最後の七日間


編集
谷川清隆
(宇宙科学II)

2000年2月


i
まえがき

編者は考える。カオスは完全な秩序と完全な無秩序の間の状態である、と。

完全な秩序も完全な無秩序も理想化された概念であるから、われらが世界は実は カオスそのものである。 世界あるいは宇宙がいまの状態にあるのは、それがカオスだからである。 星が銀河が、また地球や生命や人間が存在できるのは、世界がカオスだからで ある。われわれにとって世界が意味あるのは、それがカオスだからである。

世界という言葉とカオスという言葉が同義語であるなら、 言葉の置き換えにすぎないではないか。そのとおり。ひとは昔からカオスを 知っていた。木の葉が落ちるようすを見、流れる雲の形を眺めているとき、 また、あったかもしれない自分の別の人生を思って悔やんでいるとき、 ひとは世界のカオスを感じていたのである。

しかし、昔といまは違う。何が違うか? そう。世界のカオスを対象として 明確に認識したことである。われわれは世界の秘密に立ち向かう新たな道具を つい最近、ここ20数年の間に、ひとつ手に入れたのである。

世界がカオスであるとすると、われわれが問いうるのは、世界はどの程度 カオスであるのか、である。はじめに述べたとおり、カオスは完全な秩序と 完全な無秩序の間の状態である。世界が完全な秩序からどれほど隔たっているのか? また完全な無秩序からどれほど遠いのか? これについてわれわれは答えることはまだできない。

不正確になることを覚悟のうえで具体例を考えよう.完全な秩序も完全な 無秩序も生命にふさわしくないことが容易にわかる。

世界中の人間がいつまでもじっと立っている、あるいは座っている。 これは完全な秩序に支配された世界の一例である.そしてこの世界が永遠に続き 得ないのは明らかである。 世界中の人間が毎朝それぞれ会社あるいは学校に出かけ、午後あるいは 夕方きちんと帰宅する.しかも人ごとに出かける時間も帰宅する時間も、 行き先も変わらない.これが永遠に続く.ぞっとするような世界であるが、 これも完全な秩序の一例である。 世界中の人間がそれぞれ会社あるいは学校にでかける、午後あるいは夕方 きちんと帰宅する.ただし、人ごとに出かける時間も帰宅する時間も、 行き先も日毎に少しだけずれる.たとえば、ひと電車早く行くとか、 学校に遅刻する。これも一例である.成長も老いもなく、 昇進も転勤も転職もない。

人間社会での完全な無秩序を想像するのはかなりむずかしい。なぜなら完全に 無秩序なら社会は成立しないことは明らかだからである。

敢えて、想像をたくましくしてみよう。一週間で世界が完全な無秩序になるとしたら どんな変化が起こるか? また一週間で世界に完全な秩序が来るとしたら 何が起こるか?

世界を7日間で壊してみようではないか。次ページの壊し方はほんの一例である。

谷川清隆


ii

月曜日、わたしはいつもどおり妻に玄関まで送られて、高校生の息子と一緒に 家を出、勤め先に向かった。新宿駅で乗り換えたが、今日は人の数がやや 少ない。息子はいつもは「行って来ます」というのだが、ぶすっとしたまま なにも言わずに別のプラットホームに行く。勤め先は研究会などで人が出はらって いるようだ。何人か新しいスタッフが就職して来たらしい。見知らぬ研究者が 構内を歩いている。

火曜日の朝、いつものトースト、ハム、サラダ、ミルクの朝食ではなく、 ご飯と味噌汁であったが、これも悪くない。つとめに出る。息子は関係ないといっ た感じで少し離れて立つ。新宿駅の人の数は昨日より減っている。何か妙だ。 勤め先に着くと、外国人客員の定員が増えたはずはないのに、初めて見る 外国人の研究者が何人かいる。今日の研究室セミナーは古代史の話で あったが、それなりに興味深かった。

水曜日、朝一緒に出た息子が新宿で降りない。理由を聞く間もなく、わたしは 人波に押されて電車を降りる。勤め先までのバスは、いつもとは違うルートを 通る。工事で通行止の場所でもあるのだろう。研究室に入ると、いつも珈琲を 飲みに来る同僚のK氏がわたしの席に座っていた。「やあ」と言ってそのま ま仕事を続ける。わたしは仕方なく別のコンピューターの前に座って仕事をした. 家では久しぶりに料理を作った。妻はどこかに出かけているようだ。

木曜日、息子は止める間もなく、駅で反対方向の電車に乗っていった。 勤め先では庶務課の部屋で一日中過ごした。仕事の勝手がわからず、いつも通勤途 中で読んでいる本を広げて読んでいた。勤め先から家に帰ってみると、 息子はおらず、見知らぬ娘が夕食を食べている。今日の料理はボルシチである。 妻は平然とふたりにおかわりをくれる。 妻の髪の毛が金髪であることに気づく。

金曜日、朝、わたしは東北新幹線に乗って水沢江刺に向かった。自分の勤め先が 水沢の観測センターであると思えてきたのだ。列車はスピードを速くしたり遅 くしたり乗り心地が悪かった。倍も時間がかかった。 駅前からタクシーに乗って、「天文台、お願いします」というと、運転手は道順 を聞く。観測センターの建物の3階の研究室に入り、仕事を始める。もっとも、 机の前に座っても何をしていいか判らない。7、8年前に退官したはずの先輩が こちらを見てニコニコ笑っている。彼女は生け花をしているところだ。

土曜日、観測センターで昔住んでいた官舎で眼を覚ます。昨晩、街に出て 酒を飲んだことを思い出す。誰と飲んだか覚えていない。 勝手に酒を取って飲んだような気もする。 朝食の席で前に座っている女性が妻なのであろうと納得する。実は、顔は丸く、 凹凸が少ない。もしかすると男なのかもしれない。天文台の外に出ると、自動車 が何台も路上に乗り捨てられている。水沢公園に行ってみる。軟式テニスコート では何人かの人がコートのなかでボールもなしにラケットを振り回している。

日曜日、朝、冷蔵庫を開け、パンと牛乳を見つけて朝食を軽く済ます。 牛乳はなまぬるい。水沢の市内まで歩く。商店は昨日から開けっぱなしの ようだ。 誰もいない。外はうろうろと動き回っている人ばかりである。 わたしも、何のためにここにいるのか、自分が誰なのか判らなくなってきた。 人の顔がもはや区別できない。 ガラスに映る自分の顔はますますまるくなり、意識も薄れつつある。

(谷川清隆、国立天文台ニュース[1999年7月1日号]より)

iii

目次


まえがき i

例題(谷川清隆) ii

森田 悦久 1

花岡 一央 3

鈴木 宏 7

浅井 大 8

矢幡 和浩 17

出口 裕也 18

守谷 和之 21

アモーンラット リイマニー 23

光田 智史 24

高妻 篤史 26

尾崎 仁 27

新開 研児 29

廣田 洋一 31

中野 貴比呂 33

山口 浩由 37

川路 友博 38

太田 哲二 39

武田 真樹 41

財満 康太郎 42

森高 外征雄 45

野本 裕史 47

原 祐輔 49

中谷 祐介 50

高橋 祐喜 52

礒野 裕 53

浅田 洋平 54

(匿名希望者) 55

横田 華奈子 56

上原 進 57

田中 大士 59

鈴木 一正 60

小林 国弘 61

高崎 勝之助 63

吉越 丈倫 65

山田 佳樹 66

五十嵐 悠一 67

戸澤 英人 68

丸山 泰史 71

匿名 希望 73

山田 康嗣 92

谷川 清隆 94


森田 悦久

月曜日。

今日からまた、一週間が始まる。前日が休日だったこともあって。体が少しだ るい。さて、がんばって、大学へ行ってきますか。

... 講義を受け、家に帰る。何の変哲もない、一日だった。

火曜日。

今日もまた、同じように講義を受け、家路につく。 今日は用事があったので、少しだけ寄り道をした。すると駅前でなにやら 演説らしきことをしている集団を見かけた。 といっても、気にすることもなく、通り過ぎたのだが。

今日変わったことと言えば、せいぜいそのくらいだ。まったく、平和な世の中だ。


水曜日。

今日も用事があったので、寄り道をする。昨日と同じ駅で降りると、 昨日と同じ場所で、演説している人々が、またいた。ふと興味がわいたので、 耳を傾けてみると、なにやら、「世界の終末が近い」だの、 「今こそ我々は、自分たちの神を守らねばならない」だのといったことを話してい る。 もしかして、あやしい宗教かなにかか?こういう連中とは、関わらないに限る。 早く用事を済ませて、家にかえろう、と思ったそのとき、 そのあやしい内容にもかかわらず、かなりの人だかりができていることに気付い た。こんな話がウケるとは、まさに世紀末、だな。


木曜日。

今日は、珍しくも、「絶対に休講にならない」といわれていた講義が休みになっ た。
珍しいこともあるものだ。

帰り道、今度は昨日までとは違うところで、同じような話をしている連中をみた。 そのとき彼等の背がふと見えたのだが、驚いたことに、彼等は自分たちの背に、 翼をつけていた。そう、まるで、天使のような。天使の格好をした宗教の 勧誘員なんて、聞いたことがない。まさか、自分たちが天使だ、 なんて言うつもりなのだろうか?すごい人たちが現れたものだ。


金曜日。

今日が終われば明日からまた休日だ。そう思えば、やる気もでてくる。

普通に講義をおえ、帰ろうとしたそのとき、構内で、あの、背中に翼を はやした人たちの仲間と思われる人を見かけた。彼女(その人は女性だった)は 一生懸命勧誘をしているようだった。最近、この手の人が増えてきたなあ、 とか思っていると、彼女がこちらによってくるのが見えたので、とりあえず その場を離れた。彼女には悪いが、勧誘はごめんだ。


土曜日。

休日、とはいっても、特にすることもないので、適当に街をうろついてみた のだが、すぐ家に帰りたくなってしまった。なぜなら、あの、背中に翼を 生やした偽天使が、大量に街をうろついていたからだ。信じられない、
なぜ、あんなことをするんだろう?みんな、どうしてしまったというんだろう?
なにより、何故、彼等は、この僕を、あんな、哀れむような目で見るんだろう?


日曜日。

恐ろしくて街には出られない。自分以外、みなあの偽天使になっていたら、 きっと正気を保ってはいられないだろう。部屋に閉じこもっているしかなかった。

その日、珍しくも訪問者がきた。始め無視しようかと思ったが、母だという ことがわかったので鍵をあけようとした。その瞬間、恐ろしい考えが、 僕の手を止めた。もし、母まであの、偽天使になっていたら?僕はいったい、 どうすれば?母が鍵をあけてと催促する。
扉の外に母の声を聞きながら、僕は、悩んだ。


そして、意を決し、扉をあけた。そこにいた母の姿は、いつもの、 見慣れた姿だった。僕はとりあえず安心して、家の中へ母を招き入れた。 そのとき、母へつづいて、リビングへ入ろうとしたそのとき、僕は、 見てしまったのだ。母の背についた、ふたつの... ちいさな、翼を。


その瞬間、視界が暗転した。もう、何も見えなかった。


花岡 一央


[12月24日(金)]

今日の授業が終われば冬期休業だ。僕は、栃木の実家に帰る仕度をして 一限の授業へ出席した。しかし、教官が現れず自然休講。だいたい夜の9時ごろに実家に 着けばいい、と思っていた僕は2限以降の空き時間を部室で過ごした。午後5時、部室を 出て、駅に向かった。井の頭線、千代田線をへて、北千住から東武線に乗った。 ここからはもう一本道だが、何しろ2時間くらいかかる。何もすることのない僕は しだいに眠気に支配されていき、いつの間にか眠りに落ちた。 目が覚めた。まだ東武動物公園だ。あと半分くらいある。だが、もう眠くはない。暇を もてあました僕は車内の中吊りに何気なく目をやった。スキャンダルや暴露ネタが ひしめいていたが、その中で一つだけ奇妙な記事があった。

「米国防省に謎の怪文書!内容不明、意味不明の文面は 一体何をあらわしているのか?」

アメリカには物好きな人がいるもんだ、と思いつつその続きをたどった。

「犯人像は 狂人説、愉快犯説、宇宙人メッセージ説」

宇宙人からのメッセージ!?ネタに困ってマスコミもよくいってくれたもんだ。
半ばあきれた僕は中吊りから目を離し、久々に見る田舎の風景を楽しむことにした。
空にはきれいな星々が見えた。その中に、スーッと宙を切る星を発見した。 流れ星だ。
流れ星を見るのは何年ぶりか、と思いを巡らせながら、電車にゆられ続けた。
南宇都宮駅で電車を降り、徒歩10分くらいの自宅に向かった。あたりは前とあまり 変わっていない。わが家も、特に変化はなかった。久しぶりに家族と顔をあわせた。
家族もあまり変わっていない。僕は疲れていたので、早めに床に就くことにした。
窓から空を見上げると、きれいな星空が見えた。その日は、星空を眺めながら いつのまにか眠ってしまった。


[12月25日(土)]

目が覚めると、まぶしい光がとびこんできた。昼まで寝ていたのだ。 寝室からリビングへ行き、新聞をボーッと眺めつつ、朝昼一緒の食事をとった。新聞の 2面の隅っこに小さい記事がのっていた。

昨夜、日本各地で流れ星が見られた、という事実が、いわゆる「聖夜」にからめて ロマンチックに書かれていた。俺だけが特別流れ星を見られたわけじゃないのか、 と思いながら食事を終えた。午後は、父や母に今までの大学生活について語って 聞かせてあげた。勉強のこと、部活のこと、様々なことを語った。夕食は家族で外食。 近くの回転寿司屋に行った。特別なことは何もなかったが、イクラが妙に多く 回っていたような気がした。

夕食から帰って、僕同様に里帰してきた友人に電話をかけた。何人かと電話で話をして 明日わが家にて麻雀をやる約束を取りつけた。その後、風呂に入り、しばらくテレビを 見た後、寝ることにした。今日の新聞の、流れ星の記事が気になって、思わず窓の外を 見てしまった。昨日よりも美しい星空がひろがっていた。星が妙にはっきりと見えたが 驚いたことに、僕が星空を見ている間(一時間くらいだった)に二つも流れ星が 見えたのだ。やはり俺は運が良かったのだ、と勝手に思い込み、明日の必勝を 祈りつつ眠りに就いた。


[12月26日(日)]

朝九時に起床。僕の家で麻雀をやるときは、朝十時集合、午後五時 解散と決まっているので、嫌でもこのくらいの時間には目が覚めるものだ。朝十時、 メンバーがそろった。麻雀開始。

絶好調だったのは、連日の家族麻雀で猛烈なツキを見せていたという友人のK。 早い巡目でイーピンをきってリーチをかける。

「流れ星一丁きってリーチ!」

下家の僕は、何をきるか迷ったが、スーピンをきることにした。

「じゃあ、流れ星四つでどうだ!」

通らなかった。見事な一発振り込み。手痛い失点だ。ちなみに、ピンズの玉を流れ星に 見立てているのは、近頃やけに多く見える流れ星をマスコミがさわぎたて、今や テレビがその話題であふれ返っているためである。確かな情報なのかどうかは わからないが、アメリカ国防省が世界中の天文学者を招集して、緊急の会議を開催する なんて話しも出てきている。

麻雀の結果は、いきおいづいたKの独り勝ち。一番の功労者は僕だ。きるピンズが ことごとく当たり牌になってしまった。つくづく流れ星に縁があるということか。 午後五時、友人たちは各々の家に帰っていった。

夕食までの時間、僕は自然とテレビの前にいた。主なニュースはやはり流れ星関連の ニュースだ。昨晩も、24日の夜と同じく、各地で流れ星が見られたそうだ。しかも、 流れ星の数はどうやら増えているらしい。何だか、ゾッとしてしまった。ちなみに、 例の会議は実際に開催されるようである。

家族と夕食をとり、僕はそのあとすぐに風呂に入り、すぐ寝てしまった。なぜか、 空を見る気にはなれなかったからだ。


[12月27日(月)]

またもや昼過ぎに起きてしまった。早寝早起きを心掛けなさい、と母に 叱られた。一月末からは試験があるのだから、遊んでばかりはいられない。 僕は勉強を始めた。まずは総合科目からやろうと思い、現代教育論、 法と社会の復習を終え、宇宙科学IIにうつった。ミランコビッチサイクル、 三体問題、様々なことを学んだものだが、なぜかオールト雲についての ページが不気味に目につく。近頃の流れ星騒ぎはオールト雲に関係が あるのだろうか。いろいろ考えているうちに夕食の時間となった。

夕食後、テレビをつけてみる。やはり流れ星の話題で持ち切りだ。 天文学の権威(とはいっても彼らは緊急会議に出席していないようだが。) といわれる先生方が熱弁をふるっている。具体的な理屈はよく 理解できなかったが、とにかく、現在地球のあらゆる所で見られている流れ星は、 あれは実は彗星の一種であって、相当数の彗星が地球に飛来しているのだと いう。そんなに多くの彗星が接近しているならいつかは地球に 衝突するのでは、という恐ろしい考えが一瞬頭をよぎったので、その晩は 不安のあまり寝付けなかった。

夜中の三時くらいになっても寝付けなかったので、僕は 寝るのをあきらめた。なぜか、流れ星がいったいどれほど多いのか、この目で 確かめたくなった。窓から空を見上げ、流れ星の数をかぞえ続けた。なんと、 朝六時までに二百個ほどあった。数え落し等も考慮にいれれば、実際は それよりもかなり多いだろう。だが、いずれにしろ、これは異常な事態だ。 寝るのはあきらめていたつもりが流れ星をかぞえ疲れてしまったのか、 朝方に眠り込んでしまった。


[12月28日(火)]

目は覚めたはずなのだが、あたりは暗かった。すかさず時計を見て みると、午後六時であった。どおりで暗いわけだ。それにしても、 いつもうるさく僕を起しに来る母は一体何をしているのだろう。 リビングへ行ってみた。母はテレビにくぎ付けになっていた。僕も、 母と一緒にテレビにくぎ付けになってしまった。

天文学者たちの緊急会議は二日間におよび、その結論がでたのである。 それによると、近頃の異常な数の流れ星は、間違いなく彗星であり、 何らかの原因でオールト雲から次々と飛び出しているのだという。また、 すでに火星が、彗星群の直撃をうけ消滅しており、地球にも遅からず彗星が 降り注いでくることになる、とも言っていた。それに関連して、 アメリカ国防省も会見をひらいていた。例の怪文書は、言語学者の解読の 結果、地球外生命体から送られてきたものであること、その文書には、「地球」 と「彗星」と「人が死ぬ」意味を表すと考えられる象形文字に似た文字が 書かれていたことなどから、地球外生命体からの警告文であると判断し、 戦略級のミサイルを用いて、地上に降ってくる彗星を破壊する用意があることを 述べた。

それを聞いて、僕は呆然としてしまった。しばらくの後、 最初にとった行動はといえば、明日、友人と 共に麻雀をするべく、友人に連絡したことであった。この非常事態にもかかわらず、 僕はなぜか麻雀をしなくては後悔するような気持にとらわれたのだ。友人達は了解 してくれた。きっと彼らも同じ気分なのだろう。その日は、夕食もろくに喉を通 らず、すぐに寝てしまった。


[12月29日(水)]

朝十時、前回と同じメンバーが集まった。みんな心なしか顔色が 良くない。だが麻雀は普通どおり始められた。 前回、絶好調だったKの勢いには翳りが見え始めていた。その分といってはなんだが、 僕は絶好調だった。一つだけ前回と同じなのは、ピンズに縁があるということだ。 手なりに進めていくと、必ずといって良いほどピンズを待つ形になる。しかも、 そのピンズをKが振り込んでくれるのだ。僕はダントツだった。さらに麻雀は 続く。

ある時、僕は、清一色を張った。もちろん、ピンズのである。様々に考えを めぐらせ、リーチをかけることにした。次巡、僕がつかんだのは、当り牌のイーピン。 そのイーピンを卓に勢い良くたたきつけたその時、あたりに轟音が鳴りひびいた。 何事かと思いとりあえずテレビをつけてみると、ニュース速報で、アメリカが、 日本の大気圏上空で彗星をミサイルによって破壊した、とあった。ついに、地球に 彗星が降り注ぎはじめたのだ。 その日は、五時解散にはならなかった。僕も、他の三人も黙々と麻雀を打ち続けた。 そのまま、深夜をまわってしまった。


[12月30日(木)]

麻雀は続いている。相変わらず、ピンズにつきまとわれる僕。今度は、 ピンズばかりの四暗刻を張る。しかも単騎待ち。当然、リーチはかけない。だが、 すかさずKが振り込んでしまう。その時、ニュース速報が入る。アメリカ国防省本部が 彗星の直撃をうけ壊滅、ミサイル迎撃の指揮系統が大混乱し、世界各地に彗星が 降り注いでいるとのことだった。これですべてが終りだ。四人全員の手がとまる。 次の瞬間、今までに感じたことのないような、とてつもなく大きな揺れを感じた。 瞬く間に家は倒壊し、僕は意識を失った。


しばらくして、意識が戻った。僕は生きていたのだ。あたりを見回してみる。 僕の家の周りは一面見渡せる荒野と化していた。友の生死は、すべては 確認できなかったがあわれ、Kは家の下敷きとなり帰らぬ人となっていた。 俺は生き延びたんだ!と思ったのもつかの間だった。遠方より透明の液体が 押し寄せてきた。海水だ、と直感的にわかった。さっき落ちた彗星はおそらく 海に落ちたのだろう。迫り来る海水の前で、僕はいろいろな事を考えた。 このまま世界が崩壊することは間違いない。しかし、なぜ突然彗星が多量に 地球圏に飛来したのか。「ミレニアム記念!オールト雲からの少し早めの お年玉」とか「オールト雲の久しぶりの大掃除」とか、頭に浮かぶのは馬鹿げた ことばかりだった。眼前に迫る天まで届かんばかりの海水にあらがうこともできず、 僕はのみこまれ、いしきがうすれていった。

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目が覚めた。僕はすかさず、PHSで日付を確認する。十二月二十四日、 午後六時四十七分であった。僕は東武電車に乗って帰路についている。 僕は、夢の中で、世界を一週間のうちに壊してしまっていたのだ。


鈴木 宏


月曜日 -- 朝は6時に起床。和風の朝食を済ませてから、マンションをでる。 最寄り駅のK駅まで5分。T線で終点のS駅まで行き、I線に乗り換える。 いつもと変わらず、大学へ到着。講義を受けて、昼食はいつもの ミニ中華丼。 いつもと変わらない味。午後の講義は眠いが、なんとか終えて 帰宅。宿題などして、寝るのは12時。


火曜日 -- 朝、6時過ぎに起床。朝食は、いつもより心持、多くなって いるような気がする。K駅に着くと、各駅停車の代わりに急行が来たので、 それに乗る。大学では、午前中の講義を終えて昼食。ミニ中華丼を買ったが、 量が少し少ない。午後の講義を受けてから帰宅。普段は1時間ほどかかるのに、 今日は、45分ほどでついた。宿題などして、寝たのは12時15分頃。


水曜日 -- 目が覚めると7時半。かなりの寝坊。朝食が、なぜか洋風になって いる。すでに学校に行っているはずの妹と、洗面所の奪いあいをして、 マンションをでるのが遅れる。電車もうまく来なくて、遅刻。昼食の ミニ中華丼は売り切れていたので、ミニ牛丼を買う。ついていない。 午後はいつもは眠いのに、今日は、あまり眠くならない。帰ろうとして、 大学の最寄り駅のKT駅に着くと、I線の快速なるものができていた。 便利、便利。寝たのは、12時前。


木曜日 -- 目が覚めたのは5時。早すぎるが、眠れなくなったので、朝食。 昨日は、あんなに遅かった妹が、今日はすでに学校へ行ったとのこと。 朝食は、バイキング形式になっている。K駅に着くと、T線が不通に なっていたので、別の経路で学校へ。講義を受け、昼食。ミニ中華丼は あったが、量がかなり多い。午後の講義はすべてカットになる。 帰宅しようとするが、電車が止まっていたので、タクシーで帰る。 家に帰ると、だれもいない。夜になってもだれも帰ってこなかったので、 早めに寝る。


金曜日 -- 起きたのは6時。フルコースの朝食を、父親がつくってくれる。 知らないうちに、兄がいることになっていた。定期が使えなくなったので、 切符を買ったが1万円もした。大学につくと、講義が、8限まで あることになっていた。昼食は、まともなものを売っていなかったので、 お菓子で済ます。夜の11時頃に講義が終わる。家までなぜか 乗り換えなしで帰れるようになっている。が、マンションが一軒家に なっていた。疲れていたので、すぐにベッドに潜り込む。


土曜日 -- 朝起きるとだれもいなかった。時計が日時計になっていたが、 曇っているので、何時かは分からない。朝食を抜いて家を出る。 今日は大学はないはずだが、行かなくてはならない気がする。 新幹線で通学。大学では、みたこともない講義が開かれていてたので、 その1つに潜る。昼もお腹が空いていないので抜いてしまう。午後は、 講義が分からないので早めに切り上げる。家が、大学の目の前にある。 自分そっくりの人間が、出迎えてくれた。夜になっても眠くならない。


日曜日 -- 気が付くとベッドの中だった。家も自分の家だか、他人の 家だか分からない。大学まで歩いて2時間もかかる。講義に出てみるが、 みたことも聞いたこともない言葉でやっている。分からないので抜ける。 昼は、生えていた草を食べてみる。午後になると、人がいっぱいいて、 バーゲン会場のよう。自分のいる場所がよく分からない。 家への帰り方もよく分からない。だれがだれだかも分からない。


浅井 大

メイドロボは世界の終わりの夢を見るか?ver1.01
* この作品は,『二次創作物』のつもりで書かれています。
* 引用出版物の著者名の敬称は略させていただいてます。


〇 プロローグ
―2000年7月16日―

世界の終わりが迫っていた。すでに、『この世』はひどく少ない地域となって しまっている。日本、オーストラリアを始めとする西太平洋地域、 それだけが人類に残された縄張りだった。ひょっとして奇跡が起こって この事態が終わっているのでは、と言う期待は願望に過ぎなかった。 『起こらないから奇跡と言う』のだから。

畜生、この世界は何でこうなってしまったんだ?生き残ることが出来たら、 ぜひ調べてみたいもんだ。


もちろん、彼はそれがかなり無茶苦茶な注文であることを承知していた。


Ⅰ 設定状況          ――「歴史の分岐点」は些細なことで決まる――
(『人間はなぜ戦争をするのか』日下 公人 著 より引用――)


1962年10月  ワシントン・ホワイトハウス

ホワイトハウス内は重々しい空気に包まれていた。無理も無い。今、 まさに第三次世界大戦を引き起こしかねない決断が下されようとしているの だから。
「命令する」
 合衆国大統領が口を開いた。
「合衆国四軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)は『マングース作戦』を実施せよ」

『マングース』――合衆国軍のキューバ侵攻作戦はこの瞬間、発動が決定された。 失敗すればどうなるか――そのことをこの国家安全保障会議のどのメンバー よりもよく『知って』いるだけに、大統領は緊張していた。一応、 直接命令でミサイル基地攻撃部隊を増強しておいたが大丈夫だろうか? 彼の不安は尽きなかった。


同日 モスクワ・クレムリン

世界の反対側とは打って変わってこちらは楽観的ムードだった。もっとも、 本当に気楽にしているのは書記長だけだったが。彼には、自分達が勝つという 『確信』があった。――大丈夫、念には念を入れて全てのミサイルは ワシントンに向けた。これで多少狂っても大丈夫のはず――彼は、 合衆国軍のキューバ侵攻作戦準備開始を聞いてから、 絶対の自信で満ち溢れていた。   


1999年

○キューバ危機 

それは、旧ソビエト連邦(現在のロシア共和国)が旧キューバ共和国に 反応弾道弾基地を建設しようとしたことから始まりました。 これを重大な危機と捉えた合衆国はキューバに侵攻・これに対し、 即座に破壊を(まだ)免れていたミサイル群に対し、反撃命令が下されました。

しかし、発射されたミサイルは、あらぬ方向へ飛んでいったり、自爆したりして、 結局、一発しか合衆国本土には届きませんでした(しかも、 それもほとんど無人の山奥に着弾したため、事実上、被害はゼロでした)。

これに対し、合衆国は反応兵器で報復し、24時間後には、キューバという国は 文字通り蒸発してしまいました。あまりにも反応がすばやかったため、結局、 ソ連は西ベルリンを再び封鎖する以外の反応がとれず、 第三次世界大戦は危ういところで回避されました。


○新しい世界

この反応(結果的にソ連がキューバを見捨てたこと)を受けて、 北ベトナムは南への侵攻を中止し、アジアにも一応の平和が訪れました。

しかし、ソ連はこれでは収まりません。プライドを著しく傷つけられたソ連では、 今までの穏健派の書記長に変わってタカ派の書記長が就任しました。 しかし、書記長就任後からまるで別人のようにタカ派的言動が消え、 かわってキューバで馬脚を現してしまったロケット・宇宙開発関連事業に 力を注ぐようになります。その結果、1968年に合衆国より一年早くソ連は 月に人類を送り込みました。

慌てたのは合衆国です。せっかく追い抜いたと思ったロケット技術でまた逆転された (と市民は思った)のですから。ここに、第二次宇宙開発競争が始まりました。

ところで、我々日本はどうしたのでしょう?政府は大きく遅れを取ってしまった宇宙 開発技術は合衆国に任せ、日本は50年後には一大産業になると想像された 情報科学立国を目指すことにしたのです。 その結果、重化学工業化のための資金がかなり転用され所得倍増計画は 目標を達成できず、一時的に成長率は鈍化しましたが、今日の日本の成功 (1997年に試験が始まった情操機能搭載型汎用人型家事ロボットは皆さん ご存知でしょう)を見る限り、国家百年の大計として賞讚されるべきでしょう。

たとえ、もしその資金を宇宙に投資していたら、合衆国を追い抜けた可能性が あったとしても(1987年に完成した合衆国初の軌道基地の、 計画のチーフが日本人というのは有名なことですね)。
            ――1999年度用国定社会科教科書より抜粋――

Ⅱ 終末の日
       ――この世に茶番ではないことなど、いくつあるのかな――
                           阿合 捷一郎
     (『氷山空母を撃沈せよ!』3巻 伊吹 秀明 著 より引用――)


