理論コロキウム 2011 アブストラクト

04/20山崎大(理論研究部)宇宙論と原初磁場
アブストラクト
銀河団スケールにおける磁場は 0.1-1.0 micro-Gであることが、最近の観測から分かってきた。多くの研究者によって、そのような銀河団磁場をもっとも矛盾なく説明するには、光子の最終散乱以前から原初磁場(Primordial Magnetic Field: PMF)が存在している必要があると指摘されている。PMFは、宇宙背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)や物質密度場に無視できない影響を与えることが研究されている。当発表では、まずPMFの CMBやmatter power spectra に 対する影響を紹介し、宇宙論的な観測からPMFを制限した結果や、将来の研究計画について発表する。
04/27浅野栄治 (CfCA) 相対論的に膨張する磁気ループの自己相似解と数値実験
アブストラクト
軟ガンマ線リピータにおけるガンマ線フレアのモデルとして、マグネター表面に現れた磁気ループが相対論的速度で膨張し、磁気ループ中に形成される電流シートで磁気エネルギーを解放するというモデルが提案されている。高橋ら(2009)は、これを相対論的MHD方程式へ拡張し、磁気ループ膨張の自己相似解を求めた。本発表では、その解の特性や、数値実験との比較について議論するとともに、相対論的MHDのコード開発についても触れる予定である。
05/11須山輝明(東大RESCEU)Dark energy from primordial inflationary quantum fluctuations
アブストラクト
現在の宇宙の加速膨張は、宇宙初期インフレーション中に量子揺らぎを獲得した非常に小さい質量を持つスカラー場で説明できることを示す。このモデルに基づくと、宇宙初期インフレーションのエネルギースケールは、TeV領域であることが推定される。また、超新星、バリオン音響振動、CMBの観測データを使った、このモデルへの制限結果も紹介する。
05/18河原創(首都大学東京)地球型系外惑星の世界地図と空模様
アブストラクト
 これまで岩石惑星を含む様々な太陽系外惑星がみつかっている。 今後、もし地球のようなhabitable planetの候補が見つかったら、どのようにその星の環境や生命を探ることができるだろうか? 私たちは、地球でいえば陸地や海の分布・雲分布などの気象といった惑星表面のランドスケープから惑星環境を理解しようという観点に立ち、 そのための観測方法を模索している。
 地球の場合、惑星が自転することによる反射光の強度変化が、海・陸地・植生・雲といった表面情報を含んでいることが知られている。この観測を目的の一つとした惑星の直接撮像計画も提案されている。しかし反射エネルギーにして70%を占める雲の変動のために、ライトカーブから表面情報を抽出することは容易ではない。
 私たちは, Spin-Orbit Tomographyという、自転に加え、公転による反射光の変動を観測することで、陸地・海・植生の二次元空間分布を再構成する方法論を提案している。この方法論で、二つの測光バンドによるライトカーブを用いると雲の影響を取り除き、大陸分布や植生分布を得ることができることができる。また雲の年平均的な空間分布も再構成することが可能なので、雲をノイズとしてではではなく気象情報として利用できる。本日のコロキウムではこのSpin-Orbit Tomographyの方法論と、地球を例とした放射伝達シミュレーションによるテスト結果を中心にご紹介したい.
05/25黒田仰生(理論研究部)大質量星の重力崩壊における数値計算
アブストラクト
星の重力崩壊に伴う超新星爆発の爆発機構を解明する為には、数値計算が不可欠である。今回の発表では我々が独自に作成した数値コードを用いた、数値計算の結果について紹介する。特に強磁場が果たす役割と、重力崩壊後の中心天体から放出される重力波について述べる。我々の計算からはコアバウンス直後の中心天体がミリ秒単位で回転している場合、それに対応するkHz帯への重力波放出が見られた。しかしその後非軸対称不安定性が成長する事で、より低振動数帯への重力波放出へと移行する様子が見て取れた。
06/01江尻宏泰(大阪大学RCNP/チェコ工科大学)Neutrinos nuclear responses for neutrino studies in nuclear femto laboratories
アブストラクト
Neutrinos are key particles for particle and astro-nuclear physics. Majorana neutrino masses, solar and supernova neutrino productions and oscillations, and neutrino nuclear synthesis are well studied in nuclei as femto laboratories. Here neutrino nuclear responses are crucial. We discuss recent studies of neutrino nuclear responses for neutrinos involved in double beta decays and for solar and supernova neutrinos by using charge exchange reactions at RCNP.
