ショートコロキウム 2011 アブストラクト

04/20塚本 裕介(東京大)乱流コアの角運動量、回転エネルギーの性質
アブストラクト
我々はいままで、古典的なalpha, beta(それぞれ重力エネルギーに対する熱エネルギー、回転エネルギー)をパラメータとして星周円盤の進化過程を研究してきた。ここで我々は回転則として剛体回転を仮定しベータパラメータは観測で示唆された値10^-4<\beta<10^-1 (Caselli etal 2002)を用いた。 ところが、Burket & Bodenheimer 2000などによるといるように分子雲コア内に適当な乱流場を仮定することでコアの回転エネルギーの性質が良く再現されることが指摘されている。 そこで我々は乱流分子雲コアを初期条件としたシミュレーションを行うためにpower spectrum P(k)~k^-4であるようなdivergence free乱流場をもつ分子雲コア初期条件を生成した。本発表では、それらのコアの回転エネルギーの性質を議論する。
04/27富田 賢吾(総研大)原始星形成過程の輻射磁気流体シミュレーション
アブストラクト
星形成過程では様々な物理が重要になるが、多次元の輻射流体計算に基づく研究は始まったばかりである。これまで、低質量星の形成においては輻射輸送の効果は比較的重要ではなく、バロトロピック近似でも定性的に尤もらしい結果が得られると考えられてきた。しかし最近の研究では、原始星コアが形成される際に莫大なエネルギーが輻射で放出されて周囲のガスを加熱し、アウトフローが放出される(Bate 2010)、ファーストコアが破壊される(Schoenke & Tscharnuter 2011)といったこれまでの理解とは全く異なる現象が起こり得ることが報告されている。 これまで我々は多重格子輻射磁気流体計算により星形成過程初期に形成されるファーストコアについて研究を進めてきたが、原始星コア形成にまで研究を進めるため、目下化学反応を考慮した現実的状態方程式を取り入れたコードを開発している。本発表では関連する先行研究を紹介するとともに今後の方針について述べる。
05/11鈴木 重太郎(総研大)Core-collapse Supernovae and Supernova Relic Neutrinos
アブストラクト
本研究は、超新星背景ニュートリノを観測手段として用いることにより、ニュートリノ振動パラメータ及び超新星爆発時のニュートリノ温度を従来より厳密に制限することを目的とする。
 重力崩壊型超新星爆発の際には、多量のニュートリノが発生して重力的束縛エネルギーのほとんどを運び去ると考えられているが、ニュートリノは他の物質との反応性が乏しいため、過去の超新星爆発の際に発生したニュートリノは背景ニュートリノ(以下、SRNと略記)として現在も宇宙空間を飛び交っていると考えられている。但し、そのエネルギースペクトルを精度よく予測するためにはいくつかの不定性が障害となる。これらの不定性のうちの主なものは超新星爆発時のニュートリノ温度の不定性であり、また、これまであまり着目されていなかったfailedSNやGRB及びO-Ne-Mg核超新星爆発からの寄与についても検討の余地がある。
 本研究では、SRNエネルギースペクトルを決定する各要素についての不定性とその度合い及びそれらを減ずる方法を紹介し、これを踏まえて現在計画中の106 t級水チェレンコフ型検出装置において得られるエネルギースペクトルを予測する。そして、さらにこれを踏まえて、ニュートリノ振動パラメータ及び超新星ニュートリノ温度へ制限を加えうる可能性を議論する。
05/18藤井 顕彦(東京大)土星B環を構成する粒子のランダム運動と構造形成
アブストラクト
