プレスリリース | 国立天文台 理論研究部

宇宙核時計ニオブ 92 の起源が超新星爆発ニュートリノであることを理論的に解明 〜超新星爆発から太陽系誕生まで100万〜3000万年と評価〜

2013.11.22 プレスリリース

発表のポイント

・ニオブ92が超新星ニュートリノで生成されたとする新仮説を提唱.
・超新星モデルによる理論計算で太陽系のニオブ92の量を再現.
・超新星爆発から太陽系誕生までの時間を100万〜3000万年と評価.


概要

 日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門の早川岳人研究主幹、国立天文台・理論研究部の梶野敏貴准教授、東京工業大学の千葉敏教授らの共同研究グループは、太陽系初期にのみ存在した放射性同位体1ニオブ92(半減期は約3千5百万年)が、超新星爆発のニュートリノ2で生成されたことを理論的に解明しました。
 現在の太陽系にニオブ92は存在しません。しかし、隕石研究によって、約46億年前に太陽系が誕生した時点では、ニオブ92が存在していたことが明らかになっていました。ところが、ニオブ92が宇宙のどこでどのように生成されたかは未解明の問題でした。これまで、いくつかの仮説が提唱されましたが、いずれもニオブ92の量を定量的に説明できませんでした。本研究グループは、太陽系誕生の直前に、太陽系近傍で超新星爆発が発生し、放出されたニュートリノによって超新星爆発の外層でニオブ92が生成され、爆発によって吹き飛ばされて太陽系に降り注いだとの仮説を立てました。超新星爆発モデルにニュートリノ核反応率3を組み込んで計算したところ、ニオブ92の量を定量的に説明できることが判りました。
 本研究によって、長年にわたって謎であったニオブ92の起源が明らかになりました。さらに、ニオブ92を生成した超新星爆発から太陽系誕生までの時間を100万~3000万年と評価しました。このように年代を計測できる放射性同位体を宇宙核時計と呼びます。今後、隕石研究が進み、より正確な量が判れば、より正確に時間を評価できます。なお、本成果はThe Astrophysical Journal Lettersに11月22日に出版される予定です。

発表者

早川 岳人(独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門 ガンマ線核種分析研究グループ 研究主幹)
梶野 敏貴(大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 理論研究部 准教授)
千葉 敏(東京工業大学 原子炉工学研究所 教授)

研究の背景

 放射性同位体ニオブ92は、現在の太陽系には存在していません。しかし、隕石の研究によってジルコニウム92の量が太陽組成より多い事例が見つかりました。これは、太陽系が誕生した時点でニオブ92が存在しており、太陽系誕生から現在に至る46億年の間に、ニオブ92がジルコニウム92にベータ崩壊4したためです。ジルコニウム92の量から、太陽系誕生時に、ニオブ92はニオブ93の量に対して約10万分の1の量が存在していたことが判明しました。しかし、ニオブ92を生成した天体現象が何かは不明でした。ニオブ92の起源が明らかになれば、ニオブ92を生成した天体現象が発生した時刻から、太陽系誕生までの時間を評価する宇宙核時計として使うことができます。そのため、いくつかの仮説が提案されましたが、いずれも太陽系に存在していたニオブ92の量を、理論計算で再現できませんでした。