06/08堀安範(理論研究部)Super-Earthsの水素リッチな大気獲得:Kepler-11系への応用
アブストラクト
1995年以降、発見された系外惑星は500個以上にのぼる。近年、HARPSによる高精度RV観測やCoRoT, Kepler宇宙望遠鏡の登場により、Super-Earth*1が多数、発見され始めて来ている。また最近、太陽型星周りに5つのSuper-Earthsが存在するKepler-11系がTTV*2で発見された。驚くべきことに、それらの多くは非常に平均密度の低いSuper-Earthsであると考えられ、水素リッチ(還元的)な大気を纏っていると推測される。一方、現在の地球は酸化的な大気を有しており、太陽系には水素リッチな大気を持つ岩石惑星は存在しない。このことから、水素リッチなSuper-Earthsの起源は、Super-Earthsの形成を考える上で重要なヒントになり得る。そこで、本研究では、原始惑星系円盤ガスの散逸、円盤ガスの獲得およびXUVによる大気散逸を考慮し、Super-Earthsの水素リッチな大気獲得を数値計算で調べた。本発表では、得られた結果とともに、Kepler-11系の起源や地球の還元的な大気獲得についても議論する。
*1 典型的には10倍の地球質量以下を持つ岩石惑星(候補) (e.g.) CoRoT-7b, Kepler-10b, GJ581d,e,g
*2 Transit Timing Variation:惑星のトランジットタイミングのずれから、他の摂動天体(惑星候補)の存在を同定する手法
06/17Grant J. Mathews(University of Notre Dame)Formation and Evolution of Galactic Streaming Flows in Local-Group Like Systems
アブストラクト
The Milky way did not form in isolation, but is the product of a complex evolution of generations of merges, collapse, star formation, supernova and collisional heating, radiative and collisional cooling, and ejected nucleosynthesis. Moreover, all of this occurs in the context of the dark energy driven cosmic expansion, the formation of cosmic filaments, dark-matter haloes, spiral density waves. In this talk I will summarize recent calculations of the formation and evolution of Local-Group like systems derived from simulations of large scale structure. We begin with a variety of simulations on the scale of (400-800 Mpc)$^3$. We then scan for poor clusters which contain two large spirals presently separated by $\sim 800$ kpc. We compare simulated properties with various observed properties of the Local Group. Among the generic features of these systems is the tendency for galactic halos to form within the dark matter filaments that define a super-galactic plane. Gravitational interaction along this structure leads to a streaming flow toward the two dominant galaxies in the cluster. We analyze this alignment and streaming flow and compare with observed properties of Local-Group galaxies. Our comparison with Local Group properties suggests that some dwarf galaxies in the Local Group are part of a local streaming flow. These simulations also suggest that a significant fraction of the Galactic halo formed as at large distances and then arrived later along these streaming flows.