2000年7月10日   東京

「ご主人様~、朝ですよ~」

俺は自分のメイドロボの声で起こされた。かつて、俺が運用試験に関わった HMX-12(人型メイドロボット試作12型) ―市販されているHM-12の プロトタイプ― だ。本来ならば、試験運用後、廃棄処分となるハズだったが、 ひょんな事より、俺のところに送られてきたのだ。

「あっ、今日は一度で起きましたね~。これなら今日は走らずにすみそうですね~」

俺の寝起きは異常に悪く、まず間違い無く幼馴染が窓の外で連呼することに よってやっと起きてきていた ―別に声が大きいからではなく、 この年で「ちゃん」づけで呼ばれるのが恥ずかしいからである― 。 もちろんそのころには遅刻ぎりぎりだ。 「それより飯は?」
「ううっ、すみません~」

またか…。彼女(言い忘れたが、女性型である。外見年齢は、メーカーによれば、 一応、16才程度となっているが…)がまともに朝食を作れたためしは、 家にやってて2ヶ月、一度も無い。おかげで俺はこの間、 数回しかまともな朝食をとっていない ―もちろん、俺ではなく、 それを見かねた幼馴染が作ったのである― 。ようするに、 前と変わってないだけだから、別に気にしていない。
「明日こそがんばります~」

もちろん、彼女は毎日こう言っている。普段どおりカップ麺で食事を済ませ、登校の 準備を始めた。

今日も普段と同じ一日になる。そう思っていた。


      同日 合衆国・ケープケネディ
「ヨーク11号、応答せよ!応答せよ!」

全係員が、必死に地球からちょうど40万キロ地点で音信不通になったヨーク11号 ――合衆国が2000年の建国記念日にあわせて打ち上げた人類初の月軌道外への 有人ロケット――を呼び出そうと試みていた。光学観測によれば、 正常に飛行しているはずだが、乗組員からの連絡が突如途絶えたのだった。

しかし1分後、彼等はそれ以上に衝撃を受けることになる。火星にたどり着いた はずのヨーク9号 ―中のHM-8が連絡をとり続けていた― が消滅したと 言うのだ。音信不通ではなく消滅?何かの間違いだろうと思ったが、光学観測の 結果、疑いようの無い事実と判明。しかも、静止軌道より外側の全ての 人工天体 ―もちろんヨーク11号も含まれる― が次々と「消滅」していく さまを見て、完全にパニックに陥ってしまった。


しかし、それすらも、その直後に起こった現象に比べれば、前座に過ぎなかった。


   ③ 同時刻 太平洋上・日付変更線

日付変更線―人類が便宜的に作った便宜的な線上でいっせいに光が立ち上った。高度 3万6000キロにまで達する光のカーテンは、やがてゆっくりと東へ動き始めた。


   ④2000年7月11日   東京
「ご主人様~、朝ですよ~」

昨日と同じく起こされた。今日も起きれた。しかし、気分は優れない。当たり前だ。 世界が終わりかけているのだから。

昨日の帰路、車中で、世界が終わるだのどうこう言っているサラリーマンを見かけた ときは、正直言って、集団妄想でも流行っているのか― そう思った。

しかし、帰ってつけたTVの画像は彼に衝撃を与えた。全ての局が世界の 終わりを伝えていたのだ。  ― 静止衛星からとらえた映像では、 わけのわからない「光の壁」の通り過ぎた後は完全に何も無くなっていた。 西側 ―「壁」の進行方向と逆側から入ったものも、日付変更線を過ぎた 瞬間に消滅した。しかし、奇妙なことに、そちらに向かって空気や海水が なだれ込むということは無かった。それどころか、ラインの内側からも外に 流れてきているようであった(もっとも、空気と海水だけだが。入り込んだ調査 員は二度と戻ってこなかった)。  ほぼ一日50度の割合でこの「壁」は東へ進みつづけている。 

そのときは、世界が終わると言っても、全く実感はわかなかった。 信じられなかった。しかし、一夜明けてみると、だんだんと恐ろしさが身に 染みてきた。しかしどうすればいいと言うのか?考えた挙句、 俺は普段どおりに行動することにした。登校することにしたのだ。 ドアを開けると、同じ結論に達したのであろう、黄色いリボンをつけた 幼馴染がやってくる姿が目に入った。


  ⑤2000年7月12日  ワシントン
「政府は何をやっているんだ!」
「私は死にたくない!」
「助かる方法を教えろ!」

ホワイトハウス前ではデモ隊がシュプレヒコールを上げていた。経度の関係上、 早期に消滅しかかっている合衆国。ハワイは異変初日に姿を消し、 3日目の今日では、「壁」はついに東部の州に差し掛かりつつあった。 「お前等だけ助かる気か!」

一部のキリスト教徒は、「審判の日が訪れた」と、この現象を受け入れたが、 大方の人々はまず脱出を試み ― とりあえず東の欧州やアジアへ向かおうと したが、航空機の絶対数からいって足りるわけが無い。第一、一度東側へ 飛んだ機は戻ってくるわけが無かったし、ダイヤもめちゃくちゃ、 というより、事実上もはや存在していなかった ― 、 それが不可能とわかると、全土で暴動が発生した。ここワシントンD.Cで暴徒が ホワイトハウスに突入していない理由は簡単なことで、異変の全貌をいち早く 知った副大統領が連邦軍で警備させているからに過ぎない。
「大統領!隠れてないで出て来い!」

大統領は、異変が始まった瞬間、文字通りの意味で「姿が消えた」。 衆人の前でだ。そのことをTV局が報道すると、「大統領は一人助かる方法を 知っている!政府首脳だけ助かる気だ!」と歪曲された形であっという間に 伝わったのだ。
「このまま黙っていたって死ぬだけだ!」

「壁」がワシントンに来るまであと2、3時間といったところだった。
「いちかばちか突っ込むぞ!」

その掛け声とともに暴徒と化したデモ隊がホワイトハウスに侵入を試み、 当然連邦軍がこれに発砲。暴徒側も応戦 ― と言っても ささやかなものだが ― 、ホワイトハウス前は阿鼻叫喚の地獄と化した。


  ⑥ 2000年7月13日   東京
「ご主人様~、朝ですよ~」

また朝がやってきた。気が滅入るだけだから見てもしょうがないと分かって いるのだが、それでもTVをつけてしまう。

状況は何一つ変わっていなかった。数時間前、合衆国は消滅した。「壁」は 今も大西洋上を東へと進んでいる。EC諸国は軒並み戒厳令を敷いている。 フィジー諸島は今年の正月を上回る人が押し寄せ、なお増加中 (そこに行ったって、せいぜい数日しか長生きできないと言うのに ご苦労なこった、と思った)。

日本国内では、まだたいした混乱は起きていなかった。政府は非常事態宣言を 発令、予備自衛官の召集を行い (そういえば何で総理が発表しなかったんだろう)、物価統制令を出したが、 こちらはさしたる効果が無かった(もっとも、金銭の価値なんか無いに等しいと 思うのだが)。しかし、まあ一週間の食べ物程度はあるからどうってことは ないが。犯罪は「思った程」は増えていない。まあ、発砲許可の出た 自衛隊員や機動隊が大都市に展開しているせいもあるが、 「何をしてもいまさら無駄」とあきらめモードに入った影響のほうが 大きいようだった。

信じがたいことに、未だに社会システムは辛うじて動いていた。やはり、 まだ日本が直接消滅し始めてはいないからだろう。電気、ガス、水道は 今までどおり供給された。電話はさすがにつながりにくい。 回線がパンクしているせいだ。

商店は、まだ細々と営業している。とはいっても、すでに大半の店は売るべき 品など残っていなかったが。銀行は、11日の午前中までに全て営業が 不可能になっていた(もちろん、とりつけ騒ぎのせいだ)。

交通網では、自動車が長距離移動には意味をなさなくなった。高速道路は 車で埋まっている。特に東行きが混んでいるというわけではないから、 おそらく、最後の時を故郷で迎えたいという人達だろう。国内線の飛行機は 運行を停止した。全ての飛行場が西からの航空機の受け入れでてんてこ舞い だからだ。鉄道は、大量の職場放棄が相次いだため、間引きダイヤだが、 まだ動いていた。もっとも、おとといはまだ10分おきに来ていた山手線が、 今日は20分おきだというのだから、他の線も押して知るべしである。 新幹線は、まだ本数はそれなりに出ているのだが、どれもこれも朝の 通勤ラッシュもかくやといった殺人的混雑だった(そういえば、 ウチのクラスのシケ長は、たしか神戸出身だったけど、無事帰れただろうか?)。
「やっぱまた寝るわ」

大学は昨日から休校になっている。とくにすることもないので、 俺はまた寝ることにした。


  ⑦2000年7月14日  モスクワ

モスクワでも、2日前ワシントンD.Cと同じ騒ぎが起こっていた。もっとも、 この国の大統領がTVに出たがらないのは今に始まったことではない。 たとえ合衆国大統領と同じように「消えた」ということが分かっても、 「『アル中で死んだ』の間違いだろう?」と思われるのが落ちではあったが。 政府による事態究明と対策を求めるデモは果てしなく続いた。


  ⑧2000年7月15日  東京
「ご主人様~、朝です…はわわっ!!」

俺は悪夢で飛び起きた。もっとも、起きたこの世界も悪夢そのものだが。 そういえば、昔、中国だかどこだかの詩人が詠っていたな。 「蝶になって空を飛ぶ夢を見、目が覚めた。しかし、ひょっとして自分は蝶で、 今、人間となっている夢を見ているのではないだろうか。」まあ、この場合、 どっちの現実もお断りだが。
「なあ、そういえばちょっと聞きたいことがあるんだが」
「はい、なんでしょうか?」
「お前も夢を見るんだよなあ」?
「はい、見ます」
 彼女はなぜかロボットなのに夢を見るのだった。情操機能のせいだろうか?
「やっぱ、悪夢とかも見るのか?」
「ええと…、基本的に経験したことを再構成しているわけですから、ええと、 やな事を経験していれば見るかも…しれないと思うのですけど…すみません、 よくわかりません…」
「いや、別にたいした事じゃないんだ、答えてくれてありがとう」
 すっかり落ち込んでしまった彼女を見て、俺は頭をなでてやった。 彼女はこうされることが大好きだ。
「あ……。あ、ありがとうございますっ!」

そういえば、コイツは、一度「世界の終わり」を経験したんだよな。試験終了後、 電源を切られた ―― つまり「死」と同義だ ―― わけだから。そのとき、 どんなことを思ったんだろう?一週間後に電源を切ると知らされながらも 普段どおりに振舞う - そのコツでも教えてもらおうと思ったが、止めにした。 かつての別れの時 ―― その時はお互い永久の別れと思った ―― の 悲しげな表情を思い出すと、残酷で聞けなかった。今度の別れ(?)こそ、 本当に永久の別れだろうが。

俺に残された時間は、あと24時間といったところだろうか。恐るべき 職業意識でまだ任務を果たしている治安関係の人々、オートメーション化 されているおかげで人手ナシで動きつづける電機・ガス・水道、職業意識の 塊の引退間際世代と趣味感覚の若手でまだ一部が(本当に)辛うじて 動きつづけている鉄道(実は、「電車でGO!」マニアが動かしている、 と言う恐るべきうわさもある)…本当に信じがたいことに、 まだ社会システムは生きていた。暇だし、あの3人でも誘ってゲーセンでも 行くか(12日から、開き直った店主が、無料で24時間解放していた)…。

そんなことを思っていると、突然、家の前で甲高いクラクションの音がした。
「やっほー。ひさしぶりね。なに?まだ寝てたの?」
「こいつはいっつもそうなのよ~。はやくしないとおいてくわよ~」
「あっ、おひさしぶりです~。お元気でしたか~?」

二人の女性が車から姿を現した。一人はこのロボットを作った財閥のお嬢様だ。 その姉が同じ高校に通っていたせいもあって、それなりに面識もあった。 もう一人は…見なくても分かる。こんな言い方をする女は、 俺の幼馴染NO.3しかいない。
「いったいなんだ?こんな朝っぱらから?」
「なによ~、せっかくこのあたし自らがが同窓会に誘ってあげようって 言うのに~。」
 同窓会?
「姉さんがどうしても開きたいんですって。それであなたにもお声が かかったのよ。どうするの?来る?来ない?あっ、勿論その娘もね」
「はわわわっ、私なんかが行ってもいいんでしょうか~」
 他にすることがあるわけでもない。もちろん俺は快諾した。
 俺の乗った車は、なぜか福生に向かった。
「なんでこんなところに?屋敷でやるんじゃないのか?」
「ちょっと出迎える人がいるもんでね…あー、来た来た」
 北と西から各一機の小型機が現れた。中から現れたのは…
「あっ、委員長!」

俺は、シケ長を思わず高校時代の役職で呼んでいた。

もう一機から降り立ったのは…、高校時代、少し学校を騒がせた、 一学年下の超能力少女だった。
「…おひさしぶりです」
 そういえば、彼女は函館出身だった。
「後のメンバーは先に行ってるから、これで全員そろったわね」
「ちょっとまて。俺はどこに乗るんだ?」
 どう考えても定員オーバーになる。
「あっ、悪いけど彼女の運転するそっちの車で来てね」

そう言って、HM-13 ―HM-12の後継機― と、どう見ても乗りごごちの 悪そうな一台の車を指した。
「ほーほっほ。まあ、レディ-ファーストって事で。悪いわね~」
「ほな、先行こうか」
「…お先に失礼します」

 …みんな薄情だった。突っ立っていてもしょうがないので、俺も屋敷に 向かうことにした。途中、暇なので、俺はHM-13に最近の世の中の動きを 柄にもなく聞いてみた。昨日から、TVはまともにニュースを流すのを止めて、 バラエティーなどばかり流していた。勿論、俳優が集まるわけがないから 再放送だが。ラジオも似たような状況で、音楽、それもやけに明るいの ばかりノンストップで流しつづけている。もはや取材するスタッフが いないせいもあるが、もう、誰もが暗いニュースにうんざりしていたせいも あるだろう。このHM-13は、衛星とリンクして本社の情報データバンクから 情報を取り出せる。色々聞いてみようと思った。

しかし五分後、聞いたことを後悔した。情勢は悪いなんてレベルではなかった。

イスラエルでは、最後を聖地で迎えようとしたイスラム教徒とユダヤ教徒が衝突、 たちまち拡大してあっという間に大規模武力衝突になった。 インド―パキスタン国境では、両国の軍部過激派が暴走、 なんと反応兵器戦争にまで発展していた。パキスタンは壊滅、インドも 少なからぬ被害を受けたそうだ。もっとも、この二つの紛争地帯は、 数時間後には「壁」に飲み込まれ、すでに地球上から消え去っているが。

日本国内はそれに比べるとまし――と思っていたが、そうでもないようだ。 東京圏や大阪圏、あと郡部は比較的静穏だが、地方ではいくつかの都市で 暴動が発生、治安が崩壊しているそうだ(おかげで、ついに新幹線も不通に なったので、委員長が飛行機で来たと言うわけだ)。もはや、東京や大阪と 言った大都市圏以外では、鉄道が運行できる状態ではないようだ (大都市圏でも30分に一本程度の間引き運転だが)。

高速道路は乗り捨てられた車であふれ、とても走れない。航空機は運行を 停止したまま(だから、羽田ではなく、軍用ということでまだ飛行場機能を 残している福生に来た)。いよいよ、もはや国内移動もできなくなってきたと 言うわけだ。


  「壁」はそろそろビルマにかかろうとしていた。


  ⑨2000年7月16日  世界

「壁」はついに極東に到達。シンガポール、マレーシア、朝鮮などを飲み込み、 とうとう日本を吸収し始めた。この時点で残っている国は、もはや日本と オーストラリア、ニュージーランドぐらいだった。


  ⑩ 同日 am.09:25 東京

俺は唐突に目が覚めた。昨日、HM-13に計算してもらった「壁」の到達予想 時刻は午前9時38分だから……もうあとわずかか。他のみんなは3時間前 までの飲めや歌えやの馬鹿騒ぎに疲れて―というより、酔いつぶれて 眠っている。俺は、いまさら眠れるとは思わなかったし、だからといって 眠っている奴等を起こすのもためらわれた。あと13分だというのに、 わざわざ起こして怖がらせるのもなんだ。それにしても…眠っているメンツを 見て思った。どういう基準で選んだんだろう?先輩(昨日迎えに来たお嬢様の姉。 もちろん面識はあるが…)と同じ学年の人は一人もいない。まあ、友達の少ない 人だったから、それはよしとしよう。俺の三人の幼馴染もいい。 1学年下の格闘少女は(妹のほうのつながりで)わかる。残りは……、 ウチのクラスの委員長、隣りのクラスの貧乏人、合衆国から来ていた金髪娘に 一つ下の超能力少女……ぜんぜん接点が見えない。 いや、無いわけじゃないか……って、ちょっとまて、何で俺と関わりがあった ことを知っているんだ?いったい、ここの財閥の諜報部の外套と短剣を操る 長い手はどこまで伸びているんだ?

暇なので、部屋のデータベース端末にアクセスしてみた。


ふと廊下を見ると、一瞬、誰かと思ったが、幼馴染NO.1の姿が見えた。 髪形を変えて――というより、昔のおさげに戻していたせいだ。おかげで、 一瞬、コイツの母親かと思った〈そういえば、いったい、あの人は 何才なのだろう?〉。
「――ちゃん」
 ふいに話しかけてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
 こんな時でも――いや、こんなときだからこそ、お互いに平静を装った。
「いい天気だね」
「昨日もだけどな」
「明日も…晴れる…と……いい…ね……」
 最後は涙声だった。
「なんで!?なんでこんなことになったの!?」

 それは俺のほうが聞きたいぐらいだった。いったいなぜなんだ? ほんの一週間前まで確固たる世界だったものが、あと十分足らずで終わろうと している。東へ行けばもう少し長生きできるが、それだけだ。どっちにしろ、 この世は後数時間で終わるんだ。  

俺は、昔読んだSF小説を思い出した。確か、あれでは、一人の超能力者の 妄想で人が次々消えていったんだよな。ひょっとしてこれも……って、 馬鹿馬鹿しい。そんなワケあるか(もちろん彼は、身近に「超能力者」が いることを忘れていた。覚えていたとしても、彼女が原因だとは思いも しないだろうが)。それとも、どこぞの誰かが人類補完計画でも 発動させたのか?いけない、俺まで現実逃避してどうする。

俺は、コイツを抱きしめた。それしか出来ることは無かった。 「――ちゃん……」

西の空が明るくなってきた。「壁」が遂にやってきたのだ。あと何秒だろう? とにかく、消えるまで、ずっとこうしていよう、俺はそう思った。


 彼が何かを考えたのは、それが最後だった。


Ⅲ ゲームマスター             ――もう一度ひっくり返してみるか――
                           阿合 捷一郎
    (『氷山空母を撃沈せよ!』3巻 伊吹 秀明 著  より引用――)


            ― 2019年  大阪・伊丹 ―

「どうだったかね、このゲームの出来は?」


開発主任は3人のプレイヤーに尋ねた。 彼等は新作ソフト「20世紀」 ―1951年から各国の元首となり、 どの国が2000年までに20世紀に最も名を残せるか― の テストプレイヤー達だった。プレイヤー以外の人間には、 全て(浮浪者まで!)人工知能を組み込んで超高速で思考させて コミュニュケーション可能、という化け物ゲームだった。 CPUにHM-20 ―2016年から発売されたメイドロボシリーズの最新型で、 わずか9ヶ月で高い値段というハンデを乗り越え普及率20パーセントに 達した― を利用することで実現した。要するに、HMX-20に直接つないで、 パソコンとは比較にならないそのCPUを使うわけだ。


「どうもこうも…バグってるじゃないですか!」
それでゲームは全てのデーターがデリートされ、強制終了してしまったのだ。
「すまんすまん。まさか20世紀中に月軌道の外に行けるとは思わなくてな。」
人間の行動用フィールドは地球から半径40万キロ分しか用意されて いなかった。
「ところで…日本担当のキミ、まさかあの計画は…」
「はい、もちろんここが22年前出した、アレです」
「アレ」は、5年前に15年ぶりにTV上で放映され、 新たな支持層を獲得していた。
「まあ、それはいいんだが……あの世界をよく作れたもんだ。 それはともかく…あの判断は見事だ。宇宙開発で張り合っても、あの設定では無駄 だからな。史実からいったら、なかなか決断できないだろうが……。それより…二 人とも、キューバのアレを回避する気は無かったのかね?」
「それは考えましたが…下手に退いたら失脚で大幅減点くらいますし。 まあ史実どおりなら…と思ったんですけど…結局だめでした」
「合衆国担当は?」
「まあ、史実どおりなら、事実上のゲームオーバーになるのは分かって ましたけど…」
「まったく…まあゲームだからいいが…第三次大戦もこんな風にして 起きたんだろうな」


主任は壁の世界地図を眺めた。もちろん現実のものだ。その証拠に、 欧州と北米にはまともな都市はほとんど無い。1962年以来ほぼ無人地帯と 化している。
「まあ、開戦と同時にワシントンがやられなけりゃ、ソ連と共倒れぐらいは 出来たはずだが…それなら反応弾の冬で日本も滅んでいたかもな。 それにしても全弾不発とはすごい確率だな。まあ、その「すごい確率」の おかげで日本が今あるわけだが…」


主任は再び地図を眺めた。大都市は、WW後発展した東南アジア・南米を のぞけば、日本と旧ソ連しかない。前者は弾道弾搭載潜水艦が事故で沈んだため、 後者は統制の取れない米軍の反撃が軍事施設に集中したためだ〈もちろん 秘密反応兵器都市のたぐいは全滅している〉。まあ、旧ソ連の都市は、 特に1991年のソ連崩壊後は更に困窮しているが。


「個人的には、アレを平和裏にかたづけて欲しかったんだが…。 今度はお互い交渉で片付けてみてくれんか?例えば、とりあえず、 封鎖で止めにして……キューバの弾道弾撤去と引き換えに……そうだな、 旧式化したトルコの奴を撤去してお互いのメンツを保つとか。 それなら前みたいな予算を組めないだろうから、とりあえずバグは関係無い だろう。ちょっとやってみてくれんか? その間に修正版を作っとくから」


矢幡 和浩

木曜日
今日はバイト先の忘年会。ひさしぶりの飲み会で俺は飲みまくった。


金曜日
朝に弱い俺は昼過ぎに目がさめた。昨日飲み過ぎて裸で寝てしまったから風邪を ひいたらしく体がだるい。まあバイトは昨日で終わったから、今日はゆっくり休 もう。カップラーメンにお湯を入れてテレビをつけた。どこもニュースばかりで 面白そうな番組はやっていない。俺はテレビを消してラーメンを食った後、薬を 飲んで寝る事にした。


土曜日
朝に弱い俺はまたも昼過ぎに起きた。風邪は昨日よりひどくなっているらしい。 何をするにも体が重く感じる。しかし熱はないらしい。病院にいって薬をもらっ て来ようと思ったが今日は土曜だった。俺は今週とりためたビデオを見て一日中 過ごした。


日曜日
やはり体が重い。しかし今日も病院はやっていない。気晴らしにテレビを見よう としたがやはりニュースしかやっていない。立っているのも辛かったので俺は布 団に横になりそのまま眠ってしまった。


月曜日
布団から体を起こすのもやっとのくらい体が重い。俺は体重計に乗ってみた。 3日間まともに食っていないのにも関わらず、40キロも体重が増えていた。しか し鏡を見ても外見はそう変わらない。体重計が壊れているんだろう。俺はテレビ をつけた。やはりニュースしかやっていない。ニュースの中で総理大臣かなんか が、なんかの定数が増えたとか減ったとか言っているが俺には政治の事はさっぱ り分からない。体重が増える病気の話はなかった。そんな病気も聞いた事はなか った。頭がボーッとする。俺はテレビを消して横になった。俺の体はどうなっち まったんだ?窓からは昇ったばかりの大きな月が見えた。


火曜日
もう体が持ち上がらない。俺は自分の友人で、筋肉にウイルスが感染したやつの 事を思い出した。きっと俺もそれに違いない。俺の筋肉は弱っていっているん だ。俺は転がって受話器を手にとり救急車を呼ぼうとした。しかし誰も電話に出 なかった。俺はこの先どうなるのだろう。
夜中に目がさめた。昼間よりも少し体が軽くなった。俺は体を起こす事ができ た。ベランダに出ると夜中だというのに明るい。俺は空を見上げた。そこには巨 大な月があった。俺は思った。「また変な夢だ。」俺は再び寝た。


水曜日
朝、目がさめると俺の体は重くて苦しかった。上から押しつぶされている気分 だ。感覚も狂ってきた。家は傾いている気がする。家の中が暑い。いつもよりも 太陽が眩しい。外は静かだ。誰もいないのだろうか?俺の意識は薄れていった。 俺は夢を見た。まわりの家が崩れていった。しばらくして地震があった。家の物 がすごい速さで落ちてきた。天井も落ちてきた。俺の夢はそこで終り、しかし目 覚める事もなかった。


出口 裕也

その1

月曜
 その日僕はいつもの習慣で、目覚めてすぐに時計の文字盤を見た。
「あれ……」
 僕は寝過ぎて浮腫んだ瞼をこすった。じっと時計を見る。
「おかしいな」
 時計盤には、一時から始まってぐるりと一周、十時までの数字が並んでいた。
「一日って、二十時間だったっけ」
 何度か目をこすってみる。が、やはり時計には変化はない。
「おかしいな。一日って二十四時間のような気がするんだけど……」
 首をひねりながら僕はベッドから体を起こし、そして重要なことに気がついた。
「……遅刻だ」

結局その日は一時間目を遅刻して大学に行った。

  大学で、隣に座っている友人に尋ねてみる。
「おい、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ」
 彼はうっとおしそうな目で僕のほうを見る。
「一日って何時間だったっけ」
「はあ? なんだそりゃ。新手のジョークか」
「いいから答えろよ」
「そんなもん二十時間に決まってるだろ」
「やっぱそうか」
「そうだよ」

そういうと、彼は付き合い切れないといった表情をして、再びそっぽを向いた。


家に帰ってテレビをつける。何度か時計がモニターに映ったが、 すべて一日は二十時間になっていた。

どうやら本当に、一日は二十時間らしい。一日が二十四時間というのは、 僕の勘違いか。
「どうやら俺もボケが始まったかな」

首を傾げ、頭をぼりぼり掻きながら、僕はベッドに入った。


火曜
 その日僕はいつもの習慣で、目覚めてすぐに時計の文字盤を見た。
「あれ……」

僕は寝過ぎて浮腫んだ瞼をこすった。じっと時計を見る。
「おかしいな」
 時計盤には、一時から始まってぐるりと一周、八時までの数字が並んでいた。
「一日って、十六時間だったっけ」
 何度か目をこすってみる。が、やはり時計には変化はない。
「おかしいな。一日って二十時間のような気がするんだけど……」
 そこまで言って僕はふと首をひねる。
「なんだか昨日も同じようなことを言ったような……」
 首をひねりながら僕はベッドから体を起こし、そして重要なことに気がついた。
「……遅刻だ」

結局その日は一時間目を遅刻して大学に行った。

飛んで金曜
 その日僕はいつもの習慣で、目覚めてすぐに時計の文字盤を見た。
「あれ……」
 僕は寝過ぎて浮腫んだ瞼をこすった。じっと時計を見る。
「おかしいな」
 時計盤には、一時から始まってぐるりと一周、二時までの数字が並んでいた。
「というか、これじゃあぐるりと一周、て感じじゃあないな……」
 訳のわからないことを口走りながら、僕はもう一度時計を見た。
「一日って、四時間だったっけ」
 何度か目をこすってみる。が、やはり時計には変化はない。
「おかしいな。一日って八時間のような気がするんだけど……」
 首をひねりながら僕はベッドから体を起こし、そして重要なことに気がついた。
「あともうすぐで、今日が終わる」
 なんだか妙に一日が短いような気がする。だがそんなことを気にしている 場合ではない。僕は深夜零時には必ず眠ることにしているんだった。
 慌てて僕は再び布団に入る。すぐに目をつぶると、都合のいいもので、 すぐに睡魔が襲ってきた。
 結局今日は大学に行けなかった。まあそんな日もあっていいだろう。
「おやすみなさい……」

そして土曜日が訪れることは、決してなかった。


その2

その日僕はいつもの習慣で、目覚めてすぐに時計の文字盤を見た。
「あれ……」
 僕は寝過ぎて浮腫んだ瞼をこすった。じっと時計を見る。
 次の瞬間、僕はベッドから飛び起きた。そのまま急いで服を着替え、 部屋を飛び出る。
 階段を駆け下り、一階のリビングルームに飛び込んで、 掃除をしている母親に文句を言う。
「何で起こしてくれなかったんだよ。これじゃあ遅刻じゃあないか」
 母は、きょとんとした顔をした後、急にばつの悪そうな表情をしていった。
「ごめんね、つい起こすの忘れちゃった」
 それはないだろ、と思いながらも僕は家を出て、学校に向かう。
 その日はやっぱり遅刻だった。

火曜日もやはり、母は僕を起こし忘れた。
幸い今日は目覚ましをかけていたから遅刻はしなかった。
 学校で、友達に愚痴をこぼす。
「昨日も今日も、うちのお袋は……」
話し掛けて、ふと言葉をとめる。友人は僕の顔をじっと見て、こういった。
「えっと、おまえ、誰だっけ」
 僕は絶句して言う。
「何いってんだよ。新手のジョークか」
 友達は、しばし考え込むような表情をしてからぽんと手をたたいた。
「ああ、やっと思い出した」
 どうやら本当に忘れていたようだ。まさかこんな友達甲斐のないやつだったとは。

水曜日、今日は祝日だった。
 散歩がてら、家から少し離れた公園に行く。
 帰り道、幼馴染と道であった。
 僕が挨拶をすると、彼女はきょとんとしていった。
「あの、どちら様でしたっけ」
 またこれだ。最近この手のジョークでもはやっているのだろうか。
「何いってんだよ。俺だよ」 
 強引に声をかけると、彼女は僕に、変質者を見るかのような視線を向けた。
 僕は居たたまれなくなって、彼女に背を向けた。
 まったくなんだっていうんだ。