太陽系の惑星の一つである土星には環が存在することが知られています。環はA-G環に分類されますが、その中でも最も輝度と質量が大きい領域はB環と呼ばれています。B環はcm-m程度の氷粒子の集合であり、互いに重力相互作用をしながら円軌道を描いて惑星を周回していると考えられています。今回のショートコロキウムでは、この環の粒子の軌道と構造形成のようすをシミュレーションから決める手法についてお話したいと思います。
05/25釋 宏介(東京大)モンテカルロ輻射輸送計算の現状と今後の計画
アブストラクト
我々は元素の起源や極端な状況下での物理過程の場として興味深い現象である超新星やGRBといった現象の起源にせまる為、様々な理論モデルから予測される観測量と実際の観測量を比較するスキームを作りたいと思っています。特にそれら爆発現象の非球対称性に注目し、偏光度を手早く計算できるモンテカルロ法による輻射輸送コードを開発しています。今回のトークではその現状と、今後の研究計画について話したいと思っております。
06/01岡部 信広(台湾中央研究所)Subaru Weak Lensing Study for 52 X-ray Luminous Clusters
アブストラクト
我々は, 多波長観測プロジェクト"The Local Cluster Substructure Survey (LoCuSS)" の一環として、ROSAT全天X線サーベイからヴォリュームリミテッドで選んだ52銀河団に対して, すばる望遠鏡主焦点カメラのデータを用いて、弱い重力レンズ効果の研究を行った。重力レンズは、銀河団の力学状態に関係なく、銀河団領域の質量分布を調べることを可能にする唯一の方法である。本講演では以下の結果を簡単に紹介する。
(1) 個々の銀河団の重力レンズ解析 結果とNavarro-Frenk-White (NFW)モデルの比較を行い、ビリアル質量と中心集中度パラメータの関係を制限を行った。高い統計的有為性で質量の大きい銀河団ほど中心集中度が低いことが分かった。
(2) 個々の銀河団の重力レンズ信号をスタックすることにより、平均的な銀河団重力レンズ効果の動径プロファイルを調べた。この結果、NFWモデルは良いフィットを与えるが、等温球モデルやコアをもつ等温球モデルなどは極めて高い統計的有意性で棄却できることが分かった。
06/08押野 翔一(理論部/CfCA)M型星での地球型惑星形成
アブストラクト
これまで系外惑星は主に太陽型星(F,G,K型)で発見されてきた。これはM型星の絶対光度が暗く観測が困難だったからである。しかし、近年の観測技術の発展によりM型星での惑星の発見が増えており、M型星をターゲットにした観測も計画されている。そのため、今後M型星における惑星数が増加すると考えられる。本発表では現在行っているN体シミュレーションを用いたM型星での地球型惑星形成の研究について報告する。
06/22馬場 淳一(理論部/CfCA)天の川銀河のl-v図の解釈と渦状腕構造
アブストラクト
天の川銀河(銀河系)は最も身近な銀河であるが,太陽系がその内部に位置しているため,天の川銀河全体の構造を把握するのは難しい.これまで,中性水素ガスの21cm輝線やCO輝線の観測により,銀経(l)-視線速度(v)図には多くの筋状の大局的構造や非一様な微細構造の存在が確認されているが,実空間(x-y空間)でどのような構造に対応するのかは不明瞭である.
 そこで,我々は,恒星系円盤と多相ガス,星形成,超新星爆発を取り入れた高分解能の棒状渦巻銀河の3次元数値シミュレーション(N体/SPH法;ASURAコード)を行い,観測のl-v図との比較を通して,天の川銀河の棒状構造や渦状腕構造の性質を 探った(Baba et al. 2009; Baba et al.2010). 先行研究(Fux 1999; Bissantz et al. 2003)では,星間ガスを1万K(音速10km/s程度)の 等温ガスとしてモデル化していたが,本研究では,高分解能計算により10K-100万Kの多相ガスを再現した.これにより,大局的なl-v図の構造だけではなく,COのl-v図に見られるような非一様な構造の再現にも成功した.
