以下2006年度版。
理論部で行われている研究内容は多岐に渡り、現在の天文学の相当な 分野をカバーしていると言えます。ここでは主に、スタッフがカバーしている 研究分野や内容をまとめます。もちろん、スタッフとは独立に、様々な 分野で研究を行っているポスドク研究員もいます。日本最大級の 理論グループの中で、分野を越えた交流も盛んに行われています。 現在、スタッフが中心になって行っている研究を大別すると、
などが挙げられます。
星と星間ガスの系である銀河の構造、進化、形成過程を大規模数値シミュレー ションにより 調べています。 最近では、とくに銀河スケールでの星間ガスの多相構造や、星形成によるエネル ギー開放の影響、 また銀河中心領域での星形成と活動的銀河中心核の関連について調べ、 最新の観測データとの比較を行っています。
「星」は天体を形成するもっとも基本的な要素であり、その形成過程、 つまり星間雲から星への進化を明らかにすることは、 今日でも天文学上の基本的な課題であり続けています。
宇宙初期の星形成
現在見るような星からなる宇宙は、宇宙初期からたえず繰り返された星形成の結 果、出現したものです。われわれは、宇宙初期から現在までのさまざまな環境(重元素量、輻射場)の下 での星形成過程を調べることで、形成される星の性質を予想し、それを通じて宇宙における天体の形成史を解明することを目的としています。
星形成の動的過程
主に数値シミュレーションを用いて、形成される恒星の物理量 (質量、角運動量、磁束など)がどのように決まっているか、連星や惑星系を 作る条件は何なのかなどを研究しています。
宇宙磁気流体現象
宇宙に普遍的に存在する磁場は、電離物質と相互作用し、 複雑な磁気流体力学現象を引き起こしますが、星形成の際にも磁場の効果は 宇宙ジェットの駆動などに重要であることしられています。 またその他、太陽大気などの磁気流体力学に関係した天体現象を 数値シミュレーションを用いて研究しています。
惑星系形成
星形成の副産物として恒星のまわりには原始惑星系円盤と呼ばれる星周円盤が形 成され、 惑星系はこの原始惑星系円盤から形成されます。 原始惑星系円盤から惑星系までの形成過程を理論的に明らかにするのを目的とし て研究しています。 特に微惑星(惑星の材料となる小天体)系のN体シミュレーションを行い、 固体惑星の集積過程の研究を進めています。
衛星系形成
また、惑星形成の副産物として惑星のまわりには衛星やリングが形成されます。 太陽系の衛星-リング系を見ただけでも、地球の月から土星のリングまで多様な 系があります。 これらの衛星-リング系がどのようにして形成され進化するのかを明らかにしよ うとしています。 現在は特に巨大衛星、月とカロンの形成過程の研究を行っています。
ビッグバン宇宙開闢直後のインフレーション、真空の相転移と対称性の破れ、バリ オン数やレプトン数の創成、クォーク閉じ込め(QCD)等に伴う高エネルギー素粒子 ・原子核過程は、その後の宇宙の物理状態の時間発展を大きく左右する。これら初期 宇宙の物理過程がビッグバン元素合成、宇宙背景放射ゆらぎ、銀河の構造形成に及ぼ す影響を天体観測や物理実験との比較を通じて実証的に研究し、宇宙進化史を明らか にすることを目指す。(梶野)
宇宙は平坦か?宇宙項の起源は何か?宇宙論的な距離にある超新星光度・赤方偏移 観測と宇宙背景放射ゆらぎのスペクトル観測とを辻褄があうように説明するために、 加速膨張する平坦な宇宙論仮説が提唱されている。質量は持たず負の圧力を示す「奇 妙な暗黒エネルギー」と「謎の暗黒物質」の存在を仮定しなければならない。臨界質 量のわずか5%程度だけが普通の物質、すなわち素粒子や原子核だと言うのである。 「奇妙な暗黒エネルギー」や「謎の暗黒物質」の正体は何であろうか?素粒子的宇宙 論の立場から宇宙論パラメータの物理的起源の解明を目指す。(梶野)
