ウェブリリース | 国立天文台 理論研究部

標準理論をくつがえす新種の超新星を発見

2017.9.22 掲載

概要

クイーンズ大学ベルファスト校及びパドバ天文台に所属するジャッコモ=テレラン博士と国立天文台理論研究部の守屋尭特任助教らの研究チームは、現在の超新星爆発の標準理論では説明不可能な超新星を発見しました。 OGLE-2014-SN-073 と命名されたこの超新星は、類似したタイプの超新星爆発の 10 倍以上のエネルギーで爆発していたのです。この超新星は、これまで理論的には予言されていたものの、実際には観測されていなかった新種の超新星である可能性があります。今回の発見で、超新星爆発のメカニズムがこれまで考えられてきたよりも多様であることが明らかになりました。

図1: 2014年 9月 24日に観測された超新星 OGLE14-073.南米チリの NTT 望遠鏡(ヨーロッパ南天天文台)に搭載された微光天体分光撮像機(The ESO Faint Object Spectrograph and Camera,EFOSC)で撮影された.
Credit: Terreran et al. (2017) Nature Astronomy より改変

詳細

 太陽の8倍以上の質量を持つ重い星はその生涯を終える時に「超新星爆発」と呼ばれる大爆発を起こします。超新星OGLE-2014-SN-073(以下、OGLE14-073)は、OGLE 突発天体探査※1によって 2014年 8月 15日に偶然発見されました。テレラン博士が率いる研究チームは発見直後に分光観測を行い、OGLE14-073 の光に水素が出す光が含まれることがわかりました(以下、「水素を持つ超新星」)。多くの大質量星はその生涯を終える時に水素が含まれるため、そのような星が爆発すると水素を持つ超新星として観測されます。水素を持つ超新星は明るさが 100 日程度変わらないことがほとんどですが、OGLE14-073 は発見後も徐々に増光していきました。研究チームによって観測が継続され、発見から約 100 日後にやっと最大光度に達したことが確認されました。100 日程度もかけて増光する超新星は非常に珍しく、これまで観測された例はごく少数です。最も有名な例としては、大マゼラン雲に現れた超新星 1987A が挙げられます。

 しかし、研究チームを最も驚かせたのはそのゆっくりとした増光ではありませんでした。あまりに明るかったのです。OGLE14-073 は超新星 1987A と比べると約 10 倍明るいことが観測チームにより明らかにされました。超新星 1987A は、爆発時に合成されたニッケル 56 の放射性崩壊によるエネルギーで輝きました。しかし、OGLE14-073 の明るさを説明するためには、ニッケル 56 が少なくとも超新星 1987A の 7 倍以上必要です。さらに OGLE14-073 の爆発エネルギーを見積もると超新星 1987A の 10 倍以上、爆発噴出物の質量も超新星 1987A の数倍以上であることが分かり、あらゆる特徴が超新星 1987A を 10 倍ほどスケールアップすることで説明できることがわかりました。

図2: OGLE14-073(緑丸)と超新星 1987A(黒三角)の光度曲線の比較.OGLE14-073 と超新星 1987A の光度曲線は非常によく似たパターンを示しているが,光度が 10 倍高いことがわかる.また,比較としてこれまでに観測された明るい超新星の光度曲線をのせている.そのどれとも光度曲線の形が似ていないことがわかる.
Credit: Terreran et al. (2017) Nature Astronomy より改変

 「超新星 1987A の 10 倍の爆発」。この事実は観測チームにさらなる衝撃を与え、より深い謎へと導きました。標準的な理論に従えば、超新星 1987A の 10 倍の爆発は不可能だからです。超新星 1987A を始めとした水素を含む超新星は、爆発が起こる際にニュートリノが持つエネルギーの一部が爆発エネルギーとして超新星に与えられることで発生すると考えられています。これが超新星爆発の標準的な理論とされる「ニュートリノ加熱説」です。ところが、ニュートリノはほとんど物質と相互作用を起こさないため、OGLE14-073 のような「超新星 1987A の 10 倍の爆発」を起こすほど超新星にエネルギーを与えることは不可能であると考えられているのです※2

 どうして水素を持つ一般的な星がこれほどまで大きなエネルギーをもって爆発することが出来たのでしょうか。研究チームの一人である国立天文台理論研究部の守屋尭特任助教は、観測結果を初めて見た時に、OGLE14-073 は対不安定型超新星の可能性が高いことを指摘しました。対不安定型超新星とは、大質量星の中でも特に重い星で起こるとされ、星の内部で起こる電子と陽電子の対生成に起因する不安定性が引き起こすと考えられている超新星です※3。対不安定型超新星は「超新星 1987A の 10 倍の爆発」を引き起こすことができ、大量のニッケル 65 を生成することが可能です。さらに非常に重い星で起こるため、OGLE14-073 の爆発噴出物の質量が大きいことも自然に説明できます。これまで対不安定型超新星が実際に観測されたことはありませんでしたが、OGLE14-073 の特徴から、研究チームはこれが対不安定型超新星の初めての観測例ではないかと考えたのです。