06/22日高潤(理論研究部)超新星爆発におけるSterile Neutrinoによるエネルギー輸送
アブストラクト
コア崩壊型超新星爆発のコアの崩壊過程について、Sterile neutrinoとElectron neutrino のニュートリノ振動の影響をMSW効果の下で考慮した。その結果、振動の共鳴エネルギーが、単純に減少するのではなく極小値を持ち、その後、増加することを見いだした。これは、コア深部でelectronneutrinoから変換されたsterile neutrinoが再びコア外層でelectronneutrinoに戻る可能性を与え、コア深部のエネルギーを外層部に輸送する新しいメカニズムになりうる事を示す。さらに、爆発時の衝撃波の効果を定性的に加味することにより、コア外層部へ輸送されるエネルギーが核物質の分解に与える影響につても述べることにする。超新星爆発の理論的再現の最大の問題点は「衝撃波のエネルギーが核物質分解の為に消費され衝撃波が弱まってしまうこと」だと一般には考えられているため、今回の新しいエネルギー輸送は興味深い意味を持つことになる。
07/06松本洋介(国立天文台/千葉大)地球磁気圏グローバルMHDシミュレーション
アブストラクト
1980年代より始まった、太陽風ー地球磁気圏相互作用の電磁流体(MHD)モデリングは、近年の地球まわりの宇宙空間利用と相まって、宇宙電磁場環境を理解する上でますますそのニーズが強まっている。これまでのグローバルMHDシミュレーションは、大局的な構造形成や対流現象を再現することで、プラズマの輸送過程が理解されていた。近年では、モデルの高精度化が進み、MHD波動や渦乱流がプラズマ粒子加速・輸送に果たす役割について理解しようとする試みが始まっている。本発表では、磁気圏グローバルMHDシミュレーションの歴史・現状、最近の高精度化されたMHDモデルで目指す物理と、それに対応した衛星ミッションについて紹介する。
07/13小林正和(光赤外研究部)宇宙の星形成史におけるダスト減光量補正の妥当性検証
アブストラクト
宇宙における星形成史は、現在の宇宙にある銀河がどのように形成されてきたかを知るうえで、非常に重要な情報である。様々な波長における連続光・輝線光度を用いた観測結果は、Hopkins (2004) や Hopkins \& Beacom (2006) にまとめられており、理論家から広く用いられている。一方、多くの銀河形成の理論モデルから予言される宇宙の星形成史は、観測から得られた値に対してファクター ~3-5 ほど過小評価している。これら理論モデルが、光度関数などの観測量は再現できている点を考慮すると、星形成史の不一致がどこから来ているのかを調べることは、非常に興味深い。本発表では、近傍から高赤方偏移にかけて、多様な観測データを再現しうる銀河形成モデル (Kobayashi et al. 2010) を用いて、高赤方偏移で主に用いられる静止系紫外連続光光度に着目し、この不一致の原因について調べた結果について報告する。
07/20小松英一郎(テキサス宇宙論センター, テキサス大学オースティン校)宇宙の大規模構造
アブストラクト
宇宙マイクロ波背景輻射を始めとする様々な宇宙論観測より、宇宙の標準理論の枠組みはほぼ固まった。しかし、暗黒物質や暗黒エネルギーの正体は未知のままであるし、インフレーション宇宙の物理も未知のままだ。ニュートリノには質量がある事はわかっているが、質量の絶対値はわかっていない。"Astro2010"と呼ばれる、米国ナショナルアカデミーがまとめた天文・天体物理のDecadal Surveyによれば、これらのトピックが向こう10年間の宇宙論分野の最重要課題であると言う。それでは、どのような観測をすればこれらの課題の理解を深められるのだろうか?そして理論的課題は何だろうか?本講演では、宇宙の大規模構造を軸にしてこれらの課題に立ち向かう方法論を紹介する。具体的には、この分野の基礎となる物質揺らぎの線形および非線形成長理論、2点関数と3点関数、赤方偏移の歪み(redshift space distortion)、アルコック・パチンスキー(AP)テスト、非ガウス統計などを概観した後、現在および将来の銀河の大規模サーベイの有り様と、これから必要となる理論的枠組みを議論していきたい。
07/27大須賀健(理論研究部/CfCA)uper-Eddington Accretion Flow and Outflowの輻射(磁気)流体シミュレーション:超光度X線源の謎は解明できたのか?
