Plasma Physics Memo

線の保存条件

磁気流体力学(MHD)では、方程式系を閉じるために 以下のプラズマ理想条件を仮定します。 \begin{align} \vec{E} + \vec{V}\times\vec{B} = 0 \tag{1} \end{align} プラズマ粒子の運動がほぼ $\vec{E}\times\vec{B}$ ドリフトである場合、 この近似は妥当です。しかし、この理想 MHD 近似の範囲内では、 磁気リコネクションは起きないことが理論的に保証されています。

ここで、磁力線の「繋ぎ変え」に必要な条件を考えてみましょう。 上の図のように、同じ磁力線上に2つの流体要素(緑と赤)があったとします。 磁力線が繋ぎかわる(=磁気リコネクションが起きる)と、 2つの流体要素は時間発展後に別々の磁力線に乗っているはずです。 つまり、2要素が常に同じ磁力線上にあり続けるかどうかが 磁気リコネクションの判定条件になります。 これは線の保存条件(line preservation)と呼ばれていて、 MHD の古典の1つである Newcomb の論文 [1] で議論されています。 本稿では最近の議論 [2] を少しだけアレンジした導出方法を紹介します。

Ohm の法則の非理想項を $\vec{R}$ とおきます。 \begin{align} \vec{E} + \vec{V}\times\vec{B} = \vec{R} \tag{2} \end{align} 磁場の時間発展は誘導方程式に従いますが、 非理想項は最後の $\nabla \times \vec{R}$ 項(磁束凍結項)に現れます。 \begin{align} \frac{d}{dt} \vec{B} = \nabla \times (\vec{V} \times \vec{B}) + (\vec{V} \cdot \nabla) \vec{B} - \nabla \times \vec{R} \tag{3} \end{align} 次に、2つの流体要素が限りなく近くにあるとして、 その間の微小距離を $d\vec{l}$ とおきます。 線要素が背景場 $\vec{V}$ の中を移流すると \begin{align} \frac{d}{dt} d\vec{l} = (d\vec{l} \cdot \nabla) \vec{V} \tag{4} \end{align} となります。この2つを使って、 $d\vec{l}\times \vec{B}$ の時間発展を考えてみましょう。 \begin{align} \frac{d}{dt} (d\vec{l}\times \vec{B}) = - (d\vec{l}\times \vec{B}) (\nabla \cdot \vec{V}) - [(d\vec{l}\times \vec{B}) \times \nabla ] \vec{V} - d\vec{l} \times (\nabla \times \vec{R}) \tag{5} \end{align} 線要素 $d\vec{l}$ が 最初に磁場と平行($d\vec{l} \parallel \vec{B}$)だったとすると、 \begin{align} \vec{B} \times (\nabla \times \vec{R}) = 0 \tag{6} \end{align} の条件が満たされているとき、 $d\vec{l}\times \vec{B}=0$ が時間発展しないことが (5) 式からわかります。 言い換えると、(6) の条件が成り立っているとき、 同じ磁力線に貫かれていた2つの流体要素は、 その後も同じ磁力線上にあることが保証されます。 これが線の保存条件です。 磁力線がアイデンティティを保つ条件、と考えても良いでしょう。

理想 MHD では常に (6) 式が成り立ちますから、 磁気リコネクションは起こりえません。 厳密に言うと、$\vec{B}=0$ のときに (6) 式に至る議論は破綻しますが、 その場合も磁束を輸送するために $\vec{R} \ne 0$ が必要です。 ですから、少なくとも磁力線が繋ぎかわっているリコネクション領域付近では、 理想条件が破れている必要があります。

多成分プラズマや運動論プラズマでは、 (1) 式のプラズマ理想条件を 粒子種ごとに議論する必要があります。 そして、大事なことですが、理想条件が破れていたとしても 磁力線が繋ぎかわらないこともよくあります。 簡単な例として、圧力勾配のある境界層で静止している イオンを考えてみましょう。 イオン流体のモーメント式からは、次のような関係が求まります。 \begin{align} \vec{E} + \vec{V}_i\times\vec{B} = \frac{1}{e n_i} \nabla P_i \tag{7} \end{align} ここで $P_i$ はスカラー圧力で、簡単のため、 密度勾配(※)やシアー応力などは考えないことにします。 (7) 式はイオン流体にとっての理想条件を破っていますが、 (6) 式が成り立つことがすぐにわかるでしょう。 磁気リコネクションの運動論研究では、プラズマ理想条件の破れ ($\vec{E} + \vec{V}_s\times\vec{B} \ne 0$)を議論することが多いのですが、 それが磁気トポロジーにとって意味あるものなのか、 よく考える必要があります。

※密度勾配があったとしても、順圧(barotropic; $\nabla n_i \parallel \nabla P_i$)の場合、線の保存条件は成立します。[3]

参考文献
  1. W. Newcomb, Ann. Phys. 3, 347 (1958)
  2. F. Pegoraro, Europhys. L. 99, 35001 (2012)
  3. V. M. Vasyliunas, J. Geophys. Res. 77, 6271 (1972)