木曜日、学校に行って席に座っていると、なんだか回りの視線が痛い。
 先生が着て出席を取り始めた。
「加藤、幸野、佐藤……」
 だが、僕の名前は呼ばれない。僕は立ち上がって先生に言った。
「先生、僕の名前が呼ばれていません」
 すると、先生は眉をひそめて僕を見て、こういった。
「おまえ、誰だ」
 僕は、あっけにとられた。先生まで、こんなことを言うなんて。
 僕は助けを求めて、回りのクラスメイトを見回した。だが、その全員が、 先生と同じ目をして、僕を見ていた。
 僕はクラスから飛び出した。何がなんだかよくわからなかった。

金曜日、目を覚まして1階のリビングルームに下りると、家族が、 いや元は家族だった人たちが、僕を見て驚いた。
 もう家族にも僕は忘れられたらしい。ぼくは不法侵入者として家から 追い出された。
 とぼとぼと歩きつづける。途中、見知った顔と何度かすれ違ったが、 その誰一人として僕に声をかけようとはしない。
 僕の存在はこの世界から抜け落ちてしまった。僕の世界は壊れてしまった。
 僕は死ぬことにした。これ以上この壊れた世界にいたくなかったから。


守谷 和之


月曜日

朝、目覚めると目覚まし時計は3時を示していた。
不審に思いよく調べるとどうやら時計は止まっているようだった。
とにかく起きて身支度をしたが、服を着る手は思うように動かなかった。
顔を洗いに洗面所へ行き鏡を見ると、そこには、白髪の老人の姿が 映し出されていた。
一夜にして醜く変貌した自分の姿に戸惑いながらも、軽く食事を済ませ、 学校へ行こうと駅へ向かった。
駅には駅員がおらず、電車も動いていなかったため、私は歩いて学校へ向かった。
道行く人は皆老人ばかりで町には活気がなかった。
100才を越えようかという年齢でかろうじて学校にやってきた 一部の教官をのぞいて、
教官はほとんどいなかったため、 講義はすべて休講だった。
私はすぐに家に戻り、その日は本を少し読んで床についた。


火曜日 

気がつくと私は死んでいた。
魂となって宙に浮いたまま、自分の死体が転がっているのを観察した後、 外に出てみた。
東京の町はもう何十年も風雨にさらされた様子で廃墟と化していた。
道には所々に老人の死体が転がっていた。私は 他の都市の様子を見ようと西へ向かった。
名古屋、京都、大阪などどこも人ひとりいない廃墟ばかりであった。
夜になったので瀬戸大橋の上で魂を休めた。


水曜日 

朝になると瀬戸大橋は崩れていて、私の魂はその跡地に浮いていた。
私は外国の様子を見に行こうと、東へ向かった。
現地時間で昼頃に北アメリカ大陸についた。 人工の建造物の跡はほとんどなくなっていた。
カナダの北部には熱帯雨林が広がっていた。 ロッキー山脈には雪は全く見られなかった。
私は自由の女神の跡地とおぼしき場所で魂を休めた。


木曜日 

私はさらに東へ向かい、ヨーロッパを目指した。
ユーラシア大陸にたどり着いたが、グレートブリテン島は見当たらな かった。
アメリカ大陸からは思ったより遠かった。 もはや文明のおもかげを残すものは何もなく、
退屈な一日を過ごした。


金曜日 

アジアを経由して日本に帰ろうと思い南東へ向かった。
大陸の形がかなり変わっていたのでどこを飛んでいるのか分か りづらかったが、
インドらしきところが見つかった。 ふと南を見ると大きな大陸が見えたので近づいてみると、オース トラリア大陸が移動してきたものらしかった。
その日は海中にもぐって、 かつては島であったと思われるところで魂を休めた。


土曜日 

朝、気がつくと海水はすっかりなくなり、島らしかったものもなかった。
地表は真っ赤な液体で覆われていて、空には巨大な太陽があった。
私は地表に飛び込み、地球の中心に向かったが、
何がなんだかわからないうちに反対側に出ていた。
空の太陽は先ほどより大きい気がした。


日曜日 

私は緊張のため休むことができず、ずっと太陽を観察し続けた。
太陽はどんどん大きくなり、やがて私は真っ赤な地表 面とともに太陽に呑み込まれてしまった。私は太陽の中心の方へ向かったが、 ほぼ中心にたどり着いた時、意識がなく なった。
次の瞬間私は太陽だった。


アモーンラット リイマニー


1999年12月26日
珍しく早起きして外にでかけた。銀行にお金を引き出しに行った。
もっとお金がほしいと思った。1億円あれば何に使うか考えてみた。


12月27日
テレビを見ていたら 銀行強盗事件というニュースがあった。
私が利用している銀行だった。しかも家の近くの支店だった。
犯人の顔はどこかで見たことがあるような気がする。
なんだか体がだるくて今日はずっと家にいた。


12月28日
7elevenでおにぎりを買おうとしたとき、財布の中に1億円分の
札をみつけた。でもびっくりしなかった。交番に届けるかこのまま
自分のものにしてしまうか迷ってた。小学の時に財布を拾ったら
交番に届けるように教えられたが、この財布は自分の財布で拾ったわけで
はなかったから、このことを誰にも言わずに家に帰った。


12月29日
昨夜 悪い夢を見た。自分がその銀行強盗事件の犯人という夢だった。
とても不気味な夢だった。もうこの1億円はいらないと思った。
こんな大金を持っている人がかならずしも幸せとは限らないな。と思った。


11月30日
テレビを見ていたら、その銀行強盗の犯人が1億円分の現金を銀行に
返したというニュースがあった。でも犯人がまだ捕えられてないらしい。
なんだか今日は気分がすっきりした。


12月31日
高級レストランで勘定を払おうとしたとき、財布の中に1億円分のお金が
ないことに気がついた。でもびっくりしなかった。初詣でに行った。


2000年 1月1日
2000年を無事に迎えられた。
鏡で自分の顔を見ていたら、やっぱり誰かに似ているんだなと思った。


光田 智史


月曜日
その日が始まりの日であった。僕はいつものとおり朝起きて大学に行き、 普通に授業を受け、その後家に帰り、ご飯を食べ風呂に入って寝た。 しかし、普段となぜか気分が違っていた。これから何かが起こりそうな予 感がしていたのだ。


火曜日
僕はいつもどおり起きたが、その時わずかな異変に気づいた。いつもなら 起きたときにちょうど日が明るくなってくるはずなのに、この日はまだ、 暗かった。それでも家を出る際には明るくなっていたのであまり気にしな かった。大学についてもおかしなことがあった。滅多に休講にならない一 時限目の教師がなぜか休講であった。また、いつも講義時間をオーバーす る数学の教師が、なぜかその日だけ10分早く終わったのだ。そして、帰 りの電車はなぜか普段より速く1時間半で大学から家に帰ることができた。 ついこの間きれいにした机の上になぜか鉛筆やノートが散らかっていた。 しかし、この日の変化はまだ序の口だったのだ!!


水曜日
朝起きて僕は目を疑った。西から日が昇ってきたのだ。これは驚きである。 これでは、これまでの天文学の知識が大きく覆されることになるし、第一 文部省指定の教科書には「日は東から昇る」と断言しているのだ。これで は急いで書き換えねばならないではないか。また、今まで朝日があたって いた東向の家は、これからは朝は寒い思いをしなければならない。ああ、 なんてことだ。いろいろなことを考えて学校に向かったがなんと僕は自分 の出身高校に行ってしまった。しかし、なぜか元3年3組のメンバー全員 が集まって普通に授業が行われているではないか。僕もなんとなくそこで 授業を受け家に帰った。その日はそれ以上変なことは起こらなかった。


木曜日
目覚ましがなった。昨日西から日が昇ってきたので、今日はどうなってい るのだろうと窓を明けるとなんと日が昇っていない、真っ暗であった。
「♪その日は朝から夜だった。」というのは正にこのことであろう。これ から朝という言葉を辞書で引いてみたらなんと載っているのだろうか。 日が昇るときを朝としてしまうと朝が来なくなってしまう。しかし、朝か ら夜という表現はおかしい。夜ならば朝ではないはずである。なんてこと を考えた。この日以来太陽を見ることはなくなってしまった。
その日は、今度は高校ではなく中学校に向かった。なぜかそこには中学時 代の同級生が集まっており、またしてもその当時の授業が再現されていた。 この日を境に自分の身にも異変が起こることになる。


金曜日
この日もまたしても朝起きると同時に異変に気がついた。というか、気が つかない方がおかしい。なぜなら寝たまま天井にはりついていたからだ。 つまり重力が逆転してしまっていたのだ。これなら走り高飛びなんて競技 はなくなってしまう。そんなことはどうでもいい。テレビを見たら、外出 した人が宇宙に放り出されているではないか。僕は怖くなって一日中家に いた。


土曜日
風船という言葉をご存知であろうか。そう小さい頃から良く遊んだ、あの 空気を入れて膨らますおもちゃのことだ。なんと僕がそうなったのだ。体 が膨らんでいく。みるみる月ほどの大きさになった。なんてことだ!!!


日曜日
・・・・・・・・・・・・・・・・・地球滅亡の日。ついに地球は爆発した。
そして僕も・・・。
しかし、それからしばらく経った後、遥か遠くでまた新たな星と生命が誕生 し、何もなかったかのように月曜日が始まっていた。


高妻 篤史


1月12日 水曜日
朝8時に起きた。冬休みにだらけすぎていたせいかまだ眠 い。しかし真面目に授業に出るという新年の抱負を思い出し、がんばって学校に 行った。1限目の授業は地域文化論だ。ジェンダー論についてのこの講義は、 大学の講義にしては先生の話がおもしろく、かつ勉強になるため、 1限目にもかかわらずすべて出席している。10分遅れて先生が教室に入ってき た。よく見ると先生の髪が妙にさっぱりとした角刈りになっている。 先生も今年こそはと気合いを入れて来たのか。眠い目をこすりながら授業を聞く。 よく聞くと先生の口調が下町おやじっぽくなっている。気合いの入れすぎだ。 不覚にも眠ってしまった。


ふと目を覚ますと、黒板に神輿の絵が書いてあり。先生が下町の祭りについて 語っている。話が脱線しているのか。しかし三十分経っても続けている。これは ジェンダー論についての講義ではなかったのか。しかし妙にひかれるものがある。 講義が終わった。あたりを見回すと、角刈りの人が妙に多いのに気がつく。 気合いが入っている。すれ違う人の髪型に注意を払うとほとんど角刈りに なっている。最近のはやりなのか。中にはねじりはちまきをしている人もいる。 周囲からは時々威勢のいい江戸弁が聞こえてくる。大学全体が下町情緒に あふれているような気がしてきた。これはいったいどうしたことか。 帰りの電車の中では自分以外のすべての人が角刈りだった。 妙に恥ずかしい気がしてきた。次の日もまた次の日もそうだった。 すっかりそれが普通になった。そろそろ自分も角刈りにしたくなった。


日曜日
ついに角刈りにしようと決心した。そのためには近所にある ``ザ 床屋'' がいいだろう。 今までその名前のすごさと角刈りおやじの怖そうな顔から敬遠してきたが、 あそこならきっとすばらしい角刈りにきめてくれるに違いない。


月曜日
すばらしい角刈りできまっている。気分よく学校へ行った。 周りの人の注目を浴びているのがわかる。通りがかりのひとに突然 「その頭、どこで刈ったんだ?」と聞かれる。「駅前のザ 床屋だ」と 自慢げに答える。気分がいい。


水曜日
自信をもって家を出た。しかし電車の中でだれも角刈りの人を見ない。 どうしたのか。1限目の教室に行く。しかしだれもおらず黒板に 「神輿のかつぎ方実習 グラウンド集合」と書いてある。 急いでグラウンドに向かう。すれ違う人々の髪型に目をやると、 不思議と角刈りの人はだれもいない。それどころかみんなの頭が妙にふんわりと ボリュームにあふれている。まるで18世紀フランス貴族風だ。 時々「ボンジュール」などとフランス語っぽい声が聞こえる。 キャンパス全体が優雅な雰囲気につつまれているようだ。 通りすがりの人に突然「ぼんじゅーる?」と言われたので思わず 「ぼんじゅーる」と答えてしまった。やっとグラウンドについた。 もうみんな神輿をかついでいる。よく見ると先生も学生もみんな フランス貴族っぽい髪型をしている。急いで自分も加わろうと神輿の方へ 走って行く。 すると突然全員で「ボンジュール!」と威勢のいい掛け声をかけながら 神輿をかついで迫ってきた。


尾崎 仁


ある日、僕は幸せだった。
お父さんは遠いところに行っていていなかったけど
お母さんと、それに、弟のひろしがいた。
僕はいつもひろしと遊んでいた。
もちろんいじめたりはしない。
僕はお兄ちゃんなんだから。


次の日も僕は幸せだった。
1日中ひろしと遊んでいた。
ひろしがちょっとせきをしている。
熱はないみたいだ。
1晩ゆっくり眠れば直るだろう。


その次の日。
ひろしは風邪を引いたみたいだ。
熱も出てきたみたいだ。
お母さんに連れられて病院に行く。
薬ももらってきたし、もう大丈夫だろう。
早くひろしと遊びたいなあ。


その次の日。
ひろしが倒れた。
お母さんは急いで救急車を呼んで、
ひろしを大きな病院に連れていった。
お母さんは、僕の食事のときだけしか帰ってこなかった。
少し寂しかったけど、僕はお兄ちゃんだから我慢した。


その次の日。
お母さんが帰ってきて言った。
「ひろしはお父さんのいる所に行ったの。」
僕はお母さんに尋ねた。
「もうひろしと遊べないの?」
お母さんはちょっと間を置いて答えた。
「……またあなたが大きくなったら遊べるわ。」
  ……
でも、その日の夜、お母さんは泣いていた。


その次の日。
僕はとても悲しかった。
何が悲しいのか自分でもわからない。
けど、お母さんを見て、ひろしのことを考えるたびに、
とても悲しい気持ちになる。
いつまでもひろしと遊んでいられると思っていたのに。
変わらないものなんてないのかな。
「いや、あるよ。」
そんな声が聞こえたような気がした。


そして今日。
僕は幸せだ。
すぐそばにひろしがいる。
その近くにはお父さんもいる。
きっと近くにお母さんもいるんだろう……。
「ここにいれば、何も変わらない。」
そう思った。
そう。僕は、ずっと変わらないものを見つけたんだ。
これからは、ずっと幸せだろう。
ずっと……。


新開 研児


日曜日;
今日は彼女とデートだ。朝もいい気分で起きれた。
歯磨いて、顔洗って、コンタクトをはめて、携帯もって、
と思ったら、携帯がないことに気づく。
結局待ち合わせの時間に遅れて、
文句を言われる。
その後はいい感じで一日が過ぎていった。


部屋に戻り寝る。結局携帯はみつからなかった。


月曜日;
今日は1限から授業があるので、朝早く起きた。
不快な一日が始まる。
とにかく駅に向かってみる。
なぜか人が少ない。
1限から5限までみっちり詰まっているはずだが
休講が多かった。 


火曜日;
今日はお昼からなので、ゆっくり寝てた。
彼女から携帯にメールが入ってた。
何か手伝ってほしいらしい。とにかく大学に急いで
行ってみる。今日は人がまったくいなかった。
彼女と会ってお昼を食べる。
帰りに財布がないことに気づく。
駅員に説明すると通してくれた。
今日の晩御飯は寮で頼んでいたが食べられていた。


水曜日;
朝起きると部屋が無くなってた。
しかしなぜか愛用の目覚し時計だけは枕もとにあった。
見ると6時6分を指していた。
周りが明るいから朝だということに気づく。
とにかくその場から動いて誰かを探さなければ
発狂しそうだった。
私は普段寮に住んでいたのに誰もいないのはおかしい。
目覚し時計を持って歩くこと10分、ようやく同じ寮に住んでいる
人と会い、なぜ部屋が無くなっているか話してみる。
結果は出なかった。
とにかく何もすることがないので、昼寝した。
起きると夜になっていた。
明かりはちらちら見えるが次の日に行くことに決めた。


木曜日;
昨日明かりのついていた方向に歩いていった。
すると自分に優しくしてくれた駅員だった。
しかし制服は着ていなかった。
彼も訳がわからないらしい。
彼女のことが心配だった。


金曜日;
電車が走っていなかったが、レールだけは残っていたので
彼女の家に向かってひたすら歩いた。
行くところ行くところほとんど何もなく
ところどころにアパートがあった。人気はない。
鉄橋の工事もそのままだった。
彼女の家はなかった。彼女もいなかった。
大学もなく敷地だけが残り人が集まっていた。
みんなで夜を過ごした。


土曜日;
朝起きると、周りにはただ一人だけ立っていた。
私はその人を知らなかった。
協力して人を探しても寮の人も彼女も知っている人知らない人
関係なく誰も何も無くなっていた。
目覚ましも電池が切れた。まだ昼だと思っていると、
あたりが暗くなりまわりの風景がどんどん大きくなって
そのうち見えなくなった。何も考えられなくなった。
私の命は、、、。 


廣田 洋一



 いつもどおり昼に目がさめる。
 部屋で一人でいてもさびしいので友達に電話するが、誰も出ない。
 何度もかけるがつながらない。
 少し不安になる。
 携帯電話でメールを送ってみるが、
毎日いやというほどきいてた返事が今日に限って誰からもこない。
 さびしい休日を過ごす。
 でもこの日は夕方には彼女からメールがきた。
 バイトをしていたということを聞き安心する。



 大学へ行くがなぜか自分と仲のいいひとが誰もいない。
 一日中誰とも話すことがない。
 やはりだれとも電話がつながらない。
 さびしくなって帰宅してから親に電話すると、つながり少しほっとする。
 さらに彼女にも電話するが、考えすぎと呆れられ相手にもされない。



 朝から今日も誰にも会わない。電話もつながらない。
 彼女からの電話もメールも途切れた。もちろん会うこともできない。
 何かがおかしい。
 家に帰った後、部屋ではなぜか独り言を言っている自分がいることに気づく。
 夜、彼女の家に行ってみるが誰もいなかった。



 学校に行くのが怖くなっていたが
 おそるおそる2限の体育に出てみる。体育館には誰もいなかった。
 そこを慌てて逃げ出す。
 掲示板をみると休講だった。少し安心する。
 取り乱した自分がおかしかった。



 今日は学校には行かなかった。
 部屋にこもると落ち着かないので渋谷にいく。
 買い物をした。服を買った。店員は普通に自分に接してくれた。うれしかっ た。
 帰り道、電車の定期券を改札口に通したとたん警報がなる。
 しかし機械の故障ということでその日はそのままちゃんと電車に乗ることがで きた。
 また親に電話するがついにつながらなくなる。
 唯一の話し相手もいなくなり発狂しそうになる。



 なるべくおきないように布団にくるまる。この部屋とその付属品がかろうじ て、
 自分の居場所を主張してくれているようだった。
 こもるのがあれほどいやだったのになぜかここでは安心する。
 夕方、金を下ろそうとしたが、ATMが使えなくなった。
 通帳を郵便局に持っていくがどうにもならない。
 疑われる始末。逃げ帰る。  
 家に帰ると明かりがついていた。不思議に思って部屋に入ると知らない人がい た。
 自分の部屋だと主張されわけがわからずその場を後にする。
 吉祥寺の駅で夜を明かす。誰も自分を気に止めることもなく通り過ぎていく。
 手元にはわずかな小銭と使えなくなったカード類。
 自分にとって何の役にも立たなくなっていた。
 携帯電話の電池が切れた。



 朝、人々が活動をはじめる音で目がさめた。
 みんな普通に生活している。普通に歩いているように見えた。
 自分が誰なのか自分でもわからなくなった。
 残りの金で切符を一枚買う。
 ホームに入る。
 線路に降り立つ。
 オレンジ色の電車が自分のところにきた。


中野 貴比呂


もはやなにもわからない。あれから一週間がすでに経つ。あの時から、そうあの 時からすべてがおかしくなってしまったのだ。 もはやなにもわからなくなってしまうだろう。その前にこの出来事を書き残して おく。


私は一週間前まではただの会社員だった。少し前まで実在していた会社と言う組 織の一員だったはずである。 確かあそこでは食品--人間の生存には必要なものだ--を作っていた。私はそれを いかに売るかを担当していたはずだ。


年明けのある火曜日のこと、1年--もうよくわからない概念だが--の始まりに 初めて会社へ行く日だった。 その日はとても寒かった。朝から雲で空は覆われ、白い雪がこの東京に降り注 ぎ、すべてを白く染めた。真っ白に。 今思えばあれは何かこの世を支配する大きな力からの啓示だったのだろう。 朝、一人暮らしの私は気だるい正月の夢うつつのまま、会社へといく準備をし た。窓から外を見ると一面の雪。

真っ白な雪。白い世界。

圧倒された私はしばらく立ちすくんでいた。しかしそうもしていられない。
正月番組から気分の抜け切っていないニュースを見る。キャスターは女の方で着 物姿だ。
「えー、ただいま東京ではすごい雪です。観測史上最大の . . .」
その時突然電話がなった。
「もしもし」
電話の主は会社の同期の人間だった。あまり親しくはない。
「今、部長から連絡があって、仕事初めは明日になったそうだ。今ほとんどの鉄 道が止まって大変な騒ぎらしい」
「そうか、ありがとう」
そういって私は電話を切った。
ふとテレビに目を戻すと昨日から開かれていた特別臨時国会のニュースだった。
昨年末突然増税を発表し 支持の落ちた内閣がその翌日大臣のスキャンダルが明るみに出たため総辞職し年 を越しての非常審議が続いていた。そのことなのだろう。

「第*代内閣総理大臣には**選挙区の****氏が任命されました」

何だくだらない。だれがなったって、だれがいたって、みんなおんなじだ。
所詮人間なんてなにかしら欠点があるもんだ。 この国、いや世界はだれがいたって、そんなに変わるもんじゃない。 ふと新聞 -- ビニールに包まれていたが中まで水浸しだった -- をみると 一面はテロのニュースだった。 物騒な世の中だ。世界の革命を目指し聖戦を行おうとするグループが、オラ ンダのハーグにある国際司法裁判所に 爆弾をしかけたのだという。
まあ、いい。関係のないことだ。その日はその後一日中ごろごろしていた。 テレビでは政治と雪のニュース一色だった。


水曜日
私は久しぶりに朝早く起きると、心地よく朝食を取った。朝のニュースを見る。
昨日の雪は今朝方まで降り続き ようやくやんだところである。ニュースによると高速が通行止め、大きい国道で も通行規制が敷かれているようだ。 だが、私が使う小田急線は運行しているらしい。よかった。 家を出ると、すごい雪だった。普段見ている世界が、こうも変化するなんて。私 は社会人になるまでは四国に住んでいたので、 こんなすごい雪は今まで経験したことがなかった。 だが現実は厳しい。電車は雪の影響で本数が減らされておりすごい混雑だった。 いつもすごい混み様だが 今日はいつにも増して凄まじい。 やっとのことで新宿につくと私が勤める会社へと向かった。 新年の目標が朝礼で述べられた。
「わが社が現在置かれた状況は大変厳しい。いかに無駄をなくして効率のよい経 営をするかというのが鍵になる。 そのためにも諸君は―」
そして何事もなく今年最初の仕事は終わった。


木曜日
すっかりと雪が解け、道の端に少し茶色見のかかった雪があるだけとなった。今 日は雲ひとつない快晴である。 気分よく会社へと向かった。 その日も何事もなく仕事が終わった。 そして、同僚と飲みに行き夜遅く帰った。 自宅へ帰る途中、なにやら騒がしい。人だかりができている。 パトカーが何台もとまっている。大きな事件のようだ。 しかし疲れていた私は、家に直行した。


金曜日
今日も私は会社へ行った。すると私の同僚の机がない。どうしたのか。
「ああ、会社の経費節減のためのリストラだよ。あいつは、無駄が多い奴だった からな」
と、部長が私に言った。ごく自然に。 確かあいつはそんなに業績は悪くないはずなのに。とろとろとのろまな所はあっ たが その人柄で結構業績はよかった。何故だろう。 私が考えていると
「ああ、これからは基本的に休日はなしだ土日も出社する用に」
といわれた。?どう言うことだ。何を言っているのだ部長は。 そんなことは労働基準法に触れるではないか。
「どう言うことですか、それは」
「昨日の役員会での決定だ。無駄な休みなんかとっとれん。まさか君まで文句を 言うつもりじゃないだろうね」
「いえ、そんなことはありません」
「ならさっさと、仕事をはじめるんだな」
不穏なものを感じ取った私はその場を何とかやり過ごした。 結局その日わかったことは、効率化を図る会社が土日出勤を決めそれに文句を言 ったものや、これまで 成績不振のものをリストラしたという事。そして無駄をなくし経費節減のために あらゆることが見なおされるということだ。 その日は帰りに一人で飲みに行った。 しかし変だ。街のネオンは消えてわずかな街路灯しかついておらずほとんどの店 が営業していない。 人通りもまばらだ。いつもはそんなことはないのに。 ふと見ると、酔っ払いが地面に倒れていた。暗くてよくわからないが会社員のよ うだ。
「あー、そこの君それに触らないで」
振り返ると消防服のようなものを着た数人がいた。一人が私に言った。
「どうしてこんなところにいるんだ。新政府の世界完全秩序化計画のため無駄な 行動はしないように言われているはずだが。何かの用事か?」
とっさの反応で私は答えた
「帰宅の途中です」
「そうか。ではさっさと帰るんだな」
そういうと酔っ払いを数人でなにやら袋に詰めようとしている。 光の加減で酔っ払いがわずかな街路に照らされる。 よく見ると血で染まっており、直感的に死んでいると理解した。 頭の混乱した私はなにも考えず、家に帰りすぐに寝た。


土曜日
朝起きた私は昨日の出来事を思い出した。アレは何だったのか。 消防服の奴ら。赤く染まった死体。営業していない歓楽街。まばらな人。 そうか!ニュースを見ればいい。なにかあったならニュースになっているはず だ。テレビをつける。しかし映るのは灰色の波だけ。どうしたんだろう。 チャンネルを変えてみる。 映らない。
またチャンネルを変えてみる。映らない。私は焦った。
私はいつもは見ないNHKにしてみた。すると映った。 しかしなにかが違う。様子がおかしい。 アナウンサーもなにか様子が変だ。
「昨日、新宿で大掛かりな”掃除”が行なわれました。秩序を乱す、下等な生物 が巣食う歓楽街では...」
そこでテレビを消した。
・・・・・・・・・・・。
私はある程度状況は理解した。 それを確かめなければ。 私は会社へ行った。 街の様子は変だった。いや、奇妙だった。 途中極端に人が少なかった。小田急線もものすごくすいていて座ることができ た。 立っている人はおらず、空いている席もなかった。普段停車する駅にもとまらな かった。
・・・・・・・。
無駄がなくなっているのだ。いやなくなり始めているのだ。 新宿についた。そこには昨日見た消防服を着た連中が立っていた。
「おまえの会社はあそこに移った。」
とだけ言われた。 なんとなくはわかった。 え?私は”あそこ”としか言われていないのに、どこかなんとなくわかったの だ。 だが、もうどうでもいい。めんどくさい。 会社の様子もいつもと違った。 言葉には表せないがそれはまさしく秩序というべきだった。無駄なく、とても速 く会社は動いていた。 そしてそれに適応し始めている自分がいた。
・・・・・・。
昼頃、となりの人間がミスをした。
「あ、すいま・・・」
その瞬間轟音がした。 となりの人間は倒れた。 銃だ!直感した。 しかし手を弛めるわけにはいかないので作業を続けた。 予想通り消防服姿の”掃除”隊員が現れ、もはや死体となった男を”掃除”して いった。 そのあとはよく覚えていない。いや記憶がない・・


日曜日
私は朝起きて、テレビをつけた。何か義務のように。 見たこともない男が演説をしていた。
「今世界は変わりつつある。世界に新たな秩序が築かれようとしている。我々が 歴史を創ろうとしている。 混沌を生み出すものは排除され、無駄がなくなる。この世は・・・」
私はテレビを消すと会社へ向かった。 道端で私は走って逃げている男にぶつかった。
「助けてくれ!”掃除”なんかされたくない」
私はその男を突き飛ばした。そうしないと、自分も撃たれるからである。 案の定、その男はまもなく撃たれ”掃除”された。 道のあちこちで建物が壊され世界が変えられようとしていた。 会社に着く。そして私は部長に唐突に紙を渡された。
--貴殿は本日より秩序構築の親衛隊とす--
要は”掃除”隊員になれということか。私は銃と消防服らしき親衛隊の服を受け 取った。 どこで受け取ったのか。誰から受け取ったのかは、覚えていない。とにかく気が ついたら、 自分は”掃除”の任務についていたのだ。

よくわからない
よくわからない
なにがどうなっているんだ
いったいなんなんだ

いつのまにか私は家に帰り--すでにもとの家ではないが--眠りにつこうと していた

もう時間がない。そう私は直感した。 私の意識はもうすぐなくなるだろう。 私はこの世界に適応するだろう。 適応していない”私”はもう意識を取り戻さないだろう。 あるいは適応していない”私”が撃たれてしまうだろう。 一体どうしてこうなったのだろう。ほんの一週間前までは私は何の変哲もない普 通の生活を送っていたのに。

わずかな記憶が私に答えを教えた。 今朝テレビで見た男は、一週間ほど前に総理大臣となった男だ。 そうかあの日から何もかもがおかしくなったのか。
・・・・・・・。
それからこの一週間を振り返ってみた。 整理してみる。
・・・・・・・。
思い出せるのはこれくらいか。何かに残しておかなくては。
・・・・・・・。
このままいけば どうせ”私”は消えてしまう。 ならば、ならばなにかできないだろうか。 何かを。 そうだ、あの男を殺しにいこう。 ははっ。おもしろい。よしもう何もかも終わりだ。 あの男を殺しにいこう。 私はもう眠ることにしたあとわずかな時間は意識があるであろうことも、予想で きたので。

***********

翌月曜日ある一人の男が”掃除”された。秩序を乱したために・・・・・・・


山口 浩由

第1日
彼は思いついた。「世界を壊そう。」 とりあえず祝福した。何を祝福したのか?そんなことはどうでも良かった。 まず、休んだ。


第2日
彼はすでにできあがっているすべての物をみた。甚だ良くできている。 彼はまず、こう言った。 「全地の表にある種子を生ずるすべての草と、 種子を生ずる果実のすべての木を与えられたヒト。はい、あなたも。 ヒトみんなだよ。君らはもういらない。なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。ヒトが消えた。 「海の魚、天の鳥、家畜、野のすべての獣、また地の表を這うすべてのもの を支配していたのはヒトだったけど、やっぱ必要ないでしょ。」 夕となり、また朝となった。


第3日
彼は言った。 「水の中の活発にうごめいているもの、地の上、大空の表を 飛んでいる鳥、もういい。なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。魚や鳥が消えた。夕となり、また朝となった。


第4日
彼は言った。
「天の大空に昼と夜を発するもの。そう、君ら。太陽と月。 君らさ、定められた祭、日、年のためにしるしになってたでしょ。 うん、もういいからさ。なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。太陽と月が消えた。彼はついでに星も消しておいた。 「太陽は昼、月は夜を支配してたけど、別に必要ないでしょ。」 夕となり、また朝となった。


第5日
彼は言った。 「地の青草、種子を生ずる草、それから種類ごとに種子の ある実をつける果実、もういい。なくなっちゃえ。」 そしてそのようになった。さらに言った。 「天の下にある水もさ、一つの場所に集まって乾いたところを 作ってる必要ないから、一緒でいいよ。」 するとそのようになった。地と海が消えた。夕となり、また朝となった。


第6日
彼は言った。 「大空ってさ、うん、天。水を上と下に分けてるんだってね。 良くわかんないけど、もういい。なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。大空が消えた。 夕となり、また朝となった。


第7日
彼は言った。 「昼と夜があるのもめんどくさいよね。光ももういっか。」 少し考えて、言った。 「光、なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。 光と闇が別れていたのが闇だけとなり、昼と夜も消えた。

地は形なく、むなしく、闇が淵のおもてにあり、大風が水の表面を 波立たせていた。

彼は考えた。「何もなくなった。全部なくなった。あるのは自分だけだ。 いや、自分もないのか?ないことはないだろ。実際モノを考えてるし。 我思うゆえに我あり、ってか?でも、ほかに何もないんだから、 やっぱ自分もいないだろ。いるのか?いないのか?どうもわからん。」

彼は考えた挙げ句、いった。「ま、いっか。なくなっちゃえ。」 するとそのようになった。

彼は消えた。


川路 友博


第1日目。僕はいつものように渋谷駅を駆け抜ける。今日はいつもより人が多い。 時間が悪いかな?などと考えていたら人とぶつかった。僕はよろめき地面 に頭をぶつけた。何で人間はこんな固い地面しか作らないのだろうか。人 間がいなければこの辺りはどうなっていたのだろう?


