プレスリリース | 国立天文台 理論研究部

惑星の種はすき間だらけ

2013.10.04 プレスリリース

研究の概要

 片岡章雅氏(総合研究大学院大学/国立天文台理論研究部)を中心とする研究グループは、ミクロンサイズ注1のダストから、10キロメートルの微惑星注2までのひと続きの進化理論を構築することに成功しました。
 惑星は、ダストと呼ばれるミクロンサイズ以下の固体微粒子が互いに衝突・付着し大きくなることで形成されると考えられています。しかし、どのようにして惑星サイズまで成長するのかは謎に包まれていました。特に、10キロメートル程度の微惑星より小さいサイズでは、自己重力が非常に弱いためその付着成長が困難だと考えられていました。研究グループは、惑星形成の標準理論では考慮されていないダストの内部構造進化を理論的に正確に追うことで、この「ダストから微惑星への成長の謎」を解明することに挑みました。
 その結果、「惑星の種」は一旦すき間だらけになった後、ガスの向かい風や自身の重力によって圧縮され、惑星の元となる微惑星を形成することがわかりました。更に、このような「惑星の種」の進化過程は、従来の惑星形成理論における最大の理論的問題「中心星落下問題」を解決することがわかりました。

図1:原始惑星系円盤における「惑星の種」の想像図。
高解像度版はこちら.クレジット:総合研究大学院大学/国立天文台

発表者

片岡 章雅(総合研究大学院大学 天文科学専攻 博士課程2年 / 国立天文台理論研究部 /
日本学術振興会特別研究員)
田中 秀和(北海道大学低温科学研究所 准教授)
奥住 聡(東京工業大学地球惑星科学専攻 助教)
和田 浩二(千葉工業大学惑星探査研究センター 上席研究員)

※本研究は『アストロノミー・アンド・アストロフィジックス』誌の6月号及び9月号に掲載され,両論文ともその月に注目すべき論文として編集者が選ぶ『Highlighted papers』に選出されました.
"Static compression of porous dust aggregates", A.Kataoka, H.Tanaka, S.Okuzumi, and K.Wada A&A 554, A4
"Fluffy dust forms icy planetesimals by static compression", A.Kataoka, H.Tanaka, S.Okuzumi, and K.Wada, A&A 557, L4

詳細

 惑星形成の標準理論では、若い恒星の周りをまわる円盤内でダストと呼ばれる固体微粒子が互いに付着することで大きくなり、最終的に惑星になると考えられています。しかし、この理論には3つの問題点が指摘されてきました。まず、成長途中のメートルサイズの固体が中心星に落ちていってしまう「中心星落下問題」、次にダスト同士が高速で衝突して砕け散ってしまう「衝突破壊問題」、三番目にダストが衝突しても付着しない「跳ね返り問題」です。これらの問題を解決することが、惑星形成初期段階における最重要課題でした。

 ダストの実験や数値計算によって、ダストは合体成長の過程で内部にすき間の多い構造を作ることが分かっていました。このようなすき間だらけのダストの集合体は、アグリゲイトと呼ばれています。研究者たちは、「このようなすき間は、アグリゲイト同士の高速衝突によって潰れるだろう」と予測されていましたが、最近の研究結果から、衝突圧縮ではすき間は潰れず、惑星の元となる高密度な微惑星が作られないことが示されました。すなわち、惑星形成のためには衝突ではない別の圧縮過程が必要であることが明らかになったのです。

 そこで今回研究グループは、成長途中のアグリゲイトが円盤内のガスから受ける向かい風によって圧縮される効果と自身の重力によって圧縮される効果を世界で初めて取り入れることにしました。まずアグリゲイトの圧縮強度注3を求めるため、数値計算を行いました。アグリゲイトの数値計算はダスト粒子1つ1つの物理過程を追うことで行われます。しかし、コンピュータの性能に限界があり、「惑星の種」となるような巨大アグリゲイト全体を再現することは困難でした。今回研究グループは、巨大なアグリゲイトの一部を取り出し、それらを周期的に並べることで全体を再現するという手法を世界で初めて用い、この問題を克服しました (動画)。

動画: 数値計算によって再現されたアグリゲイトの圧縮の様子。粒子一つが0.1ミクロンの氷の粒を表す。
ダウンロードはこちら(wmvファイル,147MB).クレジット:片岡章雅(総合研究大学院大学/国立天文台)


