理論コロキウム 2010 アブストラクト

04/15柴崎徳明(立教大学理学部物理学科教授)中性子星研究の現状
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中性子星の内部で中性子は超流動の状態にあるといわれている。この考えはパルス振動数が突然ジャンプするグリッチという現象の観測からくる。グリッチのモデルとしては超流体渦糸のピン外れが有力視されている。普段は原子核格子にピン留めされている渦糸が何らかの原因で突然ピンが外れ、角運動量が超流体から通常物質に輸送されるというモデルである。このモデルはグリッチの標準モデルになっているが、最近このモデルに疑問を呈する研究者もみられる。本講演では中性子星内部の物質の状態、グリッチのメカニズムなどについて研究の現状を紹介する。
04/22富阪幸治 (理論研究部アウトフローと第1コアの観測的可視化 (Observational Visualization of Molecular Outflow and First Core)
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分子アウトフローは星形成の初期段階である第1コア期から生じ、星から過剰な角運動量を逃がす重要な役割を担っている。これはアウトフローを磁場駆動するモデルの自然な帰結であるが、低質量星第1コア期の直接的な観測例は未だ存在しないのが現状である。ALMA等の観測機器による観測可能性、すなわち磁場駆動モデルにもとづいて観測天体が第1コアおよびそこからのアウトフローである証拠がどのように観測に刻み込まれはずなのかを、MHD、RMHDシミュレーションの結果を用いて、観測的可視化を行うことで検討した。入れ子状格子でこれらを可視化する計算方法について述べ、高密度をトレースするCS分子線と磁場の方向を示すダスト熱輻射の偏光を取り上げそれらの観測予想について述べる。
05/12中村文隆 (理論研究部 Role of Magnetic Field and Protostellar Outflows in Clustered Star Formation
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銀河系の星の大半は星団で形成される。星団形成領域では、 星間磁場や先に生まれた原始星からのアウトフローが重要 な役割を果たす。我々は、星団形成領域で起こる星形成過 程を解明するために、3次元MHDシミュレーションを行っ ている。我々の最近のシミュレーションによると、星団形 成領域では、コアの自己重力よりも、原始星アウトフロー によって駆動された超音速乱流が、星形成コアの形成や進 化に多大な影響を及ぼすことが分かってきた。また、観測 される星形成コアの力学的性質を再現するためには、力学 的に重要な磁場が必要であることも分かってきた。これは、 星団形成領域で起こる星形成過程は、従来考えられてきた 星形成過程(コアの自己重力によって誘発される収縮過程) と異なることを示している。本講演では、星団形成領域で の星形成過程における磁場と原始星アウトフローの役割に ついて紹介する。
05/19小久保英一郎 (理論研究部現実的な合体条件下での地球型惑星形成
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太陽系形成の標準シナリオでは、地球型惑星形成の最終段階は火星サイズの原 始惑星どうしの衝突合体と考えられている。この過程は多体シミュレーション によって調べられているが、これまでの全ての研究では、完全合体(衝突した ら必ず合体する)が仮定されていた。しかし、実際は衝突パラメータや衝突速 度が大きい衝突は合体に至らない。今回、我々は SPH 法を用いて原始惑星ど うしの衝突実験を行って合体条件を導出し、その条件を用いて多体シミュレー ションを行い、原始惑星からの地球型惑星形成を調べた。その結果、巨大衝突 段階において、約半数の衝突は合体にならないことがわかった。しかし、惑星 の質量分布、軌道分布、形成時間、自転軸傾斜角分布は、完全合体の場合とほ ぼ同じになる。典型的には、地球型惑星領域に2個の地球サイズの地球型惑星 が約1億年かけて形成される。自転角速度は完全合体の場合に比べ30%ほど小さ くなった。これは現実的な合体条件では大きな角運動量の衝突は合体にならな いためである。本発表では、現実的な合体条件下でどのように地球型惑星が形 成されるのかを完全合体の場合と比較しながら示す。また、衝突破片による力 学的摩擦による地球型惑星の軌道進化についても議論する。