アブストラクト
1990年代に発見された謎のX線源"超光度X線源(ULX)"は、そのX線光度が恒星質量ブラックホールのエディントン光度を超えているため、その正体が恒星質量ブラックホール+Super-Eddington Accretionなのか、中間質量ブラックホール+標準円盤なのか、今でも激しい論争が続いている。我々が最近行ったシミュレーションは、ULXがSuper-Eddington Accretionで説明できることを示唆している。ULXの大光度に加え、近年観測されたX線スペクトルと時間変動を、およそ説明することに成功したからである。講演では、シミュレーション結果の概要と今後の研究方針について紹介する。
09/28銭谷誠司(理論研究部/CfCA) 無衝突磁気リコネクションの磁気拡散領域の新定義
アブストラクト
磁気リコネクションは、太陽地球系プラズマから相対論天体プラズマまで幅広い領域で重要な役割を果たしている。リコネクションは大局的には MHD スケールの現象であるが、X 点の近くで理想 MHD 条件 (E + v x B) が破れている。そして、この狭い重要領域(磁気拡散領域)の性質が、系全体の発展を左右することが知られている。無衝突磁気リコネクションでは、磁気拡散領域、特に内側の電子拡散領域は電子の理想条件 (E + v_e x B) を用いて定義されることが多い。しかし、この定義を一般に適用できるかどうかは明らかでないうえ、最近の大規模粒子シミュレーションの解釈も混乱している。本講演では、こうした混乱を解決するために、新しい指標 D_e を導入して、磁気拡散領域を再定義することを提案する。そして、2次元粒子シミュレーションを用いて、さまざまなリコネクション形状で X 点と D_e の対応を示すとともに、エネルギー収支の観点から D_e の意味を議論する。
10/12山田雅子(理論研究部/CfCA) 観測的可視化"c2d"プロジェクト:新しい低質量星形成描像構築に向けて
アブストラクト
Studies of low-mass star formation has achieved significant progresses in the last decade thanks to detailed numerical modelings and observations. Star formation involves many complex physical processes, and they span a wide dynamic range. Thus theoretical studies have focused on parts of the whole evolution such as core collapse, jet-formation, chemical evolution and so forth, mainly because of too complicated physical (and chemical) processes at work to deal with the whole evolution. We are now trying to make a new star formation picture by compiling these detailed numerical studies. The modeling configures a new picture of low-mass star formation, from the collapse of the molecular core to formation of circumstellar disks, and more.In the presentation, we are going to introduce our newly integrated modeing, along with related physical/chemical processes. I am going to show some achievements obtained by "Observational Visualization" as well.
10/19Alex Wagner(筑波大学) Hydrodynamic simulations of AGN jet feedback
アブストラクト
Relativistic jets from the nuclei of active galaxies can have a substantialinfluence on the history of star formation in massive galaxies. The interaction between the jet and the inhomogeneous ISM leaves a signature of highly disturbed and outflowing gas, which is a target for multi-wavelength observations, including optical IFU observations relating to AGN feedback. I will present relativistic grid-based hydrodynamic simulations which show the effects of jets with powers 10^43 to 10^46 erg/s on the inhomogeneous ISM in the central kpc of massive galaxies early in the lifetime of the radio source. The efficiency of kinetic energy and momentum transfer from jet to the warm phase is high, with details depending on the mean density, porosity, and mean cloud sizes of the inhomogeneous ISM.