 さらに、このようにして得られた圧縮強度を用いて、惑星形成時にアグリゲイトがガスの向かい風によってどの程度圧縮されるかを世界で初めて計算しました。その結果、アグリゲイトが1センチメートル程度まで成長すると、従来考えられていた衝突圧縮よりも早くガスの向かい風による圧縮が効果的になることがわかりました。研究グループはさらに、アグリゲイトが大きくなった際に自身の重力によってどの程度圧縮されるかについても世界で初めて計算しました。その結果、アグリゲイトはガス圧で圧縮されながら合体成長を続けた後、100メートル程度の大きさになると自己重力によって一気につぶれ、さらに合体を繰り返しながら中身の詰まった10キロメートルの天体になることがわかりました(図2)。

 すなわち、今回の理論は、世界で初めてのミクロンサイズのダストからキロメートルの微惑星に至るまでの天体成長シナリオを作ることに成功したと言えます。

図2: 本研究により明らかになったアグリゲイトの内部密度進化。中心星からの距離は5天文単位注4を想定している。縦軸はアグリゲイトの内部密度、横軸はアグリゲイトの質量を表し、赤く塗られた領域が中心星に落下する領域を表す。惑星形成の標準理論では灰点線のようにダストは大きくなると中心星に落下してしまう。それに対し本研究は、ダストはすき間を作りながら成長し(黒実線)、ガスによる圧縮(青実線)及び自己重力による圧縮(赤実線)を受けながら微惑星を形成し、中心星落下領域(赤塗りつぶし)を回避しているを明らかにした。また、緑色の点は太陽系で観測された彗星の質量と密度を表しており、本研究の予測する微惑星とよく一致している。
高解像度版はこちら.クレジット:片岡章雅(総合研究大学院大学/国立天文台)


 今回研究グループが提唱した天体成長理論は、アグリゲイトが氷粒子で構成されている場合、従来の指摘されていた惑星形成初期の3つの問題を全て克服していることもわかりました。まず、今回の研究から、アグリゲイトは中心星に落下するよりも早く成長し、中心星落下を回避できることがわかりました。また、氷でできたアグリゲイトを考えると、付着力が十分強いため衝突破壊問題も克服しています。さらに、3番目の「跳ね返り問題」についても、アグリゲイトのすき間が衝突の衝撃を吸収し、跳ね返らないことが示されています。

 一方、地球のような岩石成分で出来たアグリゲイトは付着力が十分でなく衝突破壊が問題となります。岩石微惑星の形成を説明する理論の構築は、今後の課題です。



補足説明

他の惑星形成理論との関係
 今回明らかになった理論以外にもいくつか惑星形成理論は提唱されています。代表的な説として、たとえば円盤ガスの自己重力不安定によって巨大ガス惑星を作る説があります。しかし、このような惑星は軽い円盤では作れず、また微惑星のような固体天体の説明はできません。あるいは、円盤のガスが集まったところにダストが集まる”ダストトラップ”という説もあります。しかし、そもそも円盤のガスがどうやって集まるか、集まったガスがどのくらい長続きするかはまだ明らかになっていません。
 このような中で今回の理論は、世界で初めてのミクロンサイズのダストから10キロメートルの微惑星までのひとつづきのシナリオを作ることに成功したと言えるでしょう。

観測的実証に向けて
 今回のような惑星形成理論には、観測的実証が不可欠です。成長途中の固体粒子は、原始惑星系円盤と呼ばれる惑星形成の現場を電波望遠鏡で観測することで見ることができます。従来はこのような観測で見える粒子は全て中身の詰まった粒子だと考えて観測を解釈して来ました。ところが、今回の理論は、今まで見えていた電波望遠鏡の信号は、中身の詰まった粒子ではなく、すき間だらけのアグリゲイトだった可能性を示唆しています。研究グループは、今後はアグリゲイトの光学的な性質を明らかにすることによって、円盤中でのすき間だらけのアグリゲイトの実証を目指したいと考えています。

注釈
注1:1ミクロン(=1μm,マイクロメートル)は10-6メートルを表す長さの単位で,1000分の1ミリメートルに等しい.
注2:微惑星とは惑星を形成する材料となった,直径約10キロメートルの天体のこと.微惑星が相互重力による衝突合体を繰り返して,惑星が形成されたと考えられている.
注3:1天文単位は地球と太陽の平均距離を表す長さの単位。5天文単位はおおよそ太陽と木星との距離に対応する.
注4:圧縮強度とはアグリゲイトを外部の圧力によって圧縮するのに必要な圧力のこと.


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研究内容に関するお問い合わせ:片岡 章雅(かたおか・あきまさ)
Mail: akimasa.kataoka _atmark_ nao.ac.jp
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関連リンク
総合研究大学院大学
総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文科学専攻
北海道大学低温科学研究所