05/26行方 大輔 (理論研究部銀河系中心へのガス供給と核周ガス円盤の進化
アブストラクト
銀河中心領域で起こる様々な過程は、銀河の進化と密接に関 係していると考えられている。これらの活動の維持には、銀 河中心領域へのガス供給過程が重要な役割を果たしている。 これまで我々は、最近ガス供給が起きたと考えられる銀河系 (我々の銀河)中心領域を対象に、銀河中心へのガス供給過程 の研究を数値シミュレーションを用いて行ってきた。本講演 では、銀河系中心の核周ガス円盤スケールから銀河中心への ガス供給過程を、数値流体/N体シミュレーションを用いて調 べ、観測と比較した結果を報告する。銀河系中心の観測と計 算結果の比較から、銀河系中心の星形成率はlocal Keniccutt-Schmidt lawから予測される率以下に抑制されてい る可能性があることがわかった。この場合には、大質量ガス クランプの落下による銀河中心へのガス供給が効果的に起こ ることがわかった。
06/02小山洋 (理研) Numerical Modeling for Galactic ISM and Star Formation
アブストラクト
星と星間ガスはニワトリとタマゴのようにお互いの性質に影響を 与え合っている関係にある。この連鎖を紐解くには両者の物理的 な性質を同時に解かなければならない。これは現在の計算機資源 をもっても難しく、未だに取り組まれている課題である。我々は 星が星間ガスに与える影響を少ないパラメーターで表現すること で星間ガスと星との関係を示唆する関係を導いた。本講演ではそ の普遍性・多様性について論じる予定である
06/09小出 眞路 (熊本大学)Dynamics of Relativistic Plasmas around Black Holes
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活動銀河核・マイクロクエーサーからの相対論的ジェットの形成機構 は未だ謎であるが,その加速と絞り込みを同時に説明するものとして 磁場によるモデルが注目されている。磁気的モデルにおいて相対論的 ジェットの加速領域はブラックホール近傍に達するのでブラックホール 付近でのプラズマと磁場の相互作用を理解することが重要である。 最近,一般相対論的MHD(GRMHD)を用いた数値計算により,ブラック ホールのまわりでの磁場とプラズマのダイナミクスがどのように 相対論的ジェットを形成するのかが明らかになってきた。 一方,これらの計算は電気抵抗をゼロとした理想GRMHDの計算に限られて いるにもかかわらず,計算結果には磁気島の形成が見られる。 この磁気島の形成を引き起こす磁気リコネクションは数値的なものと考え られ,その数値的な誤りがジェット形成全体に大きな影響を与える おそれがある。一方,相対論的な磁気リコネクションを取り扱うことは 因果律とも関係し一筋縄にはいかない。そこで,わたしたちは一般化 されたGRMHD方程式を導入することによりこの問題にアプローチしている。 本講演ではこれまでの理想GRMHD数値計算を振り返り,その問題点を 解決すると期待される一般化GRMHDを紹介する。また,その示唆する 奇妙な現象についても触れる。
06/16須田拓馬金属欠乏星データベースを用いた銀河系考古学
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金属欠乏星は宇宙初期における星形成史探査とし ての有用 なツールであり、観測データの蓄積により統計的な議論が 可能となってきている。本講演では、北大グループが開発し た金属欠乏星データベ ース(SAGA database: http://saga.sci.hokudai.ac.jp/)を用いて金属欠乏星の諸 性質を明らかにし、銀河系の化学進化について議論する。
06/23長滝重博 ガンマ線バーストと超新星爆発、そして超新星残骸へ
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宇宙最大爆発現象と言われるガンマ線バーストの中心エンジンは、 重力崩壊型超新星とは異なっていると考えられていますが、その 詳細は分っていません。今回私は、一般相対論的磁気流体コード を用いたガンマ線バーストジェット形成シミュレーションの結果 を紹介します。またガンマ線バーストジェットからの熱的放射現 象を数値計算しまして、最近見つかった、熱的成分を多量に持つ とも言われるガンマ線バーストGRB090902Bとの比較を行ないます。 また超新星、ガンマ線バーストに於ける爆発的元素合成の計算結 果を紹介した上で、それがどのような超新星残骸に発展していく のか、その点についての研究の現状と展望を紹介したいと思いま す。
