新星爆発

星の進化

自ら光を放って輝く恒星は、非常に長い年月をかけて進化します。
その質量が太陽の質量の8倍より小さい星は、 進化の末外層をなくし、白色矮星としてその生涯を静かに終えます。
一方で、質量が8倍よりも重い星は中心にできた鉄のコアが重力崩壊を起こし、 超新星爆発として華々しくその生涯を終えると考えられています。
しかし、太陽よりも30倍以上重い星はその重さ故に、重力崩壊の際に ブラックホールを作ってつぶれてしまい、超新星にはならないと考えられていました (その後の展開についてはこちらをこちらを参照)。


超新星爆発

中性子星を残して爆発を起こした恒星は、超新星、すなわち空にある星が突如 急激に明るくなる現象として観測されます。 SN 1987Aは隣の銀河、大マゼラン雲で起こった超新星で、 この超新星からのニュートリノがカミオカンデで検出されたことで 一躍有名となりました。


h2>超新星までの距離 SN 1987Aは我々がこの1000年間で経験した最も近い超新星で、 我々の銀河系では1056年以来超新星が観測されたことはありません。
現在、超新星が観測される平均的な距離は数億光年です。
そのような非常に遠方で起こっても観測できることから分かるように、 超新星爆発は星一つの爆発であるにも関わらず大変明るく、 その明るさは星が100億個程度集まってできた銀河と同程度にもなります。


宇宙における超新星の役割

超新星は爆発時に大量の重元素を合成します。 また星の進化の課程で作られた元素も爆発時に まき散らされ、超新星爆発によって宇宙は重元素をふやしていく、と考えられることができます。
宇宙がビックバン始まったときには、水素、ヘリウムとごく微量のリチウムしかなかったと 考えられており、超新星爆発は我々の太陽や地球を構成する元素を宇宙に 供給しているという意味で、非常に重要な役割を担っています。


用語解説

  1. 白色矮星: 太陽の8倍よりも軽い星の最終形態。水素を燃やして中心で ヘリウム、炭素、酸素、を順に合成していき、 最終的に炭素と酸素でできた中心部だけが残った状態のことを指します。 それより外側の水素を中心とする層は恒星風として飛ばされ、惑星城星雲として観測されます。
  2. 光年: 光の速度(秒速30万km)でその時間に進む距離。 太陽からの光は約8分かけて地球に届くので、太陽までの距離は8光分と言うことができます。 1億光年の距離で起こった超新星と言ったとき、地球に届いた光は、 実際は1億年前に起こった爆発からの光ということになります。
  3. 重元素: 天文学では水素とヘリウム以外の元素を総称して重元素、と呼ぶことが多い。 鉄とそれよりも軽い元素は星の進化の課程でも作られるが、超新星爆発時には 鉄よりも重い元素も合成される。

2. ガンマ線バーストと超新星

ガンマ線バーストとは

ガンマ線バーストとは宇宙のあらゆる方向からやってくる、突然のガンマ線放射現象で、 1960年代の発見から30年近くその正体は全くと言ってよいほど不明でした。
1997年にガンマ線バーストの残光が可視光で発見されて以来、 それぞれのバーストまでの距離が決定され始め、そのほとんどは数10億光年という非常に遠方で 起こっていることが分かりました。
距離が分かったことで、その全放射エネルギーが明らかになりました。 その結果、典型的には(等方に放射していると仮定した場合)10の53乗エルグ という途方もないエネルギー が放射されていることも分かりました。

ガンマ線バーストと超新星

ガンマ線バーストに対する理解が一気に深まったのは1998年のことでした。
BeppoSAX衛星が検出したガンマ線バーストと同じ位置で超新星が発見されたのです。
さらに2003年、ガンマ線バーストの残光のスペクトルを 可視光観測し続けた結果、それが明らかに超新星のスペクトルに変化したことが確認されました。
これらの結果から、研究者たちは、ガンマ線バーストの起源は超新星である、 すなわち質量の大きい星の最期の姿であるという確信を持ったのです。


極超新星

ガンマ線バーストに付随して発見された超新星は2005年までに 3例あり、そのどれもがスペクトルに幅の広い元素の吸収線を持っていました。
吸収線の幅の広さは、爆発して膨張する物質の速度を反映しており (ドップラー効果)、 その解析から爆発のエネルギーは通常の超新星よりも10倍ほど大きいことが分かりました。
このようにエネルギーの大きい超新星を極超新星と呼びます。
また、明るさの変化の解析と合わせて、このような超新星は太陽の40倍以上の質量をもっている ことも分かりました。