06/29中村 航(理論部)核反応熱による超新星衝撃波の再加熱
アブストラクト
 重力崩壊型超新星を数値シミュレーションで再現する際の最大の困難は、バウンス後に発生した衝撃波が停滞してしまい外層まで伝わらないことにある。その解決策の一つとしてニュートリノによる衝撃波背面の加熱が挙げられるが、先行研究では得られる爆発のエネルギーが超新星爆発の典型的なエネルギーである10^51ergに満たなかったり、爆発を再現できるモデルでも大き過ぎるニュートリノ光度を仮定したりしていて、現実的なモデルでの超新星爆発の再現にはいまだに成功していない。
 一方で、衝撃波背面の温度は10^9Kを越え、爆発的元素合成の現場になっていると考えられている。そこで、ZEUS-2Dコードをもとに核反応ネットワークを組み込み、コア付近で起こるアルファ核の元素合成が停滞衝撃波に与える影響を調べた。その結果、核反応で発生する熱が衝撃波背面の流体を温め、最終的な爆発エネルギーが増加することを発見した。また、あるパラメータ領域では、核反応なしでは爆発しないような低いニュートリノ光度でも爆発させることができた。以上の結果を報告する。
06/29祖谷 元(理論部)性子星における非一様核物質構造と巨大フレア現象
アブストラクト
巨大フレア現象において観測された準周期的振動は強磁場中性子星の振動と考えられているが、その観測された全ての振動数を理論的に説明することには、未だ成功していない。一方で、中性子星の表面固体層では内部流体コアとの境界付近で核物質は非一様構造になる事が知られている。そこで、我々はこのような非一様核物質構造を考慮し、固体層における捻れ振動を計算した結果、捻れ振動の振動数は非一様構造の有無に強く依存する事を示した。また、適当なパラメータを考えることで、巨大フレア現象において観測された振動数を上手く説明する事にも成功した。今回得られた結果や残された問題点を今後の展望とともに本講演では発表する。
07/06斉藤 貴之(理論部/CfCA)A model of SN feedback in galaxy formation
アブストラクト
シミュレーションで作られた銀河にはバリオンの持つ角運動量が著しく小さくなる角運動量問題が存在する。これはバリオンが放射冷却によりエネルギーを失ってクランプとなり、力学的摩擦により角運動量を失い銀河中心に集まるかである。超新星爆発をモデル化し、ガスを加熱しても十分に加熱することはできずすぐに冷えてしまうため有効ではない。そこで、運動量の形で星間ガスにエネルギーを入れたり放射冷却を一時的に止めるなど様々なモデルが考えられてきた。私は、超新星爆発が起きる頻度を確率的に与えることでより高温のガスを生成し、放射冷却で冷えるに任せるというモデルを実装した。このモデルとそれを用いた数値実験の結果について報告する。
07/13道越 秀吾(理論部)永年重力不安定による微惑星形成
アブストラクト
微惑星とは、惑星形成の基本要素であり、初期の微惑星の大きさは、およそ1キロメートルである。微惑星が衝突合体をくりかえし、地球型惑星や巨大ガス惑星のコアになったと考えられている。しかし、ダストから微惑星がどのように形成されたかは完全に理解されていない。1つの説は重力不安定説である。ダストの高密度領域が形成されると重力不安定が発生し、ダストが集積して微惑星が形成される。しかし、乱流がある場合は、乱流拡散のため高密度領域はできない。実際に乱流が発生することが示されており、重力不安定になるほど高密度にならないと考えられてきた。そこで、本研究では、乱流が卓越する円盤中のダスト層の長期的な安定性を調べた。自己重力を考慮した場合、乱流の強さによらず永年不安定が存在することを示し、高密度領域が自然に形成されることが分かった。また、乱流強度に強い非一様性がある場合、粘性不安定と同種の不安定が発生することが分かった。結果をシア不安定乱流が卓越する原始惑星系円盤に応用し、微惑星形成の可能性を議論する。
07/20野村 真理子(お茶の水女子大学)ラインフォース駆動型円盤風の構造とbroad absorption line クェーサーの起源
アブストラクト