06/30石津 尚喜 (CfCA) 微惑星の形成過程とストリーミング不安定性
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微惑星の形成過程はまだ理解されていない。圧力傾度力を受けるガス はケプラー速度より遅く公転するため、mサイズのダストは向かい風 を受け、角運動量を失い中心星に向かって落下する。このようにダス トとガスが異なる運動するときストリーミング不安定性が生じる可能 性がある。ストリーミング不安定性にはダストを濃集させる働きがあり、 数値シミュレーションでは微惑星が形成される可能性を示されている。 しかしながら、cmサイズのダストのとき、ストリーミング不安定性は ダストを拡散させる働きがあることが分かった。ストリーミング不安 定性による微惑星の形成過程を議論する。
07/07関谷 実原始惑星系円盤内のダスト層の安定性のエネルギー的考察
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原始惑星系円盤はガスとダストから成る。円盤が層流状態にあるとすると、ダス トは中心星重力と遠心力の合力を受けて、円盤中心面に向かって沈殿して、ダス ト層を形成する。中心面のダスト密度は徐々に増大し、やがでダスト層の密度が 重力不安定性の臨界密度を超えると、ダスト層は分裂して微惑星が形成される。 これが古典的な微惑星形成のシナリオである。ダストとガスの柱密度の比が太陽 組成から推測される値で与えられる場合には、実際は、ダスト層は重力不安定性 の臨界密度に達する前に、シア不安定性により乱流状態になる。ダストのサイズ が十分に小さくて、ガス抵抗力が効く時間がケプラー周期よりもはるかに短い場 合には、ダストは沈殿することはなく、重力不安定性による微惑星形成は起こら ない。ある軌道半径で、ダストの濃集やガスの散逸により、ダスト柱密度のガス 柱密度に対する比が増加した場合は、重力不安定性が起こる可能性がある。本講 演では、以上のことがエネルギーを使った簡単な考察で理解できることを示す。
07/14祖谷 元強磁場中性子星の振動と巨大フレア現象
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ソフト・ガンマ・リピーター(SGR)において、これまで 巨大フレア現象が3例観測されている。最近、このような 巨大フレア現象の減衰過程において、準固有振動(QPO) が発見された。一方で、SGRは強磁場中性子星の有力な候補 天体のひとつであることから、巨大フレア現象は強磁場中 性子星の振動に起因していると考えられている。そこで、 我々は、強磁場中性子星における固有振動を線形解析し、 観測されたQPO振動数の理論的な説明の可能性を調べている。 本コロキウムでは、最近の我々の解析結果を踏まえながら、 問題点や今後の展望を議論したいと思う。
07/21前田啓一Ia型超新星の爆発機構と観測的多様性の起源
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Ia型超新星は白色矮星の核暴走爆発であると考えられている。 その光度と光度進化のタイムスケールが良く相関するという 観測的性質のために、現在最も信頼されている宇宙論的標準 光源の一つである。 Ia型超新星の爆発機構の理解と宇宙論への 適用は表裏一体の関係にあるが、その両方において大きな 未解決問題がいくつかある。 本講演では、まずIa型超新星爆発 の二次元シミュレーションをもとにした理論的考察から、 Ia型超新星の爆発機構を特定する新しい観測手段(可視- 赤外域における後期分光観測)を提案する。 次に、実際に そのアイデアを既存の観測データに適用し、Ia型超新星爆発 が一般に大きな非対称性をもつことを示す。これは、核暴走 が白色矮星の中心からずれたところで始まることの強い証拠で ある。さらに、宇宙論への適用において懸念事項とされていた Ia型超新星のスペクトル進化の多様性が、この非対称性を 起源としていることを示す。以上から、Ia型超新星の爆発機構 と宇宙論への適用に関する未解決問題(の少なくともいくつか) が統一的なシナリオに基づき理解できることを示す。
10/06荻尾 彰一最高エネルギー宇宙線観測の現状とその最新の成果