大質量星の最期

極超新星の発見により、太陽の40倍以上の質量を持つ星も最期には爆発することが分かりました。
このような場合は、通常の超新星よりもエネルギーが10倍ほど大きく、 その爆発メカニズムはブラックホールが深く関係していると考えられますが、 まだ完全には理解されていません。
星の自転速度の違いによってブラックホールに全てが飲みこまれ爆発しない場合と、 非常に激しく爆発する場合に分かれるのかもしれません。
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用語解説

  1. ガンマ線バースト: 高いエネルギーの電磁波であるガンマ線が約0.01秒から数 100秒間にわたって観測される現象。継続時間が2秒以上のものはロングガンマ線バー スト、2秒以下のものはショートガンマ線バーストと呼ばれています。今回のバース トはロングガンマ線バーストに分類されるものであったため、ここでは単にガンマ線 バーストと呼んだときロングガンマ線バーストを指すものとします。
  2. スペクトル: 光を波長ごとに分解して、それぞれの波長の光の強度を比べたもの。 ガンマ線バーストのスペクトルは起伏がないのに対して、 超新星のスペクトルは様々な元素による吸収により、よりでこぼこした形になります。
  3. ドップラー効果: 近付いてくるものから発せられる音が高くなる(波長が短くなる)のと同様に、 音と同様の波である光も、近付いてくるものは波長が短く(より青く)なります。 元素の吸収線の位置はその元素によって決まっていますが、超新星自体が 秒速数千から数万kmで膨張しているため、その物質が吸収する光も より青くなります。この光のずれ方を観測することで、逆に速度を求めることができるのです。

3. 今回のガンマ線バーストとそれに付随した超新星

GRB060218と付随する超新星の発見

2006年2月18日、牡羊座の方角、4億4000万光年先で起こったガンマ線バーストを NASAのSwift衛星がとらえました。
このガンマ線バーストはSwift衛星が運用されてから最も近いところで起こった バーストであったため、世界中の研究者は超新星が現れることを期待して 地上の可視光望遠鏡をその方向に向けました。
我々も日本の所有するハワイのすばる望遠鏡を使って観測を行おうと計画しましたが、 悪天候のため断念せざるを得ず、国際協力によりチリのVery Large telescope (VLT) を使って観測を行うことになりました。
そして、観測の結果、超新星SN 2006ajを可視光で発見することができたのです。
今回のガンマ線バーストは、主にエネルギーの低いX線を放射する現象で、 厳密にはX線フラッシュと呼ばれています。
このカテゴリーに分類されるバーストから超新星が現れた証拠が これほど明らかに得られたのは初めてで、 今回の発見により、X線フラッシュも超新星を起源としていることが決定的となりました。




VLTによる観測

どのような星が超新星を引き起こしたかを探るためには、少なくとも 明るさの変化(光度曲線)、光を波長ごとに分解したもの(スペクトル)を 観測し、解析する必要があります。
我々は光度曲線をほぼ1日おきに取得し、スペクトルの時間発展まで 正確に観測することで、解析の精度を高めることができました。


光度曲線

SN 2006ajの明るさと変化の早さはどちらも普通の超新星と極超新星の中間でした。
残念ながら、 地球の公転の影響により爆発後30日程度で太陽の影に隠れてしまったため、 観測を続けることができませんでした。


スペクトル

ドップラーシフトから測った膨張速度は通常の超新星と極超新星の中間でした。
また、750ナノメートル付近にみられる酸素の吸収線の強度がこれまでの超新星よりも 非常に弱いことが特徴的です。


4. 超新星観測結果の解釈

明るさの解釈

超新星の爆発の瞬間には放射性元素の56Niが合成されます。
この元素がまず56Coに、続いて56Feに崩壊するときに放射されるガンマ線により、 超新星物質があたためられ、超新星は光ることができます。
すなわち、一番明るくなったときの明るさは爆発時にできた56Niの総量を 表しており、今回の超新星ではその量が普通の超新星より多く、極超新星より少なかったと言えます。


明るさの変化の解釈

明るさの変化の仕方は、膨張する超新星物質の濃さを反映しています。
56Niは爆発の最も内側で合成されるため、そこから出てきた光は超新星物質を 通り抜けるのに時間がかかります。
非常に濃い超新星物質があるとなかなか光は出てこないため、光度曲線の 変化の仕方(例えば明るくなる早さ)は遅くなります。
今回の超新星が極超新星よりも早く明るくなったという事実は、 典型的な極超新星よりも超新星物質が薄くなっていることを示唆しており、
  1. 超新星の親星の質量が軽いために薄い
  2. 膨張速度が極超新星よりも速いために、極超新星と同じ質量でも薄い
という二つの可能性が考えられます。