11/09富田 賢吾(総合研究大学院大学) 原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
アブストラクト
我々は輻射磁気流体シミュレーションを用いて星形成過程を研究してきた。これまでは主に星形成の初期に形成されるファーストコアに着目して研究を進めてきたが、最近化学反応の効果を取り入れた状態方程式を取り入れることで、星形成のより後期段階であるセカンドコラプスとそれに続く原始星コアの形成を直接輻射磁気流体シミュレーションすることに成功した。回転・磁場のない場合には先行する精密な球対称輻射流体計算と整合的な結果を得ることができた。磁場が強い場合には初期に回転があっても、磁場による効率的な角運動量輸送の結果形成される原始星コアはその形成直後はほぼ球対称的になることがわかった。最近このような原始星コア形成まで分解する計算が行われ始めているが、磁場を含む計算は本研究が初めてであり、その進化は定性的に異なることを見出した。現実的には星形成過程では理想MHD近似は成立しないと考えられているため、余裕があれば現在開発を進めていきたい。
11/16塚本 裕介(理論部)星周円盤の形成、進化過程
アブストラクト
本講演では星周円盤の進化過程とそれが惑星形成にどのような影響を与えるかについて、私が今までに行ってきた研究内容を中心に紹介する。また、現在行っているFLD-SPHによる円盤形成のシミュレーションについても紹介する。
11/30固武 慶(理論部)超新星シミュレーションにおけるニュートリノ輻射輸送法
アブストラクト
星の誕生から死に至るまで、輻射によるエネルギー・運動量輸送を如何に正確に取り扱うかは、系の動的進化を明らかにするためには避けては通れない重要課題である。本コロキウムでは、輻射輸送問題の基礎からスタートして、ニュートリノ輻射輸送法の定式化の詳細に立ち入りながら、現在開発中のRay-by-ray近似に基づく一般相対論的輻射輸送法のストラテジーについても触れたい。
12/07田中 雅臣(理論部)偏光を用いた超新星爆発の研究
アブストラクト
超新星爆発は星が進化の最期に起こす大爆発であると考えられているが、その詳細なメカニズムは長年謎のままである。近年、多次元の数値シミュレーションにより、球対称でない爆発が起きる可能性が示唆されている。そこで、実際の観測から超新星爆発の形状を特定することができれば、爆発のメカニズムの検証を行うことができる。本講演では、超新星爆発の偏光シミュレーションと可視光偏光観測について紹介する。偏光の観測は爆発の多次元形状を観測的に検証できる強力な手段である。偏光を含んだ3次元輻射輸送シミュレーションを行った結果、爆発の形状によって、特徴的な偏光シグナルが見られることが分かった。さらに、予想に基づき、すばる望遠鏡FOCASを用いて、発見された直後の超新星に対してToO偏光分光観測を行ってきた。観測とシミュレーションの結果から、実際に起きている超新星爆発が軸対称よりも複雑な3次元形状をもっていることを示し、この結果が示唆する超新星爆発のメカニズムについて議論する。
12/21藤井 顕彦(東京大学)土星高密度環の局所回転系シミュレーション
アブストラクト
太陽系の惑星の一つである土星には環が存在することが知られています。土星のmain ringはcm-m程度の氷粒子の集合であるとされ、互いに重力相互作用をしながら円軌道を描いて惑星を周回していると考えられています。環には差動回転による速度差からエネルギーが注入され、粒子の非弾性衝突によってエネルギーが散逸します。このような、エネルギーが散逸するマクロな粒子の集合を粉体と呼びます。土星環は関与する物理過程が少ない単純な系であること、詳細な観測が行われていることなどの理由から微小重力条件下における粉体物理 の理想的な実験場の一つであると考えられています。今回の研究では、Wisdom&Tremaine(1988)の方法を用いて局所回転系(Hill系)での土星環のシミュレーションを行うための数値計算コードを開発しました。これまでに行われている同種の研究(Wisdom&Tremaine1988,Salo1995,Daisaka+2001,等)と結果(random速度、shear粘性)を比較し、正しく計算ができていることを確認しました。正しい計算を行うには重力不安定波長に比べて十分大きな計算領域をとる必要があり、計算する粒子の数が増加します。今回の研究では粒子間重力の計算にGRAPE-DRを使うことで、tau 〜 1 でこの条件をみたすような計算を行うことができるようになりました。また、これまで系統的に調べられていなかった「環のself-gravity wake構造と軌道方向の角度(wakeinclination)」を計算しました。その結果、このwake inclination angleは tau<1 では tau が大きいほど大きくなることを見出しました。
01/11富阪 幸治(理論部)偏光から探る星形成期の磁場構造
アブストラクト
星形成過程で磁場が星間雲の重力安定性、角運動量輸送などに関わって重要な役割を果たしていることは知られている。偏光を用いて磁場の形状を調べるには、光赤外線領域の星間吸収、電波領域のダスト熱放射などの星間ダストの整列の性質を用いる。MHDシミュレーション結果からポストプロセスで、観測予測計算を行い、これを観測と比較することによって、磁場の形状について推測する研究について報告する。
01/25山田 亨(東北大学)高赤方偏移の原始銀河団における銀河形成と超広視野初期宇宙観測衛星 WISH 計画の紹介
アブストラクト
Part 1. 「高赤方偏移の原始銀河団における銀河形成」