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1990年代2つの宇宙線実験により最高エネルギー宇宙線に議論が 投げかけられた。一つはアメリカ・ユタ州のHiRes 実験であり、 1020eVを超える宇宙線は2例しか検出されなかった。一方日本の AGASA実験は10数年の観測期間に10^20eVを超える宇宙線を11例 検出した。しかしそもそも両実験は観測方法が異なるため、観測 結果(GZK機構の存否)の検証は次世代の観測に委ねられること になった。現在世界には2つの巨大空気シャワー実験が 10^20eV を超える宇宙線の観測を目的に稼動している。一つはAUGER実験 であり、一つはTA実験である。両者は共にHiResとAGASAの観測 方法を組み合わせた観測を行い、それぞれ成果を挙げつつある。 なかでもいち早く観測を開始したAUGER実験は既に10^19.5eV付近 にエネルギースペクトルの折れ曲がりを示唆する結果を出して いるが、それがGZKカットオフであるとの結論は出していない。 また2007年に最高エネルギー付近6x10^19eV以上の宇宙線の到来 方向とAGNとの相関があるという結果も出している。本コロキウム では、これらAUGERの結果を踏まえ、TA実験の最新の成果を報告 すると共に、最高エネルギー宇宙線観測の現状と最新の成果全般 をその物理的背景を併せて発表する。
10/13筒井 亮 (京都大学)ガンマ線バーストで切り開く暗黒時代への距離梯子
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2009年4月23日に起きたガンマ線バースト(GRB)は残光の観測 から赤方偏移z=8.2と決定し、銀河、クエーサーの高赤方偏移 記録を更新し、ガンマ線バーストが高赤方偏移観測をリードし ていく時代がいよいよ幕を開けたと言える。GRBを光源として高 赤方偏移での星形成率、最電離時期の特定、金属量の探査などの 研究が盛んに行われているが、近年では絶対光度で数10%の分 散を持つ距離指標が見つかったことにより、GRBを"標準"光源と して高赤方偏移への距離測定に用いるという研究も注目を集めつ つある。"標準"光源としての働きは銀河やクエーサーにはない GRB特有の役割であり、ますますGRB観測の重要性は増しつつある といえるであろう。 本講演ではガンマ線バーストを用いた宇宙論のレビューと最新の 成果を紹介する。
10/20黒田仰生 (東京大学)3次元磁気流体計算による重力崩壊型超新星爆発
アブストラクト
重力崩壊型超新星爆発の爆発機構を解明する為には数値計算が 非常に有用だが、様々な物理素過程を取り入れなければならず 未だ決定的な解明には至っていない。そのような現状の中で、 重力崩壊型超新星爆発において本質的な役割を果たす強重力場 を取り扱えるよう、我々は一般相対論を取り入れた3次元磁気 流体コードを新たに作った。本研究ではそのコードを用いて、 一般相対論とニュートニアン近似で比較的低質量の15太陽質 量星の重力崩壊計算を行った。その結果どちらも概ね同様の時 間進化を得たが、一般相対論では重力の効果が若干強まり、 ショックが早く進むなどの差異は見られた。本コロキウムでは コードの紹介とともに、一般相対論での重力崩壊の計算結果や、 またニュートニアン近似での弱磁場の成長に着目した計算など、 最近我々が計算したいくつかの内容について紹介する。
11/08赤堀 卓也 (韓国忠南大学自然科学研究所)太陽の磁気回転不安定性 (MRI)とダイナモ・角運動量輸送
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我々の宇宙は電離したプラズマで満ち、それらは磁化していると考 えられている。実際、銀河団には数千万度の高温プラズマが存在し、 1-10 マイクロガウスに磁化していることがX線や電波の観測から分 かっている。しかし、この磁場(銀河間磁場)がどのようにして作 られどのような性質を持つべきかということは、まだ理論的に十分 に説明されていない。大規模構造の銀河間磁場に至っては、観測的 な証拠が乏しくほとんど謎といってよい。我々は、乱流ダイナモ理 論に動機づけられた銀河間磁場のモデルを用いて、銀河団と大規模 構造の銀河間磁場を統一的に理解することを目指している。また銀 河間磁場を探る有望な手段の一つとして、偏光電波のファラデー回 転に注目し、銀河間磁場のファラデー回転度を詳しく調べている。 その結果、現在の近傍宇宙で大規模構造フィラメントのファラデー 回転度の平均二乗偏差は1 rad m^{-2} 程度であること、確率 分布関数は対数正規分布に従うこと、パワースペクトルが1 Mpc 程度にピークを持つことなどが分かった。さらに、赤方偏移5 にまでデータをスタックし電波銀河の赤方偏移分布を考慮した結 果、フィラメントで観測されうる平均二乗偏差は数 rad m^{-2} 程度に達すること、確率分布関数はやはり対数正規分布に従うこ と、パワースペクトルは0.2度スケールにピークを持つことが 分かった。我々の予測は次世代の国際大型干渉計Square Kilometer Array (SKA) で検証されうると期待されることから、オーストラリアの ASKAP POSSUMグループ、日本のSKAコンソーシアムや、また韓 国で検討が始まっている。本講演では以上の結果について紹介した 上で、ハイパスフィルター画像処理によって天の川銀河成分を除去 する新しいコンセプトについても紹介する。