 しかし、全ての観測的な特徴が対不安定型超新星によって完全に説明できる訳ではありませんでした。対不安定型超新星の理論モデルによると、水素を持った状態で爆発した場合でも、ある程度時間が経つと水素の兆候がスペクトルから見えなくなることが予言されています。しかし、OGLE14-073 では常に水素の兆候が観測されていました。

 対不安定型超新星の他に考えられるのは、1秒間に 1000 回もの高速回転をする強い磁場を持った中性子星「マグネター」が形成されたという説です。マグネターはその強い磁場によって、その膨大な回転エネルギーを瞬時に開放することが可能です。しかしこれまで、水素を持つ大質量星の爆発時にマグネターほど高速回転する中性子星を形成することは難しいと考えられてきました。現在見落とされている何らかの方法で高速回転中性子星を形成することが可能であれば、OGLE14-073 の膨大な爆発エネルギーを説明できる可能性もあると研究チームは考えています。

 今回、水素を持つ莫大なエネルギーの超新星が発見され、研究グループはそれに対して幾つかの仮説を立てました。しかし、まだ正体がはっきりと解明されたわけではありません。今後重要になってくるのは、このような超新星の観測例を増やし、より詳細な観測を行っていくことです。OGLE14-073 は暗くなってからの観測を行うことがほとんどできませんでした。ある程度暗くなってからの超新星の観測は、中心で引き起こされた爆発の情報を多く含み、OGLE14-073 のような超新星が対不安定型超新星かどうかを確かめるのに重要な役割を果たします。今後、現在すばる望遠鏡などで行われている大規模な突発天体サーベイにより似たような超新星が見つけられ、特に暗くなってからも頻繁に観測を行うことで、標準理論で説明できない超新星爆発のメカニズムが確かめられると期待されます。OGLE14-073 の発見は、これまで考えられてきたよりも大質量星の爆発を引き起こす機構が多様であることを示しており、星の爆発メカニズムの研究に大きな示唆を与える結果となりました。

この研究成果は、2017年 9月 18日に Nature Astronomy オンライン版に掲載されました。



注釈
※1: Optical Gravitational Lensing Experiment Transient Search

※2: これまで知られてきたこれほど多くのエネルギーを持つ特殊な超新星として、ガンマ線バーストに付随するような水素を持たない極超新星が挙げられます。しかし、水素をもつような一般的な大質量星がニュートリノ加熱によって説明不可能なほど大きなエネルギーをもって爆発した超新星はこれまで観測されたことがなく、OGLE14-073 が初めての例となりました。

※3: 大質量星の起こす超新星は、進化の最終段階で大質量星の中心に出来る鉄コアが自重を支えきれなくなることにより引き起こされます。しかし、非常に重い星の場合、鉄を形成する以前の酸素コアを形成した段階において自重を支えきれなくなり爆発する可能性が理論的に指摘されていました。この爆発は電子と陽電子の対生成に起因する星の不安定性によって引き起こされるため、対不安定型超新星と呼ばれています。

論文・研究チーム

タイトル:"Hydrogen-rich supernovae beyond the neutrino-driven core-collapse paradigm"
掲載誌:Nature Astronomy
DOI:10.1038/s41550-017-0228-8
著者:G. Terreran, M. L. Pumo, T.-W. Chen, T. J. Moriya, F. Taddia, L. Dessart, L. Zampieri, S. J. Smartt, S. Benetti, C. Inserra, E. Cappellaro, M. Nicholl, M. Fraser, Ł. Wyrzykowski, A. Udalski, D. A. Howell, C. McCully, S. Valenti, G. Dimitriadis, K. Maguire, M. Sullivan, K. W. Smith, O. Yaron, D. R. Young, J. P. Anderson, M. Della Valle, N. Elias-Rosa, A. Gal-Yam, A. Jerkstrand, E. Kankare, A. Pastorello, J. Sollerman, M. Turatto, Z. Kostrzewa-Rutkowska, S. Kozłowski, P. Mróz, M. Pawlak, P. Pietrukowicz, R. Poleski, D. Skowron, J. Skowron, I. Soszyński, M. K. Szymański & K. Ulaczyk

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