書評
Universe(第6版)
Roger A. Freedman、William J. Kaufmann III著
 定価$82.40 702ページ出版社W.H. Freeman & 
Company (New York)関連Web 
http://www.whfreeman.com/astronomy
教科書 おすすめ度☆☆☆☆★

 アメリカの大学で学部レベルの天文学の教科書
としてよく使われている本の最新版である。
 私がこの本(多分第2版だと思う)の存在を
知ったのは、10年ほど前、ミシガン大学に滞在し
たときだと思う。週3時間の授業が1学期間続く学
部の天文学のコースの教科書として使われてい
た。その時の印象は、「日本のそれに比べて、は
るかにボリュームがあり、太陽系から宇宙論まで
広い対象がカバーされているな。」というもので
あった。かならずしも天文学を専攻するのではな
い多くの学生にとって、一生で最後の系統的に天
文学を学ぶチャンスかもしれないことを考える
と、この意味は大きい。
 この本のことは私が天文学の授業をするときに
紹介したり、教材に使ったりして、ずっと気にか
けてきたのだが、この本には非常に大きな特徴が
ある。それはほぼ3年間おきに内容の改定が行わ
れているということで、現在のものは第6版にあ
たる。天文学の進歩は早い。新しい観測装置、ガ
ンマ線バースト源、太陽系外惑星系などの新しい
天体現象、それを説明する理論、それらを普段に
取り込んで、豊かな天文学研究の現状をそのもっ
とも近い理解者である受講学生に伝えてゆくこと
を目指して著者(第4版まではKaufmann、第5版
以降はFreedman)は改定を続けているという。
 第6版から新たに加わった題材は、Mars 
Global Surveyor、Chandra X線望遠鏡、ESO VLT
望遠鏡などの新しい観測装置から得られた結果で
あり、褐色矮星、火星やエウロパの表面下の水の
氷の存在、I型超新星による宇宙論パラメータの
決定や宇宙定数の存在、ガンマ線バースト源、中
質量ブラックホールといった新しい天体や天体現
象に関する発見である。
 もう一つの特徴は、全面カラー印刷ということ
である。コスト面ではカラー印刷はおよそ100ド
ルという本の値段に影響大と思われるが、それに
もまして、天体の写真の表現力はグレースケール
(教科書の中にはほとんど写真のないものも多
い)や線画とは比べ物にならない。多くの天体の
疑似カラー表現についても、どの波長の電磁波に
よる観測かそれとわかるように、R(電波)、I
(赤外)、V(可視)、U(紫外)、X(X線)、G
(ガンマ線)という表示が加えられている。また
グラフや説明の図などについても、たとえばHR図
の右側の星を赤く、左側を青く表示するなど、天
体の現実の色による表示をおこなって理解を助け
ようとする姿勢が見られる。
 もう一つの特徴は、やっかいな計算式(潮汐力
の導出など)はボックスというページに切り分け
られていて、式を飛ばすことを推奨しているわけ
ではないが、得意でない学生は飛ばしてもよいこ
とになっている。
 またCD-ROMが付属していてQuickTime形式など
のアニメーションなどを見ることができるのも理
解を助ける。ようこう衛星で取られたX線で見た
太陽の動画やかに星雲のパルスの動画などの実際
の天体の時間変化が見られるのも天体の持つ時間
スケールを変えて見せてくれるもので興味深い
し、超新星爆発時の物質混合の模様などシミュ
レーション結果を可視化したものは、そのままで
は観測できない物理過程をシミュレーションを通
じて疑似観測でき興味深い。
 このように、学部レベルの天文学の教科書とし
て特色あるものであるといえよう。翻訳が得られ
ればと思うが、むつかしいのであろうか。
富阪幸治(国立天文台)