11/10政田洋平(神戸大学)太陽の磁気回転不安定性 (MRI)とダイナモ・角運動量輸送
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太陽内部の磁場増幅(=ダイナモ)と角運動量輸送メカニズムは、 太陽物理学最大の謎であり、いずれも太陽内部回転則の起源と密 接な関わりを持つ。日震学の手法で観測可能な太陽内部回転則を 詳細に調べ、回転の駆動・維持機構を理解する事は、これら未解 決問題の重要な切り口になる。回転の起源を理解することが、太 陽ダイナモ・角運動量輸送問題の本質であると言っても過言では ない。 ロスビー数 (~ 慣性力/コリオリ力) が十分小さい太陽内部では 、コリオリ力と気圧傾度力がバランスし、温度風平衡が保たれる (Pedlosky 1987; Kitchatinov & Rudiger 1995)。これが、テイ ラー・プラウドマン状態からのずれを引き起こし、太陽対流層で 観測されている回転軸に並行な角速度勾配を生む原因になると考 えられている (c.f, Thompson 2003)。つまり、温度風平衡は、 緯度方向のエントロピー勾配が対流層の差動回転をドライブする 本質的な物理であることを示唆する (Balbus 2009)。 我々は、磁気回転不安定性(MRI)が駆動するMHD乱流の、熱・エン トロピー生成機構としての役割に注目し研究を進めている。今回 我々は、MRI乱流による乱流加熱が、太陽内部の温度風平衡に対し どのような影響を及ぼすか調べた。本研究の結果、1) 温度風平衡 が予言する高緯度tachoclineの異常熱生成領域と、MRI乱流の駆動 領域が一致すること、2) MRIによって維持される乱流加熱と極向 きの物質輸送を考慮に入れる事で、tachoclineにおける異常熱生 成とそれに伴うwarm poleの形成を、定量的に矛盾無く説明できる ことを明らかにした。 本講演ではMRI乱流の物理的性質とその温度風平衡の中での役割を 解説するとともに、MRIとダイナモメカニズムとの繋がりについて も議論する。
11/17押野 翔一 (総研大)Particle-Particle Particle-Tree: A Direct-Tree Hybrid Scheme for Collisional N-Body Simulations
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これまで衝突系N体計算では計算量が粒子数の2乗に比例するスキーム が主に使われてきた。今回、我々は計算量がN log Nに比例する新しい アルゴリズムを開発し性能評価を行った。 このアルゴリズムでは、粒子間重力を距離に依存するカットオフ関数 によって分割し重力の取扱いと時間積分法を切り替える手法である。 これにより、遠距離の粒子間重力にはツリー法を使うことで計算量を 抑え、近距離の粒子間重力は短い時間刻みを使い近接遭遇を計算する ことが可能となる。本発表では、このスキームを惑星形成過程に適用 し計算精度と計算量がこのスキームのパラメータによってどう変化す るかについて紹介する。
11/22中里直人(会津大)GPUによるN体計算の高速化
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多くの天体物理学計算で利用されているN体計算を高速化する ために、どのようにチップに載った並列計算機であるGPUを利 用するかについて説明します。最初にO(N^2)のアルゴリズム による重力相互作用計算について簡単に紹介したあと、銀河進 化や粒子シミュレーションで必要となるより高速なO(N log N) アルゴリズムであるTree法の実装と、そのプログラミング手法 について解説します。最後にTree法のの応用として、SPH法に よる白色矮星の合体衝突計算について現状を報告します。
12/01佐野孝好(大阪大学)弱電離円盤における磁気回転不安定
