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詳細
宇宙背景放射による原初磁場検出の可能性
2013. 11. 11
English
概要
磁場は、天文・天体物理学の主要な分野で重要な役割を担っている。一方、宇宙論においても無視できない影響が示唆されており、初期宇宙に存在すると予想される”原初磁場”の研究は、国内外で活発に行われている。国立天文台理論研究部の山崎大 研究員、名古屋大学の市來 浄與 助教、および熊本大学の高橋 慶太郎 准教授の研究グループは、宇宙背景放射の偏光揺らぎから、原初磁場が強く制限でき、将来の観測研究の精度向上によっては、原初磁場の強度と特徴的なスケールが検出できることを示した。
著者
山崎 大 (国立天文台 理論研究部 研究員)
市來 淨與 (名古屋大学大学院 理学研究科 宇宙論研究室 助教)
高橋 慶太郎 (熊本大学大学院 自然科学研究科 准教授)
*本研究は、2013年11月5日にPhysical Review
D
にアクセプトされました。
Constraints on the multi-lognormal magnetic fields from the observations of the cosmic microwave background and
the matter power spectrum
[arXiv:1311.2584]
Dai G. Yamazaki, Kiyotomo Ichiki, and Keitaro Takahashi
Accepted Nov 5, 2013
詳細
宇宙の初期の起源を持つ可能性がある磁場が銀河団スケールに存在していることが観測によって確認されてきた。 最近の研究の結果、このような"原初磁場"が、初期密度場や宇宙背景放射の温度・偏光揺らぎに影響を与えることが分かってきた。
観測と理論計算の簡単な比較から、原初磁場のエネルギー密度が、従来から研究されているインフレーション起源のエネルギー密度揺らぎと同等、もしくは小さいことがわかっている。故に、原初磁場の宇宙全体に対する影響を調べる際も、インフレーション起源のエネルギー密度揺らぎの手法を応用し、原初磁場の相関関数とパワースペクトルを用いるのが一般的な研究手法であった。我々はその手法をさらに発展させ、数値的に原初磁場のパワーを導出するプログラムを開発し研究に利用してきた。原初磁場がインフレーション起源の場合は、そのスペクトルはpower law(冪乗則)で与えられると仮定できるが、インフレーション以外の磁場生成を研究する際は、他の空間分布を考慮することが必要となる。インフレーション以降の物理現象は、注目すべき物理現象が生じた時代のホライズンスケールや、光子・電子といった宇宙論的な流体を構成する粒子の平均自由行程等から算出される特徴的スケールを持つ。そこで我々は、インフレーション以外を起源に持つ原初磁場を研究するために、特徴的スケールと空間的な広がりを同時に考慮できる対数正規分布を原初磁場の空間分布を与える関数として採用した。しかし、冪関数でパワーを与えた時と同様に対数正規分布でパワーを与えた場合も、解析的な方法では、近似の誤差が大きすぎて定量的な研究ができない。そこで先行研究と同様にして、数値計算によりパワースペクトルを算出するプログラムを開発し、宇宙背景放射や物質密度揺らぎを計算するためのプログラムに組み込み、磁場強度・分散・平均(分散は空間分布の広がりを、平均は特徴的スケールを与える)をパラメータとした。
パラメータ
磁場強度
|
B
(
k
= 10
-1
Mpc
-1
)|
< 4.7 nG (95 % C.L.)
|
B
(
k
= 10
-2
Mpc
-1
)|
< 2.1 nG (95 % C.L.)
|
B
(
k
= 10
-3
Mpc
-1
)|
6.2 ± 1.3 nG (68 % C.L.)
|
B
(
k
= 10
-4
Mpc
-1
)|
< 5.3 nG (95 % C.L.)
|
B
(
k
= 10
-5
Mpc
-1
)|
< 10.9 nG (95 % C.L.)
表1:
k
= 10
-1,2,-3,-4,-5
Mpc
-1
における原初磁場の制限. k=10
-3
の磁場強度を、下限まで制限できた。
図1
k
= 10
-3
Mpc
-1
の原初磁場の制限. 青い曲線は 宇宙背景放射の偏光揺らぎ(B mode)を使わない場合、 2赤い曲線は、B-modeを使った場合の原初磁場の制限。 B-modeを使うと、原初磁場をより強く制限できることがわかった。
宇宙背景放射の温度揺らぎと偏光揺らぎの観測結果と、我々の原初磁場を考慮した理論計算を比較して、 磁場強度と平均を制限した結果が図1と表1である。 表1から、k=10
-3
Mpc
-1
以外の特徴的スケールをもつ磁場は上限だけしか制限できなかった。 一方で、表1と図1から特徴的スケールがk=10
-3
Mpc
-1
の磁場は、2.5 σ で下限まで制限できた。 この制限は、宇宙背景放射の偏光揺らぎ(B mode)に対する依存度が高く、さらに、B mode 観測は、ほとんど下限が得られていないため、原初磁場の存在を確定するにはいたらなかったが、原初磁場を検出するには、B mode 観測が非常に有効であることを確認できた。
将来計画されている宇宙背景放射偏光揺らぎの観測により、より精度の良いデータが得られれば、我々の研究手法により、原初磁場を検出できであろう。