研究の手法

 本研究グループでは数年間にわたり、ニオブ92を生成した天体現象が何であるか考え続けました。そして、超新星爆発で発生した多量のニュートリノで生成されたのではないかという仮説に思い至りました。なお、このような天体現象はニュートリノ過程と呼ばれ、ランタン138やタンタル180等の天体起源として1990年に提案されていました。
 太陽の8倍以上の質量を有する恒星は、寿命の最期を迎えるとき、中心部の鉄のコアが重力に耐え切れずに収縮し、原始中性子星5を生成します。次に、この原始中性子星から膨大な量のニュートリノが放出され、超新星爆発を引き起こします。この時、ニュートリノが恒星の外側の層を通過するときに、もともと存在していたジルコニウム92やニオブ93とニュートリノ原子核反応を引き起こし、ニオブ92を生成します(図1参照)。この仮説を検証するために、ニュートリノと原子核が反応(図2参照)する確率を知る必要があります。しかし、そのような反応率は実験値も理論値も全くなかったので、新たに計算しました。計算したニュートリノ原子核反応率を超新星爆発モデルに組み込み、生成されるニオブ92の量を計算しました。さらに、超新星爆発によって生成されたニオブ92が初期の太陽系に注ぎ隕石に取り込まれたと仮定しました。そして、超新星爆発から太陽系誕生まで、どのぐらいの時間が経過した場合、太陽系のニオブ92の量を再現できるか計算しました(図3参照)。

図1: 超新星爆発の初期に、重力崩壊によって中心部に原始中性子星が形成される。原始中性子星から放出されたニュートリノが外層に存在するジルコニウム92やニオブ93と核反応を起こして、ニオブ92を生成する。(画像提供:早川 岳人/日本原子力研究開発機構)

図2: ニュートリノによる新しい核種の生成。(上)ニオブ93にニュートリノ(6種類のニュートリノのどれでも良い)が入射して、中性子をたたき出す反応。(下)ジルコニウム92に電子ニュートリノが入射して中性子を陽子に変換する反応。(クレジット:早川 岳人/日本原子力研究開発機構)

図3: ニオブ92の量の時間変化。太陽系近傍で発生した超新星爆発で生成されたニオブ92は宇宙空間でベータ崩壊によって減少していき、太陽系形成時に隕石等に取り込まれた。その後の約46億年の間にジルコニウム92にベータ崩壊した。超新星爆発によって生成されたニオブ92の量は理論計算で求めることができ、太陽系誕生時の量は隕石研究によって求めることができる。この2つの量から経過した時間を評価できる。(クレジット:早川 岳人/日本原子力研究開発機構)

得られた成果

 太陽系生成時のニオブ92の量(ニオブ93に対して約10万分の1)を、初めて再現しました。現在、ニオブ92の量を再現できる唯一の研究成果です。また、太陽系が誕生する前に、太陽系近傍でニオブ92を生成した超新星爆発が発生したことを支持する証拠です。この超新星爆発から太陽系誕生までの時間は、100万年から3000万年の間であるとの計算結果を得ました。
 太陽系形成の年代を評価できる超新星爆発のニュートリノ過程による宇宙核時計としては、ニオブ92が唯一のものです。

今後の展開

今後、隕石研究が進みニオブ92の量がより精密に計測されることが期待されます。そうなれば、超新星爆発から太陽系誕生までの時間をより精密に評価することができます。



用語集解説
1) 放射性同位体原子核中の陽子の数が同じでだが中性子の数が異なる元素を同位体と呼ぶ.その中でも,ある寿命で自発的に放射線を出して別の元素に変化するものを放射性同位体と呼ぶ.
2) ニュートリノニュートリノは弱い相互作用を媒介する素粒子。ニュートリノには電子型、タウ型、ミュー型の3種類および、それぞれの反粒子の合計6種類が存在する。
3) ニュートリノ原子核反応ニュートリノが原子核に吸収され後に、ニュートリノや中性子などが放出されて、異なる原子核に変換される反応。
4) ベータ崩壊原子核の崩壊の一種.原子核中の陽子が陽電子(電子の反物質)と電子ニュートリノを放出して中性子になる崩壊と,中性子が電子と反電子ニュートリノを放出して陽子に変わる崩壊が主なものである.
5) 原始中性子星太陽より質量が8倍以上の恒星の寿命の最期に、中心部が重力崩壊して生成される高密度の天体。超新星爆発によって外層が吹き飛ばされる前の状態のものを原始中性子星と呼ぶ。


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