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磁気回転不安定によって駆動される磁気乱流は、降着円盤 の角運動量輸送機構として最も有望視されている。この不 安定は差動回転円盤に弱い磁場が存在すれば成長すること ができるため、様々な状況の降着円盤で起こることが期待 されている。角運動量輸送効率を知るためには、不安定の 非線形飽和レベルを明らかにしなければならない。この講 演では、これまでの数値シミュレーションによって飽和機 構がどの程度まで理解されているかを報告する。また、飽 和を決める重要な物理である磁場の散逸による効果や、実 際に散逸が有効になる弱電離円盤(原始惑星系円盤、周惑 星円盤)の進化に与える影響などを紹介したい。
12/02鈴木 重太朗(総研大)Neutrino Temperature Dependence of the Detection rate of Supernova Relic Neutrinos
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本研究は、超新星背景ニュートリノを観測手段として用いること により、ニュートリノ振動パラメータ及び超新星ニュートリノ温 度を従来より厳密に制限することを目的とする。重力崩壊型超新 星爆発の際には多量のニュートリノが発生し、重力的束縛エネル ギーの大半を運び去ると考えられているが、ニュートリノは他の 物質との反応性が乏しいため、過去の超新星爆発の際に発生した ニュートリノは背景ニュートリノ(以下SRNと略)として現在も宇 宙空間を飛び交っていると考えられる。但し、そのエネルギース ペクトルを精度よく予測するにはいくつかの不定性が障害となる と考えられる。本研究では、SRNエネルギースペクトルを決定する 各要素についての不定性およびそれらを減ずる方法を紹介し、こ れを踏まえて現在計画中の10の6乗トン級水チェレンコフ型検出装 置において得られるエネルギースペクトルを予想する。そして、 更にこれを踏まえて、ニュートリノ振動パラメータおよび超新星ニ ュートリノ温度へ制限を加え得る可能性を議論する。
12/08武井 大 (立教大学)X線による古典新星の研究
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古典新星とは、白色矮星と恒星からなる連星系で起こる 爆発である。白色矮星の表面で水素の核融合反応に火が つく事で発生する。爆発後は、電波からガンマ線という 幅広い波長帯で明るくなり、そのタイムスケールは波長 ごとに大きく異なる。なかでもX線放射は、本天体を理 解する上で重要な鍵となる。X線の観測からは、白色矮 星の質量や飛び散ったガスの化学組成、爆発による衝撃 波の振る舞いなどを調査する事が可能となる。しかし、 爆発は突発的で時間変化が速いため、衛星を用いて良質 なX線の観測データを得るのは極めて困難だった。そこ で、数年前より我々は、世界中のアマチュア観測者や衛 星チームと協力したX線即応観測、および、既に公開さ れているX線の観測データを用いた突発天体探査を実施 して、この予測不可能な天体の研究に取り組んできた。 米国のスウィフト衛星や日本のすざく衛星、欧州のニュ ートン衛星を用いて4つの古典新星を観測し、いずれも 良質なX線スペクトルを得る事に成功した。結果、古典 新星から過去最高となるエネルギーのX線を検出、さら に非熱的X線放射の証拠を発見するなど、数々の成功を 収めてきた。本講演では、近年ようやく可能となってき たX線による古典新星の研究、および今後の発展につい て紹介する。
12/15梅田秀之(東京大学)宇宙初期から現在にかけての巨大質量星の生成と進化 ~ペア不安定型超新星は存在するのか?~
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0Msunを超えるような大質量星の大部分は進化の最後に鉄の核 を形成し重力崩壊する。その例外として約140-280Msun(質量放出 が無い場合)の星は酸素燃焼の段階で、星の中心部が電子ー陽電 子対の生成による不安定領域に入ることにより急速に崩壊し、急激 に解放される酸素燃焼のエネルギーによって爆発すると考えられて いる。このようにして生じる超新星はペア不安定型超新星 (Pairinstabillity supernova, PISN)と呼ばれる。 現在の巨大質量星は激しく質量放出するためPISNは現存しない だろうと考えられてきたが、最近非常に明るい超新星SN2007biが PISNではないかという報告がなされた。本講演では、まずこれがど の程度ありうるのかを大質量星の質量放出の不定性を考慮しながら 議論する。 次に、金属が無いため質量放出が少ない第一世代の(PopIII)星の 進化について議論する。