書評
採択される科研費申請ノウハウ
―審査から見た申請書のポイント
岡田益男 著
アグネ技術センター 3,800円+税,180頁
解説書
お薦め度教☆☆☆★★

評者も,この表題と「科研費のベテランがつい
にノウハウ公開!」との帯広告にひかれて買って
しまった一人である.ご存じのように,科研費
(科学研究費助成事業)というのは,文部科学省
が行っている学術研究に対する競争的資金助成事
業で,これがなければ研究が回らない,天文学業
界でもたいへんお世話になっている研究資金であ
る.本書は,科研費とそれに密接な関係のある日
本学術振興会特別研究員( いわゆる学振DC, PD)
に採択されるには何が必要かをまとめたノウハウ
本である.著者は現・八戸工業高等専門学校長,
東北大名誉教授で材料工学がご専門,もちろん,
外部資金審査歴多数のこの道のベテランである.
本書は,例えば申請書の字の大きさや図の多少と
いった申請書の見え方もそうだが,これが主では
なく,戦略の立て方とそれを申請にどう反映させ
るかを扱っている.著者の言葉を借りれば,「科
研費は研究者がこれから研究を実施したい『熱い
思い』を訴えるものである」(科研費のアウトライ
ン),「科学論文と異なり,(略)必ずしも研究提案
が成功するとは限らず,それでもどのような視点
で,どのように挑戦するかという熱い思いを記載
し」(採択される申請書の書き方),「申請研究結果
の普遍性,波及性,学際性などを,思い切って大
風呂敷を広げるつもりで示す」(申請書の各項目の
書き方)など,審査員が真剣に読んでもらえる申
請書にするためのノウハウを込めている.ただ,
科研費は,採択,配分などの実施方法,さらには
審査委員名も審査終了後には公開されており,公
募要項を読み,科研費のWEBページを分析的に
読めば,本書の内容の多くは読み取れるだろう.
そうはいっても,「多くの研究機関の研究者が基
盤研究と,この挑戦的萌芽研究に併願する傾向が
ある」「挑戦的萌芽研究は,採択率は25.8%と高い
ようであるが, 基盤研究(SAB) や若手
(A)(評者注: これらは研究資金で小規模の基盤
研究(C)や若手(B)と比べて激戦である)と
の重複申請が可能であり,レベルが高く激戦種目
である.」とか言われると,「やっぱりね」と
「ほー」が同居する.これまでに受けた研究費と
その成果等として「多くの外部資金獲得者は関連
研究のみを,数少ない外部資金の申請者は拡大解
釈して,できるだけ多くの事例を記載する」のだ
といわれると妙に安心したりする.つまり,私の
ように天文学の研究をそれなりの期間続けてきた
者にとっても,自分なりの分析,自分なりの戦略
といった科研費への方法論をチェックする機会を
与えてくれる.もちろん,これから研究者のキャ
リアを始める若手にとっては,科研費の全体的考
え方とともに,実践的ノウハウを知る良い手引き
書となっている.
この話題に興味をもつ天文月報の読者の割合を
考えて,☆は三つとしたが,研究者や研究者を目
指す大学院生には有意義な一冊と評価する.
富阪幸治(国立天文台理論研究部)