第2日目。しまった、寝坊した。いつもより速いスピードで駅構内を駆ける。 しかし、驚くことに人がほとんどいないではないか。昨日と比べると、寂しい ぐらい人がいない。何となく不安を感じながら、軽快に駆け抜けた。学校 に着くと、その不安が的中していたことに気づいた。教室にも人がいない。 一度教室を出て、教室番号を見る。確かに合っている。動揺が隠せない。 ふと黒板を見るとこの授業のものと思われる板書がされている。そう、こ の2限の授業もすでに終わっていたのだ。つまり、もう昼過ぎ。駅に人が 少ないのも、このためか。


第3日目。今日はいつものように駅を駆ける。この混み様はいやになる。田舎から 出てきた僕にとって朝の移動だけで、1日の体力の大半を失う。人が邪魔 でなかなかスピードが上がらない。足取りも重くなる。いらいらしていた ら人とぶつかった。怒鳴ってやろうと思ったが、その前に体勢を崩してし まった。今度は頭をぶつけまいと、受け身をとろうとしたところ、頭を蹴 られた。くそう、泣きっ面に蜂だ。人間ってやつは・・・。


第4日目。今日もいつもと同じ。というより、昨日と同じと言った方が正確かもし れない。朝にほとんどのエネルギーを奪われた。唯一違うところといえば、 よろけた後に頭を蹴られたのではなく、頭に頭突きをもらったというくら いである。もういやになってくる。


第5日目。今日は気分が悪い。時間もいつも通りなのに駅を駆け抜けることができ ないのだ。これが唯一のストレス発散の方法なのに・・・。人の流れに身 を任せるしかないのである。これじゃあ、まるで人の渋滞じゃないか。学 校にたどり着くのにどれくらいかかるのだろうか? この日僕が家にたど り着いたのは、日付が変わって午前1時だった。


第6日目。今日は渋滞に備えて早く家を出た。やはり昨日と同じく、渋滞している。 早く出たはずなのに昨日より遅れている。そしてついに恐れていたことが 起きてしまった。そう、全く進まなくなってしまったのだ。冬とはいえ、 こんなに人が密集していては暑いの何の。最近悪いことだらけだ。いや、 そうでもない。人とぶつかっては、頭にダメージを受けていたあの頃と比 べれば、こけること自体ができないこの状況は幸せと言うべきかも知れな い。実は悪いことだらけでもないのかな? そんなことを考えているうち に動けないまま夜が来てしまった。


第7日目。今日は妙に苦しい夢をみて目が覚めた。いや、実際に苦しかったのだ。 これじゃあ朝の通勤ラッシュ時の電車といっしょじゃないか。息をするこ とさえままならない。もう、頭にダメージがどうのこうの言ってる場合じ ゃない。頭を地面にぶつけるだけのスペースがあったころが懐かしい。か なり苦しくなってきた。「そういえば今日は朝御飯食べてないや。」


ふと体が軽くなり、気が付くと人混みが下に見える。人混みはどんどん 小さくなってゆく。回りを見渡すと驚くことに、東京中、いや日本中がこ んな状況である。みんな苦しんでいる。 ああ、端の人々から海にばらばらと落ちているじゃないか。


太田 哲二

秩序と意思

朝を告げる目覚ましが鳴り響く部屋で、私は目を覚ます。


月曜日には気分が重くなる。昨夜から続く倦怠感、日曜が終りに近づく事への憔 悴が夜寝ている間に増幅され、眠りの幸福を削ぎ落としているかのように。 眠さを噛み砕くように食パンを牛乳で嚥下すると、もう八時半になろうとしてい る。身支度をして、家を出ようとすると、とりあえず付けておいたテレビに 見慣れた顔が出ている。 S.ホーキングが大笑いしている。テロップには、「宇宙の謎が解けた!」と 書かれている。特に気にもせず家を出てしまったが、一限の教室は大騒ぎに なっていた。 量子力学の講師だけあって、相当嬉しかったのだろう、量子論と相対論が幸福に 結婚できたことについて熱弁を振るっている。何でも、不確定性原理の意味に ついての理論が完成したらしく、やはりアインシュタインが嘗て言った通り、 物理的実在は存在するらしい。つまり、粒子の振る舞いは確率に依らず、 運動量と位置の初期値によって全て記述できるようになったということである。

それは本当か? と疑問に思った私は、二限からの時間を全て情報棟で過ごし、 工学部のゲイトウェイ700MHzの助けを借りて、自分の振る舞いに対する 方程式を立ててみた。


そして、全てが終わってしまったのである。


火曜日。
学校には行ったものの、自分の行動が全て予測できるというのは実に奇妙なもの だ。それに、他の物質や人間の動きも明らかである。サッカーでは、 ボールの飛んでくる位置を先取りしてダブルハットトリックの活躍。 英語では、いつ当たるかが予測できて、そのとき以外は寝ていても安心だった。 これは楽しいと思いながら、帰路に着いた。


水曜日。
朝起きる。いつ帰ってくるのかも、何を学校でするのかも、それがどういう結果 を齎すのかも、全てが私の頭の中にある。体が自転車の上に位置して、 井の頭通りを過ぎて一号館へと進んで行く、私を形作る全ての粒子が一体となって。


木曜日。
一限は統計分析なので、特に出る気もないのだが、実際に方程式の解を見ると、 私の体の構成物質はベッドから微動だにしていない。 結局、解の通りに二限から学校に行ってみた。昼食のラーメンも、 味噌スープ濃い目に追加麺だというのがわかった。 しかし、何かがおかしいのではないかという感じが消えない。 何か重要なことを無くしているのでは、という気持ちが、 カレーを作った後の鍋の底に残る焦げ跡のように脳裏にこびりついて離れない。


金曜日。
午後からの実験の予習をしている朝の図書館。しかし、方程式によると、 どうやら私はニトロ化に失敗して再実験になってしまうようだ。

どういう事なのだろう?

これから実験をするのだから、その失敗がすでにわかっているのなら、 それが起こるということはあり得ないのではないか?完璧な予習をして実験に臨 み、細心の注意を払えば何て事はないのではないか? 予習をし尽くし、細心の注意を払っていた私の手は、何故か宙を彷徨い、 なす型フラスコを粉々に叩き割ってしまった。


なぜなのだろう? この全身を支配する無力感は、何処から来るのだろう? 私は何をしているのだろう?


土曜日。
朝から何も考えていない。否、考えていることがひとつも実現しない。 方程式の解とは違う動きをしようとする意思とは裏腹に、 私の体は方程式の解の通りに動いている。 ずっと寝続けていたい気持ちとは裏腹に、朝食を食べた後の私はパソコンに 向かって大戦略をやり出す。

すでに気付いている。物理的実在とはこういうことか。

私はこれまで自分の意思で動いていたのではなく、予め決められていたルールを さも自分で選んだかのように感じていたのか。 サッカーでダブルハットをしたのも、既定路線だったということなのか。 普段の僕らは、理解できないほど複雑なものを説明するのが億劫なため、 規則あるものを不規則に感じ、混沌を是としている。 方程式の完成とは、そのことに気付くことに他ならなかったのか。 何もできない。思うことが形にならない。 自律性を維持できない=考えることに意味がないというのは、 何と恐ろしいことだろうか...

眠りたい。意識があるのが苦痛だ。 僕の意思が存在したとしても、それを伝達する手段がなかったとしたら、 世界など... 世界など、存在しなくてもいい。

もう眠りたい . . .


にちようび
今朝は、起きることも、できなかった、どうや、らじっけんのれ、 ポートでいそが、しいようだいま、はいったい何時なのだ、 ろうとけいはすぐよこのたなにあるのにからだはうごくことはないただかちかち ととけいの音だけがきこえてくるかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちか ちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかちかち もうたくさんだ . . . . . . . . . . . . . .

ぬふあうえおやゆよわほへーたていすかんなにらせちとしはきくまのりれけ むつさそひこみもねるめろ


武田 真樹


地球上における終焉は非常に無機質なものであった。


(一日目)  人々は何気ない体験をする。例えば買い物での事、 普段は愛想よく接客するはずのレジのおばさんが、一言もしゃべらず無愛想であった。 しかし、人々はこういったことをほとんど気にとめなかった。


(二日目)  さらに何気ない体験は続く。駅までの道を、 通りすがりの人に尋ねようとした人は、誰もが彼の声に耳を向け立ち止まること さえしないことに気付いた。そのようなことがいたるところで起きていたわけで あるが、人々は、最近の人間は冷たいという結論を出しただけで、 それ以上のことは考えることはしなかった。


(三日目)  次は、人々が長い時間にわたって身を寄せる場所、 それは時に学校であったり職場であったりするわけだが、そういった場所で 人々は違和感を覚えることとなった。例えば学校では、教師と生徒との間で 全くコミュニケーションがとられなくなったのだ。 そうは言っても授業は行われていた。それは一方通行のものではあるが。


(四日目) それらの場所における変化はさらに大きなものとなった。 再び学校での話を例にとって見ると、今度は生徒同士、教師同士での コミュニケーションの変化が見られたのだ。普段なら、会えば挨拶ぐらいは する知り合いにあっても、無視されるのだ。それでも親しい間柄の友人とは、 談笑していたのでそれほど心配することはなかった。


(五日目) さすがに人々は、この異常な事態に不安を感じ始める。 それもそのはず、昨日までごく普通に笑いあったり、ふざけあったりしてきた、 親しい友人が、自分と全くコミュニケーションをとろうとしないからだ。 いつもと変わらずそこに存在しているのだが。


(六日目) 自らが心の内をさらけ出せるのはここぐらいだ、人々はそう思い、 自分の家に、自分の家族に、安らぎを求める。しかしそれも今となっては 叶わぬものとなってしまった。家の中には、すでに赤の他人となってしまった 物体としての『人』しか存在しなかった。それでも人は、ただ一人だけ コミュニケーションを取れる相手がいた。愛すべき人である。 この日はずうっと、二人でこの異常事態について語り合った。 そして、明日も、それからもずうっと変わらぬままいることを互いに誓い合った。 そしてその日は終わろうとしていた。


(七日目) 昨日の誓いは守られることはなかった。 そして、自らのコミュニケーションの対象となるものは0となった。

人と人とのつながりという網の目をことごとく断ち切った状態、 人間自体は昔と変わらず存在し続けているのであるが、 その個々が互いに全く関わりを持たない状態、それがすべての終わりであった。

やがて人は、孤独という閉塞感に打ちのめされていくことになるであろう… 


財満 康太郎

「部屋の外」


土曜夜、翌日は日曜で学校が休みなので、自分の部屋で、夜遅くまでおきて、 量子論についての本を読んでいた。その本には、コペンハーゲン説という不思 議な量子の世界に対する解釈の1つがあった。その説によると、観測されてい ない状態では電子は波として広がっており、観測されると、電子は観測された 点に収縮するというのだ。シュレディンガーの猫という例え話もあげられてい た。その話では、1匹の猫と、毒の入っているいつ破裂するかわからないビン を、外と遮断されている密閉された箱の中に入れる。箱の外からは箱の中が見 えないので、外からは猫が生きているか死んでいるかは箱を開けてみるまでわ からない。ある時間が経過した後に、外の人間が箱を開けて中をみる。その開 けてみた時、初めて、猫が生きているか死んでいるかが定まり、その箱を人間 が開けるまでは、猫の生きている状態と死んでいる状態とが重なり合っていて、 定まらないというのである。


ここで、本を読むのを一休みして、私は考えた。今は、夜で、外の世界と私 の部屋はカーテンで仕切られ、私には部屋の外の世界は見えない。今、量子の 世界と同じようなことが外のこの世界でもおきていて、外の世界もいくつかの 状態が重なり合い、ゆらいでいることだってありうるのかもしれないな、と思 った。でも、もしそのようなことが私に見えない部屋の外で実際におきていた としても、私にはその状態をみることができない。私がカーテンを開けて外を 見た瞬間には、外の世界は何事もなかったかのようにいつもの世界に収縮して いるのだから。こうしている間にも、外の世界は、ゆらゆらと揺らぎ、私がカ ーテンを開けて外をみると、外の世界は、ある1つの状態に収縮する。そして、 私がカーテンを閉じると再び、外の世界は揺らぎ始める。また、再びカーテン を開けると収縮する。その繰り返しの世界。そんな世界だって、ありうるなと 思った。そんなことが絶対にないとはいいきれない。外の世界には自分以外に もたくさんの人がいて世界を見ているのだから、そんなことが起きていたら、 誰かが気づくはずだと言うかもしれない。でも、この私の部屋のように、それ ぞれの人は自分が見ることのできる空間をもっていて、それぞれの人も、その 空間の外のものは見ることはできない。やはり、誰もその自分に見えない空間 で何が起きているかわからないし、見えないところでは、実は、とんでもない ことになっているかもしれないのである。

そんなことを考えているうちに、部屋の外がどうなっているか不安になり、 カーテンをあけてみることにした。(どうせ私がカーテンをみたときには、外の 世界はいつもの世界に収縮しているのだから、無駄だとはおもったけれども。) 思ったとおり、いつものとおり人気のない家の前の通りが街灯に照らされてい た。少し安心して、カーテンをしめた。

そろそろ、もう疲れたので、今日は寝ることにした。時計を見ると、 2時20分であった。かなり疲れていたようで、布団に入るとそのまますぐ意識がなく なった。


日曜日、朝、9時30分に目がさめた。自分が昨晩何を考えていたかもすっかり 忘れていた。自分の部屋からでて、家族のいる居間へ行こうとして廊下に出た。 すると、うちでは飼っていない黒い猫が廊下にいる。 しかも、一匹でなくて、十数匹とうじゃうじゃといる。廊下にある本棚の上で すやすや寝ているものや、床からこちらを見上げて今にもこちらに跳びかかろ うとしているものなどがいる。こんなものは、もともと、うちにはいないので、 あわてて、家族のいる居間のあるドアのところまでいった。そして、猫が居間 へ入ってはいけないから廊下に閉じ込めておこうと思い、さっとドアをあけて 自分が居間に入るとすぐにドアをしめた。居間では父が新聞を読みながらトー ストを食べていたので、黒猫がたくさんいると言って、ドアをあけて、父をひ っぱって急いで廊下に連れ出した。すると、なんと、あれだけたくさんいたは ずの猫があとかたもなく、いなくなっている。猫の黒い毛も一本もない。父と ふたりで、どこをさがしてもいない上に、逃げたような隙間などもないので、 父に寝ぼけたのだろうといわれて、あきらめて、居間へ戻った。しっかり、逃 げないようにドアも閉めたのだし、見ていない間に本当にどこに行ったのだろ うと思いながらも、逃げたところもなかったので、やっぱり、寝ぼけていたの だろうかと思うことにした。その日は、そのあと、何事もなく、1日が過ぎた。


月曜日、朝、一時間目から授業があるので、7時に起きて、家をでた。 新宿で中央線から山手線に乗り換えて、渋谷へ向かった。渋谷で降りてみると、 変なことに気が付いた。降りて、乗ってきた電車の方をみると、電車の色が紫 色なのである。乗った時には気が付かなかった。周りの人は特に気にしている 様子はない。私が電車の中にいる間に電車が塗り替えられているはずがないし、 新宿で乗るときにどうして気が付かなかったのだろうと思ったけれども、急い でいたのでそのまま学校へ向かった。昨日に引き続いて、最近、朝は寝ぼけて いるようだ。


火曜日、今日も寝ぼけたようなことが起きた。休講で午後は授業がないので、 学校の食堂で昼食をとった後、家に帰った。食後で眠くなったので、昼寝をす ることにして、目覚し時計を1時間後の3時にセットして自分の部屋のベッド で寝た。そのはずだったが・・・、それなのに、目を覚ましてみると学校の空 いた教室に一人で寝ていたのである。最初は学校にいる夢かと思ったが、机の 感触、みためがあまりに本物そのものであったので、今、学校にいる自分が本 当なのだと信じざるを得なくなった。時計をみると2時30分であった。教室を出 て、掲示板を見にいくと、休講の掲示があり、休講のほうは夢ではなかったら しい。しょうがないので、再び、家に帰ることにした。せっかく、家に帰った はずなのに面倒だなと思いながら、電車に乗った。電車の扉の横のところに寄 りかかって、目を閉じながら、このまま寝て目を覚ましたら家の自分のベット に寝ていることがあればいいのにと思った。でも、そんなに現実は甘くなく、 再び目を開けたときには、同じ場所で電車のドアのところに寄りかかっていた。


水曜日、5時間目まで授業があり、それから、本を見に、渋谷の紀伊国屋に よることにした。紀伊国屋はビルの5階にあるのでエレベータにのった。最近、 変なことが起こりすぎるな、疲れすぎているのかな、睡眠時間を増やさなくて はいけないのかなと思っているうちにエレベーターの中が一瞬暗くなった。停 電かなとかそうこう思っているうちに扉が開いた。でも、ついたのは地下1階 で、5階ではなかった。またか、最近、寝ぼけているから、また、ボタンを押 し間違えたのだろうと思って、エレベーターに戻り、5階のスイッチを押した。


木曜日、最近、いいかげん、変なことや面倒なことがおきるのでいやになり、 昨晩は早く寝た。だから、今日は何も起こらないだろうと思ったら、ささいな ことではあるけれど、トイレから出ると、思っていたのとはちがう建物にいた り、教室に置いてあったはずのカバンが目をはなしたすきにサークルの部室に 勝手に行ってたりすることが何回もあり、変なことの起こる回数が減るどころ か増えている。そのせいで、授業に遅れるようなこともあり、授業の直前には 教室の席から離れない、カバンを抱え、目を離さないなど徹底するようにした。

学校以外では、昨日の教訓を生かしてエレベーターに乗らず、エスカレーター を使うなど気をつけるようにした。それでも、次々と思いもよらないところで 変なことが起き続けた。


金曜日、日常的に起きる変なことについては、もう、どうしようもないので、 もうあきらめることにした。こういう変なことはながく続くものではない、も う少しすれば、こういうことは過ぎ去ってなくなるだろうと自分にいいきかせ て生活をした。なんとか5時間目まで、授業がおわり、学校をでた。

 帰りながら考えた。ここのところ、自分の身の回りに起こることはめちゃく ちゃであるけれども、どうも自分の見ていないところ、見えないところで予想 もつかないことが起こるらしいということはわかってきた。見えない電車の外 側、見えないエレベーターの外、目を離したすきに消えるカバン。しかも、だ んだん短い間だけ、目を離しただけでも変なことがおこるようになっている。 これ以上、短い時間で変なことが起きていくと考えると怖い。そうしたら、 まばたきするだけでいろいろな変なことがおきてしまう。このままだと、今夜 あたりにはそんなことがおきてしまうかもしれない。まばたきするのに目をつ ぶるだけで、次の瞬間に目をあけたときには自分のいるところは予想もつかな いところになっている。そういうようになるのかもしない。いろんなところに 歩かずにいけるし、目を開けてからのお楽しみになるから飽きなくてよいと考 えることもできるが、行き先は選べない。まばたきしたすきに、とんでもない ところに行っているかもしれない。それこそ、目を開けた瞬間に車の行きかう 高速道路のまんなかに寝転がっていたらもうおしまいである。どうしようもな い。そんなことがおきたら・・・。

ひとまず、なんとか家にたどり着いた。やはり、変なことが起きるまでの時 間は短くなり、予想のとおり、まばたきするだけで、自分のいる場所が移動す るようになってしまった。まず、家の部屋にいたはずが、まばたきすると駅に いて、次には学校の誰もいない暗い教室、そして、家に戻ってきた。これまで は何事もなかったが、次こそ危ないことになってしまうかもしれない。これか らは気をつけないといけない。だからって、目を開きっぱなしにしているわけ にはいかない。目が乾燥してしまう。だから、両目、いっぺんにつぶらずに、 片方づつ目をつぶるのである。そうこう考えているうちに、無意識のうちにい つもの習慣で両目をつぶってしまった。怖くて、目を開けることができないま ま、時は過ぎていく。


森高 外征雄


月曜日。
私も今日で80才、 老後は静かなところで絵でも書いて暮していこうと思っている。 というわけで最近は風景がきれいな富士山の麓の一軒家に引っ越してきた。 そこで早速キャンバスに向かい目の前の風景を書き始めた。


火曜日。
今日はあめが降っていたので家にいたが、 このとき妙な男がやってきた。 その人はまだほとんど書いてもいない私の絵を高値で買おうと 言って来た。 どこでそんなことを知ったのでしょうか。 私がまだできあがってないというとその男はそれまでここで待つという。 私は追い返してはいけないような気がしてきたのでそのままいっしょに 住むことにした。


水曜日。
きょうは晴れたので外に出てみようと思いドアを開けようとしたが 何かにつかえてドアが開かない。 仕方なく窓から外に出てみると家の周りにびっしりと木が植えられていて、 ドアも木につかえて開けられなくなっているようである。 出入りするにはこの窓を使うしかないようである。 昨日やってきた人は床に穴を掘って、 そこから出入りしているようで、なかなかのアイデアだと思ってしまった。 家の周りは見渡す限り森林である。 富士山はみられなくなってしまった。 ペンギンや、極楽鳥など世界中の鳥がそこにいた。 今度はその鳥たちの絵を描こうと思った。


木曜日。
きょうは朝から火曜日に来た男が家を上空に向かって増築している。 家は塔のようになっていた。 そういえば、私が使っていた絵の具のチューブと、 様々な工具とを交換していた。 そこに上っていくと、久しぶりに富士山をみることができた。 そうして、ようやく絵を描き終えて下に戻ると大量のはとが 住み着いていてはいることができない。 しかし、はとが出入りしていた穴は、今書いていた絵を張り付けることで 塞ぐことができた。


金曜日。
家のなかが非常に騒がしい。 いつのまにかたくさんの人が住み着いている。 床にたくさんの穴が開いていてそこから出入りしているようだ。 その人々に話を聞くと国境線の下を潜り抜けてきたらしい。 これだけの人数は家にはいらないと思っていたが、 その人々はそれぞれ私が昨日書き終えた絵が描かれた キャンバスを持っており、 それを組み合わせて次々と家を上に拡張していった。 これなら全員住めそうである。


土曜日。
外を見渡してみると家の周りにも大量の人々がいることに気付いた。 その人々ははっきり二通りにわけられる。 一方はその場で全く動かない。そこに様々な鳥が止まり巣をつくっている。 もう一方は、常にまっすぐ歩いていて止まらない人々である。 火曜日に来た男は使い古したチューブとどんなものでも交換してきた。 唯一交換できないものは、この世で最も高価な、新品のチューブであると言う。 私も何か面白いものと交換してみようと、 床に開いた穴の中に入ってみることにした。 穴の中はあざらしがたくさん横たわっていて足の踏み場もないほどで、 出口まで歩いて1日ぐらいかかるらしい。


日曜日。
まだ穴の中を歩いている。 見当たるのが小さいアザラシばかりになってきたので、 もうすぐ出口のような気がする。 穴は砂漠のような所へつながっていた。 そこから出るとすぐに砂で埋まってしまった。 そこには使い古したチューブが山積みになって塔のようになっていた。 振りかえると、自分が住んでいたキャンバスの塔に火が灯り 世界の中心のように夜空を照らしていた。 足元には昔自分が使っていた電話があり、受話器を取ると、 そのチューブの山の写真を早く撮って持っていくようにといっている。 そういえば、その写真の締め切りを一週間も過ぎていたことを思い出した。 わたしは砂漠の中、会社にいくため、巨大なビルの蜃気楼に 向かって走っていった。


野本 裕史


◇月曜日
君が神になる‥‥『THE WORLD』‥‥プレー・ステーション‥‥

「私、あなたの他に好きな人ができたの、ごめんなさい‥‥ あなたが悪いわけじゃないの、私が一方的にいけないんだけど、 もう、どうしようもないの‥‥別れて下さい‥‥」


◇火曜日
マサオは学校から帰ってくると、ただいまも言わないで、またゲームだ。 昨日買ってもらったあのゲームを、クラスで一番にクリアしようと。


◇水曜日
昨日、僕はふられた。あるいはそれは、おとといだったのかもしれない。 覚えているのは、3年間もつきあってた彼女を、小学校5年のアホガキなんかに とられた、ということだけだ。 ああ、だからあいつ、デートよりカテキョウのバイトを優先させてたのか‥‥


◇木曜日
「おーい、マサー、おまえ、ワールドどんくらいまでいった?」
「「眼」はもう楽勝、地上5mくらいまで降りれて、歩いてる人の顔がちょっと 分かるくらい」
「なにー、じゃ、「耳」は?」
「「公園」の「コンサート」から「歌」が聞こえた」
「やりー、おれなんて、「部屋」の「ラジオ」までちょっと聞こえたぜ!」
「うっそ?!」
「「ラジオ」の「番組」、キーポイントの1つらしいぜ」
「うおー、いいなー、学校帰ったら、家行っていい?教えてよ」

コロス‥‥


◇金曜日
今日、僕は早起きした、まだ5時、昨日の夜に思いついた計画で興奮してうまく 寝れなかった、というのが正直なところ、 順番を決めておこー、いえーい、 飛行船を手配してー、ハロゲンランプ2万個注文してー、 えっと、バッテリー、どのくらい要るのかなー、 銀行にあるやつだけで、お金、足りっかなー。


◇土曜日
「はい、もしもし」
「あ、**さん?航空宇宙研の○○ですけど、今どこにいるんすか?」
「え、家」
「なにやってんすか、もうすぐ実験始まりますよ、チーフが遅れてどうすんすか ?」
「あ、おれ、しばらく休むから、なんか腹痛い、あと頼むよ」
「え、ちょっ、なに言ってんすか」
プチッ
「電源切っとこ、ったく、こっちも忙しいっつうの、ウフフ」


「もしもし、かわりました、マサオですけど」
「あ、マサー、おーっす、ワールドの裏ワザ見っけたぞ、日食出せるやつ」
「うっそ!どうやるん?」
「@$▽¢」「○◎♂▽」「〒→〇△‥‥」「ゝ※□◇♀‥‥」
「それ今日しかけとけば、明日出せっから」
「ありがと、速攻やってみるね」
「かなり、人の「平和」がUPするよ、じゃ、また」
「うん、ありがと、じゃ、また」
カチャ
「よっしゃー、日食ー」


◇日曜日
もうすぐ始まる皆既日食を見ようと、通りでは、多くの子供が黒いガラスを手に して、顔を上に向けている。 そこにキラキラ光る飛行船が、雲一つない青空をスーと横切‥‥


マサオは朝からパジャマ姿のままコントローラーを握る。 「眼」の高度を下げる。通りがゴチャゴチャしているのを見て、日食のプログラ ムがうまくいったことを知り、にやにやと目が線になる。 自分も日食を見ようと「眼」を180°回転させ、とそこでマサオの丸くなった目の 瞳孔が固定して、

「5‥‥4‥‥3‥‥2‥‥1‥‥GO!」 飛行船から真っ赤な閃光が雷のようにパッと放たれる。 消える。また光る。消える。あ、また。 飛行船の点滅、というより、空の点滅は止まらない。

REDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUERED

BLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUE

REDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUEREDBLUE...