超弦理論から演繹される可能性を持つ余次元宇宙論は、アインシュタイン宇宙論を 超える理論として実証することができるだろうか?冷たい暗黒物質は宇宙構造形成論 にとって都合の良い仮説物質である。余次元宇宙論では、重力質量を持つ粒子はすべ て有限の寿命で「消失する粒子」でなければならない。銀河団ガス、質量・光度関係 、超新星の赤方偏移分布、宇宙背景放射ゆらぎに関する理論予測を天体観測と総合的 に比較検討することで、余次元宇宙論仮説を実証することを目指す。(梶野)
磁場は重力と並んで宇宙のさまざまな階層構造の動力学進化に決定的な役割を果た す。宇宙相転移における初期磁場ゆらぎの生成メカニズムの解明を目指す。また、宇 宙背景輻射温度ゆらぎや偏光観測など最近の宇宙観測で急速に揃いだした天文観測デ ータと比較検討することにより、磁場揺らぎの進化が宇宙・銀河・銀河団など構造形 成で果たす役割を解明することを目指す。(梶野)
宇宙年齢の矛盾は、天文観測の限界と宇宙論および天文学がはらむ諸問題を象徴す る大問題である。宇宙・銀河・星の物理状態の時間的推移はビッグバン元素合成での 軽元素合成に始まり、その後の星形成-元素合成ー超新星爆発という連鎖に起因する 元素量の増減にその進化のありさまを読み取ることができる。宇宙・銀河の化学進化 と大小質量星によるr過程、p過程、およびs過程元素合成との研究を横断的に進める ことにより、宇宙の化学進化史を明らかにすることを目指す。精度の高い宇宙核年代 計の構築を目指す。(梶野)
Cosmic shearとは遠方の天体の像が前方の構造による弱い重力レンズ効果 によって歪められる現象である。 この重力レンズ効果によって前方の構造の分布の情報が遠方天体の像の歪みの 相関(cosmic shear相関関数)として刻印される。 このcosmic shear相関関数を測定し理論モデルと比較することで 宇宙の物質分布の統計的性質とその成長を明らかにする。 (濱名)
宇宙年齢と同程度の寿命を持つトリウムやウラニウムに代表されるR元素の起源、P元素の起源、さらに超重元素の起源は未だに謎である。超新星爆発で作られるのであろうか?中性子星の合体に伴う爆発過程であろうか?ブラックホールおよびディスク形成を伴うガンマ線バースト(GRB)の起源天体(コラプサー)であろうか?重力崩壊型超新星爆発、ショック波の伝播、中性子星やブラックホールの形成、中心星およびディスクからのニュートリノ駆動風、等のダイナミックスを理論的に研究し、あわせて重元素合成過程の解明に迫る。また、ニュートリノと物質との相互作用、それに起因するニュートリノの物質振動(MSW)効果は、外層での多くの軽〜重元素合成過程に決定的な影響を及ぼす。ニュートリノ相互作用で生成される元素量の理論と観測との比較からニュートリノ振動パラメータの決定を試みる。(梶野)
軽〜重質量を持つ稀少元素はビッグバン初期宇宙、宇宙線相互作用、超新星ガンマ線およびニュートリノ過程などの多元的な起源を持つ。標準宇宙論にとどまらずさまざまな宇宙論モデルによるビッグバン元素合成過程を研究する。また、銀河宇宙線やAGN ジェットのエネルギースペクトルや伝播の現実的なモデルの研究は、高エネルギー活動天体の空間構造を研究する上で貴重な情報を提供する。これらの起源による稀少元素への寄与を理論的に計算して、観測との比較からもっとも複雑な超新星ガンマ線およびニュートリノ過程の寄与を同定することを試みる。(梶野)