一部のクェーサーでは、青方偏移した幅の広い吸収線[broad absorption line (BAL)]が観測されている。これは、降着円盤から噴出する中間電離状態の金属によるものと考えられているが、理論的にはまだ解明されていない。ガスの加速と電離状態を同時に説明できる有力な理論モデルが、ラインフォース駆動型円盤風である。これは、円盤表面の金属が、円盤から放射されたUV光子を、束縛-束縛遷移で吸収する際に受ける力(ラインフォース) によって噴出する円盤風である。我々は、ラインフォースを考慮した流体要素の軌道計算を行うことで円盤風の構造を求め、BALクェーサーのX線観測を説明できるか否かを調べた。その結果、降着円盤から開口角の大きなfunnel形状の円盤風が噴出し、観測角度が大きい場合に、BALが観測されることがわかった。また、BALの有無は観測角度に加えて、ブラックホール質量及びエディントン比にも依存し、これらの値が大きいほどBALが観測されやすいことがわかった。さらには、円盤風の根元が広輝線を放射するという新しいモデルを支持する結果も得られた。以上の結果について報告する。
07/27滝脇 知也(理論部/CfCA)ニュートリノ駆動型超新星爆発シミュレーション 3Dと2Dの比較
アブストラクト
超新星の爆発メカニズムは50年に渡って天体物理学者を悩ませてきたが、近年、新しい様相を呈している。一度鉄の分解による吸熱反応で止まってしまった衝撃波の背面をニュートリノで再加熱して、爆発を復活させるという旧来のシナリオはそのままだが、降着衝撃波不安定性により衝撃波が揺れ動き、ニュートリノ加熱効率がよくなることで爆発する例が盛んに報告されている(e.g. Murphy & Burrows 2008, Marek & Janka2009)。しかし、まだ問題は解決してない。これまでの計算は2次元軸対称が仮定されており、流体不安定性の性質をきちんと取り入れられていない。そして、爆発は観測を再現できるほどのものではなく小規模なものである。Nordhaus et al. 2010では2次元軸対称計算より、3次元計算のほうがより爆発しやすいという結果が報告され、この問題は解決に向かうかと思われたが、その物理的理由はまだ明らかになっておらず、混迷した状況である。2次元計算と3次元計算の比較は、数値計算手法の比較という意味では地味な仕事となるが、2次元の小規模な爆発が3次元で大規模な爆発になるのか、それともむしろ爆発しない方向に転じて、新しい物理が必要になるのか試金石となるという意味で重要な問題である。我々はニュートリノ輸送も3次元流体計算もどちらも手を抜かずに解くという方針で、この問題に挑んでいきたい。その結果の最初のまとめを報告する。
10/05高橋 博之(理論部/CfCA)相対論的磁気リコネクション -より速いエネルギー変換機構を目指して-
アブストラクト
ブラックホール降着円盤や中性子星、ガンマ線バーストといった高エネルギー天体現象では急激な増光やスペクトルの変化を示すことがある。フレアと呼ばれるこの現象は急激なエネルギー解放が原因であり、太陽フレア同様、磁気リコネクションによるものであると考えられている。フレアのタイムスケールは天体によって異なるが、例えばMassive BlackHoleの場合、数百秒程度である。ではこのような短いタイムスケールを磁気リコネクションで説明できるのか。この疑問に答えるため我々は相対論的抵抗性磁気流体コードを用いて古典的なSweet-Parker型(SP型)リコネクションによるエネルギー解放率を調べた。その結果、SP型によるエネルギー解放は遅く、フレアを説明できないことがわかった。本発表では磁気リコネクションでフレアを説明するために考慮しなければならない物理について議論する。また、この問題の為に現在開発を行っている世界初の相対論的抵抗性輻射磁気流体コードについても紹介する。
10/05松井 秀徳(理論部/CfCA)超大質量星団が受けるダスト減光
アブストラクト
HST I-bandでz~0.1のULIRGsを観測した結果、ULIRGsサンプル中、20%以上がmultiple (N>2) nucleiをもつことが示されている。この起源として、短い時間スケール(~100 Myr)における銀河のmultiple major mergerが考えられていた。しかしながら、この時期の銀河の合体率は高くないため、観測されている multiple nucleiを持つULIRG全てが、multiple mergerによって 形成されたとは考えにくい。我々は、星間ガスの多層構造を分解した銀河衝突合体の高分解能シミュレーションをおこなった。その結果、銀河衝突合体過程において超大質量星団 形成が形成し、超大質量星団はI-bandで強く光ることがわかった。これらの luminosityは観測されているnucleiのものと同程度であり、1回のmajor mergerで multiplenucleiをもつULIRGsを説明できることを示した。しかし、ここではダスト減光を 考慮しておらず、その効果が超大質量星団を隠してしまう可能性は十分考えられ る。そこで、本講演では、ダスト減光を考慮した結果を報告する。
