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宇宙背景放射と背景原初磁場
---原初磁場効果の修正---
2014. 03. 31.

概要
   銀河や銀河団において磁場が観測されており、その起源の有力な候補に”原初磁場”がある。原初磁場が宇宙の極初期にどのような影響を及ぼし、その効果がどのように観測されるかという研究は、国内外で活発に行われている。 当研究で国立天文台理論研究部の山崎大 研究員は、いままで見落とされていた背景原初磁場が宇宙背景放射に及ぼす影響を初めて解析した。 その結果、背景原初磁場を正しく考慮した場合、宇宙背景放射温度揺らぎの最初のピークの位置を大きいスケールの方へずらし、振幅を小さくすることがわかった。 さらに、宇宙背景放射から、原初磁場の生成過程の情報を取り出すことや、原初磁場の非線形領域の時間進化モデルの検証、および、 標準宇宙論パラメータと背景原初磁場のエネルギー密度との相関関係についても議論した。
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著者
山崎 大 (国立天文台 理論研究部 研究員)

*本研究は、2014年03月31日にPhysical Review Dにアクセプトされました。

CMB with the background primordial magnetic field
Dai G. Yamazaki
Accepted 31 March 2014
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詳細
   宇宙背景放射から、宇宙に関する様々な情報を引き出すことができる。 たとえば、宇宙背景放射温度揺らぎの最初のピークと位置と振幅から、光子とバリオンが一流体とみなせる時代の音速やポテンシャルの変化の情報を引き出すことができる。 磁場があると流体の音速が増加し、ポテンシャルの時間進化にも影響を与えるため、宇宙背景放射の最初のピーク付近の観測データからも磁場の情報を引き出すことができる。

   背景磁場の強度の宇宙全体での平均は0であるが、 背景磁場のエネルギー密度 (ρPMF) の宇宙全体での平均は有限である。 ビッグバン元素合成から制限した背景磁場のエネルギー密度(Yamazaki and Kusakabe, 2012)は、宇宙背景放射温度揺らぎの最初のピーク付近で無視できない影響を与えるのに十分な大きさであった。

   インフレーション時に原初磁場が生成したと仮定した場合、そのスペクトルは、power law(冪乗則)で与えられる(参考:Yamazaki, et al. Phys. Rep. 517, 141, 2012)。 この場合、磁場のパラメータは、 コヒーレンススケール &lambda での磁場強度; Bλ とスペクトル指数: nBである。

当研究では、パワーロウでスペクトルを与えた背景原初磁場の宇宙背景放射温度揺らぎに対する影響を、 背景原初磁場のパラメータごとに解析し、 標準的な宇宙論パラメータと背景原初磁場パラメータの縮退について初めて調査した。

Fig. 1; 宇宙背景放射温度揺らぎに対する背景原初磁場と標準宇宙論パラメータの寄与。 図にマウスを重ねたさいに表示される図(b)は、 バリオン密度とコールドダークマター密度を調整したものである。 黒線は背景原初磁場の影響を考慮していない理論線。 赤線は背景原初磁場の影響を考慮した理論線で、背景原初磁場のパラメータは次の通りである: ( nB, Bλ, kmaxMFγ) = (-2.0, 10 nG, 1500 Mpc -1, 0.0160). 図(b)の赤線以外の標準宇宙論パラメータは、 (Ωb, ΩCDM, ns, 109Δ2R, H0, τ, r) = (0.0442, 0.210, 0.992, 2.26, 72.6, 0.091, 0.38) である。 一方、図(b)の赤線で、ほかと異なるパラメータはバリオン密度とコールドダークマター密度で、その値は、(Ωb, ΩCDM) = (0.0461, 0.195)である。

   背景原初磁場は、強結合した光子-バリオン流体の音速を増加させ、重力ポテンシャルの成長を阻害す。 結果として、背景原初磁場は、宇宙背景放射温度揺らぎの最初のピーク付近の振幅を小さくし、ピークの位置を大きいスケールへずらす[Fig. 1(a)]。

   背景原初磁場のエネルギー密度は、最小スケールに依存し、その最小スケールは、背景原初磁場の生成モデルに依存する。 故に、背景原初磁場のエネルギー密度の制限から最小スケールを制限することができれば、背景原初磁場の生成モデルの情報を得ることができる。また、最小スケールを制限は、非線形領域の原初磁場の時間進化モデルの検証にも役立つ。 そこで、当研究では、背景原初磁場の最小スケールがフリーパラメータである場合も解析した。 その結果、背景原初磁場とバリオン密度の関係は、正相関であり、 ダークマターとは負相関であることがわかった。 [Fig. 1(a) and (b)]. これらの結果は、正しく原初磁場の初期宇宙における振る舞いを理解するためには、宇宙論的観測から背景原初磁場と標準宇宙論パラメータを同時に制限する必要があることを示している。

   宇宙論的観測と当研究で修正された原初磁場のモデルを適用した理論計算を比較することにより原初磁場のパラメータを制限できれば、 その生成と時間進化のモデルのより正確に議論できるようになるであろう。

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