SSA22 z=3.1 領域は、これまでに知られている最も顕著な星形成銀河の密度超過領域である。我々は、すばる望遠鏡 Suprime Cam によるこれまでにない深く、広視野での狭帯域撮像を行い、対照サンプルとなる一般天域と合わせ、約2平方度にわたる天域での Lyα輝線銀河の分布から、高密度領域の密度超過の Significance を高い精度で求め、原始銀河団領域を明確に同定し、また、この領域がより大きなスケール (~100Mpc)においても、大きな密度超過を示すことを明らかにし、さらに巨大 Lyα ガス雲 (Lyα Blobs)の分布や特徴、輝線等価巾分布、そして分布観測による輝線プロファイルなどの解明を進め来た (Matsuda et al. 2011; Yamada et al. 2012a, in press, Yamada et al. 2012b, submitted)。さらに、すばる望遠鏡 MOIRCS の観測から、LBG や LAE とは相補的な、星質量に基づく銀河分布の調査を行い、Distant Red Galaxies をはじめとする星質量の大きな銀河の分布においても、一般領域2-3倍の面密度を示す密度超過が存在し、そのピークが、LAE など紫外線銀河の分布のピークと一致することも明らかにした (Uchimoto et al. 2012, submitted)。これまでの解析からは、かみのけ座銀河団の約30%程度に相当する大質量銀河 (M>10^10.5 Msun) がすでに原始銀河団領域で形成されていると考えられる。これらの銀河の SED などを解析したところ、一部は静的進化の段階に入った銀河と考えられる特徴を示すのに対し、その他、大半の天体は、ダストによる強い赤化を受けているスペクトルの特徴を示す激しい星形成が卓越する銀河であることが明らかになった。Lyα Blobs についても、その多く(75%)について、K-band で検出される比較的星質量の大きな対応天体が付随し、また、1つの LAB に複数のK-Band 天体が存在する、まさに、「マルチプル・マージングによる銀河形成の現場」を示唆するものも、相当数観測された。階層的構造形成論によれば、高赤方偏移の原始銀河団は、その時代で銀河形成が(統計的に)もっとも進んでいる、または、活発な領域である。その、もっとも顕著な例である SSA22 z=3.1 領域における銀河形成について、どこまで全体的な描像を得ることができたかを論じたい。
Part 2. 「超広視野初期宇宙観測衛星 WISH 計画の紹介」
現在、JAXA/ISAS 理学委員会 WISH Working Group を中心に、超広視野初期宇宙探査衛星 WISH 計画を推進している。WISH は口径 1.5m、Suprime Cam に匹敵する約 900 平方分角の広視野撮像装置を搭載し、波長1-5ミクロンの近赤外線で28 AB mag 程度の深さで100平方度の深宇宙撮像サーベイなどを行って、(1)宇宙再電離を跨ぐ赤方偏移8-15の高赤方偏移銀河探査、(2)静止系近赤外波長におけるIa 型超新星の検出と光度曲線観測による宇宙膨張史の観測、(3) 高赤方偏移GRB観測、(4)広視野赤外線撮像による様々な天文学の推進、を目指すミッションである。 現在、2010年代末の打上を目指し、ミッションの提案準備を進めている。WISH 計画について簡単に紹介し、今後の議論と支援、参加をお願いしたい。
02/01島尻 芳人(野辺山)Extensive [CI] Mapping toward the Orion-A Giant Molecular Cloud
アブストラクト
We have carried out wide-field (~0.17 degree2) and high-angular resolution (21.3" ~0.04 pc) observations in [CI] line toward Orion-A giant molecular cloud with the Atacama Submillimeter Telescope Experiment (ASTE) 10 m telescope in the On-The-Fly (OTF) mode. Main features in the [CI] emissions are similar to the features found in our 12CO (J=1-0) observations. In the observing area, the intensity ratio, I[CI]/ICO, is ~0.05-0.2. We also estimate the optical depth and column density of the [CI] emission. The optical depth is 0.1- 0.75, suggesting the [CI] emission in the observing area is optically thin. The column density is 1.0- 19.0 × 10^17 /cm^2. In the PDR such as Orion Bar and shell around M 43 and their candidates such as DLSF and Region D, where are located on the plane of the sky, the distribution of the [CI] emission coincides with that of the 12CO emission. These results are inconsistent with the prediction of the plane-paralled model. Comparison with the more optically thin lines such 13CO(J=1-0), C18O (J=1-0), and H13CO+(J=1-0) lines shows that the distribution of these emissions are more similar to that of the [CI] emission than that of the 12CO (J=1-0) emission, suggesting that the [CI] emission traces the inner part of the cloud.