10/12石津 尚喜(理論部/CfCA)原始惑星系円盤における乱流中でのダストの沈殿
アブストラクト
微惑星の形成のメカニズムとして、ダストの連続成長、ストリーミング不安定性、ダスト層の重力不安定性などが提唱されている。本研究ではダスト層の重力不安定性について考える。重力不安定性が生じるためには、ダストが原始惑星系円盤の中心面に十分沈殿し、臨界密度に達する必要がある。乱流があるとき、ダストの沈殿が困難であるため重力不安定性は生じないことが予想される。本研究では乱流状態にある円盤中でダストが沈殿する可能性を数値シミュレーションにより調べた。シミュレーションは円盤動径方向と鉛直方向の2次元で行った。ダストは単一サイズで流体として取り扱った。ガスとダストはお互いに摩擦抵抗を及ぼしあう。シミュレーション結果は、ダストの摩擦時間とケプラー角速度の積t_s \Omega_K > 0.1、Shakura-Sunyaevの パラメータ <10^{-4}のときダストは沈殿しうることを示した。また、ダスト密度が高い領域では、ガスの乱流速度が減少していることが分かった。ダストとガスの摩擦相互作用がない場合、ダストは巻き上げられてしまう。この結果から微惑星形成過程に関して議論したい。
10/19大嶋 晃敏(CfCA)放射線検出とその方法(福島第一原発事故を受けて)
アブストラクト
3月11日の大地震に引き続き、福島第一原子力発電所の事故が起こりました。大量に飛散した放射性物質によって東北地方はもとより、関東平野一体も汚染されました。事故を受けて我々は3月末に三鷹地区の環境放射線を測定するためガンマ線検出器の導入に踏み切りました。種々の事情により常時監視を開始してウェブ上で公開できたのは7月になってからでしたが、それまでの間、福島土壌汚染調査に参加し、加えてゲルマニウム半導体検出器を用いた独自の土壌汚染調査を行ってきました。我々が用いている放射線測定器はガンマ線のみを検出対象としています。しかし放射線はガンマ線だけではありませんので、本来であればガンマ線以外のベータ線、アルファ線などの放射線も検出対象となるべきです。本コロキウムでは放射線の検出方法とその原理を解説すると共に、これまで行なってきた活動を少し報告したいと思います。
11/02武田 隆顕 (理論部/4D2U)ボリュームデータ可視化ツールOosawaの開発
アブストラクト
これまで4D2Uプロジェクトでは複数の天文のシミュレーション映像などを作成して公開しているが、特に粒子シミュレーションを可視化した映像の 比率が多かった。これは粒子データを可視化するツール(Zindaiji)をまず開発して、それを用いた映像の作成を主に行なってきたためであ る。粒子シミュレーション以外のデータに対応するべく、この2年ほどボリュームデータから可視化映像を作るためのGUIツール(Oosawa)の 開発に注力してきた。Oosawaの主な狙いは、1.時系列データの中のフライスルー等、映像製作用の操作を簡単に行える。2.レイトレーサー (PovRay)等のシーンファイルとして出力し綺麗な画像(映像)を作成する。という2点で、中心的な機能は大体実装をすることができた。今コロキウムでは、Oosawaの開発についての報告と今後の機能の追加について議論できればと思います。
11/09山崎 大(理論部)ビッグバン元素合成と原初磁場
アブストラクト
ビッグバン元素合成(Big Bang Nucleosynthesis:BBN)は, 宇宙膨張率の影響を強く受ける。一方、原初磁場(Primordial Magnetic Field:PMF)があれば、そのエネルギーが宇宙膨張率を変化させるため、結果としてBBNに影響が現れる。最近、effective number of neutrino species: N_nuのCMBによる制限とBBNによる制限で今までの理論だけでは説明できない乖離が報告されている。そこで、今回の発表では、PMFがこの矛盾を解決できるか調べるために、PMFを考慮したN_nuの値を見積もり考察した結果を報告する。
11/16釋 宏介(東京大学)逆モンテカルロ法による輻射輸送計算手法の開発