「ウヒヒヒヒ、ザマーミロッ‥‥クソガキはみんな死ぬんじゃ(沈黙)」

朝ご飯ができても食べに来ないマサオをゲームから引きはがすため、母親はマサ オの部屋のドアを開けると、マサオは背中を丸め、手足を震わし、口から泡を吹い ていた。 音にならない声で息子の名を叫びながら、倒れこむように駆けよる母親は バキャッ 気づかずプレステを65kgの体重をかけて踏みつけた ブツッ、ブーン もう何も、テレビスクリーンには映らない(沈黙)

おわり

と、これでは黒いので、つづき。


◇後日
「マサー、ごめんな、退院したらおれのデータ分けてやっからさ、許して、 おれの世界さー、なんかオレっちくらいの男子と大人のおねーさんとのカップ ルが流行っちゃってさー、いいと思わねー?」 「ゲームに入りたいよなー」 「うわっ、エローい」 「おまえの方が先に言ったんじゃんかよー、エッチー」 「ギャハハハ」「アハハハ」

窓の外には、壊れない世界の透き通るような青い空がみだされることなく、いつ までもどこまでも広がっているのだ。


原 祐輔


一日目
  特に変わった事の無い日常生活。
  変わった事といえば、体重がたった一日で
  5kgも軽くなった事ぐらいだった。


二日目
  自分を含めた周りの人達の見た目の異常に
  気づき始めた。正面姿や後姿はこれといって
  変化は無いのに、側面がやけに細い。
  体重が昨日よりさらに10kgほど軽くなっていた。


三日目
  昨日気づいた異変がニュースで流れていた。
  どうやら、この異変は世界中で起きているらしい。
  様々な憶測がそこら中で行き交うが、確かなものは
  何一つ無かった。我々の不安は募るばかり。
  体重は、もう30kgになってしまった。


四日目
  朝、起きるのがダルい。この日は外出をやめ、
  ずっと家に居ることにした。食欲はあまりなく、
  ほとんどずっとベッドの中にいた。
  もはや体重計に乗るのは怖かったので、
  体重を量るのをやめた。


五日目
  朝、とりあえず目を覚ます。しかし、体が動かない。
  どうやら自分の体は、平面に近くなってしまったみたいだ。
  これから自分はどうなってしまうのかを少し考えたが、
  面倒になり、考えるのをやめた。


六日目
  もう目を開ける事すら出来ない。自分が今、果たして、
  生きているのか、それとも死んでいるのかさえわからない。
  もはや全てがどうでも良く感じられたので、何も考えずに居た。


七日目
  消滅。


中谷 祐介

セット


月曜
またいつもの退屈な1週間が始まった。いつもの道、いつもの電車、 いつもの授業、いつもの友達、いつもの飯、. . . . . .
ただ今日は何か違和感を覚える。それは、ほんの小さな小さなモノで 特に問題にならない様なので、この日は無視することにした。


火曜
この日もいつもの部活の朝練がある。このくそ寒い冬に朝早く 起きなくてはいけないのは、かなり苦痛である。 いつもの練習を終え、いつもの道を、いつもの面子と帰る。 . . .? 何か変だ。昨日の違和感が、少し大きくなって また襲ってきた。ひどく気分が悪い。風邪でもひいたのだろうか? 今日も原因が分からないまま家に帰ることにした。


水曜
体がだるい。体がうまく動いてくれない。まるで油が切れた機械 になった気分だ。これは絶対風邪をひいたにちがいない。でも 今日は大事な試験のある日だ。しかたがない。行きたくはないが、 学校に行くことにした。

乗り換えのために渋谷を歩いていると、またあの違和感が襲ってきた。 そして今日はその原因が分かった。 東急百貨店はどこ? そう、渋谷駅の目の前にあるべき東急のビルが忽然と消えていたのだ。 ついにおれも頭がおかしくなったようだ。だってそうだろう? 渋谷の東急がいきなり消えるか?これは何科に行けばいいんだろう? 眼科か?それとも精神科か?どちらにしろ、明日ゆっくり行こう。

そして、散々な試験結果を残してこの日は終わった。


木曜
この日は全ての授業をキャンセルして、朝から病院に行くことにした。 まず眼科に行ってみた。結果は、問題なし。どこにも異常はなかった。 やっぱり精神科か。あまり行きたくはないが、そうも言ってられないので 精神科デビューを果たすことにした。ところがこの日は定休日。 デビューは明日に持ち越しとなった。


金曜
この日は一応学校には行った。午前中に終わり、渋谷を歩くと やはり東急はなかった。それどころか今日はハチ公まで消えている。 なんてこった。こりゃ、ほんとにやばくなってきた。

(あのー。僕頭おかしくなったみたいなんです。)

(どうしたんです?)

(見えるべきものが見えないんです。)

(というと?)

(渋谷の東急のビルが消えてるんです。ハチ公も。)

(は?東急?ハチ公?)

(東急百貨店ですよ。渋谷の前にある。ハチ公も)

(これは治療に時間がかかりそうですね。また明日来てください

(.....................)


どうやらこの先生も狂っているらしい。

それともやはり俺が狂っているのか?


土曜
ふー。なんだか異常に疲れる1週間だった。ありきたりな言葉だが この1週間が夢であってほしい。来週の月曜日にはまた、いつもの道を 歩き、いつもの電車に乗り、いつもの授業を受け、帰り道にはいつもの 様に東急もハチ公もある渋谷で遊ぶ。つまらないけど、そんな毎日の 方がいい。

そんなことを考えながら家でボーとしていると、友達から日曜日 (明日)の遊びの誘いがやって来た。はっきりいって今、体の調子は 最悪だ。ますます体の節々が痛くなり、動く度にギシギシと音を立てる。 だが、今の混乱した状態では、仲のいい友達とのおしゃべりだけが いつもの生活(いや、昔の生活か?)との接点の様に思えて、 結局承諾してしまった。


日曜

    あそび場所はいつものように渋谷ということになった。

   (やはり、ハチ公はなくなっていたが)

    いつものようにゲームセンターで遊んだ後、いつものように、 

   いつもの喫茶店でお茶を飲むことにした。

    喫茶店に入り、しばらくしゃべっていると、突然  

    ( カット!!!!)

   あのテレビでおなじみのフレーズが聞こえてきた。

   その瞬間、前に座っていた友達が立ち上がり、帰り支度を始めた。

       (あれ?もう帰るの?)

   そう聞くと

       (いや、もう終わったんだ。)

   と、言われた。

   こいつは何を言っているんだ?そう思いつつ、ふと、窓の外を見ると

   見慣れた東京の景色から次々にビルや車や、道路のセットが取り除かれてゆく。

   そしてついには何もなくなってしまう。

       (それじゃあ、おつかれ!)

   そういって、友達は、何もなくなった外へ出て行く。

   やがてこの喫茶店のセットも取り除かれ、僕は何もないところに立たされる。

   やがて黒い衣装を着た舞台係がやって来て、

       (失礼します。)

   と言いながら僕の体をバラバラにしていく。

   最後に照明係が

       (おつかれさまでした。)

   と言いながら証明を消すと、あたりは全くの闇になり、何もなくなった。


高橋 祐喜

日記(最後の7日分)


2000年1月20日木曜日

今日、通学途中の電車の中で変な生き物を見た。
エイリアンを手がけたH.R.ギーガーも真っ青というくらいの、特撮に出てきそうな怪 物だった。 不思議なことに、電車の中にいた人は誰もその生き物に驚くことなく、 普通に「今日は寒いですねえ」と話し掛ける人さえいた。


2000年1月21日金曜日

昨日電車の中で見かけた謎の生物が、近所のコンビニや大学の構内に現れ、さらには 夜のニュースで街頭インタビューまでされていた。一緒にテレビを見ていた父に 「あれは何なんだろうね?」と聞くと、父は不思議そうな顔で「普通の人じゃん。」 と答えた。


2000年1月22日土曜日

今日は封切りになったばかりの新作映画を見に行った。 映画館の中にまたしても例の謎の生物が、しかも何組かのカップルで現れた。 壮観だったが、誰もこの異様な光景には目もくれず、映画を食い入るように見るか、 いちゃつくかしていた。僕は頭が混乱して、映画どころではなかった。


2000年1月23日日曜日

テレビをつけたら、NHKとテレ東以外の局では、ほとんどの出演者があの生き物に なっていた。にもかかわらず、誰もそのことを気にしない。 もしかしたら、皆には普通に見えるのかもしれない。 特に、みの○んたまで変わってしまったのは非常に嘆かわしいことだ。


2000年1月24日月曜日

今日は1限から授業に出ようと思って朝早く出かけたが、駅前にいた人のほとんどが あの生物になってしまっていたので、すぐに家に引き返して午後から大学に行った。 大学でも普通の姿の人は数えるほどしかおらず、授業をしていた教官も変身してし まっていたため、話が聞き取りにくかった。それでも、みんなまだ気付いていないよ うだ。


2000年1月25日火曜日

今日は外に出る気にならず、一日中家にいた。
ついにうちの家族までもが変身してしまった。
テレビでも普通の人が見つからなくなった。


2000年1月26日水曜日

普通の姿の人間が恋しくなって、昔録ったビデオを見てみたらその中の人も変わって いた。 一体この世界はどうなってしまったのだろうか?
もしかしたら僕の頭がおかしくなったのかもしれない。
ま、どっちでも同じ事だけど。
みんなが変わってしまって、自分だけ普通なのも少々気まずい気がするので、 変われるものなら早く変わってしまいたいと思う。


礒野 裕


一日目:
日本のT大学の計算機施設での光景である。Aさんがメールを交換しあっている。
A:「近ごろ、物事が自分の思い通りにはこばんなあ、今週1週間だけでいいから、 人間の思い通りにことが運んでくれたらなあ。」
相手:「本当にかなえてやりましょうか? できないことはないですよ。」
A: (どうせ冗談半分だろうと思って)
「それでは今週1週間お願いします。ところで、うんぬんかんぬん」
といったとりとめのないメールを送りあっているうちに、当然といえば当然だが、 自分から送ったメールの内容はほとんど忘れてしまっている。


二日目:
Aさんは大学に行くために、K.I.線に乗っている。彼はいつものことながら、 かなりいらいらして電車に乗っている。今日は特にやかましい。 やんちゃそうな女子高生がベラベラ喋っているのだ。それがまたいわゆる 「女子高生」のしゃべり方なので、余計に腹が立つ。内心「こいつら、 やかましいがきやなあ(注:彼は関西出身です)。 うっとうしい通勤者もろとも消えろ。」といったとたん、 やかましさが緩んだのであたりをみまわすと、ちょうど半分ぐらい人数が 減っていたのだ。彼はすっかり忘れているようだが、まさに冗談「半分」だ。


三日目:
Bさんは大の阪神フアンである。あいかわらず一軍阪神は最下位定位置に在住、 二軍は優勝、いわゆる「一軍落ち」状態である。それでも彼は、 「逆優勝バンザイ」などと、わけのわからんことを言って友だちと喋っている。 帰りの電車でとなりのおっさんが読んでいる新聞をちらっと見ると、 「阪神一軍優勝!」となっていて、まわりも阪神の優勝のことばかり喋っている。 次の日なにがおこることやら。


四日目:
世界中が、地震や異常気象にみまわれた。この結果世界中の通信や交通が麻痺した。


五日目:
人々が復旧を願った結果(?)、交通と通信手段は、半ば、復旧した。 そしてT大学は次の日に授業再開の見通しだ。


六日目: 日本のT大学での授業である。おそらく宇宙関係の授業であろう。
「今日はレポート課題を出します。授業との関連はないので自由に書いてください。 テーマは、'世界を二日で壊す'というものです。」
可能ならば宿題は当日に出すというものすごいCさんは、例によってこの宿題を 当日に提出した。授業終了後 Cさんにその内容をきいてみたら、見事に二日で 狂うようになっている。


七日目: とあ、、、、@&$�瘤膀囈鱸鈑濯聿纈裃��瘤膀囮齡纃諷蜩瘤轣蜴關 鞜、、、、 (実は、ほぼCさんの書いたとおりに世界が壊れた。詳しく言うと、 すでに世界は半ば壊れていたので(四日目、五日目参照)、二日ではなく一日で 世界が壊れた、いや壊したと言うべきか? ところで、Aさん、 私はあなたの思い通り、半分ずつ人間の思いをかなえてきました。 これで一週間たちましたが、ゴマンゾクイタダケマシタデショウカ?)


浅田 洋平

人間


1日目

NASAが人工衛星からの情報を処理している最中に、 猛スピードで地球に接近する物体を偶然発見。数日以内に 地球に衝突する恐れがあり、早急に調査がすすめられる事 になった。なお、混乱を招く恐れがあるため、調査は極秘 にすすめられた。


2日目

昨日の物体は半径10キロの巨大隕石であると判明。地 球への衝突はまず間違いない。衝突するのは恐らくアメリ カ。そうなれば地球は壊滅的な被害を受けることになる。 NASAでは、この大惨事をなんとか回避するための方法 を模索中。


3日目

結局、隕石の軌道を変えるため、地球からミサイルを撃 つ事になった。成功したとしても無数の破片が地球全土に 降り注ぐ事になるが、現段階ではこの方法しかない。もし この事が他の国に知れたら、猛反発が起こるだろう。幸い 他の国はまだこの緊急事態に気づいていない。


4日目

隕石の軌道を変えるため、ミサイルが打ち上げられた。 予定通り隕石に命中。しかし、本当の悲劇は始まったばか りだった。


5日目 

午後3時、地球全土に隕石が降り注ぐ。全世界から、悲 惨な情報が寄せられる。  アメリカが極秘にミサイルを打ち上げていたことも判明 し、各国から非難の声が巻き起こる。


6日目

全世界は依然パニック状態が続く。そんな中、壊滅的被 害を受けた**国がアメリカに核爆弾を投下。


7日目

昨日の爆弾が引き金となり、第三次世界大戦が勃発。 人間の歴史にピリオドが打たれた。 結局、人間は地球を滅ぼす運命だったのだ..............。


匿名 希望


第一日。
地球人の中には宇宙人が混じっているという 噂を耳にした。そんなことがあるわけはない。 ばかなことを言うやつがいるものだ。


第二日。
最近、同僚の織田がおかしくなった。 前々から人を見下しているようなやつだったが 同僚はおろか、上司にも偉そうな態度をとる ようになった。 会社での立場というものを考えないのだろうか。 会社をやめるつもりなのかもしれない。


第三日。
「宇宙人が地球を狙っている」 週刊紙の見出しにこんな記事があった。 いかれたやつらが増えてきたようだ。


第四日。
「宇宙人北朝鮮を侵略」 今朝の新聞にこんな記事を見つけた。 北朝鮮の発表によると、昨日北朝鮮は 宇宙人からの攻撃を受け、降伏。 宇宙人は自分達のことを「ファルディアン」 と名乗っているらしい。 北朝鮮のことだ。またろくでもないデマを 流して何を考えているのか。 こんなことをして何の得があるのだろう。

今日は織田がうれしそうに笑っていた。 気持悪い。


第五日。
どうやら北朝鮮が侵略されたのは 本当だったらしい。ユーラシア大陸、 アフリカ大陸の国々が ことごとく彼らの制圧下に置かれてしまった そうだ。 明日あたり日本も危ないかもしれない。

織田は今日会社に来なかった。


第六日。
会社で仕事をしていると、織田が 遅刻してやってきた。そして、「日本はこれ からファルディアンの支配下に入る。無駄な 抵抗はやめて我々の指示に従え。」と宣った。 外ではがしゃんがしゃんと音がする。窓から 外を見ると、電信柱に手足が生えて動いている。 どうやらやつらによって改造されていたようだ。 テレビでは都庁ビルが巨大ロボットになって 破壊のかぎりを尽くしている。この放送 は見せしめのためらしい。

どうやら、やつらは地球を占領するために 周到な準備をしてきていたようだ。 地球人の中に宇宙人がいるという噂は本当だったのだ。

日本が占領され、他の国もアメリカを残して 降伏したようだ。 アメリカはどうするのだろう。 アメリカは地球を救ってくれるのだろうか。


第7日。
アメリカは降伏よりも自決を選んだ。 ファルディアンに攻め込まれる前に地球上の あらゆる主要都市に核爆弾を打ち込み、 地球は焦土と化した。 この話をしている私ももはや地上の人間ではない。


横田 華奈子


2000年1月31日月曜日

朝6時半に起きる。パンの朝食をとり、支度をして大学へ向かう。一月もとうとう 終わりだ。テストやだなー、と思いつつ家を出る。一月のわりに暖かい。一限から 四限まで授業に出て、バイトに行く。中3と高2の子を教えて家へ帰る。夕食をと る。テレビを見て、明日のドイツ語の予習をし、お風呂に入って、寝る。


2000年2月1日火曜日

いつも通り6時半に起きる。朝食を取り、用意をして大学へ向かう。二月なのにコ ―トを着ると暑いぐらいだ。眠いながらも一限から五限まで出る。その後、九時ま でテニスをやって、友達と家へ帰る。夕食を食べ、お風呂に入り、疲れたので寝る。


2000年2月2日水曜日

今日は一限がないのに親に起こされて6時半におきる。ゆっくり朝食を取り、五限の テストのために勉強する。二限がスポーツなので早めに家を出る。コートを着ないで 大丈夫だ。少し時間があるので情報棟に寄る。五限まで受けてバイトに行く。十時半 頃家に着く。明日は一限だけなので、ゆっくりし、少し勉強をしてからお風呂に入って ねる。


2000年2月3日木曜日

今日も6時半に起きる。用意して家を出る。セーターを着なくても寒くない。 一限だけ受けて、図書館でテスト勉強をする。家に帰って、 ジョギングをしてから、夕食をとる。 テレビを見て、明日の予習をして、お風呂に入って寝る。


2000年2月4日金曜日

今日も6時半に起きる。今日は半袖で平気だ。おかしい。ニュースを見ると、火山 があちこちで噴火しているらしい。暑いなぁと思いつつ、大学へ向かう。一限から五限 まで受ける。家に着いて夕食を食べ、テレビを見て、テスト勉強をする。眠くなったの でお風呂に入って寝る。


2000年2月5日土曜日

暑くて目が覚める。なにかが起こっている。テレビを見ると、世界中の火山が噴火し、 洪水が起こったりしている。眠いので寝る。起きて昼食を食べる。少し勉強をして、 バイトに行く。家に帰り、ジョギングをする。夕食を食べ、お風呂に入って寝る。


2000年2月6日日曜日

熱くて眠れない。テレビもつかない!どうしたのだろう?あつい、あつい、あつい! 外はいつのまにか火の海だ!あついあついあついあついー......

―太陽が地球に接近。地球は消滅した。―


上原 進


月曜日

   ”ガシャン”
何かどでかい機械の主電源を入れた時のような不気味な心地の悪い音で 僕は目覚めた。いつもと変わらぬ寒い冬の朝でいつもと変わらぬ 見慣れた部屋の光景がそこにあった。音は夢の中のものだったのだろうか。 しかし頭の中はそんなことよりもこれからまた始まる単調な一週間に対する憂鬱 な気持ちでいっぱいであった。毎朝7時半に起きて、9時から始まる大学の1限に 間に合うように急いで家をでる。そして夕方近くまで授業を受け家に帰る。 これが僕の決まりきった毎日の生活である。この日も僕は大学で夕方まで授業を 受けていた。いつもならそこから友達と晩ご飯を食べに行ったりもするが、 あまりそういう気もせずまっすぐ家に帰り、そしてよほど疲れていたのであろうか しばらくするとベッドの上で寝てしまた。


火曜日

前日うたた寝してそのまま朝まで寝てしまったようだが、そんなときに よくある不快感は不思議となくかえってくだらないテレビ番組を観たり電話で 友達ととるにたらない世間話をしたりして無駄に時間を費やすよりましだったと、 一種の壮快な気分にさえなれた。朝食はさほど食べたくなかったが親が 食べた方がよいというので一応食べて家を出た。電車はいつもと同様混んでいた。 しかし乗客はもう慣れたものできちんと整列乗車するため乗るのに苦労は いらなかった。そして大学に到着し、授業を受けた。教室はいつもより 混んでいるように感じられたがそれでも空席は多かった。夕方になり家に帰ると、 寝るのには明らかに早い時間だが両親はすでに寝ていた。僕はまだ夕食を 食べていなかったが特別腹がへっていたわけでもなかったので起こさないことに して、そして僕も寝た。


水曜日

朝起きてみると両親はすでに起きていた。姉は会社に泊まったということで、 家にはいなかった。特別両親とも会話せずに僕は家を出た。別に仲が悪いわけ ではなく、話す話題があまりないし、そもそも何か話したいという気持ちが あまりしなかったのである。大学でも僕はあまり口を開かなかった。友達と軽い 挨拶を交わす程度であった。自分では気づかないがどこか体の調子でも悪い のだろうか。そういえば最近ろくに食事もとっていない。そう思って僕は カロリーメイトを一箱買って昼食として食べた。さほど満腹感は得られなかった が栄養はとれたのだろう。それで十分である。家に帰ると両親はまた寝ていた。 姉は今日も会社に泊まるらしい。


木曜日

今日は両親も会社に泊まるらしい。そんなに仕事が忙しいのだろうか。 しかしとがめる理由も無いだろうと思い、僕はそのわけについて何も 聞かなかった。大学では僕はやはり無口だったが周りの人間も明らかに無口に なっていることがわかった。ふと考えると最近の僕の生活はいつもにも増して 単調になりつつあると思った。しかしたまにはそんなこともあるだろう。 そして授業が終わった。家に帰ろうかと思ったが、良く考えてみると家に 帰っても寝るだけだしどうせ翌日また大学に来るのだから帰ってもただ非効率な だけだと気づいた。そこで僕は駒場寮に泊まることにした。寝るだけなのだから どちらも大差ないだろう。


金曜日

なにせ駒場寮は大学の構内に在るのだから、この日は授業の始まる直前まで 寝ていられた。時間を効率的に使えてとても満足だった。大学の教室はなぜか 混んでいたが皆整然と前からつめて座っているため空席を見つけるのは楽で あった。しかし僕は一番後ろの席についたりはせず、やはりつめて座った。 そうした方が気持ちがよいのである。昼食はやはりカロリーメイトで短時間の うちにすませた。夕方授業が終わって帰ろうとしたが、周りの人間は帰り支度を している者の方が少なかった。どうやら大学に泊まるつもりらしい。 確かにその方が効率的である。大学の教室なのに泊まってしまってよい のだろうかとか、翌日が土曜日であるとかいったことは一切考えずに僕は 大学に泊まった。


土曜日

僕は大学で目を覚ました。本来なら土曜日に授業はないはずだが教室はやはり 整然と前から埋まっていった。僕はなんの疑いも抱かずやはり前からつめて 座った。やがて教室は空席が無くなるまで埋まった。しかし立ち見がいない ことを考えると。どうやら席の数と全く同数の学生がいるらしい。しかし教室内 は騒がしくなかった。なぜなら誰もが無言であったから。皆も僕と同じような 生活を送っているらしい。


日曜日

この日も大学で寝た。もう何の感情も無かった。友達と遊びたいとか、 親と会いたいとか、そういう事は一切考えないようになっていた。 ただ単純に、学ぶ、食う、寝るを繰り返した。全く効率的な生活だ。


まるで何かどでかい機械の一部品になったかのような...


田中 大士


月曜日、朝。私の一週間はクロワッサンとカフェ・オ・レで幕を開ける。 新聞のページをめくると、今週の日曜日に、ヒューストンからNASAの 人工衛星が打ち上げられるという記事が目に入った。明日提出の、 人間行動基礎論の課題を考える。人間を催眠術にかけるコンピューターグラフィッ クスの研究についてだ。我ながらよいできである。


火曜日。今日はコンピューターに詳しい友人に、ハッキングのやり方を教えてもらう。 やり方は複雑だが、一度覚えてしまえば何と言うことはない。 彼の手にかかれば、国内・海外を問わず、全てのコンピューターに侵入可能だ。 そして、いまや私も彼と同等のハッキング能力がある。やはり、持つべきものは 友である。かわりに基礎論の課題を教える。彼も、私の回答の精度の高さに 驚嘆していた。


水曜日。昨日身につけた技術で、とある企業のコンピューターに 不正アクセスしてみる。結果は成功。企業秘密をばっちり盗んだ。 どうやらこの会社、明日にどえらい発見を発表するらしい。となれば、 当然、株価は急上昇するだろう。 私は全財産をはたいてその会社の株を買い占めた。


木曜日。予想通り、新聞の経済面には、例の会社の発明がでかでかと載っていた。 株価は急上昇。私は笑いが止まらなかった。基礎論のレポートを教官に提出する。 教官も、あまりのできのよさにびっくり。NASAのコンピューターに侵入する。 どうやら日曜の人工衛星、極秘のうちに核ミサイルを廃棄するという役目が あるようだ。打ち上げには、細心の注意が払われるようだ。


金曜日。相変わらず、株価は急騰中である。基礎論のレポートは非常にいいできだ。 クラスの奴に見せたら、本当に催眠術にかかってしまった。人工衛星にも 核が積み込まれたらしい。これを知っているのは日本で自分だけかと思うと、 なんだかワクワクしてくる。


土曜日。私はこれまでと同じように、新聞の経済欄を開いた。昨日までは、例の会社の 業績が絶賛されていた。しかし、今日ばかりは違った。例の発見は、 甚大な環境汚染を引き起こす物質を発生させてしまうことが明らかになったのだ。 全財産をつぎ込んだ株には、紙くず同然の値がつけられていた。私は、 しばらくの間、事態が飲み込めなかった。時間が経って、ことの重大さが 分かってくると、計り知れない絶望感に包まれた。身寄りの無い私には、 もはや生活のあては無かった。


日曜日。私は、完全に壊れてしまった。そして、ある決断をした。それは、 「自殺」である。しかし、一人で死ぬのは寂しい。どうせなら、世界中を 巻き込んでしまえ。普通なら、世界中の人間を死に至らしめるのは不可能だろう。 しかし、私には、ある方法が頭に浮かんだ。NASAのコンピューターに忍び込む。 案の定、人工衛星の打ち上げが、秒読み段階に入っていた。ここで私は、 人生最大の -- そして人生最後の -- 賭けにでた。この前の、基礎論の レポートである。あれを、NASAの発射係に見せてやった。 結果は、. . . 成功だった。 彼は、決して押してはならないボタンを、押したのだった。ロケットは轟音を 立てて空へと飛び上がり、猛スピードで、地面に激突した。その瞬間、 核が爆発した。世界は、完全に、破壊された。


鈴木 一正


第1日目(1/1)

2000年の元旦、それ以外は例年の正月となんらかわりはない。 朝、テレビをつけるとどのチャンネルも特別番組ばかりであったが、 そういうのをみる気にもなれずニュースをみた。今日の天気は全国的に晴れ、 気温はまったく平年並みで、いい初もうでびよりになるそうだ。 別になにをするわけでもなく一日を漫然とすごした。天気は全く予報の通りで 寒かった。ただ夜のニュースでは、アフリカのサハラ砂漠で雨が大量に 降ったことを大々的に報じていた。べつにたいして気にせず床に就いた。


第2日目(1/2)

今日は一日雨。砂漠ではまだあめが降っているそうだ。しかも、こんどは南極の 気温が観測史上最高の気温を記録したそうだ。そのぶん赤道付近の気温が さがっている。これは、もうただごとではないとおもいきや、テレビは 今までのような正月番組を放送していてあまり大騒ぎはしていない。 そんなもんなのかなとおもって床に就く。


第3日目(1/3)

あいからわず世界的な異常気象はつづいている。いい加減テレビその他の メディアも正月呆けからさめて、専門家だの有識者だのがテレビにでてこのじたい を解説しようとしていたが、だれもはっきりと原因をくちにできない。 結局わからないのだろう。


第4日目

きょうは、テレビでおもしろいことをいっていた。この異常気象にも かかわらず地球全体の降水量や気温の平均は、前と全くかわっていないそうだ。 結局それらの配分がめちゃくちゃになっているだけだというのだ。原因は不明。 そうこういっているうちに日本も冬だというのに30度にまできおんがあがった。


第5日目

南極、北極の氷がとけはじめている。海の水位はどんどんあがっている。 もう地球はめちゃくちゃだ。


第6日目

あいかわらず せかいじゅうがだいこんらんである。


第7日目

もう正確な情報をえるのも困難なじょうきょうだが、この一週間、一見世界の 気候はなんの法則もなくただ混乱してたわけではなく、世界中のどの地域も 気温、降水量ともにほとんどおなじであったようだ。地球全体の合計がいぜんと 変わらないことをかんがえあわせると結局のところ、この一週間の異常気象は、 今までの(変な言い方だが)降水量、太陽からのエネルギーを各地域に配分する システムが、壊れてしまったためにおこったのではないだろうか。原因は 相変わらず不明。


小林 国弘


朝起きると、真っ暗だった。今何時なんだ。 そう思いながらベッドの横においてある時計に手を伸ばした。しかし、 手に触れたのは何か硬いものだった。あたりを探ってみるが時計は見つからない。 しかたなく、とりあえず起き上がろうとするが頭が何かにあたり起き上がること ができない。おかしい、いつもの自分の部屋ではない。昨日 を思い出すが、いつもどおり自分の部屋で寝たはずだ。寝ぼけながらも、とりあえず 自分の周りがどうなっているか探ってみることにした。上を探ってみると、かたいも のに手が触れ、それは自分の真上を斜めに覆っている。寝返りをうってベッドの端ま で移動し床を手で探ってみる。細かい石のようなものが散乱している。完全に目が覚 め、ある仮説が思いついた。「地震が起きたのではないだろうか。」そう考えると納 得がいく。やれやれ。そのうち救助が来るだろう。もう一度自分の周囲を、崩れない ように探ってみる。自分の上に倒れかかってきているものは、本棚みたいだ。足のほ うはよくわからないが、足を上げると何かにぶつかる。脚は完全には伸ばすことがで きない。左側には壁があり、右側は本棚があるが、少しは手を伸ばすことができる。 這い出せるような隙間はないみたいだ。床に時計が落ちていないか探ってみると、時 計の代わりに崩れた天井らしき瓦礫の間にダンボールに入ったビールを見つけた。ど うしようもないので、ダンボールからビールを取り出し飲んだ。冷えていなかった が、のどが渇いていたのですぐに飲んでしまった。するとまた眠くなってきたので、 寝ることにした。すぐに救助が来るだろう。テレビで救助犬が瓦礫に埋もれた人を発 見するのを見たことがあったな。考えているうちに眠りについた。


目が覚めた。トイレに行きたくなったが行けるわけないので、寝返りを打ち、ベッド から床に小便をした。声を出して助けを呼んでみた。返事どころか音すらも聞こえな い。声を出したら、のどが渇いた。またビールを取り出し飲む。ビールはダンボール いっぱいにあるので、何本も飲んだ。酔いが回ってきてそのまま寝てしまった。

