ウェブリリース | 国立天文台 理論研究部

明らかになった大質量星の最期の姿 — 厚いガスに包まれた星の終焉

2018.9.4 掲載

概要

 大質量星が一生の最期に起こす超新星爆発。その爆発直前の星が大量のガスを放出していることが、このたび明らかになりました。これは標準的な星の進化の理論では考えられていなかったことです。爆発直前に放出される厚いガスに包まれた超新星爆発のシミュレーションと、爆発直後の超新星を多数観測したデータとの詳細な比較とを行った、国立天文台の守屋尭 特任助教らの研究の結果、星の進化の最終段階に新たな知見が加わったのです。本研究は、2018年9月3日付の英国の科学雑誌「Nature Astronomy」オンライン版に掲載されました。

図1: 本研究により明らかになった大質量星の最期のイメージ。星のごく近傍を星から放出されたと考えられる厚いガスが取り囲んでいる。
クレジット: 国立天文台
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詳細

 質量の大きな星は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。超新星爆発では、星の中心で生じた衝撃波が表面に達した際に「ショックブレイクアウト」という現象が起こり、星が急激に増光すると予測されています。爆発直前の星の構造を詳しく解明するため、このショックブレイクアウトを捉えようとする試みが世界的に行われています。しかし、増光の継続時間が数時間以下とたいへん短いために観測することが難しく、この現象についての理解はほとんど進んでいません。

 超新星のショックブレイクアウトによる増光を捉えようと、チリ大学のフォースター氏が率いる観測チームは、2013年から2015年にかけてチリにあるブランコ望遠鏡を用いて赤色超巨星の大規模観測を行いました。多くの大質量星は、進化の最終段階で外層が大きく膨らんだ赤色超巨星となり、その状態で超新星爆発を起こします。この観測では、26個というこれまでにない数の赤色超巨星の爆発直後の超新星を捉えることに成功したにも関わらず、予測されていたショックブレイクアウトによる増光を確認することはできませんでした。一方で、観測されたほとんどの超新星の光度変化が、理論的に予測されているよりも早く明るくなっていることが分かったのです。理論予測より早く明るくなる超新星はこれまでにもいくつか観測されていましたが、今回理論予測と異なる光度変化を示す超新星がこれほど多く観測されたことは、チームを驚かせました。

 国立天文台の守屋尭特任助教は、超新星の光度が従来の理論予測よりも早く明るくなるのは、星から爆発の数百年前という直前に放出された厚いガスに取り囲まれていることが原因であると、これまで考えてきました。厚いガスに囲まれた超新星がどのように光るのか、守屋氏はガスの密度や速度などの条件を変えた518通りのシミュレーションを行い、その結果をフォースター氏らの観測データと詳細に比較しました。その結果、爆発直前の赤色超巨星のごく近傍に太陽質量の約10分の1というきわめて高密度のガスが存在する場合に、今回の観測結果をよく説明できることが分かりました。ショックブレイクアウトによる増光は、星を取り囲む厚いガスによって隠されてしまうために観測することが難しいのです。また、爆発によって星から高速で広がる噴出物がこの厚いガスに衝突する際に衝撃波が発生し、爆発から数十時間という短い時間で一気に光度が明るくなります。これは、星を取り囲む厚いガスの存在を考えない従来の理論予測よりも、短い時間です。この結果は、超新星爆発直前の赤色超巨星が、なんらかの理由で多くのガスを放出していること、そしてそれが普遍的な現象であることを示しています。今回の研究で、星の進化の最終段階の新たな姿が描き出されたのです。

図2: 観測された超新星 26 天体の光度曲線と(丸印)、従来の理論予測(破線)、厚いガスに覆われている場合のシミュレーション(実線)のそれぞれの明るさを比較している。シミュレーションは、ガスの密度や速度などを変えて多数回行っている。SNHiTS15G、SNHiTS15Q をのぞく 24 天体については、従来の理論予測よりも実際の観測が早く明るくなること、観測データとシミュレーションの結果がよく一致していることがわかる。
クレジット:Förster et al. Nature Astronomy (2018) を改変
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 守屋氏は「標準的な理論では、爆発直前の星がこれほど多くの物質を一気に放出するとは考えられていませんでした。超新星爆発直前の星についての理解がこれまで不完全だったことが明らかになりました」と、今回の研究の重要性を述べています。
 守屋氏によるシミュレーションは、国立天文台 天文シミュレーションプロジェクトが運用する計算機群「計算サーバ」を用いて行われました。

 本研究は、2018年9月3日付の「Nature Astronomy」オンライン版に掲載されました。



論文・研究チーム

タイトル:"The delay of shock breakout due to circumstellar material evident in most type II supernovae"
掲載誌:Nature Astronomy
DOI:10.1038/s41550-018-0563-4
著者:F. Förster, T. J. Moriya, J.C. Maureira, J.P. Anderson, S. Blinnikov, F. Bufano, G. Cabrera–Vives, A. Clocchiatti, Th. de Jaeger, P.A. Estévez, L. Galbany, S. González– Gaitán, G. Gräfener, M. Hamuy, E. Hsiao, P. Huentelemu, P. Huijse, H. Kuncarayakti, J. Martínez, G. Medina, F. Olivares E., G. Pignata, A. Razza, I. Reyes, J. San Martín, R.C. Smith, E. Vera, A.K. Vivas, A. de Ugarte Postigo, S.-C. Yoon, C. Ashall, M. Fraser, A. Gal–Yam, E. Kankare, L. Le Guillou, P.A. Mazzali, N.A. Walton, D.R. Young

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 16H07413, 17H02864)による支援を受けています。

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関連リンク
国立天文台 天文シミュレーションプロジェクト プレスリリース「明らかになった大質量星の最期の姿 — 厚いガスに包まれた星の終焉」
国立天文台 プレスリリース「明らかになった大質量星の最期の姿 — 厚いガスに包まれた星の終焉」
チリ大学 プレスリリース「Chilean scientists discover crucial event right before the death of a star」(英語)
守屋尭 個人ウェブページ(英語)