02/15別所 直樹(University of New Hampshire)低密度プラズマにおける磁気リコネクションと粒子加速
アブストラクト
磁気リコネクションは、磁力線がつなぎ変わる際に磁場から粒子へエネルギーが変換される現象であり、太陽フレアや地球磁気圏における磁気サブストーム、そしてパルサー風や活動銀河核ジェットなどの粒子加速に重要な役割を果たしていると考えられている。磁力線のつなぎ変わりは磁気拡散領域と呼ばれる狭い領域で起こるが、数値シミュレーションを用いた研究によって、磁気拡散領域内の二流体の効果や粒子の運動論的効果が磁気リコネクションの物理に深く関わっていることが分かってきた。本研究では2次元の粒子シミュレーション(PIC)の手法を用いて、電子陽電子プラズマおよび水素プラズマにおける磁気リコネクションを調べ、リコネクションインフロー領域および磁気拡散領域の密度の大きさがリコネクションの速さに影響していることを見いだした。プラズマ密度が低い場合、低密度の効果によって磁気拡散領域の幅が増大し、速いリコネクションが保たれる。そして非常に大きなリコネクション電場が形成され強い粒子加速が起こる。相対論的電子陽電子プラズマの磁気リコネクションでは、X点周辺と磁気島内部で強い粒子加速が起こっていることが分かった。これらの粒子加速機構についても詳しく述べる。
02/22須佐 元(甲南大)PopIII.1星の質量降着期における光解離の影響について
アブストラクト
初代星の質量は過去十数年の研究によって、我々の銀河とはことなり、非常に大質量の星であると考えられてきた。しかし近年の質量降着期の研究の進展によって、ガスは中心星にスムーズに降着するのではなく、分裂して多くの星になる可能性が指摘されている。また細川らの計算によって原始星からの放射が質量降着を止めることが指摘され、初代星の質量に関する議論は活況を呈している。この研究では3次元輻射流体コードRSPHを用いて、初代星の質量降着期における水素分子の解離の効果を調べた結果を報告する。
02/29野村 英子(京都大)Chemical structure and lines of molecules in protoplanetary disks
アブストラクト
Thanks to recent development of infrared and mm/submm observations, it has become possible to detect various kinds of molecular lines from protoplanetary disks. And now the ALMA Early Science has started and the forthcoming ALMA observations will reveal physical and chemical properties of planet-forming regions in the disks with its high spatial resolution and high sensitivity. In this work we have studied the chemical structure of protoplanetary disks, using a comprehensive astrochemical reaction network together with detailed treatment of UV and X-ray irradiation from the central stars. I will introduce our recent works especially focusing on (i) effects of grain surface reactions on formation of complex molecules, (ii) effects of gas motion, such as turbulent mixing and gas accretion towards the central star, on infrared line emission, (iii) gas ionization degree to discuss magnetorotationally stable region, and (iv) submm molecular lines as a tool to measure gas temperature gradient in the disk surface using the ALMA observations, and its relation to photoevaporation of the gas.