目が覚めた。ビールで水分は取れるから、もうしばらくはここに閉じ込められてい てもなんとかなるだろう。腹が減ったが食べるものはない。自力で脱出することは周 りが崩れてしまうかもしれず危険なので、救助を待つしかないだろう。声を出して助 けを求めてみるが、反応はない。もう一度あたりを探ってみるが最初のときと変わっ た様子はない。倒れた本棚をちょっと押してみたが、動きそうにない。人の声が聞こ えたら助けを求めようと思い、起きて待つことにした。時々ビールを飲んだ。いくら 待っても音すら聞こえない。暗闇と静寂のせいで、自分が起きているという実感が薄 れてきた。そのまま寝てしまった。

目が覚めた。またビールを飲んだ。救助はいつ来るのだろう。そのまま横になりなが ら起きていたが、ぼーっとしていた。いつのまにか寝ていた。


目が覚めた。あたりは静かなままである。横になりながら救助を待つ。ベッドの上 で寝返りを打ち、丸くなっているうちに、足があったほうに頭がきていた。上のほう には崩れた天井らしきものがあるみたいだ。瓦礫をひとつどかすと上に乗っかってい た瓦礫が崩れ、砂みたいなものがいっしょに大量に落ちてきた。崩れてきたものを ベッドから床に落とす。上のほうに光が見えた。また瓦礫をどかすと隙間は大きく なってきたので、ひたすら瓦礫をどかしつづけた。隙間は徐々に大きくなり、人が通 れそうな位の大きさになった。光のほうへ近づこうと隙間を登り、外に出た。あたり は薄暗かった。空には一面に厚い雲がかかっていて、雪らしきものが降っている。周 囲を見渡してみるが、建物がまったく無く、真っ白な地面がどこまでも永遠に続いて いるように思えた。人の姿も見えない。歩いてみる。景色は変わらず、白い台地が果 てしなく続いている。長い間歩きつづけた。どこまで歩いても変わることはなかっ た。疲れて地面に横になった。空からは白いものが降り続けている。それはぼくの上 に降り積もり、ぼくの体は覆われ、地面に埋もれていった。地面は再び、永遠に続く 真っ白に戻った。


高崎 勝之助


18日 日曜日

今日はいつもより1時間早起きして家の周りを散歩した。そのあと、たま には朝食を自分で作ろうかと思って卵と野菜を買って帰った。昼ちょっと 外出したあと、水曜日提出のレポートを書いたりしていた。早く起きたこ と以外普段通りの日曜だった。


19日 月曜日

昨日自分で朝食を作ったせいか、今日もまた自分で作る気になった。今日 は昨日より少し手をかけてみた。朝刊を読むとまた警官の不祥事が三面記 事を賑わせている。犯罪を取り締まるべき警官が犯罪を犯すとは、何かが 間違っている。2限から学校に行く。いつもきっかり時間通りに講義を始 める教官が今日は珍しく10分ほど遅れた。今日もおおむねいつも通りの一 日が過ぎていく。


20日 火曜日

朝起きてボーッとしているうちに今日もまた朝食を作ってしまった。どう やって作ったのかよく覚えていない。しかも、妙においしい。このくらい なら街の定食屋で出せるかもしれない。自分はこんなに料理がうまかった だろうか。今日は少し朝刊が届くのが遅いようだ。その朝刊には、また他 の県の警官が組織犯罪に手を貸していたという記事が載っている。これは 魔が差したなどというレベルではない。学校に行くと、どの教室でも教官 が大幅に遅れているようだ。自然休講扱いで学生が次々と出て行く教室も ある。必修の授業に見慣れない顔が数人いた。クラスの誰かの友達だろう か。家に帰って夕食を食べるが、いつもと違って朝からしっかり食べたせ いか少々胃がもたれる。お茶漬けで軽く済ませた。


21日 水曜日

また朝食を作った。今日はもうちょっとした「ディナー」と言ってもいい くらいの豪華さだ。こんな技術を身につけた覚えはない。なぜこんなこと ができたのだろう。そしてなぜこんなことをしてしまったのだろう。よく 覚えていない。作ってしまったものはしようがないので全部食べる。遅れ て届いた今日の朝刊は、東北地方で起こった警官による大量殺人を報じて いる。拳銃を街で乱射したらしい。狂っているとしか思えない。学校に行 ったのだが、今日は教官が来ない。1時間近く来ないのだが、誰も騒がな い。教室を出て行く学生も数人いるようだが、ほとんどは黙って座ってい る。不思議に思い教室に残っていると終了5分くらい前になって教官が来 た。詫びも言わず平然と講義を始め、5分だけしゃべって帰っていった。 みんな平然としている。何か事前に連絡でもあったのだろうか。しかも知 らない人間が多い。交換学生だろうか。今日はさすがに昼食を食べる気に はなれなかったので、夕方には少々腹が減っていた。今日もお茶漬けで済 ませる。


22日 木曜日

目まいがするようだ。朝気づくと目の前にたくさんの皿が並んでいる。こ れはもうフルコースと言ってもいい。なんだかもう訳がわからないが、と りあえず全部食べる。食べ終わるころにはもう昼前になっている。今朝刊 が届いたようだ。警官がストを起こしたらしい。職務の性質上許されない と思うのだが…。学校に行くと、どの授業も教官が来ない。昨日のように 最後のほうで来るのかと思ったら、結局最後まで来なかった。しかし学生 は誰も帰らない。そう言えばクラスの人間があまりいないようだ。みんな どこへ行っているのだろう。帰ってテレビをつけると、案の定全国で犯罪 が多発しているようだ。きっと警官もすぐストをやめるだろう。今日はも う何も食べる気になれない。もう寝ることにする。何かがゆらいでいる。


23日 金曜日

部屋中が皿で埋めつくされている。いったいうちのどこにこんなに食材が あったというのか。見るだけで満腹になってしまったので、とりあえず食 べられるだけ食べた。どうせ教官は来ないのだろうが、ひとまず様子を見 に学校へ行ってみる。学生が学生を教えていた。教壇に立っているのが学 生だというのを除けば全く普通の授業風景だ。普通すぎて不気味だ。平然 と授業を受けている学生達の中に知った顔は一人もいない。本当にここは 東大なのだろうか。頭が痛くなってきたので帰る。夕方朝刊が届いた。警 官が徒党を組んで暴れているらしい。いつのまにこんなに腐っていたのか。 ここも危ないかもしれない。戸締りを確認し、雨戸を閉めて寝る。


24日 土曜日

うちの隅から隅まで料理だ。気が遠くなる。食べたいだけ食べてまた寝た。 雨戸を閉めているので昼夜の感覚がよくわからない。朝刊は届かない。夜 テレビをつけると、警官が暴動を起こしたらしい。もう何も信じられない。 ここが以前と同じ世界だとはとても思えない。いつからこうなった。どこ かで何かが狂ったのだ。明日は何が起きるのだろう。


吉越 丈倫


一日目

世界中で数件の凶悪な殺人がおきた。その殺人事件は被害者の友達が犯人 であり、報道されたニュースを見た人々は、「自分も殺される可能性があるの では?」という不安に駆られ、信頼を置いていた人に猜疑心を持つ。


二日目

 今日もまた、世界のどこかで殺人事件が起きている。  会社は不況のあおりを受けて、リストラをすることになった。  社員は誰であろうと自分が首を切られないように、友人、知人関係なく蹴 落とすようになる。


三日目

 今日もまた、世界のどこかで殺人事件がおきている。  その殺人事件は、親が子を殺したり、子が親を殺すというものだった。そ れがマスコミに報道され、それを見た人々は、円満な家庭内に恐ろしさを感 じるようになる。


四日目、五日目、六日目

同様に殺人事件がおきる。


七日目

人々は自分以外の人に猜疑心を持ち、自分しか信じられなくなる。 このようにして、ひとは、人間ではなくなり、人一人として生きていくよ うになる。


山田 佳樹 


ある日のことだった。赤い流れ星がひとすじ夜の空にスッと現れ、そして消えた。 夜遅くの出来事だったため、恐らく誰も気づかなかったに違いない。


消えたように見えた流れ星だったが、その一部は燃え尽きず地上に届いていた。 突然、鋭い音とともにそれは割れた。そして、中から一粒の種子が現れたかと 思うと、みるみるうちに成長し、一輪の本当にかわいらしいピンク色の花を 咲かせたのだった。


「今日午後六時頃、新宿三丁目で、若者の集団が老人一人に襲撃され暴行される という、いわゆる若者狩りが発生しました。二人が重傷、五人が軽傷を負った という事です。犯人はバイクで逃走しており、警察では現在行方を 追っています。」(十二月七日(土))


「仏政府は昨日、「国内の美術館をすべて壊し、その跡地にマクドナルドを 建設する。」と発表しました。仏大統領は日本のことわざを引用し、 「衣食足りて礼節を知るという言葉がある。我々はさらなる食生活の向上を 目指していかねばならない。」と答弁したという事です。(十二月八日(日))


「たった今衆議院で、「日本人は皆クリスチャンネームを付けねばならない。」 という「日本人皆クリスチャンネーム法案」が賛成多数により可決されました。 有効投票数300に対し、賛成290、反対7、その他3という結果でした。 これでまた一つ国民の希望に沿った法案が通った事になり、国民はその迅速な 対応に狂喜しています。」(十二月九日(月))


「EUでは現在、男女差別に関する議論が沸騰中です。双方ともに自分達こそ 差別されるべきだと主張しており、容易に結論は出そうにありません。 男性側は、「我々は歴史上ずっと女性達を差別してきた。今こそその立場を 交代し、女性の独裁政治を行うべきだ。」と主張し、それに対し女性側は、 「同じ人間とは言っても、男女間の差はやはりある。聖書によれば、イブは アダムの肋骨から作られた。歴史が語るとおり、女性は差別される べきなのだ。」と反論しています。」(十二月十日(火))


「米国内では、「殺人、強盗、恐喝などどんな罪を犯しても、一枚100$の 免罪符を買えば、その人は無罪放免となる。」という内容の法律が昨日から 施行されました。大方の米国民はこの法律に好感を持っています。米政府は、 「ここから得る財政収入を元にして、国内の財政赤字を立て直し、さらに軍備の 増強に当てる。」としています。」(十二月十一日(水))


「あまりの人口の多さに業を煮やした中国政府は昨日未明、政府軍を国内各地に 派遣して国民の大量虐殺を開始しました。国連も、「人口増加は地球規模の 難問題であり、中国政府の決定もやむを得ないだろう。」と行動を認める声明を 発表しました。」(十二月十二日(木))


「米政府とロシア政府は今日未明、「お互いの水爆ミサイルの性能を比較検討し 競い合うため、核実験を行う。」と発表しました。核実験は今日午後四時から 行われ、双方からミサイルを発射して太平洋上で衝突させ、どちらの威力が 優れているか決定する事になっています。両国とも自国の勝利を確信しており、 目が離せません。世界各国は核ブームに沸き、どちらが勝つかが賭けの対象と なっています。なお、このミサイルは両方とも世界最高水準のものであり、 衝突後の地球は一瞬にして」(十二月十三日(金))


地上に咲いた一輪の花。かわいい顔して人を狂わす、その花言葉は混沌(カオス)


五十嵐 悠一


一日目

今日は日曜日。これからまた新たな一週間が始まるというのに どうも気分が落ち着かない。熱もあるようだ。 授業の予習もせずに、休日が終わる。


二日目

朝の電車が妙に速い。あっという間に大学についてしまう。 かと思えば、大学構内を歩くのに時間がかかってしんどい。 ものを食べるのも億劫だ。


三日目

一日の時の流れが、不規則なのに気づく。 また、最近妙にマスク姿の人が多い。僕自身も風邪気味だ。 しかるに病院は空いている。みんな病気でも平気なのか?


四日目

とある一年生が体育の授業中に死んだらしい。 みんなが驚かないのが腑に落ちない。 最近家に帰ってから次の日の朝を向かえるまでが非常に短く感じられる。 授業時間は最高に長いのに。 余りに長くて、時が逆回りに流れているように感じられる。 (何度も同じ事を繰り返しているような教官の声)


五日目

政府が「健康な人が病気になれるような」政策を発表するという。 この国全体が健康体を疎んでいるようだ。 なぜだ? 時の流れが不規則なのは相変わらずだ。 帰りの電車はなかなか進まない。 ふと気が付くと、同じところをまた走っているではないか。 これでは仕方がない。


六日目

今日はついに見てしまった。 死んだはずの僕の友人を。 最近時の流れ方が不規則だと思っていたが、これは時のうねりが 余りに大きすぎるためらしいことが分かった。 その流れが途切れたために、過去が見えてしまったのか? 大学は、病人だらけでさながら野戦病院のような有り様になってしまった。 健康な人など数えるほどにしかいないだろう。


七日目

今日は土曜日でお休みだ。 と思うのもつかの間、あっという間に次の週になってしまった。 神様は、土日がお嫌いのようで。 時のうねりは我々に冷たい。 気が付けば、いつのまにか僕は過去に連れ戻されていた。 今日は、1999年2月の22日! 何と明日は入試ではないか! また入試を受けるかと思うとうんざりするが、その前には また現在に戻れるだろう。 しかし、現在って本当は何なんだろう? (1秒先は未来で、1秒前は過去ではないのか?)


戸澤英人


 月曜日。いつものように朝起きて、学校に行った。いつもなら自分の所属している テニスサークルに行って授業はずっとさぼるのだが、もうすぐテストの嵐がやってく る。テニスをしている場合じゃない。だが、授業に出つつも教官が何を言ってるのか さっぱりわからない。どうもさぼっている間にかなり進んだらしい。こんな授業は出 ていてもしょうがないということで、途中退出してやはり自分に正直にテニスコート に直行。やっぱりテニスは楽しい。興味のわかない授業とは比べ物にならない。結局 この日はもうすぐテストだというのに授業に全然出ることなくテニスをやりつづけ、 終わったのは夜の9時。いったい僕は何をしているのだろうか・・・。この後はいつ もの僕のパターン。こたつに入ってテレビを見て、眠くなってそのままこたつで朝ま で眠りつづけてしまった。今日の勉強時間0時間。


 火曜日。早く寝てしまったというのと、こたつで寝ると眠りが浅くなるということ から、朝早く(6時半)に勝手に目が覚めた。最近こたつのおかげで早寝早起きだ。 そういうわけで、朝御飯を食べて、テニスの朝練に向かう。いつも8時から朝練だ。 で、寒い中朝練をする。そして9時。1時間目が始まる時間だ。そろそろ形だけでも 勉強しようとしなければならないと思う。だから、名残惜しくコートを去り、1時間 目の授業に向かう。1時間目は計算機プログラミングの授業だ。授業ではJavaを 勉強しているのだが、さっぱりわからない。クラス? いったい何のことだか・・・。 結局何もわからないまま1時間目が終了。もうちょっと初心者にもわかりやすい授業 をしてもらいたいものだ、と怒りつつ、2時間目は授業がないのでちょっと早めに昼 食を食べに学食へ。食べながら3、5時間目はいつも授業に出ていないやつだ、4時 間目は休みだ、と気づき、昼食の後は情報棟にメールを読みに行く。ついでに友達の ホームページなんかを見たりして暇な時間をつぶす(図書館に勉強しに行けばいいの に・・・)。その後、テニスコートに友達がいないか見に行ってみる。いた!やっぱ りいた!僕と同じような友達が。こうして今日も昼間からテニスをすることに。結局 この日も9時までテニス。その後は・・・いつもと同じくこたつでいつのまにか就寝。 明日は英語のテストがあるというのに・・・。 


 水曜日。今日も火曜日と同じく8時から朝練・・・といきたいところだが、今日は 英語のテスト。全く勉強していない。さすがにやばいと思い、朝から訳本を読みふ ける。行かなくてはならないぎりぎりの時間になんとか読み終わり、学校へ向かう。 しかし、肝心のレポートを書くのを忘れてしまった。テスト前に急いで書くが、間に 合わない。そしてテストに突入。訳本を読んだおかげか、なんとか半分はわかりそう な予感。テストが終了し、先のレポートを急いで書くがやっぱり間に合わない。頭が おかしくなるくらい、急いだのだが・・・。仕方なく、途中で不完全なまま出してし まった。これでいいのだろうか・・・。2時間目はドイツ語。必修で出席をとるので これは出なくてはならない。しかし、授業内容はさっぱりわからなく、先生がなんの ことを説明しているのかもわからない。これは文法をやり直さなくては・・・と思い つつ、眠たくなって寝てしまう。起きてみるとちょうど授業は終了。3時間目は休み。 しかし、5時間目の宇宙科学IIのレポート作成のため、昼食も食べずに情報棟へ向か う。4時間目が始まるまでなんとかがんばり、終わらせることができた。しかし、そ の内容の如何は僕の知るところではない。4時間目はこれまた必修の量子化学だ。さ すがにこれも出なくてはならない。僕はこの科目のシケ対だというのにまったく理解 していない。最初のころはちょっとわかることもあったが、今は全く・・・。やはり 先生の言っていることがわからなく、例のとおり、夢の中へ・・・。そして4時間目 も終わり、次は5時間目の宇宙科学IIだ。1学期に宇宙科学Iも取っていたのだが、 それはさっぱりわからなかった。難しすぎたのだ。今回はということで、さらに難 しくなるのでは・・・と危惧しつつとった科目だったが、今回は意外にもわかりやす かった。最初の古典の話のところではどうなることかと思ったが、最近はなかなかわ かりやすく、おもしろかった。今日はその宇宙科学IIのテストだ。持ち込みが可とい うことなので、なんとか調べまくり、無事(?)に終えることができた。まあ、可も なく不可もなく、と言ったところか。その後、学食に夕食を食べに行き、すぐにコー トに向かい、テニスをする。今日のテストの憂さ晴らしを思う存分する。やっぱりこ の日も9時までテニス。まあ、今日は2つもテストがあったしいいだろう、と自分を 甘やかす。たしかに2つテストは終わったが、来週もっと悲惨なテスト達が残ってい るというのにも気づかずに・・・。どうやら僕の眼中にはテニスしかないようだ。こ の日もやっぱりそのまま就寝・・・。


 木曜日。この日はいつもなら英語、実験など大変な授業が多いのだが、もう英語 も実験も終わってしまった。つまり今日の授業はないのだ。こんな日は朝から 図書館にこもって1日中勉強・・・といきたいところだが、残念ながら僕には そんな思考回路が存在していなかった。やっぱりこの日も一日中テニスに 打ち込むのであった。明らかに現実逃避であろう。


 金曜日。今日もいつものとおり朝練に。1時間目は必修の物理だが、出てもさっぱ りわからないので、今ではあきらめて朝練を続けている。だからこの日は2時間目の 体育にコートを追い出されるまでテニス。2時間目は授業があるのだが、大して出て も意味がないので、出ずに友達と学食へ。そこで昼休みが終わるまで談話。3時間目 はドイツ語の会話があるのだが、なんとなく出る気が起こらないので出ないで友達と ともに、テニスコートが空いていないかを見に行く。ハードコートは体育で使ってい が、クレーコートは空いていたので友達と喜んでテニスをする。コートが結構空いて いたので、試合なんかもしてみた。4時間目は体育の先生に許しをもらい、授業に混 ぜてもらった。話のわかるいい先生だ。で、4時間目も続けてテニスをして、5時間 目は出席を取る授業があったので、テニスをやめて授業に出た。もう疲れた・・・と いうのもあるのだが。5時間目の授業はなにやら哲学的な授業で、言葉についていろ いろ先生が語っているのだが、いまいち複雑でよくわからない。これでも理系ながら 文系科目は理系科目より得意だというのに・・・。授業が終わると、学食へ夕食を食 べに行き、すぐに家に帰った。やはり昼間のテニスがこたえたのか、今日もすぐに就 寝。


 土曜日。休みだというのにこの日もいつもと同じくテニスへ。昼までテニスをして、 昼食を食べて、情報棟へ直行。ホームページを見たり、メールを書いてたりしていた ら、いつのまにか5時になっていた。いったい勉強もせずに何をしているのか・・・。 さすがに家に帰り、買い物に行き、夕食を食べる。今日はスパゲッティだ。3、4人 分はいつも一挙に食べてしまう。お腹いっぱいになれば睡眠・・・。で、夜の11時 ごろに友達からの電話で目が覚める。そしてインターネットに接続して友達とチャッ ト。まったく平和というかなんというか・・・。自分の落ち着き具合に改めて感心 する。夜2時。さすがにやばいと思ったのか、月曜日のテストの科目の教科書をこた つのテーブルの上に広げる。改めて見てみると膨大な量だ。いったい僕は今まで何を していたのだろうか・・・と悩む。そしてついに勉強開始。追い詰められないと動か ないのは僕の困った性格であり、そのために今まで苦労させられてきた。そしてどう やら今回も・・・。勉強開始から1時間。なんだか疲れてきた。伸びをするため、横 なってみる。やっぱり気持ちいい。そのまま1、2分ほど横になって・・・。


 日曜日。目が覚めるともう外は明るい。しかもかなり。時計を見れば10時。結局 横になって寝てしまったのだ。横になったことを後悔しつつ、朝ご飯を用意し、食べ る。なんだかぼーっとしている。ふと我に返り、このままではいけないことを再確認 し、図書館に行って勉強することを決意。早速図書館に行き、2Fで勉強することに した。だが、コンピュータのことも気になり、ちょっとだけだと自分に言い聞かせ、 メール、ホームページをいつものように見てみる。1時間ほど見た後、2Fに戻り、 勉強に専念。勉強、居眠り、勉強、居眠り・・・を繰り返し、閉館の6時になった。 家に帰り、買い物に行き、夕食を食べる。もう時間がないのでこの日はできたものを 買って食べた。そして勉強・・・。2時間ほどするとやはり眠たくなってきた。寝て はいけないと思い、部屋を動き回る。またこたつに入って勉強する。そして11時。 気分転換のために、勉強とは関係のない本を本棚から取りだし、読んでみる。そ れでもやっぱり眠たくなってきた。横になってはいけないいけない・・・と思いなが らも、ちょっとだけなら大丈夫だ、片方で思い、横になった。やっぱり横になるのは 快感だ。そして・・・。


 ついに月曜日の朝になってしまった。結局勉強はほとんど進んでいない。今日から 山のような大事なテストが続くというのに・・・。僕の目の前は真っ暗になった。僕 の精神はどこか別の世界へ飛んでいったようだった。このようにして僕の描いていた ビジョンは音を立てて崩れ去っていったのだった・・・。


丸山 泰史


月曜日

目を覚ますと時計の針は12時15分を指していた。 慌ててベッドから飛び起きる。 その数秒後に外の景色を見てようやく事態を把握した。 なんのことはない、掛け時計を6時間ずらしているだけだ。 大学入学の頃から、別の言葉で言えば一人暮しを始めた頃から これが習慣になっている。 とくに理由なんてないし、バカらしいと言えばバカらしい。 今日はたいした出来事もなく、普通に大学に通い、 普通にサークルに出て、普通に帰ってきた。


火曜日

今日も例の日課から始まった。 慌てておきたのは12時。(実際には6時なのだが。) 今日も寒そうだ。 別段変わったことのない一日だった。 まあ、電車のダイヤが乱れていたりはしたが。


水曜日

いつもと同じ、慌てておきる朝。 今日も12時に起きた。外は昨日より明るい気がする。 これから段々日が長くなっていくのだと感じ、すこしうれしくなった。 今日もなんてことはない1日。 でもひとつミスを犯してしまった。 家庭教師に遅れていってしまったのだ。 いつもなら5限に宇宙科学の授業を受け、そのまま向かえば間に合うのに、 今日はなぜか遅刻。 いまいち腑に落ちないが、家庭教師先でもあまり気にしていなかったので よしとしよう。


木曜日

いつものように12時に飛び起きる。 だが、今日はいつもと違っていた。 冬にしては外が異様に明るいのだ。 時計が止まったのかと思い、時報で確認するがそんな様子もない。 秒針までぴったり一致していた。 首をかしげながらテレビをつけると、おかしな様子が目に入ってきた。 朝だというのにサザエさんをやっている。 ラジオでは大相撲の中継が流れていた。 頭が痛くなり、そのまま布団にもぐりこむ。 風邪でも引いたのだろうか。 今日は実験の日だがそんなことはどうでもよかった。 そのまま深い眠りに落ちた。


金曜日

起きたのは12時。 外は西日が差していた。 必死に考えるがよくわからない。 一体どうなっているのだろう。 だが、よく考えれば簡単なことだった。 半日寝過ごしてしまったのだ。 大学の授業があるので全然大丈夫ではないが、 それでも胸のつかえがとれた気がした。 食べ物がなくなったので近くのコンビニへ買いに行く。 その途中で愕然とした。 PHSの表示は10時30分…さっきより前に戻っている。 時報にかけてみたがつながらない。 気づくと街じゅうが異様な雰囲気だった。 ひとびとは意味のわからない動きをし、車が同じところを行ったり来たりしている。

もういやになって家へ帰り、布団をかぶって寝てしまった。


土曜日

12時に起きてしまった。 もうイヤだ。またわけがわからないことばかりに違いない。 それでも冷静に状況を把握しようと努める。 落ち着こうとコーヒーを飲み、考えてみた。 考えられる結論は…

「時間の方向性」の欠如だった。

そう考えればすべて納得がいく。 この世界で今、確かな方向性を持って流れている時間は、 僕と部屋の掛け時計だけなのだろう。 掛け時計だけは何があってもしっかり1秒1秒を刻んでいた。 そう気づいた瞬間、周りのものが不可解な動きを示し始めた。 散らかっていた部屋がかってに片付き、エアコンは空気を吸い込んでいる。 すべてが逆向きかといえばそうでもない。 いろいろなものが時間の正しい向きと間違った向きを繰り返している。 きっと外も… 下手をすれば核爆弾なんかが飛んでくるかもしれない。 だが、そうなったとしても時間が逆行すれば何もなかったことになる。 考えてみれば、僕の時間の方向性も実は正しいと思っているだけなのかもしれない。 他の時間の方向性と一致していると言う保証はどこにもない。 時間の方向性に絶対性はないのか。 「一晩中」僕は考えつづけた。


日曜日

…もう、この日曜日と言う定義も役に立たないのだろう。 「時間」が完全な混沌となった今、生きる気力を失った僕は 同じ時間を共有する掛け時計と共に…  


匿名 希望


[2月9日・水曜日]

俺の同級生、祐介がこんなことを言いだした。

「一週間で世界を壊せるとしたらどうしたらいいんだろうな」

…いつものことだ。 俺は知ってる。祐介は授業中にいろんな想像をして楽しんでるんだ。 宇宙人が地球に攻めてきてそれを祐介と祐介の友達で救う、というような想像、 祐介の好きな人しか世界からいなくなってしまうとどうなるか、 というような想像。そして、今こいつが言ったような想像。 こいつの妄想癖も困ったもんだよ。

「そんなもの、アメリカ大統領を殺して核のボタン押したらおしまいじゃん」

誰かがこんな事を言い出した。…まったく…。相手にするなよ。 だが、祐介が相手にする前にみんなを止めておかないと、俺が何か言われるから 止めることにした。俺が祐介の友達だと思われているだけに、 俺が話しに加わっていなくても妖しい奴らと思われてクラスの奴らに白い目で 見られてしまうことすらあるのだ。仕方なく…

「ダメだな。つまらん。『一週間』もかける必要なんてないじゃないか」

ツッコミをいれてやる。お~、お~、静かになった。 お題を出した祐介までもが、

「1日で終わるよ、それだったら」

と同調する。そうだ、そうだ。それで終われ。そして俺は平和な昼休みを……

「やっぱりスコップとロープと軍手を使うとか、そういう変わった設定じゃない と面白くないんじゃないかな」 「そうそう!例えば、軍手を手にはめてスコップで地面を掘っていたら、 謎の竪穴があったから紐をたらしてみたら、実はそこが遺跡だったりして、 世にも恐ろしい物体を吊り上げてしまう、とか」

…だから、俺は平和な昼休みを送りたいんだって!

「……つまらん。どっかの映画でありそうだ。そんなくらいなら」

すかさずとツッコミをいれてやる。お~、お~、今度も静かになったぞ。 よし、今度こそ、平凡でささやかな昼休みを…

「夢オチだったらいくらでもできるのにな」

…おいおい。ならば…

「…どっかのゲームじゃねーか。それなら。言っておくが、ラストに、 『だったらボクの最後の願いは…』…とかいって世界が救われる、っていうのは 当然却下だからな」 「いや、夢の中なら奇跡も思いのままだ」 「だーっ、『起きないから、奇跡って言うんですよ』という名言を知らんのか!」 「…どこの名言なんだよ」

むかっ!

「そんな事言う人、嫌いです」

思わず、とあるゲームの口調を真似て言ってしまう。いかんいかん、乗ってしまった。

「お前、そうやってすぐにゲームのネタを出すから、クラスのやつに濃い奴だと 思われるんだよ」

側にいた北川にちゃちゃをいれられる。

「放っとけ!」

やかましいわい。まったく。

「だったらさぁ…」

いいかげんにしろ。

「だったらゲームオチ」 「やめい!夢オチと変わらん!」 「それならば主人公が大学生になったT●Heart!当然、委員長は東大 入ってシケ長やってんの!あぁ、いいんちょ萌え~!大阪出身のシケ長… もう関西弁で仕切って、やる気満々って感じだ~…」

……それをいうなら神戸出身です。だいたい、関西弁のシケ長なら 理科2・3類4組にだって……

「な、なんだったんだ、今のつぶやき声みたいなやつ…」

俺はどこぞともなく、陰謀的に聞こえてきた声に驚く。だが、他の奴らは 相変わらず自分の世界に浸っている。

「あ、綾香さ~ん!萌え萌え~!」 「いや、僕は志保ちゃんがいいと思うな…」 「…だから夢オチはやめれ、つったろーが!しかもお前ら、妖しいゲームの世界 に入るな~。ただの変な人だぞ~っ!」

…全く困った奴らだ。…こんな奴と友達としての付き合いがあるから勘違い されるんだな。だったら、他の奴と仲良くしてた方がいいかもな。

「…浩平君は琴音ちゃんなんだよね」 「当然(きっぱり)」

あ。思わず本音、魂の叫びが出てしま…い、いや、思わずネタが口をついて 出たんだ!そ、そう、本音じゃない…。きっとだ。いや、絶対だ!た、多分。 今、思わずオタクな会話を交わしそうになったけど…。 …結局、こうやって本来の議題を忘れた妖しいゲームのネタ話大会は昼休みが 終わるまで終わることはなかった。

…あうぅぅぅ~、俺の平凡でささやかな高校生活を返せ~っ!