PopIII星の多くはPISNとなったのでな いかとしばしば言われるが、これまでの金属欠乏星の組成観測では その兆候が見つかっていない。PopIII星は現代の星と異なり、主系 列星の段階となった後も大量に質量降着をするため、質量を一定と 仮定した進化計算は現実的であるとは言い難い。そこで我々が行っ てきた質量降着がある場合のPopIII星の進化計算を紹介するととも に、典型的なPopIII星はPISNとなるのか、ならないのか を議論する。またPopIII星の中心部では暗黒物質の密度が比較的大 きくなるため、それが対消滅するタイプである場合には星の進化に 多大な影響を及ぼすことがわかってきた。特に、暗黒物質の対消滅 によって支えられている星は「ダークスター」と呼ばれるが、その 性質や観測可能性について議論を行う。
1/5金 美京(東京大学)Orion-KL領域のH2O, SiOメーザー観測による アウトフローの3次元運動構造解明
アブストラクト
理論的枠組みが確立された低質量星形成過程に比べて、 大質量星形成過程は力学的相互作用説と円盤による降 着説の間でまだ議論が続いている。大質量形成過程の 理解の難点のひとつは大質量星形成領域が遠く、原始 星が深く埋もれているため、大質量原始星の観測が難 しいことである。Orion-KL領域はもっとも近い大質量 星形成領域であり、この領域の高速度/低速度分子ア ウトフローや多数の電波/赤外線源は大質量星形成過 程研究の重要な対象である。特にアウトフローの中心 に位置した電波源Source IにはSiO, H2Oメーザーが付 随しており、その視線速度や固有運動から原始星周り のガスの運動を調べることができる。そこで、VERAに よるSource I周辺のSiO, H2Oメーザーの位相補償観測 を行い、メーザーの3次元運動を測定した。その結果 から 1)Source Iは約14太陽質量の大質量原始星であり、 2)その周りに回転円盤があること、 3)Source I北東ー南西方向の一定速度のアウトフロー の励起源であることが分かった。本発表では、SiO, H2Oメーザーの観測結果を報告し、Orion-KL領域のアウ トフローの起源や運動について議論する。
1/19井上茂樹(東北大学)clump cluster/chain galaxy からの円盤とバルジの形成
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現在の宇宙において、円盤銀河の多くは美しい渦状腕やバルジなど の構造を円盤内に持って存在している。我々の天の川銀河もそのひ とつである。しかし、遠方の宇宙(z=0.5~3)に見える過去の銀河 を観測すると、ガスを豊富に含み塊状の星形成領域をもった、不恰 好な姿をしている。これらの銀河は円盤銀河の形成期の姿であると 考えられており、clump cluster(edge-on ではchain galaxy)と呼 ばれている。 本研究では、こうしたclump cluster/chain galaxy が今の円盤銀 河の姿に進化していく描像を数値シミュレーションを用いて追った。 結果として、clump cluster の中で形成された巨大星団”クランプ” が、親銀河の重力による潮汐破壊や他のクランプとの合体の際に、 周囲に星を撒き散らすことによって円盤銀河を形成していく様子が わかった。つまり、円盤銀河は初めから円盤として形成されるわけ ではなく、壊されたクランプの残骸から円盤が作られるのである。 また、最終的には力学的摩擦によってクランプは銀河中心に到達 し、そこでバルジを形成する。そのバルジは、exponential な質量 分布を持ちながら、回転を持ち、また扁平した形状をしている。こ れらは現在の円盤銀河で見られるバルジのうち、pseudo-bulge とし て分類されるべきバルジの特徴である。従来のpseudo-bulge は円盤 内の渦状腕や棒状構造の作用によって作られると考えてきたため、 本研究の結果は、pseudo-bulge の新たな形成シナリオを提示してい ると言える。
1/26梶野敏貴(国立天文台)太陽系レアレスト・メタルの起源と超新星ニュートリノ
アブストラクト
元素・同位体の起源の解明は、宇宙・銀河進化の根底にあり 未だに解明されていない超新星爆発メカニズムの謎や、宇宙 創成・物質創生の謎に深く関わる素粒子の対称性の問題、地 球生命の左右非対称性の起源の問題などに新たな知見をもた らす可能性がある。今回は、太陽系で最も希少なレアメタル Ta180の起源が超新星ニュートリノにあることをどのような研 究で確定したかを議論し、素粒子物理や生命科学の謎に与える インパクトも簡単に紹介する。