アブストラクト
未だに完全なシナリオが理解されていない、元素の起源や極端な状況下での物理過程の場として興味深い現象である超新星爆発やガンマ線バーストといった現象の起源にせまる為、我々は様々な理論モデルから予測される観測量と実際の観測量を比較するスキームを作りたいと思っている。特にそれら爆発現象の非球対称性に注目し、偏光度を手早く計算できるモンテカルロ法、とりわけ観測者から向きを縛って光子を飛ばす逆モンテカルロ法による輻射輸送手法を開発している。逆から解くモンテカルロ法では、通常のモンテカルロ輻射輸送では現れない問題も生じるため、注意深く実装する必要があり、その手法に関し て解説をする。また、開発された手法を使い超新星爆発の光度・偏光度のシミュレーションを行ったので、その結果について議論をする。
11/30黒田 仰生(理論研究部)ニュートリノ加熱型超新星爆発に置ける一般相対論効果
アブストラクト
我々は一般相対論の(磁気)流体コードに新たにニュートリノ輻射を取り入れたので、それを使って重力崩壊型超新星爆発に置けるニュートリノ加熱の様子を調べた。その結果過去のニュートニアン計算により得られていた、多次元効果でニュートリノ加熱の効果が高まり、1次元よりも3次元で衝撃波がより外側まで進む、という結果を一般相対論の計算においても得る事ができた。今回のコロキウムではコードの概要とともに、ニュートリノ加熱のタイムスケールと加熱に晒されるタイムスケールの比を一般相対論/ニュートニアン近似計算で比べる事で、コアバウンス後の初期段階において一般相対論効果が爆発に有利かについても紹介する予定である。
12/07 台坂 淳子(理論研究部)微惑星円盤内での微惑星連星形成
アブストラクト
太陽系の外側、カイパーベルトの領域では数十個の微惑星連星が発見されている。この連星は現在まで発見されている海王星以遠天体の1割弱を占めている。しかし、広く認められている惑星集積理論では連星形成は考慮されていない。円盤の外側での計算のため長い積分時間を要することと、粒子数を多く必要としていることにより、通常の計算機では計算時間がかかりすぎるため、過去の計算では大規模なN体計算は行われていない。本研究では、 GRAPE-DR を用い、N体計算を行った。形成された微惑星連星の離心率や軌道傾斜角の観測値との比較を行う。また、円盤にガスがある場合の計算も始めており、その結果も紹介する。
12/14堀 安範(理論研究部)M型星周りの惑星系形成とその多様性:次世代観測に向けて
アブストラクト
CoRoT, Kepler 宇宙望遠鏡によって、低質量(地球の数倍程度) の惑星の検出が可能となってきた。これらの惑星探査は、主にF, G, K 型星をターゲットとしている。しかし、中心星と惑星形成の関係を包括的に理解する上で、より低質量な中心星周りでの惑星分布の情報が必要不可欠である。スイスのグループは高精度な可視光の視線速度観測(HARPS) を駆使して、M型星周りでの惑星探査に取り組んでいるが、M型星は可視光では暗過ぎる難点がある。現在、世界的な潮流として、M型星を狙うべく赤外ドップラーの技術開発が進められている。実際に、日本でも低質量星(M 型星) の惑星探査を目指した赤外ドップラープロジェクト(2014 年観測開始)が進行中である。そこで、こうした将来の赤外ドップラー観測を見据えて、理論側からM型星周りの惑星形成を検討しておくことは極めて重要である。本発表では最初に、系外惑星探査の現状および M型星周りの惑星について、これまでの観測結果を整理する。そして、標準的な惑星形成の描像に基づいて、予想されるM型星周りの惑星系形成とその多様性を議論する。最後に、本結果を踏まえて、次世代観測に向けての展望並びに実現可能生について言及したいと思う。
12/14工藤 哲洋(理論研究部/CfCA)宇宙線の影響を受けたパーカー不安定性の数値シミュレーション
アブストラクト
星間ガスは銀河円盤の重力の影響を受けガス圧によって支えられた成層構造をなしている。また星間ガスには磁場も存在し磁気圧によっても支えられている。そのようなガスでは、磁気浮力型のパーカー不安定性が成長する。パーカー不安定性は銀河のダイナモ機構の重要な要素であると考えられている。さらに星間ガスには超新星爆発などによって加速された宇宙線が存在し、その単位体積あたりのエネルギーは星間磁場のエネルギーと同じくらいと見積もられている。宇宙線は磁場にトラップされるため、成層構造した星間ガスは宇宙線の圧力によっても支えられている。宇宙線は磁力線に沿った方向には非常に動きやすいという性質を持つのでパーカー不安定性を促進させる働きがある。これまで宇宙線の影響を受けたパーカー不安定性の線形解析は多く行われているが、数値シミュレーションによる研究は多くない。そこで、最近私たちは宇宙線の影響を受けたパーカー不安定性を数値シミュレーションで再現しその非線形発展について調べて始めた。研究の動機と初期の結果を紹介する。
