天文学研究を志すみなさんに

このページは新しく天文学研究を志すみなさんに富阪からのアピールです。

研究とは

研究するってどういうことでしょうか。

一言で言うと、「わからないことを明らかにすること」というのでしょうか。 特に自然科学の場合で言うと、

今まで知らなかった事実を発見すること。
今までわからなかった仕組みを理解すること。
多くの人が知りたいと思っていることを明らかにすることが良い研究、 なので、 天文学研究の現状がどうなっているのかを絶えず知っておくことが必要です。 研究室を決めると狭い自分(本当は師匠なのでしょうが)の研究領域に 閉じこもって他の分野の進展に目を向けない人がいますが、将来を考えると、 幅広い視野が必要です。

私の研究は

星間物質、星生成領域、原始星・原始惑星系の理論研究が私の専門です。 といっても分かりにくいですよね。少し説明します。
星間物質
星間物質とは星と星の間を満たしているガスおよび塵 のことです。 我々の銀河の円盤部で平均密度は1cm-3程度です。 高温低密度のHIM(Hot Ionized Medium)、低温のCNM(Cold Neutral Medium)、 中間温度のWIM(Warm Ionized Medium)などが存在します。
この星間ガスの重要性はここから星が形成される母体であることです。 星が形成されるのは分子雲と呼ばれる低温高密度の雲です (密度103-4cm-3)。
分子雲の観測例(牡牛座分子雲)
分子雲の観測例(牡牛座分子雲)
13CO J=1-0ラインの観測

星形成
星形成とは、この分子雲から星を形成する物理過程を指します。
分子雲の高密度部分が収縮
中心に光学的に厚いコアが形成
コアの回りを回転する円盤から磁場によってアウトフローが駆動
水素分子の解離によってコアがさらに収縮、原始星の形成
のように進むと考えられています。
このような動的進化の道筋、 特に、磁場によるアウトフローの駆動、コアの分裂と連星系の 形成等に興味を持って研究を行っています。
代表的超新星残骸Cas Aの像
Cas A 光学イメージ Cas A 電波イメージ Cas A X線イメージ
光学像同じく電波像同じくX線像
超新星残骸の進化と星間物質の構造
超新星残骸は、超新星爆発の結果生じた衝撃波が星間空間を伝搬した結果生じる 天体現象です。若い超新星残骸は球状の衝撃波によって星間ガスを高温に熱するので 高温、低密度のガス球(バブル)として観測されます。年を経た超新星残骸は、星間気体の密度分布、星間磁場の影響を受け様々な形態を取ります。超新星残骸は星間ガスの 構造を決定する最も重要な要素と考えられています。
現在は、超新星残骸の長期的な進化、超新星残骸によって駆動される星間ガスの 構造に興味を持っています。
短くまとめると「星形成理論、星間物質理論の第一人者。数値計算を駆使した研究の名手」(自画自賛ぽいですが、河合塾科学ミュージアム:星間物質、星形成:注目の研究者はより)という ことになっています。

院生に必要だと思うこと---総合力---

シミュレーション天文学は実験科学
シミュレーション天文学は理論研究だと思っている人が多いと思いますが、 実は実験科学です。 実験装置にあたるものは、計算機とプログラムです。
シミュレーションの実際
1.実験装置ですから、実験の意図に応じた装置を組む必要があります。 これはプログラムを書くという作業になります。
プログラム言語の知識が必要と思われるでしょうが、私は、それよりも 物理数学的な素養が必要だと思います。 なぜなら、シミュレーション天文を研究する院生は、数値計算法のより進歩した手法について知っている必要があります。 そのための専門の雑誌もあります。それらは数理科学的な理由付がされているので、 それを理解するためには学部レベルの物理数学の知識は必要です。
2.実験科学ではその装置が正しくその現象を捕まえられるのかどうか予備実験をする 必要がありますね。
シミュレーション天文でこれは次のように行われます(普通)。研究対象と同種の現象で解析的に答えの分かった 問題を解いてみて正しい解が得られるかどうかを調べてみます。ただ、私の研究で 必須の非定常の流体、磁気流体力学については解析的な答えが得られている場合は かなり限られています。そのため、定常の問題を試験に使わなければならない場合もあります。
そのためにも、シミュレーション天文を研究する院生は、偏微分方程式の 解析的に答えを求めることも要求されます。これも物理数学の知識です。
3. いよいよ正しく設定された実験装置であるプログラムとデータを用いて、シミュレーションを実行します。
このとき、高い効率で実行できるプログラムを書き必要があります。 というのは、現在の計算機で高速性能を得るためには、ベクトル化、並列化などの 手法を用いなければならず、そのためには、逐次実行型のプログラムからある程度の 書き換えを要するからです。これには、計算機に関する知識が必要ですが、 院生になってからでもある程度勉強できます。
4. そしてその結果を解釈します。
この段階になると、シミュレーション結果を起っている物理現象に結び付けて、 人間が理解する事が必要です。 データを可視化したり、統計操作を行ったりすることが必要になります。 そのために必要なプログラムを書くことにもなります。
また、「この現象を理解したくば、もう一度同じシミュレーションをしなさい」 というのではなく、だれにでも理解できるように、天体現象を物理学の言葉で 理解できるようにして論文にすることが必要です。 このためには、物理学(天体物理学)のみならず、観測天文学の素養も必要です。
シミュレーション天文学を研究するのに必要なのは
まとめると、シミュレーション天文学を研究するのに必要なのは総合力 ということになるでしょう。
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