スペクトルの解釈

スペクトルに見られる吸収線の速度は極超新星のものよりも遅かったので、 上述した、膨張速度が速いために超新星が薄くなっている、という可能性は 棄却されます。
また酸素の吸収量が少ないということは、そのまま酸素含有量を反映しているので、 れもまた、親星が軽かったことを示唆しています。


シミュレーション結果

今まで行ってきた議論は全て親星が軽いことを示唆していますが、ではどの程度の質 量か、という問いに答えるためには、理論的な計算を行う必要があります。
我々はこの可能性を検証するために、星の進化をシミュレーションで追い、 その星を爆発させ、どのような元素がどれほど合成されるか、どのように光るか、 という一貫したシミュレーションを行いました。


その結果、太陽の18倍の星では十分な吸収線の速度が得られず、25倍以上の星では 観測されるスペクトルに酸素の吸収線が強くなりすぎることが分かりました。
よって我々は、今回起こった超新星は親星の質量が太陽の20倍程度であったと結論しました。
爆発エネルギーは通常の超新星の2倍でこれは普通の超新星と極超新星の中間です。


中心に残された天体

太陽の20倍の質量の星は、中性子星を残して、普通の超新星になると考えられてきました。
今回も20倍という値が得られているので、中性子星が中心に残されたことが予想できます。
ではそもそもこの定説はあっているのでしょうか?ガンマ線バーストが出ているということはやはり なんらかの知られていない理由でブラックホールが作られたのでしょうか?
中心に残された天体を観測的に探るのは容易ではありません。
もちろん距離が遠すぎてパルサーを確認できることもないですし、 中心天体は光を放つ訳ではないので、可視光の光度曲線、スペクトルにも そのシグナルは全くないのです。
しかし、私達による元素合成の計算(56Niができる領域と量の計算)によれば、中心天体 は中性子星だと考えられます。中心にブラックホールほどの重い天体が残ってしまう と、せっかく作られた56Niの大部分がブラックホールに飲み込まれてしまいます。 その結果、この場合には観測値を説明できるほどの量が放出されないことが分かりました。 すなわち、やはり中心には中性子星が残っていないとこの超新星の観測的特徴は 説明が不可能なのです。


5. 結論

GRB060218に付随した超新星SN 2006aj

GRB060218に付随した超新星SN 2006ajは、質量が太陽の20倍程度の星が 中性子星を残して爆発したことで引き起こされた現象であることがわかりました。

太陽の20倍の質量を持つ星の最期

このような軽い星はこれまで普通の超新星にしかならないと考えられていましたが、 今回の研究により、通常の超新星よりもエネルギーの大きい爆発を起こし、 さらにX線フラッシュとして観測されるものがあることが明らかになりました。


6. 今後に与えるインパクト

中性子星を起源とする超新星の爆発メカニズム

中性子星を中心に残す通常の超新星は、ニュートリノの効果で爆発すると 信じられています(観測的な示唆はSN 1987Aからのニュートリノ検出)。
今回のように中性子星を起源としてX線フラッシュを伴うような大爆発を引き起こすには、 ニュートリノの効果だけは不十分かもしれず、 極端に強い磁場や星の高速自転の効果で このような爆発が起きうるかを検証する必要があります。

X線フラッシュ、弱いガンマ線バーストの頻度

今回のX線フラッシュ検出により我々はX線フラッシュ、弱いガンマ線バーストの起こる頻度が、 古典的なガンマ線バーストの頻度のおよそ100倍であることを導き出しました。
宇宙ではこのような爆発が極めて頻繁に起こっており、その宇宙全体に対する寄与は 今後考慮されるべきものです。


宇宙の化学進化への寄与

宇宙に対する寄与の一例として、宇宙の元素の進化についてとりあげます。
宇宙初期にできた星は鉄などの重元素をほとんど含んでいません。
最近の観測的研究により、宇宙初期にできた星の内部では鉄に対する亜鉛の割合が 現在よりも高かったことが示唆されています。
亜鉛はエネルギーが大きくジェットのような爆発をするときによく放出されることが分かっており、 今回の超新星の描像とよく一致します。
その頻度を考えると、今まで考えられてこなかった今回のような軽い星の大爆発が、 宇宙初期における亜鉛のような元素の進化に大きな貢献をしていたことが予想されます。


Masaomi Tanaka
Department of Astronomy, Graduate School of Science, University of Tokyo