ガンマ線バースト(GRB)の起源天体は何であろうか?原始中性子星やブラックホールなど一般相対論で記述されるべきコンパクトな天体は強磁場をともなう。このような超強磁場と相対論的な高エネルギー荷電粒子(ハドロン)との相互作用に注目し、クォークモデルを用いて中間子場を量子化することによってシンクロトロン放射過程を計算する。重い中間子(クォークォ二ウム)の崩壊に伴う超高エネルギーニュートリノが超高エネルギー宇宙線の起源になりうるかどうかを研究する。(梶野)
(重力崩壊型)超新星は太陽質量の約10倍を超える大質量星がその進化の最終段階に示す大爆発現象である。超新星は一天体現象ではありながら、それ自体が中性子星、ブラックホール、マグネターといった高エネルギーコンパクト天体の形成過程そのものであり、超新星の爆発メカニズムを明らかにすることは、恒星進化論の最重要テーマの一つである。この問題に対して、星が持つ自転、磁場のようなマクロ物理と、ミクロ物理で決まっているニュートリノ加熱機構の関係性に着目した上で、主に数値シミュレーションを用いた研究を行なっている。(固武)
上記の天体物理現象を統一的に理解する為には、ニュートリノの輻射輸送と磁気流体の運動を合体させて解く輻射輸送計算を行なうことが不可欠である。特にニュートリノのボルツマン方程式は、ニュートリノがフェルミ粒子であること、ニュートリノ反応が一般的にエネルギー依存性を持つことなどから著しく非線形になっているため、解を求めるには数値計算を行なう必要がある。そこで、ボルツマン輸送方程式を数値的に解くための定式化および数値コードの開発を行なっている。(固武)
大質量星の重力崩壊の最中に、何らかの原因で崩壊の様子が球対称からずれると、それに伴い重力波が発生する。非球対称性を生みだす要因として、コアの高速自転が有望であるが、その他にも、対流、磁場、さらには非球対称に放射されるニュートリノ自体からも重力波が放出されると予想されている。これらの効果を含んだ、より現実的なモデル計算に基づいた重力波形の理論予測を行っている。その上で、現在稼動中の重力波検出器(TAMA(日本)、LIGO(米)など)による重力波の観測可能性を突き詰めた研究も行なっている。さらには、ガンマ線バーストや第一世代星など、通常の超新星よりも遠方にある天体からの背景重力波の理論予測も行い、より幅広い波長レンジに渡った天体起源の重力波を明らかにすることを目指している。(固武)
1987年、大マゼラン星雲中に起こった超新星1987Aからのニュートリノバーストが神岡の観測装置で観測され、ニュートリノ天文学が産声をあげた。現在は、より洗練されたニュートリノ検出器が超新星ニュートリノを待ち受けている。超新星ニュートリノの重要性は、理論予測と観測を比べることでニュートリノ自体の素粒子論的性質に制限を課すことができる可能性を持つことである。自転や磁場を伴う現実的な超新星モデルにおけるニュートリノ振動を調べ、より厳しい制限を与えることを目指す。更には、強磁場、高温、高密度下にある大質量天体のコア星における、ニュートリノと物質との相互作用についても素過程のレベルでその性質を調べ、マグネターにおける安定性、放射機構への理解に繋げることを目指す。 (固武)
星間雲から星への収縮して行く様子をシミュレーションする場合を考えると、対 象となるダイナミックレンジは、密度比で1013倍、大きさの比では 106倍に及ぶ。このように天体物理には自己重力に起因し、非常に大き なダイナミックレンジをもつ問題が多い。これらに適した数値流体計算法を開発・ 研究している。 (富阪)
上記の研究を進めるにはN体シミュレーションが有効である。より速く より正確な積分公式があればより大規模なシミュレーションをすることができ、 新しいものが見えてくる。時間対称性やシンプレクティック性を活かした高速高 精度積分公式の開発を目指している。 (小久保)