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7Li問題の解決と暗黒物質及び原初磁場の発見へ前進
--- 複合ビッグバン元素合成モデル ---
2014. 07. 01.

概要
   宇宙極初期にビッグバン元素合成によって生成された元素の組成は、 その後の物理・天体現象の性質を決定付ける非常に重要な物理量である。 しかし、観測の向上や理論の進展にも関わらず、恒星の観測から推定できる 7Li 量と、 標準的なビッグバン元素合成から予想される 7Li 量との乖離が解決できず、 7Li 問題と呼ばれている。 現在、ビッグバン元素合成直後の光子冷却や、 ダークマター候補であるX粒子による光分解反応、原初磁場等を考慮した新しいモデルによって、 この 7Li 問題の解決に向けた研究が盛んに行われている。
数マイクロガウスの磁場が銀河団スケールに存在していることが観測によって確認されている。 この銀河団磁場の起源として最有力候補の一つが原初磁場である。 最近の研究の結果、このような原初磁場は、初期密度場、宇宙背景放射、背景重力波、初期天体形成、およびビッ グバン元素合成に無視できない影響を与えることが分かってきた。
このような背景のもと、山崎 大 特別客員研究員(国立天文台)を中心とするグループは、 最新の観測によって制限された宇宙の軽元素組成の結果と、 この新しいビッグバン元素合成モデルから算出した理論値と比較して、 7Li 問題が解決できる原初磁場およびX粒子のパラメータを探し出した。
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著者
山崎 大 (国立天文台 特別客員研究員),
日下部 元彦 (Korea Aerospace University, Soongsil University),
梶野 敏貴 (国立天文台、東京大学),
Grant J. Mathews(University of Notre Dame),
Myung-Ki Cheoun(Soongsil University)

*本研究は、2014年06月04日にPhysical Review Dにアクセプトされました。

Cosmological solutions to the Lithium problem:
Big-bang nucleosynthesis with photon cooling, X-particle decay and a primordial magnetic field

Dai G. Yamazaki (National Astronomical Observatory of Japan),
Motohiko Kusakabe (Korea Aerospace University, Soongsil University),
Toshitaka Kajino (National Astronomical Observatory of Japan, The University of Tokyo),
Grant. J. Mathews (University of Notre Dame),
Myung-Ki Cheoun (Soongsil University)
Accepted 4 June 2014
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詳細
   光子冷却が、ビッグバン元素合成 (BBN) 以降に有効であれば、その時代の光子の数密度が、光子冷却を考慮しないときに宇宙背景マイクロ波(CMB)から類推されている値に比べ少なくなる。 現在、観測から制限されているバリオン-光子比(=バリオン数密度/光子数密度): η0 と、アクシオンを考慮したビッグバン元素合成時の: ηBBN が、矛盾しないようにするには、現在のη0 よりηBBN が小さい必要がある。

FIG. 1; 7Li と 7Be の生成量の理論計算と, 観測による 7Li の制限との比較。


FIG.1 からηBBN が小さいと電子を捕獲して 7Li になる 7Be の生成量は小さくなる。さらに、BBN以前の光子のエネルギー密度も現在より大きくなるため、宇宙膨張が加速し中性子が陽子になる反応が早期に終了する。 7Be は中性子によって壊されるため、結果的に 7Be の生成量が減少する。原初磁場が存在すれば、そのエネルギー密度が宇宙膨張を加速するため、同様に 7Be の生成量を減少させる。また、 7Be をX粒子との共鳴反応によって減少させる解決策も示されている。これらの効果を同時に取り入れたビッグバン元素合成コードを開発し、理論計算と観測で制限されている 4He、 3He、重水素、 7Li 等の元素組成を比較して、 7Li 問題を解決できる X粒子、原初磁場のパラメータ範囲を調べた。
FIG. 2; X粒子パラメータと原初磁場のエネルギー密度の制限。


   当研究で、最新の観測によって制限された宇宙の軽元素組成の結果と、 我々の新しいビッグバン元素合成モデルから算出した理論値と比較して、 7Li 問題が解決できるX粒子のパラメータの範囲を初めて見つけることができた。 一方、原初磁場は、 95 % の信頼度 (2σ) においては、上限値しか制限できなかったが、 最も適切な値は制限できた。 FIG. 2 は、7Li を含めたすべての軽元素を矛盾なく説明できる、 X粒子の寿命と質量、及び、原初磁場の強度(エネルギー密度)を図示したものである。 具体的な数字は、X粒子の寿命、質量、及び、原初磁場強度、それぞれ、

   4.06 < log (τX[s]) < 6.10 (95% C.L.),
   -9.70 < log (ζX[GeV]) < -6.23 (95% C.L.),
   B = 1.89nG at a = 1.0 (the best fit),
   B < 3.05nG at a = 1.0 (95% C.L.),

となった。 当研究で、光子冷却、X粒子および原初磁場を考慮した新しいビッグバン元素合成モデルによって 7Li 問題を解決できることが示された。 また、ダークマター候補のX粒子の有効性も同時に示され、 ダークマター探査に貢献をすることができた。

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