「お前が悪い」 「放っとけ!」 「だいたいその『あうぅぅぅ~』ってのはT●Heartのマルチの…」 「…違う。『こ○パ』の千紗だ」

…また周りの奴から白い目でみられてる…。 自分で墓穴を掘り、なおかつそれを「策略だ謀略だ」と叫びつつ自分で その穴にはまるような、まるでそんな感覚だ…。

でも、これがいつもいつも変わらない日常。こういう日がいつまでも いつまでも、続くものだと思っていた…。


[2月10日・木曜日]

カシャァッ!

耳障りな音と共に視界が白くなる。白いというより何か痛いような感じがする。 …とにかくまぶしい。

声がする。「ほら~、さっさと起きなさい!もう朝だよっ!」

…そうか、朝だったんだ。だったらまぶしいよな…。………。……………。眠い。 自慢じゃないが、俺は朝には弱い。起こされなければ目が醒めたら昼なんて事は 当然だ。一回、起きたら寝た日の次の朝の、さらに翌日の午後7時だった、 なんてこともある。当然、すぐに起きることなんて絶対にできるわけがない。 起きるわけにはいかないんだ。

…そう。こうやって考えて寝ているのが何よりの快感なんだ。 本来起きなくてはいけないのだけれど、やっぱり人間の欲望には正直に、 寝る!この快感こそ、生きていてもっとも眠りを意識できる素晴らしい時間では ないか。

…。 ………。 ぐーっ。

……。 ………。

ガバァッ! 今度は体が軽くなった。そして、なんかすーすーする。ていうより、寒い。 マジで寒い。うーっ、このままじゃ凍死する。南極にいる越冬隊員の気分だ。 …というか…布団だ。布団がない。布団がふっとんだ…。…。……。つまらん。

また声がした。

「ほらぁ~!つまらないだじゃれ言ってないで起きなさいよ~!」

…。くそぉ、負けるわけにはいかんっ!…でも、寒い。寒いが起きるわけには いかない。体を丸くして逃げる体温を守ろうとする。…まだ眠れる。眠い。 そうだ、眠いんだ。眠い時は人間寝ないと死んじゃうんだぞ!……たぶん…。

…。 ……。 ………。 ぐーっ。

バフッ! …今度はなんか視界が突然暗くなった。白から黒になったというか…。 ……それよりなんか息苦しい…。暑い…。

「ぐ、ぐぉ。…。……。ぶわぁぁぁっ」

俺はやっとのことで、上から押し付けられていた布団をはねのけ、飛び起きる。

「ふぅ~、やっと起きたね」 「ふぅ、ふぅ」

しばらく、何も考えることもできずに、息を整えることしかできなかった。 …暗くて暑くて息苦しい空間からの開放感に浸る。

しばらくして、やっと落ち着いてきた。そして、目の前に制服を着て立っている 女の子がいることにも気がついた。

「どわっ!な、なんで、見も知らぬよーな美少女が俺を朝一番に俺を起こしに 来るんだっ!」

俺はびっくりして、部屋の壁をよじ登ろうとする。

「…なに言ってるのよ。浩平」

見知らぬ美少女はあきれた顔で開き放たれた窓のそばに行き、

「まだ目が醒めないのなら開けちゃうよ」

なんていう。うっ。こ、これは嫌かもしれん。

「ま、まぁ、それはなんていうか、冗談だが。人間はギャグを1日3度は 言わなくてはいけないという法律があるんだぞ」

その美少女は無視して窓を開け放ち、そしてベランダから布団を干した。 そして…

「どこの法律だよ…」 「大阪(断言)」 「…」 「……」 「………」 「…………」 「でも浩平には本当にいいお嫁さんを見つけてもらわないと心配だよ」 「……だから大阪の法律に……」 「そうだね、気の強い子のほうがいいんじゃないかな。強引に引っ張って くれるような」 「……日本から大阪が独立してそんな法律が決まったんだよ……」 「ほら、さっさと用意しないと遅刻するよ」

俺を追い出すような感じで言い放つ。

「……うぅ、む、無視しないで……」

「なんつーか、現実的だな、お前って」 「なによ、それ」 「いや、べつに、なんとなく」

俺は制服と鞄を片手に部屋を後にした。 台所に行ってはみたが誰もいない。秋子さんはもう会社に行ったらしい。 そうか、秋子さんが玄関にいた俺のことを瑞佳に頼んだんだろう。

「まだ寝てるみたいだから、起こしてあげて」、と。自分で起こせばいいような ものだが、なんていうか、面倒くさがりなんだ。あの人は。めったに俺の 部屋には来ない。俺の部屋に他の人が住みついていたって、一向に気付きは しないだろう。どうやら仕事が忙しいらしいんだけど…。 秋子さんにとって、家は眠るための場所、というだけの意味しか持たないようだ。 家にプライベートというものはどうやら感じていないらしい。

…それはそれで俺は気楽だからいいんだけど。ちゃんと食事の用意はして くれてるしっ。そして、今日の朝食を見てみると…

「おぉっ!今日は納豆ご飯!日本人なら朝は納豆。これは人としての義務だ!」 「なに馬鹿なこと言ってるのよ!もう時間がないよ」 「な、なぬぅ!私の命の源、納豆を抜きで生きろというのか!死ねというのか!」

…そんな事を言いつつ、納豆だけは口の中に放りこんだ。んー、満足満足。 このねばねばがいいんだよ。しかも納豆は小粒に限る。ひきわり納豆はなんか 食感が悪いし、粒が大きすぎると口の中で噛み潰す感覚が強すぎる。 小粒が一番いいんだ。

「もうっ!本当に時間がないんだよっ!」 「待て!あと大きいものを出して顔洗って歯を磨いたら行く!」 「…それだと食後3分以内に歯を磨けるのかなぁ…」

瑞佳のつまらんツッコミはとりあえず無視。急いで大をして顔を洗いながら歯を磨く。 …歯ブラシが邪魔だ。

「もう、本当に走らないと間に合わないよ!」 「…し、しまったぁっ!朝シャンがまだだっ!」 「そんなもの、したことないでしょっ」 「一度くらいはやってみてもいいと思うんだよ」 「休みの日にしたらいいじゃないの」 「別に待ってなくてもいいぞ。先に行ってろよ」 「…本当にしたいの?それなら手伝うけど」 「いや、さらさらそんなつもりはないが」 「…………はぁ」

…いや、ため息疲れても。 俺も中途半端な冗談で遅刻するのもバカらしくなってきた。

「いくか」 「もう、遅いよ。ほら、急いで」 「時間は?」 「はい」

そう言って、俺に時間を見せてくれる。…8時15分。確かに走らないとやばいな。

「だからそう言ってるでしょっ!」

門を飛び出し、そして俺たちは走り出す。速度を緩めることなく、家の前の坂道 を駆け下りる。そして、速度を緩めずにそのまま走りつづける。…この時間に 交差点を通過できたからあとは歩いても間に合うだろう。後ろを見ると瑞佳も ついてきている。

しかしこういう朝の光景にも慣れてきてしまっているが、よくよく考えれば 不思議なものだ。なんていうか、なにか、なにかのきっかけがあって、 たくさんの選択肢-いや、むしろ可能性かも知れない-の中から、 今に至っている、という感覚がする。だからどこかで違っていたら、 ここには至っていなかったのだろう。…いや、至ったほうがむしろ偶然だろうな。 ただ、なんとかしていればどこかには至るのだから、そう考えると大したこと ではないのかもしれないが、でも、じっくり考えてみると不思議だ。

7歳の時に身寄りをなくし、行く先がなくて困っていたところを、叔母の 秋子さんが預かってくれることになった。当然、友達なんていない。 知ってる人もいない。街行く人が話す言葉さえ知らない。俺は幼くて、 しかもそこは異国だったんだ。そこに現れたのがこいつだった。

コンッ!

いつものようになにもすることがなくて、部屋の中でもうこれで37回目になる 本を読んでいると、窓ガラスが音を立てた。

コンッ…!

なんだ……? 二階だっていうのに…石を投げてぶつけてるとでもいうのだろうか?

コンッ…!

また鳴った。

いたずらだろうか…。放っておいたらいつかやむんだろうな。

コンッ!

ところがいくら待とうが一向にやむ様子がない。 なんて根気のある奴なんだ。 顔だけでも見てやろうと俺は窓を開け放った。すると、

ゴンッ!

バタッ!

何が起こったかわからなかったが、どうやら俺の頭に石が当たってしまった らしい。誰だ、誰がこんなことを!

「うわ、あたっちゃったぁ。ごめんね。だいじょうぶ?」

下からそんな声が聞こえてくる。

「だれだ、こんなことをするやつは!なにすんだよ!」

まだズキズキ痛む頭を押さえ、そう怒鳴りつける。

「ごめん。あのさ、あてるつもりはなかったんだよ」

ほぼ真下、塀の外に立つ女の子がそう弁解する。 そういえば…同じクラスにこんな女の子がいたっけな。

「すごくいたかったんだからな!」 「ごめんなさい!あやまるからっ!」 「ごめんでゆるしたらけいさついらない!」 「ただよんでただけなんだよ。いっしょにあそぼう、っていいたかった だけなんだよ」 「うそつけっ!」 「うそじゃないもんっ!」 「あしたからいじめてやるから、かくごしとけよっ!」 「うわーん、うそじゃいのにぃぃ」

それが、後ろを駆けてくる瑞佳だった。あの日以来、俺は瑞佳をいじめつづけた。 靴を隠すんじゃなくて靴が増えてる(他人の靴を下駄箱に入れてやるんだ)とか。 必殺!牛乳机とか!牛乳をこぼして真っ白な机にしてやるんだ。 あとで机が香ばしい匂いを放つようになるというオマケつきだ。

…今思えば相当悪質なことをしていた気もするが… よくもまぁ、今の関係があるものだ。 だからこそ、今に至る自分を感慨深く思うのかもしれない。

「浩平!前!」

なんてことを思うのだ。 …って、俺が「浩平!前!」なんて事を思うのか?

前を振り向く間もなく…

ズドーーーーーーーーーーーーーーン!

衝突してしまった…。 なんか硬い…。…これ…校門じゃん。 …これが女の子だったら良かったのにな…。転校生だとか、ロングヘアで おとなしいどこぞのお嬢様とか。それだったら……

「なにやってるの、浩平!」

いかんいかん。最近、歳を取ったせいか思いもしないことを考えてしまう。 これは神の声… そうか、天声かな。新興宗教で足裏診断でもしようか。

「はぁ…どうやら間に合ったみたいだね…」

俺が靴を履き替える間に瑞佳が息をついて言う。 チャイムが鳴り響く中、教室にダッシュ。何とか担任よりは先に到着することが できた。教室の中は騒然としていた。もうすぐホームルームがはじまるだけに、 瑞佳とはすぐに別れ、俺は窓側の席につく。椅子に座ろうとした瞬間に担任が 来た。ったく、つまらんなぁ。と、思いきや、担任が今日の伝達事項を黒板に 書き出したとたん、教室が色めき立った。

「今日は昨日言ってたとおり午前授業だ。4時間目までしかないぞ。んあー、 そういえばこれが一時間目だからあと3時間しか授業がないんだ。 お前ら幸せだなー。先生に感謝するようにな」

…そういえばそんなこといってた気もする。教師ってのは俺たちの授業料を もらって生活してる人間なんだ、たまには生徒にも還元大サービスしないと ばちがあたるからな。当然だ。

「じゃ、ホームルームは終わり」

おいおい、ほとんどなにもしてないが…。うちの担任はおおらかないい 奴なんだ。たぶんな。こんなときだけはそうしておこう。

「浩平、今朝は凄かったね。校門に抱き着いている人なんて始めて見たよ」 「…俺は『ナダ中学』って学校の校門をなでなでしてる小学生集団を何度と なくテレビで見たような…。『驚異!驚愕!お受験をしながら塾で育つと こうなる!?変態小学生の奇行の数々!』ってテレビが最近はやってるだろ?」 「そうそう、そうだよね…って違うよっ!……もう…。校門じゃなくて女の子 だったら良かったのにね。そうすれば、案外運命の出会いで、そのまま浩平と…」 「……お前、他の女と俺をくっつけたがるよなぁ…」 「何かと浩平の面倒を見てくれる人がいいよね。そうじゃないと心配だもん」

そう言い残して再び去って行く瑞佳。 まったくあいつは…。俺の母親気取りだな…。まぁ、実際近いもんがあるけど。

そして、つまらない授業が再び始まる。 眠たい。授業というのは、眠気を誘うために存在しているようなものだ。 教科書というのはいつもいつも同じような内容が続いている一種の催眠状態に 陥らせる物体なんだ。そして、教師が

「……主語がない、しゅっごーい、thatは主格の関係代名詞!反応が ないねぇ。飯能、所沢、秩父、じゃぁありませんよ~。それじゃ解答 いきましょうか。怪盗ルパーン、じゃぁありませんよ」

といってる声は日本語訳すると『あなたは眠くなる、あなたは眠くなる~』 っていってるんだ。俺が眠くならない授業なんてあまりない。これだけ寒い ギャグを連発している授業でさえ、俺の前では赤子の手をひねるような感じだ。

以前、俺の前の席に座っている七瀬の髪の毛を『眠気防止センサー』に 利用したこともあった。髪の毛を手に巻きつけておいて、もし俺が寝たら 七瀬が気がついて俺を起こすだろう。そう思ってやってみたが、結局 眠ってしまい、あとで七瀬に金属バットで殴られて全治3ヶ月の重症を負った。

「してないわよ、そんなこと!」

いーや、お前ならしそうだ。 ……寝るか。 ………。 …ぐぅ。

…次に目が醒めたら、昼だった。 そうか、だったらまだあと3時間は眠れるな。おやすみ。

「浩平、今日、昼までってわかってる?もう私も部活に行くよ」

…そういえば、そんなことを担任が言っていた気もする。

「じゃ、部活出てくるわ。帰宅部」 「それ、部活じゃない…。私はちゃんとした部活だよっ!」 「それじゃな」

教室を出て、靴を履き替える。校門を出るときに運動系部活の様子が垣間見える。 まったく、ごくろうさまなこった。俺にはあんな学校で体を痛めつけ、さらに それから家に帰って勉強するなんてやつの気が知れない。俺にはのんびり だらだら過ごすのが性にあっている。だから、帰宅部なんだ。

結局、家に帰ってテレビを見て夕食はいつも通りコンビニ弁当プラスカップ ラーメンですごすという、非常に健全な夕方を送った。秋子さんは結局日付が 変わるまでに帰ってくることはなかった。

床につこうとして考える。…今朝はあんな起こされ方をしたが、なんかそれも 癪だから、なんかやっておこう。

20分間の思考の結果、机の下で寝ることに決定。寝にくいが、今朝みたいに 起こされても布団の下に俺はいないのだ。驚く瑞佳が目に浮かぶ。 これは楽しみだ。……。 ………。 …………。


[2月11日・金曜日・祝日]

カシャァッ!

「ほら~っ!起きなさいよ~!」

…。

「あれ……?」

……。

「あ~っ、毛布が丸めて人の形にしてある~っ!」

ぐーっ。

「浩平、どこ~っ!?」

ぐーっ。

「鞄はあるし…寝ぼけて学校に言ったって事もなさそうだねぇ…」

ぐーっ。

「浩平~っ!」

ぐーっ。

「あーん、どこどこぉ~?」

がちゃ。

がばがば。

ごそっ。

「あーっ!いたぁーっ!」

ずるずるずるずる。

ん?なんか背中が床に擦れて痛い。

「ほら~、どんな寝相だったら机の下に潜っちゃうのよ~っ!」 「いや、びっくりするかな、と思って」 「あー、びっくりした! これでいい?」 「ま、いいけど…ところで、今日はいつもと趣向が違うな。そんな服装で 学校行くのか?」 「もう、何寝ぼけてるんだよっ!今日は祝日だから学校は休みだよ」

そういえば。今日って、何の日だったか忘れたけど休日らしい。 きょとんとしていると、

「今日はケンコク記念日だから休みなんだよ」

瑞佳が言う。

「ケンコク…圏谷…な、なんて氷河地形なんだ!」

最近地学で習ったばかりの言葉を使ってみる。そういえば地理でも習ったけど。

「建国!『国を建てる』っていう建国だよっ!建国記念日は祝日なのっ!」 「だったら、なんで瑞佳が俺の家に起こしに来るんだ?」 「浩平、明後日の模擬試験のための勉強があるから教えに来い、なんて いってたじゃないの」

そういえば、そんなこと言ってた気もする。仕方ないなぁ。

「じゃ、瑞佳。俺が着替えるからお前は歯を磨いていてくれ」 「誰の?」 「俺の」 「どうしてそんなことまでしてあげなくちゃいけないのよ」 「いや、やってくれるかなぁ、って思って…」 「はぁ……。…やっぱり面倒見のいい人が必要だよ。浩平には」 「またか…?」 「それより、早く勉強しようよ」 「ん、ああ…。………俺の着替えは無視なんだな」

結局、俺は着替えずに勉強を始めることにした。明日の試験は英語、数学、 国語と理科1科目、社会1科目。理科を何で受けるかはまだ考えていない。 ましてや社会なんて全然決めてない。ギャグで地学を受けてみたら県内1位 だった、ってこともありうるし、俺としては地学を選ぶのも魅力を感じる。 だが、物理化学選択だしな。

「でも、本当に私を驚かせようとしてあんなことしてたの?」

勉強中、瑞佳に突然そんな事を言われた。

「あぁ、それ以外になんであんなところで寝る必要があるっていうんだ」 「はぁっ…。普段、十分浩平には驚かされているから、あんなことわざわざ しなくてもいいよ。だいたい、体とか痛かったんじゃないの?」 「いや、別に。俺はどこでも寝られる性格だからな」 「その器用さを別のところに使えばいいのに…」 「だったらベランダの手すりの上で寝ようか」 「わーっ、それは危ないよ。やめようよ」 「さすがにそれはしない。俺もまだ死にたくはないからな」 「もう。そういうことに気を回すくらいならもっと別の事に気を使えばいいのに」 「例えば?」 「例えば、ほら、いつも起こしてあげているからっ、日頃の感謝を込めてっ、 とかっ…」 「そうだな、感謝を込めて…プレゼントでもやろうか?」 「あっ、わかってるねぇ」 「そうだなぁ、瑞佳には毎朝お世話になっているから…」 「うんっ」 「入浴剤でも買ってやるか」 「そ、そんなの嬉しくないよ~」 「そうか?いつか使うし、疲れが取れて元気になれるぞ」 「そりゃそうだけどっ、でも何か形に残るものの方がいいなぁ」 「だったら猫をやろう」 「うんうん」 「ネコの剥製をやろう。しかも手作りだ」 「はふんっ、残酷過ぎるよぉ」 「だったら水晶細工のネコだ」 「あっ、それはかわいいかも」 「原材料取って来てやるから瑞佳が自分で細工するんだぞ」 「そんなぁ、できないよ~」 「だったら、プレゼントはなしだな」 「うぇぇぇ~」 「冗談だって。さて、勉強しようぜ」

早速、リビングの机の上で勉強を始めた。

「さて…それじゃ、数学やるか…。」

こうやって、数学と、英語の勉強で今日一日を費やすこととなった。 お昼ご飯を食べるときと、他にときどき短い休憩をはさみはしたが、 ほとんどはぶっ通しでやったような感じだ。

「浩平、疲れたね~っ」 「1日勉強してるなんて俺にとっては『死ね』といってるのと同じようなものだよ…」 「私も似たようなもんだよ…。でも、浩平、私より問題を理解するのが早いよね」 「そうか?」 「そうだよ…。ただ、浩平はいつも……」 「…勉強しないだけ、ってか?」 「だから、やればできるんだよ」 「ふぅ…。でも仕方ない…。明日も頼むぜ…」

ふぅ。長い一日が終わった。俺にとって、勉強1時間はゲーム10時間より 大変だ。そんなのだから今日の疲れは尋常じゃない。さっさと寝ることにするぞ。

…と、思ったら。 今日は近所で夫婦喧嘩をやっている声が聞こえる。 はぁ…。もっと静かにやれって…。しかも、こんな夜中に…。

「あなたっ、今晩はどうしてこんなに遅いのっ!」 「仕方ねぇじゃないかよぉ、会社の付き合いで飲みだったんだっ!ほら、 風呂入るぞっ!準備しろ!」 「だったらどうしてワイシャツに口紅がついてるのっ!」 「こ、これはだなぁ…」

…すごくありきたりな夫婦喧嘩だな、これはまた…。 ちょっとくらいバリエーションを持たせたらいいのに。 そんなことを考えながら床についた。


[2月12日・土曜日]

カシャァッ!

「ほら、起きなさいよーっ!」 「うーん…あと一週間だけ寝させて」 「一週間も寝てたら、遅刻しちゃうよっ」

いつも通りの朝…。本当に、こいつは母親気取りだな…。

「ほらぁっ!」

がばぁっ!

いつもの展開通りシーツを剥ぎ取られる。

「うわぁっ!」

がばぁっ!

だが、今日は布団が元に戻される。

「浩平…は、裸だよ~~っ!」 「ん…?えぇっ?」

俺は上体を起こし、シーツの下を覗き込んでみる。一糸纏わぬ素っ裸だった。

「うっ、うわぁぁぁぁっ!瑞佳、おっ、お前っ!」 「ご、誤解だよっ!なんにもするわけないよっ!」 「じゃぁどうして俺は裸なんだっ!?」 「知らないってばっ!…布団剥いだら、裸だったんだよっ」 「瑞佳、何もこんなことしなくても、俺はだなぁ…」 「はぁっ、冗談言ってる暇があったら早く着替えようよ…。今日も勉強するんだよっ」

そう言って、瑞佳は俺に着替えを手渡した。 うーん…さすがというか…。体裁の悪い濡れ衣を着せて、からかってやろうと 思っていたが半ばで見破られてしまったらしい。

「いや、瑞佳に俺の生まれたままの姿を見てもらいたかったんだよ」 「見たいわけないよ、そんなもの」 「そうか、それは残念」

仕方なく、服を着る。 さすがに、今日は第2土曜日なので学校は休みだ。 今日も明日の模試のための勉強をしなければいけない。はぁ、気が重い…。

「まったく…浩平にはいつも驚かされるよ…」 「はぁ?別に…あんなのライフワークじゃねーか」 「ら、ライフワークって…」 「まぁ、そんなことよりも、せっかくだし、さっそく始めるとするか?」 「なにを?」 「………」 「………」 「…ふざけんなよ」 「ご、ごめんなさい」

そういうわけで、今日も瑞佳と一緒に勉強した。国語と地理を勉強した。 理科はどの科目を受けるのか決めていないので、行き当たりばったりだが、 とりあえず化学を勉強するか…。

「じゃぁ、早速だけど、浩平っ。じゃじゃんっ。問題です!単量体が○○反応を 繰り返して高分子になる反応を付加重合という。○○にあてはまる言葉は何?」 「反応…飯能、秩父、所沢…じゃぁ、ありませんよ~」 「何くだらないこと言ってるのよ…」 「んっと…付加反応、だったっけ?」 「ぴんぽーん。正解で~す。じゃ、次は…ベンゼン環にカルボキシル基と…」

…このようにして、昼ご飯の時に休憩を挟んだ以外、勉強ばかりしてすごした。 6時くらいになって、そろそろ勉強をやめようかと思ってきたときに…

「ねぇ、浩平。今晩はうちの親が遅くなるっていうから、どこか食事にでも しに行かない?」 「おぉ、構わんぞ。どこにいく?あ、マックはお断りだからな」

…マックじゃなくてマクドだっ!

「あ、あれ?浩平…今、なんか変な声がしなかった?」 「う、うん、俺もそんな気が…。疲れてるのかなぁ…」 「そ、そうだねぇ…。あははははは…」 「それじゃ、どっか行くか。とりあえず駅前に行こうぜ」 「うん」

…そうやって駅前に出てきたが…いい店が無い。マックはよく学校帰りに 立ち寄っているし…

……マックじゃないっ、マクドだっ!

…やはり幻聴が聞こえた…。いったい、どうなっているんだ、この世界は。 まぁ、気にすることでもないか。 うーん、だったら…どこにしよう。 そういえば、このへんにこないだ入っておいしかったカツ丼屋があったなぁ。 そこにしようか…。 …と、待てよ?そういえば、最近この近所にファミレスができたらしいよなぁ。 ファミレスは値が張るのでほとんど利用しないが、たまにはいいかもしれない。 行ってみっか。

「瑞佳、このへんにファミレスができたんだよな」 「うん」 「だったらそこに行ってみないか?」 「うん、いいよ」

赤地に白い文字の看板とが目印の「キャロット」の店内に入る。 「いらっしゃいませーっ!レストラン・キャロットへようこそ~」 ウェイトレスの案内で奥へ進み席についた。

「では、ご注文はいかがいたしましょう?」 「私はハンバーグステーキ定食で」 「パンにいたしましょうか、ご飯にいたしましょうか?」 「ではパンで…」 「かしこまりました。お連れ様はいかがいたしましょう」 「うーん、じゃぁ、和風ハンバーグステーキデミグラスソース煮定食」

これは名前の通り、和風ハンバーグに、何故かデミグラスソースをのせて、 和風の雰囲気を台無しにしている素晴らしいセットだ。

「…浩平…そんな変なもの食べるの?」 「あぁ、悪いか?」 「いや…」 「お客様、パンとご飯、どちらにいたしましょう?」 「パンで…」 「かしこまりました。それでは、お飲み物はいかがなさいますか?」 「じゃぁ、ビールくれ」 「かしこまりましたぁ!」

……お酒は二十歳になってから!

「かしこまりました。それでは、お飲み物はいかがなさいますか?」 「…あれ?」

俺、今、ちゃんと頼んだはずなんだが…。

「コーラとウーロン茶、オレンジジュース、あずきオーレ、タヒボドリンクが ありますが」

…すごくマニアックな店だ…。普通、タヒボドリンクは置いてない。 タヒボドリンクも魅力的ではあるが、やはりここは…

「じゃぁ、ビール!」

…だから、お酒は二十歳になってからっ!

「かしこまりました。それでは、お飲み物はいかがなさいますか?」 「…………」 「コーラとウーロン茶、オレンジジュース、あずきオーレ、 タヒボドリンクがありますが」

うーむ…。何か納得いかんなぁ…。だけど、これじゃ先に進まないし…。

「じゃぁ、あずきオーレ」 「かしこまりましたぁ。お飲み物はいつお持ちいたしましょうか?」 「先にくれ」 「かしこまりましたぁ。お連れ様はいかがいたしますか?」 「私はウーロン茶。先にお願いします」 「かしこまりましたぁ」 「あ、あと、ビールを…」

…はい、お約束。

「かしこまりました。それでは、お飲み物はいかがなさいますか?」 「あずきオーレ。料理より先に持ってきて」 「私はウーロン茶。料理より先にお願いします」 「かしこまりましたぁ」 「あ、あと…」

…同じギャグは3度まで!

「いえ、なんでもないです…ぐすっ…」

まぁ、こんな感じで晩ご飯は楽しく(?)瑞佳ととったのだった。


[2月13日・日曜日]

カシャァッ!

「ほら~、起きなさいよ~っ!」

耳障りな音と共に視界が白くなる。まぶしい。そうか、朝か。 ………。……………。眠い。やっぱり眠い。

ガバァッ!

布団を取られた。だが、これくらいは慣れたものだ。瑞佳は俺を甘く見ている ようだ。それくらいで起きる俺じゃない。当然、体を丸めて対抗する。

…。 ……。 ………。 ぐーっ。

バフッ!

おっ、今度は布団をかぶせてきたか。しかもその上に瑞佳が乗っかってきて いるから重たいんだ。確か数日前にもこんなことされたような…。 やっぱり息苦しいし暑い。

「ぐわぁっ、ぐぉっ。…。……。ぶわぁぁぁっ」

俺は二度目ともなると慣れたもので、楽々上から押し付けられていた布団を はねのけ、飛び起きる。

「ふぅ~、やっと起きたね」 「あと30分~っ!」 「ダメだよ、今寝たら浩平は遅刻するもん」 「大丈夫だって、俺を信じられないのか?」 「確か2週間前にそんなこといって12時半まで寝てて遅刻しなかったかなぁ?」 「そんな昔のことなんて覚えてない」 「浩平の昔っていつなんだよ」 「3分前」 「…そんな冗談言ってどうするの」 「だいたいなぁ、お前、起こし方もワンパターンだぞ」 「だったらどうやって起こして欲しいの」 「やっぱりメイド服を来て『ご主人様、朝でございます』とか言って…。 それは男の永遠の憧れなんだぞっ」 「浩平ってそんな趣味があったの?」 「あ、いや、冗談だ。だが、上に布団をかぶせるのはやめてくれ。暑い」 「そうしないと起きないじゃないの」 「だったら布団をかぶせずに瑞佳が乗っかってくれ」 「なんで?」 「そりゃなぁ…」

瑞佳が、俺の考えていることを察したか、顔を赤らめて下を向いた。

「嫌だよ…」

ふっ、勝ったな。得意顔で胸をはって見せる。 しかし、しばらくしてから、

「でも、浩平が絶対に素直にすぐに起きるんだったら考えておくよ」

…。いや、そう正直に反応されても困る。仕方ない。

「いや、冗談だよ」 「もうっ!からかわないでよ」 「かわいそうだから今日はさっさと着替えてやろう」

俺は制服と鞄を片手に部屋を後にした。 台所に行ってはみたがやはり誰もいない。秋子さんはもう会社に行ったらしい。 今日も、秋子さんが玄関にいた俺のことを瑞佳に頼んだんだろう。 そして、今日の朝食を見てみると…おや?食卓の上には何もない。 あるべきはずのものがない。それが現実的ではない違和感として体を捉えた。 朝食が食卓の上に用意されていないだけでそこまでのことを思うものだろうか。 秋子さんだって忙しい。これくらいのことで責め立てては申し訳ないくらいだ。 だけど、今現実に俺が感じてしまっているこの違和感はなんなんだろう…。 よくわからない。だけど、何か引っかかる。…。いったいなんなのだろう。 この違和感は…。

「よし、準備オッケー。いくぞ、瑞佳」

とりあえず食卓の上に食べるものがなかったし冷蔵庫の中にも食べ物でめぼしい ものはなかったから朝食は抜きでいいことにした。

「はいはい」

そして、いつものように家を出る。今日は時間が比較的残っているようだ。 ならば、と、歩いて行くことにする。いつもは走りぬける風景も、歩いて ゆったり行くというのもいいものだ。

「今日は佐々木ゼミの記述模試だね」 「ああ」 「難しいらしいんだけど大丈夫?」 「ああ」 「そういえば、もう来年は入試なんだよね」 「ああ」 「そろそろ志望校を決めないといけないんだよね」 「ああ」 「浩平、ちゃんと勉強してる?」 「ああ」 「浩平の行きたい大学ってどこ?」 「ああ」 「ああ大学なんて学校ないよ?」 「ああ」 「浩平~!?」 「ああ」 「話聞いてる?」 「ああ」 「もうっ…」 「ああ」 「浩平!前っ!」 「ああ」

ばきっ!