12/21浅野 栄治(CfCA)中性子星からの相対論的ジェット形成のMHDシミュレーション
アブストラクト
本研究の目的のひとつは、相対論的なジェットの形成機構とその構造を明らかにすることである。相対論的ジェットはSco X-1やCir X-1のような連星中性子系でも観測されており、中心天体がブラックホールであることは必須条件ではないことが分かってきている。発表では、この研究を進めていく上でのベースになっている、原始星ジェットのMHDシミュレーションの結果を基に、ジェットの内部構造や、パラメータの依存性などを議論し、中性子星で形成されるジェットについて予測していく。最後にコード開発についても触れる予定である。
01/11和田 智秀(CfCA)パルサー磁気圏の粒子加速機構の研究 -多重極磁場の効果-
アブストラクト
ガンマ線で明るいパルサーの多くは強い磁場(1兆ガウス)を持ち高速で自転(自転周期は0.1秒)の中性子星であることが知られている。その名前のとおり、規則正しいパルスが多波長にわたって観測される。パルサーの自転エネルギーの大部分はローレンツ因子にして10^7まで加速された電子陽電子プラズマ(パルサー風)によって解放され、周囲にシンクロトロン星雲を形成するが磁気圏における粒子加速機構は未だ理解されていない。我々はこれまでに粒子法を用い、プラズマ数密度が低い場合において粒子加速領域と加速されたプラズマの定常なアウトフローを持つ解が存在することを示した(Wada & Shibata 2007,2011)。このモデルにおいて星の持つ磁場は双極磁場のみであるとしている。しかし、近年のX線観測からいくつかのパルサーについて現象論的に星の持つ磁場構造が星近傍で単純な双極磁場ではないであろうという示唆がされている(Bogdanov et al, 2007等)。中性子星の内部構造によって外部の磁場が決まるとは考えられるが、現状では双極磁場に比べて星近傍で高次の項がどの程度あるのかはわかっていない。そこで我々の用いてきた粒子法による軸対称モデルを発展させ、4重極の磁場がはいった場合の大局的な磁気圏構造について調査することにした。星の持つ磁場に4重極の磁場成分がはいると8重極電場が誘導され、赤道面にたいして場の構造が非対称になる。これにより、誘導電場を遮蔽しようとする磁気圏での電荷・電流分布も双極磁場と4重極電場のみのモデルに比べて修正が必要になる。この研究における現状の報告と今後の課題について議論したい。
01/25片岡 章雅(京都大学)原始惑星系円盤における空隙率を考慮したダストの合体成長・沈殿過程
アブストラクト
原始惑星系円盤において、ミクロンサイズのダストがキロメートルサイズの微惑星に合体成長する過程の理解は惑星形成の重要な課題である。現在までに、BPCA,BCCAモデルを使った計算によって空隙率はダストの合体成長に大きく影響する事が示されてきている。しかしながら、衝突するダストの質量比を取り扱った計算はなされて来なかった。そこで我々は、衝突するダストの質量比に応じてダストの空隙率が進化するより現実的なQBCCAモデル(Okuzumi et al.2009)を採用し、最小質量太陽系円盤における地球軌道での沈殿を含めた合体成長をシミュレーションした。その結果、コンパクトなダストの場合は100年程度で赤道面に沈殿するのに対し、空隙率を考慮したダストの場合は約10倍長い時間がかかることがわかった。これは空隙率を考慮した事でガスから受ける抵抗が増え、沈殿速度が遅くなったためと考えられる。更に我々は円盤の光学的厚さを計算した。ここでダスト組成はシリケイトを仮定し、コンパクトな場合はMie理論、空隙率を考えた場合はMG-Mie理論を採用した。その結果、コンパクトな場合は波長10μm付近のシリケイトの特徴的構造がすぐに見えなくなっている上、長波長側で傾きが変化しているのに対し、空隙率を考慮した場合は光学的厚さはほとんど変化しなかった。これは空隙率を考慮した事で成長率が遅くなったことと、ダストが微細構造を保ったまま成長している事が原因だと考えられる。
