七世紀の日本天文学
国立天文台報, 11巻, 31 - 55, 2008 (谷川清隆, 相馬 充)


森博達氏による日本書紀の巻の分類α群,β群に対応して天文記録の信頼性に 違いのあることを筆者らはすでに示した. この結果をさらに確実にすため, 本論文ではさらに徹底的に当時の記録の状況を調べる. α群には3つしか記録がなく, しかも, 観測されたといえる記録がひとつもない. β群では, 3つの紀にひとつずつ, 日本で観測したとしか考えられない記録があ る. 彗星記録は, 中国史書の記録と重複するものが5個ある. 記事の文言および形式が当時の中国・朝鮮のものと異なることから, 大陸の記録が混入した可能性は否定される. 残りの多くは, 局地的現象 (流星, 白気など)の記録であって, 観測されたことを確証はできな い. 観測に基づくか否かを判定できる記録が, すべて観測に基づくことが確認 できた. このことから, 局地的現象の記録も観測結果であろうと推論できる.

日食記録の場合, 個々の記録の信頼性を調べるだけでなく, 晴天率, 観測統計などを行って議論する. それを行なった結果として, 7世紀の日本天文学の性格が浮き彫りになった. 「観測天文学」が 日本書紀のある特定の巻では発展したことが結論できる. 7世紀に観測天文学が 始まった理由について若干の説明を試みる. また, 7世紀末には, 観測を停止する. その理由についても, 若干の考察を試み る.

森の分類が, 日本書紀のいくつかの種類の記録に対して有効であることがわかった. ほかにもこの分類に整合的な歴史記録の類があることが期待される.

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