「ぬよやよわあふや~」

俺は意味不明の叫びをあげた。な、何か顔が痛い。何があったんだ!? 気がつくと俺は電柱に求愛しているような姿勢だ。な、なにぃ、誰かがこの 電柱を俺の進路の真正面に持ってきたんだな!誰だ誰だ。 俺がきょとんとしてると、瑞佳が

「何考えてたの?」

とたずねてきた。

「いや、別に。ただボーっとしてただけだ」

…俺の頭の中では今朝のことがずっとひっかかっていたのだ。この違和感。 これは一体何なのだろう。一体何が起ころうとしているのだろう。…一体…。 そんなことを考えながら歩いていたのだ。

「浩平、気をつけようよねぇ」 「ああ」 「『ああ』以外の返事をしようよぉ」 「ああ」 「浩平っ!」 「冗談だって」

ドンッ!

瑞佳と漫才みたいなことをしていたら誰かにぶつかってしまった。誰かと 想って見ると、七瀬らしい。

「あ、おっはよ、瑞佳」 「七瀬さん、おはよう」

七瀬と瑞佳はこんな日常的な会話を交わした。…だが。 七瀬が俺を見る視線に怪訝さが混じっている。瑞佳と俺を交互に見比べている。 まるで、「こいつ、誰?」と言っているような感じだ。 …七瀬はしばらく考えていたが、

「私、先に行く」

とだけ言い残して先に行った。 なんだろう。どうなっているのだろう。今朝は秋子さんに俺の存在を 忘れられたような感じだった。そして、今は、七瀬にまるで忘れ去られた ような…。一体どうなってるんだ…。

教室に入って模擬試験を受けるときも、自分の席はちゃんとあった。だが、 担任も俺のことを不思議そうな目で見ている。クラスのほとんどの奴も俺の ことを怪訝な顔で見ている。

本当に、何がどうなってしまったのかわからない。 いつも授業が終わると必ず話しかけてくる北川や七瀬も模擬試験が終わった ときには話しかけてこなかった。誰にも声をかけられなかった。瑞佳を除いては。

瑞佳と一緒に学校から帰る。途中で出会う人も、誰もが俺の存在を知らない。 俺が存在しているこの世界は一体どうなってしまったのだろう。

赤い夕日を見上げて考えながら歩いた。

まるで、空にこのままおちていってしまいそうな感覚がする。 そして…。 夢。 夢を見ている。 そんな感覚だった。

そして…ボクはまたこんな場所にいる。

うあーん! うあーーーーーーーーーーーん!

泣き声が聞こえる。

誰のだ…?

ボクじゃない…。

そう、いつものとおり、あゆの奴だ。

「うあーーーーーん、おかあさーーんっ!」 「どうしたの、あゆ」 「うぐぅ。お兄ちゃんが、たたいたぁーーーっ!」 「浩平、あんた、またっ!なにしたのよっ!」 「ちがうよ、遊んでただけだよ。猪木の気合入れごっこして遊んでいただけだよ」 「そんなのごっこ、なんて言わないのっ!あんた前は、60文キックごっことか 言って、泣かしたばっかりじゃないのっ」 「ごっこだよ。本当の60文キックや猪木の気合入れは真似できないくらい 効くんだよ?」 「ばかな理屈こねてないで、謝りなさい、あゆに」 「うあーーんっ!」 「うー…あゆぉ…ごめん」 「ぐすっ…うん、わかった…」 「よし、いい子だな、あゆは」 「浩平、あんたが言わないのっ!」

実際あゆが泣き止むのが早いのは、別に性分からじゃないと思う。 ボクが本当のところで、あゆにとっては、いい兄でありつづけていたからだろう。 そう思いたい。 母子家庭であったから、あゆはずっと父さんの存在を知らなかった。 ボクだってまるで影絵のようにぼんやりとした覚えてはいない。動いては いるのだけど、顔は全然はっきりとしない。どんな顔をしていたのか、 全然思い出せない。そんなんだから、あゆには、男がどのようなものなのか ということを教えてあげたいと思っていた。だから、 父親参観日には、あゆのためにも変装して出席してやろうと思っていた。 みんなに、あゆにさえ、バカにされたけど、でも、構わない。ボクが できるだけのことをあゆにやってやりたかった。あゆの笑顔を見たかった。 だから、他のひとに笑われる、ということも怖くなかった。

「あゆ、絶対父親参観日にボクが行ってやるからなっ」 「えぇ、お兄ちゃん無理だよ」 「大丈夫だ。お兄ちゃんを信じろ!おおふなにのったつもりでまってろ」 「おにいちゃん、おおふなじゃなくておおぶねだよ」 「フランス語で言ったらそうなるかもしれないな。まぁ、だいじょうぶさ。 なんとかしてみせるよ」 「うん、がんばってね!」

ところが、ある冬の日のこと…。そろそろ変装道具を準備しなくてはいけないな、 と思い始めた頃だった。あゆは、木の上から落ちて頭を強く打ってしまった。 そして…何も話さなくなってしまった。目を覚ますことすらなかった…。 だけど、みんな、あゆは病気で眠っているだけでもうすぐ目を覚ます、 とばかり言っていた…。

「バカだな、おまえ。こんなときに病気になって」 「………」

あゆの邪魔そうな前髪を書き上げてやりながら窓の外に目をやると、自然の多く 残る町の風景が見渡せた。そして、秋が終わろうとしていた。

「あゆぉ~」 「…………」 「あゆ、退屈してると思ってな」 「……………」 「本を読んでやろうか?…こんな文字ばかりのものが面白いわけないな。 だったらまんがをよんでやろうか?」 「……………………」 「じゃ、オセロをやろうじゃないか」

ボクは借りてきた碁盤と碁石を、あゆに握らせた。

「何なの、これ?」、とあゆが言っているような気がした。

「わからないか?碁盤と碁石と呼ばれるものだ。専門用語ではな」 「………………」 「これでオセロをするんだ。ごばんって、オセロをするためのものじゃ ないけど、気合があればなんとかなるっ!」 「……………………」

… … …

しかし、話に聞いていたのとは違って、あゆの病院生活はいつまでも 終わりそうになかった。あゆは大きな手術をして、あゆの体があゆの体じゃ なくなってしまったみたいだ。そして、この時期から母さんも病院でない別の 場所に入り浸るようになっていった。どこかはわからない。だけど、 時々現れてはボクたちが理解できないようなわけのわからないことを言って、 満足したように帰っていく。 「せっぽう」とか言っていた。どんなものなのかは全然わからないけれど…。 だけど、ぐるがどうかした、救済がどうこう、ということをいっていた…。 なんだったんだろう…。

「わ、病室まちがえたっ!」 「………」 「…あれ…でも…あゆか?」 「…………」

あゆは、髪の毛がなくなってお寺のお坊さんみたいになっていた。

「びっくりしたぞ、お兄さんは」 「…………」

ただでさえ、ここのところやせ細ってきているというのに、さらに髪が なくなってしまおうものなら、ボクだって見間違えたような気がしてしまう。 それくらい、あゆの姿は変わってしまっていた。

だけど、ボクはあゆに「苦しいか」と聞くことはしなかった。 あゆは寝ているから返事をしないだろうとは思ったけれど、もし起きている 時に聞けば、あゆは絶対に、「そんなことないよ」というに決まっていた。 気を使わせたくはなかった。だから、聞かなかった。 本当に苦しかったり、辛かったりしたら、自分から言い出すだろう。 そのときに、そばにいて、なぐさめてやればいいだろう。元気づけてあげれば いいだろう。そう思っていた。

年が明け、正月もあゆは病室で過ごしていた。ボクも、こんなに静かな正月を 送ったのは生まれてはじめてだった。

「あゆの今年の願い事はなんだ?」 「……………」 「もちろん元気になることだよな。それで、お兄ちゃんがきてくれる、父親 参観をすることな。去年は無理だったもんな」 「…………………」

時間はあの時からとまっていた。 準備をはじめていた変装道具も、そのままに部屋においてある。何か、 変わったことがあるといえば、あゆの病気だけだという気がする。

正月が終わり、街並みが元通りの様子に戻って行く。だけど、あゆの過ごす 部屋と病気の状態だけは変わっているようには思えなかった。

「あゆー」 「…………………」 「また、手術するって聞いて、きたんだよ。大丈夫かい?」 「………………………」

だけど、あゆはやはり目を覚まさなかった。 怖いくらいに静まり返る室内。部屋の中には、あゆの体にもつながっている 機械が立てる音だけしかしない…。

「…………」 「あゆー」

………。

「…あゆ?」

………。

「あゆっ!」

………。

「あゆーっ!あゆーーっ!」 「……………」 「おやすみ…………」

月がまた変わった。 でも、やっぱりボクたちは、なんにも変わらないでいた。 あゆは誕生日を迎え、病室でささやかな誕生会をした。でも、あゆ以外には ボク一人しかいなくて、ボク一人が歌を歌って、そして、ボク一人がケーキを 食べただけだった。あゆは、やっぱり目を覚まそうとはしなかった…。

………。 …………。 「……」 「………」 「今日をちちおや参観日にしようよ、あゆ」 「…………」 「今日にしよう…………」 「………」

ボクは大急ぎで家に戻って、変装道具を取ってからそれを抱えて病院へと 戻った。そして、病院の廊下でボクはそれを身につけて、変装をした。 スーツを着て、ネクタイを締めて、そして厚底の靴をはいた。そして、 マジックで髭を書いて、そして変装を完了、ということにした。甲高い靴音を たてながらあゆの部屋に向かう。ドアの前にたち、そしてノックをする。 ノックより靴音のほうがよく響いていたと思う。

「あゆー」

ドアを開けて中に入る。

………。

「あゆーっ」

…………。

「…あゆーっ?」 「…………」

あゆは相変わらず眠ったままだった。だけど、息が何か苦しそうだった。 だけど、あゆが苦しい、辛いと言い出さない限りは、ボクも平静を装うことに していた。

「じゃ、おとうさんがみててやるからなっ」

ボクは壁を背にしてたち、ベッドに身を横たえているあゆを見つめた。 ただ、あゆの様子を眺めているだけだ。それしかできない。

「………」

………。

「………」

………。

「…………」 「あゆっ?」 「………………」

………。

「うー…ふぅ…はうっ…」

苦しげな息が断続的にもれる。 ボクはそんなあゆの苦しげな姿をただ見つめていることしかできなかった。

「はぁっ…あうぅぅぅっ…」

なんてことだろう。こんなに妹が苦しんでいる時に、ボクがしていることは、 一番妹から離れた場所で、ただ単に突っ立ってみているだけだなんて。

………。

「はぁぁぁぁぁっ…あうぅぅぅっ…」

………。

そして、ついに、あゆの口から…

「はぁぁぁぁぁぅぅぅっ…くるしいっ…くるしぃよぉ、おにいちゃんっ…」

だから、ボクは走った。変な靴をはいているから転んでしまったけど、 とにかくあゆの元にかけつけた。あゆは今になってやっと目が醒めたんだ。

「あゆ、だいじょうぶだぞ。お兄ちゃんがそばにいてやるからな」 「いたいよ、おにいちゃんっ…いたいよぉっ…」 「だいじょうぶだぞ…。ほら、おにいちゃんがそばにいてやるから」 「はぁぁぁっ…あぅぅぅっ…お、おにいちゃん…」 「どうしたんだ?お兄ちゃんはここにいるぞ」 「うんっ…ありがとう…、おにいちゃん……」

…だけど。 ………。

ボクはあゆにとっていい兄でありつづけたと思っていた。そう思いたかった。 そして、最後の言葉は、そのことに対しての感謝だと思いたかった。

あゆの葬式は、一日中しとしとと降りしきる雨の中で行われた。すべての 音や感情でさえも、かき消されてしまったような、そんな静かな葬式だった。 冷めた目であゆの収まる棺を見ていた。母さんは最後まで姿をみせなかった。 ボクはひとりになってしまったことを痛みとしてひしひしと感じていた。

そして、ボクしかいない家の中で、誰もいなくなったあゆの部屋をみた とたんに、ボクの目からせきを切ったようにして涙がこぼれだした。 こんなに悲しいことが待っているなんて知らずにボクは生きていた。 ずっとあゆと一緒にいられると思っていた…。 ずっと、あゆがボクのことをお兄ちゃん、と呼んでいて、あゆの笑顔を見て 幸せな気持ちになれることなんてなくなってしまったんだ…。 すべては失われて行くものなんだ…。そして失ってしまった時に、こんなにも 悲しい思いをする。 まるで、悲しむために生きているように思えた。悲しむために生きるくらい なら、この場所に留まっていたい。ずっとあゆと一緒にいた場所にいたい。

… …… ………

うあーん! うあーーーーーーーーーーーん!

泣き声が聞こえる。

誰のだ…?

ボクじゃない…。

そう、いつものとおり、あゆの奴だ。

「うあぁぁぁぁぁぁぁーーーん」 「うー…ごめんな、あゆ」 「うぐぅ…うん。わかった……」

よしよし、と頭をなでてやる。

「いい子だな、あゆは」 「うんっ」

ボクはそんな幸せだった時にずっといたい。ただそれだけだ…。

あの日から、ボクは泣くことが多くなった。泣いていない時間を探しては生活を している、そんな感じだった。ボクはあゆと過ごした町を離れ、叔母さんの 秋子さんのところへとあずけられていた。 それでも、ボクが泣き止むことはなかった。どれだけ泣きつづけても、 涙が出てくる。本当に不思議だった。

「泣いてるの?」

その町で、最初に泣いているボクを見つけたのがその女の子だった。 そして、どんなときも泣いている時には、隣に彼女がいた。

「いつになったら、あそべるのかな」

毎日のように泣き伏すボクを見つけては、話しかけてくる。ボクは泣くこと 以外には何もしなかった。もう空っぽの抜け殻のような感じだった。それなのに、 彼女はボクの側にいつづけた。そして話しつづけた。いったい、その子が何を 待っているのか、ボクにはわからなかった。

「…君は何を待っているの?」

それがボクが彼女にかけた最初の言葉だった。

「君が泣き止むのを待ってるの。いっしょに遊びたいから」 「ボクは泣き止まないよ。ずっと泣きつづけて生きるんだ」 「どうして…?」 「悲しいことがあったんだ…ずっと続くと思っていたんだ…。楽しい日々が…。 でも、永遠なんてなかったんだ…」

そんな思いが言葉で伝わるとは思わなかった。 でも、彼女は言った。

「永遠はあるよ」

そして、ボクの頬は、その女の子の手の中にあった。

「ずっと、わたしが一緒に居てあげるよ、これからは」

そう言って、ちょんとボクの口にその女の子は口を当てた。

永遠の盟約。 永遠を手に入れる盟約だ。

ボクはいろいろな人と出会って、いろいろな日々に生きた。 ボクはあれから強くなったし、泣いてばかりじゃなくなった。 ボクは盟約が動き出してから消えてなくなるまで、それに抗うようにして いろいろな人と、いろいろな女の子と出会った。 ボクは幸せだった。

「滅びに向かって進んでいるのに…?」

いや、だからこそ、幸せなんだよ。滅びに向かうからこそ、全てが かけがえのない瞬間だってことを。 こんな永遠なんて、もういらなかった。 だからこそ、ボクは絆をもとめたはずだったんだ…。俺は。

だから、突然、瑞佳の名前を叫んだ。喉がからからに乾いていた。

「瑞佳っ!」 「………」 「瑞佳っ!瑞佳ッ!」 「……浩平、どうしたの?」

違和感とはそれだったんだ…。

「なに怖い顔してるんだよ」

取り繕ったような笑顔で俺を見る。 そして、どこに行こうとしているのだろう。俺は…。 それは確実な「予感」だった。この場所を去って、どこに向かおうとして いるのだろう。この空だ…。向かえる場所もなく、訪れる時間もない。

…永遠。 その言葉でつながっていたんだ。 この空の向こうにその永遠の場所がある。あの日求めた世界だ。世界は永遠の 盟約を交わした、あの時から始まって、そして、そこへ収束しようとしている。 そこへ俺は向かおうとしているんだ。

家に辿り着いたので台所へ行ってみた。秋子さんはまだ帰っていないらしい。 いつものように夕食を一人で食べる。そして、今日は疲れ切ったからとすぐに 寝る事にした。


[2月14日・月曜日]

「浩平~、ちゃんと食事をちょっとは食べるんだよ~」

声をかけられ、頭を整えながら食卓を見る。 朝食がなかった。一度だけならまだしも、二日も続けて。 流しを見ると、一人分の食器だけがつけおきしてある。それは間違いなく 秋子さんのものだった。彼女は、自分の分の朝食を食べ、そして出かけていった らしい。もしかしたら、何か、彼女が勘違いをしていただけなのかもしれない。 だが最近明子さんには出会っていないし、この日常の繰り返しに変化が起きる ほうがおかしい。

……。

一度会って話せばいいだろう。会って話して、どうして朝食を作ってくれなく なったのか聞けばいい。案外簡単な理由かもしれない。そろそろ自立しなくては 行けない、とか…。秋子さんならあり得る話だ。だけど、それならそれで、 書置きの一つくらいはあってもよさそうなものなのだが…。

………。

「ほら、浩平~っ!時間ないよ~っ!」

再び瑞佳の声。

「あぁ、今すぐ行くって」

自分が急速に消え行く感覚。それはまるで、遠い昔に描いた夢のようだった。 ずっと昔。それは幼い日の戯れだ。

「望んだ世界が生まれていたとして、そうしたら、どうなると思う?」

俺は唐突に話を切り出しだ。

「望んだ世界…?」 「そう。例えばこうだ」 「小さい時にお菓子の国のお姫様になりたいと強く思っていた女の子がいたんだ」 「あ、私がそう。そんなこと思っていたよ」 「時がたって、本当にお菓子の国はその子の強い願望によって生まれていたんだ」 「そんなことあるわけないよ」 「あったとしたらだよ」 「あ、うん…」 「すると、どうなると思う?」 「女の子は選ぶんだろうねぇ。その国に移り住むのか、あるいはここに残るのか」

選択肢なんてあるのだろうか。 違う。この物語には第三者が居たはずだ。

「王子様がいるんだ、その国には」 「うん」 「盟約を交わしていたんだよ。一緒に暮らす、っていう」 「うん」 「条件が変わった。すると、どうなると思う?」 「うーん、そうなると、その国に強制的に連れて行かれるんじゃないかなぁ」 「すると、俺は…いや、その女の子は、この世界ではどうなると思う?」 「いなくなるんだよ」

俺はその瞬間、薄ら寒さを覚えた。 すると、俺は今から、この世界から消えてなくなろうとしているのか…? そんな子供の戯言のようなおぼつかない口約束が、現実に俺のこの世界での 存在を危うくしているとでも言うのだろうか…? まさか…。 しかし、実際に俺はその過程上にいるように思える。 秋子さんにはどうやら忘れ去られているらしい。瑞佳にさえ、俺の存在の記憶を あいまいにされつつある。 本当に俺はあの遠い空の向こうへと旅立ってしまうのだろうか?

…。 ……。 ………。

「浩平」

と瑞佳が立ち止まる。突然立ち止まって何のつもりなのだろう。靴紐でも 解けたのだろうか。しかし、時間の余裕がさほどあるわけでもない。気にせず 歩き続ける。そうしていると、後ろからと瑞佳が駆けてきて、そして俺に袋を 手渡した。きれいにラッピングされた袋だ。

「今日はバレンタインデーだからね。あげるよ」 「ありがとう…」 「いつになく正直だね、浩平」 「瑞佳…俺のことを大事に思っていてくれよ」 「そんなこと言われなくたってわかっているよ」

だけど、そんな現実が、揺るぎつつある。 過去の盟約が現実のものとなろうとしている…。 その事実だけが遠く視界の先にあった。


[2月15日・火曜日]

「また浩平のせいで遅刻だよ~っ!」 「だからお前がもっと早く起こせばいいんだ」 「もーっ、面倒見きれないよーっ」 「バカもん、先の先を呼んで行動しろっていつも…」 「あ、浩平、前っ!」

ズドーーーーーン!

また、校門に激突してしまった。

だけど、校門をくぐっていく人は、俺、折原浩平だともきがつかずに、誰か妙な 人が居るとしか誰も思っていないようだった。

そして、自分のことを徐々に忘れつつある生徒がたくさんいる校内へ、校門を くぐるのがためらわれた。

「何やってるんだよ、浩平!さっさと行くよ」

そういって、瑞佳は駆けて行く。

「あ、あぁ…」

俺はそうつぶやいた…が、瑞佳のあとを追う気持ちにはなれなかった。

俺が消えるまでの時間はもうほとんど残されていない。自分が消える瞬間を 他の人に感じさせるなんてことは俺にはできなかった。 その場にいた人に限りない苦痛を与えることになるのだろうから。

胸を張っていけばいい。俺は幸せだったんだから。

人との会話から始まって、約束を交わして、再会をして、お互いを知り、 他人でなくなり、互いが互いを干渉し、生活が少しずつ変わっていく… それは幾度となく繰り返されてきた日常のはずだ。 …はずなのに。 空を見上げる。今にもそこへ落ちて行きそうだった。本当に落ちて行きそうな 感覚だ。俺は知っている。その世界が本当に存在して、ただ悔恨の中に生きて いくこれからの自分を。

……。 ………。 …………。

そして…俺、「折原浩平」が存在していた世界は崩壊した。一体、俺はこの先 どうなってしまうのだろう…。 もし、奇跡が起こるとすれば、人との絆がどれほど強かったか。これに かかっているのだろう………。 だが、俺が存在していた『世界』が崩壊してしまった今、俺との絆を大事に してくれている人はいるのだろうか。強く想っていてくれる人はいるのだろうか……。


山田康嗣


月曜日

この日はいつもと変わらぬ一日だった。ただひとつの点を除いては。 いつもの学校の帰り道、僕はいつもと同じ道を一人で歩いていたが、目の前を 歩いている人が一瞬消えたような気がした。だが、次の瞬間にはまた普通に 歩いていた。もちろん僕はただの目の錯覚だと思い、その日後は何事も なかったかのように過ごした。


火曜日

僕は昨日起った奇妙な出来事のことなどすっかり忘れてしまっていた。 ところがまた学校の帰り道、昨日と同じ場所で、気が付くと今度は辺りが 真っ白になっていた。そして、次の瞬間にはもとどおり平和な日常に戻っていた。 僕はただの立ちくらみかな、と半信半疑ながらも無理やり納得した。


水曜日

まただ。今度は、出かけるときに辺りが真っ暗になり僕はまるで宇宙に いるようだった。10秒ほども続いただろうか、そのあと僕は元いたところに 立っていた。僕は体調が悪いのだろうと思ってその日は学校を休むことにし、 家に帰り、一日中寝ていた。


木曜日

今日も学校を休むことにした。 僕は月曜から起っている変なことについて考えた。 僕は何だかだれかからじっとみられている気がした。 僕は振り返ったが、そこには僕の部屋の白い壁があるだけだった。


金曜日

僕はなぜか孤独感を感じていた。僕の親は共働きでめったに家にいない。 兄弟もいないし友達もいない。でも今まで孤独を感じたことなどなかった。 他の人間はどういうことを考えているのだろう。 他の人間はどのように見て、どのように感じるのだろう。 そもそも、他の人間なんて存在するのか。 また誰かに見られてる気がした。外からは子供たちの遊ぶ声がして、 閉じたカーテンのすきまからは、日の光が差し込んでいる。 僕はまた後ろを振り返ってみた。今度は昨日よりだいぶ速くだ。 そしたら一瞬そこには壁がないような気がした。 だが、次の瞬間またいつも通り白い壁があった。 もう僕には分かっている。 あの外から聞こえる声も、差し込む日の光も、全部僕にそれを気づかせない ようにするためなんだ。 でも僕は確かめるのが怖かった。その日はそのまま寝た。


土曜日

昨日からごはんを食べていない。全然腹が減らない。 いや、本当は減っているのかも知れないがそれに気づかないでいるだけ なのかも知れない。 そもそも腹が減るっていうのは、どういう感覚だったのだろうか。 それさえも分からない。 昨日何か重要なことに気づいたような気がしたのだが、何だったのだろうか。 そこの部分の記憶だけきれいになくなっていて、どうでもいいことだけ思い出せる。 でも、もうそんなことはどうでもいいや。僕は、今日も一日中寝ていた。


日曜日

今日は朝から目がかすむ。体が思うように動かない。 ごはんをずっと食べていないからか。 でもごはんってどうやって食べるんだっけ。 いつもは簡単に食べられたのに。 あれっ、そういえば体ってどうやって動かすんだっけ。 そう思うと全然体が動かなくなっている。 もうわけがわからなくなった。 あれっ、息ってどうやってするんだっけ。 そう考えた後にそれは考えてはならなかったと思った。 でも、もう遅かった。 僕は息できなくなっていた。 苦しくなってきて何とかしようとすると、何とか首が動いた。 振り向くとそこにはあるはずの壁がない。 ただ暗闇が広がっていた。 もう一度前を見ると僕の部屋が消えている。 僕の周り360度真っ暗闇になっていた。


谷川清隆


月曜日、わたしはいつもどおり妻に玄関まで送られて、高校生の息子と一緒に 家を出、 勤め先に向かった。新宿駅で乗り換える。相変わらず駅構内を急ぐ 人の数が多い。ひとの動きはまるで川の流れのようだ。反対方向に進む一群の 人びとは一列になって突き刺さるように流れを分けていく。それが途絶えると ふたたび流線は合わさる。 息子はいつものように「行って来ます」と言って別のプラットホームに行く。 勤め先に着いて、まずメールを読む。これが習慣だ。


火曜日、朝、電車の中でもみくちゃになりながらも、前に見たことのある乗客が いることに気づく。後ろの人の握りこぶしが背中に当たって痛い。耐えられなく なって、肘で後ろに合図する。新宿駅で下りると、後ろにいたと思われる 若い男が睨む。 同じ方向に行くではないか。知らん顔していたが怖かった。ストレスをわたしに向 けて発散しないで欲しい。 勤め先では最近得た「宇宙空間掩蔽」なるアイデアが実行可能かどうか 調べるために簡単な計算を始めている。計算力が落ちたので結果を 確認するために、昨日途中まで使い古しの紙でやっていた計算を初めから やり直す。


水曜日、新宿からはいつものように中央線の最後部の車両に乗る。 遠くの学校へ通う子ども達が途中の駅で次々と乗り込んで来て、 昨日と似たような会話を交わしている。 武蔵境駅前のバス停で並んでいると、昨日わたしの直前にいたひとが、後から来 て当然のようにわたしの前に入り、会釈する。ルール違反だよ。 でもまあいいか。勤め先では昨日と同じ計算を始める。 何度やっても結果に不安が残る。


木曜日、息子とともに6時47分発の電車の後ろから3両目、車両の一番後ろのドア から乗り込む。今日も背中にこぶしが当たる。なんてことだ。 同じ男が後ろにいるらしい。昨日は少し離れた場所にいたようだが。 また新宿で睨まれてしまった。 先週までは木曜日に共同研究者のY氏が議論のために来ていたような気がするが、 定かでない。そうであったとしても、彼も自分の研究室で昨日までの仕事に 追われているに違いない。


金曜日、電車の中で同じ顔ぶれを見て安心する。 背中の痛いのも同じだ。新宿での下りる順序もほぼ一緒だ。 バス待ちの列はいまや同じ顔ぶれ同じ順番になった。 いつも12時半にコーヒーを飲み来るK氏が12時20分に現れる。 なぜか怒りが湧いてくる。12時半でなくてはいけないんだ。 彼もなんとなく落ち着かないようすで、出直してくる。 午後、昨日までやっていた計算を始める。だが、新しい計算用紙を 使うのはいけないような気がする。結局、昨日使っていた計算用紙の 計算式をボールペンでなぞりながら昨日と同じところまでいった。


土曜日、今日も出かけなくては。息子も起きて来る。 妻はすでに同じ朝食を用意している。同じ物を買って来るようだ。 冷蔵庫の中身も同じ配置にしてある。 わたしの身体は油切れのようになって動きが緩慢になる。 駅に行くと、昨日と同じようにホームには続々と人が集まってくる。 2、3人が転ぶのを見た。足元に気をつけてくださいよ。 電車が来る。われわれが同じ車両の同じドアから入ると、 ほっとしたような声が近くから聞こえる。 勤め先では、昨日と同じメールが来ていたので同じ返事を出す。 夜、家に帰ってテレビを見ると、アナウンサーが昨日とまったく同じニュースを 伝えている。それでいいのだ。


日曜日、朝起きると節々が凝っている。首を動かすのも辛い。 ほぼ自動的に朝食を流し込み、息子と一列縦隊で駅に向かう。 電車の中では、乗客の配置が昨日と同じになるように狭い中で微妙な調整が 行なわれる。 武蔵境の駅でいつものように階段を下りるつもりであった。 だが、つまづいてしまった。ふわっと浮いて背中から落ちた。痛っ。 階段には14段毎に踊り場があって、幸い下までは落ちず最初の踊り場で止まった. 良かった。衝撃は背中のバッグが受けてくれた。骨は折れていないようだ。


だがもうダメだ。昨日と違うことをやってしまった。立ち上がる気力がない。 近くを通るひとは非難に満ちた表情でわたしを見る。 下から登ってくる通勤客がわたしを踏み越えていく。 わたしは痛みをこらえ、あお向けのまま目をつむった。




 
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Takashi ITO
2000-03-05