02/01押野 翔一(CfCA)M型星周りの惑星形成
アブストラクト
1995 年に初めて系外惑星が発見されてから現在までに700 個を超える系外惑星が発見されている。その多くは、F,G,K 型の恒星で見つかっており、M型星では20 個程度の惑星しか見つかっていない。これはM型星の絶対等級が低く観測が難しいためである。しかし、M型星は銀河系円盤を構成している星の7 割程度を占めるといわれており、M 型星での観測は非常に重要となっている。そのため、現在日本ではM 型星をターゲットとした赤外ドップラープロジェクトが進められており、今後多くの系外惑星がM型星の周りで見つかっていくことが期待される。現在、M型星における固体惑星の形成過程を明かにするために寡占的成長段階のN体シミュレーションを行っている。微惑星から原始惑星に成長する段階では初期の暴走的な微惑星捕獲の段階から、原始惑星がほぼ10 ヒル程度に等間隔に並ぶ寡占的成長段階が存在することが発見されている(Kokubo & Ida 1998)。一方、物理半径-ヒル半径比は中心星質量M と中心星からの距離a に対し∝M^1/3 a^-1で変化するため、M型星とG 型星では微惑星の重力散乱と集積のタイムスケールが変わってくる。M 型星とG 型星の固体惑星領域を比べると、M 型星での物理半径-ヒル半径比が大きくなる。これは、その場所で働く集積の影響がG 型星のときより大きくなることを意味しており、この効果が寡占的成長段階にどのような影響を及ぼすのか調べる必要がある。本発表では、G 型星とM型星で出来る原始惑星の質量と間隔の違いについて議論する。
02/15高橋 博之(CfCA)輻射を考慮した数値的磁気リコネクションモデルの構築に向けて
アブストラクト
磁気リコネクションは効率的に磁気エネルギーを散逸する機構であり、様々な高エネルギー天体現象のフレアの起源として注目されている。これら高エネルギー天体現象における磁気リコネクション機構の解明には相対論的取扱が必要になるが、相対論的磁気リコネクション研究はこの数年で始まったばかりである。これら先攻研究では主に磁気エネルギーからプラズマの熱・運動エネルギーへの変換機構として研究されていたが、高エネルギー天体現象ではとくに輻射場による影響を無視することはできない。そこで私は磁気リコネクションそのものが輻射場によって受ける影響を調べる事を目的として相対論的抵抗性輻射磁気流体(Relativistic Resistive Radiation Magnetohydrodynamics, R3MHD)コードを開発し、輻射過程を考慮した磁気リコネクションの数理モデルを構築すべく研究を行っている。本発表ではR3MHDコードの概要と、このコードを用いて得られた輻射を無矛盾に含む相対論的磁気リコネクション研究の初期成果について報告する。
02/22大木 平(北海道大)Dry merger による早期型銀河のサイズ進化
アブストラクト
近年、高赤方偏移 (z~2-3) において多数の早期型銀河が観測されている。これらの早期型銀河は現在の宇宙の楕円銀河の祖先と考えられているが、現在の同質量程度の楕円銀河に比べサイズがファクター3-5程度小さく、密度では1-2桁程度も高いという特徴をもつ。さらに、数天体については分光観測により、非常に高い速度分散 (~500km/s) をもつことが分かっている。これらの銀河の近傍宇宙までの進化の謎は、早期型銀河のサイズ進化問題として知られている。これまでに、宇宙論的な構造形成モデルの枠組みから、銀河同士の merger が大きなサイズ進化を引き起こす可能性などが示唆されている。また、サイズ進化には、ガスによるエネルギー散逸を伴わない'drymerger' が効果的であると考えられているが、観測事実を完全に説明するには至っていない。我々は、球対称の恒星系とダークマターハローの2成分系の銀河のdry merger N体シミュレーションを行い、合体時の2成分間のエネルギー交換の様子、および合体後の銀河の性質を調べた。その結果、高密度な衛星銀河の継続的なdry minor merger は効果的なサイズ増加と速度分散の減少を引き起こすことが分かった。さらに、N体シミュレーションの結果から得られたサイズ増加効率を宇宙論的な銀河の合体史に適用し、このような高いサイズ増加効率が実現されれば、サイズ進化問題を解決する可能性があることを示した。本講演では以上の研究内容について紹介する。