理論研究部の井上剛志助教が2014年度日本天文学会研究奨励賞を受賞しました.この賞は1988年度から日本天文学会が実施している賞で,優れた研究成果をあげている若手天文学研究者を対象に表彰しているものです.今年度は井上氏を含め3名が受賞しました.2014年度日本天文学会春季年会(会場:大阪大学)にて授賞式,および受賞記念講演が行われました.今回受賞となった井上氏の研究テーマは「多相星間媒質のダイナミクスと進化に関する理論的研究」です.特に(1)星間媒質の進化過程と星形成の初期条件解明に関する研究と(2)超新星残骸と分子雲の相互作用に関する研究 において貢献が評価され,研究奨励賞の受賞となりました.
井上氏は京都大学の大学院生時代より,星間媒質に関するシミュレーションを用いた理論的研究を行ってきました.2008年に博士論文「The Role of Thermal Instability in the Interstellar Medium(星間媒質における熱的不安定性の役割)」で博士号を修得,2014年より国立天文台理論研究部助教を務めています.
井上氏の研究対象である星間媒質は,宇宙の物質循環のなかでも星の死と誕生をつなぐ重要な段階です.星はこの星間媒質の中の最も冷たい分子雲と呼ばれるガスの中で誕生します.しかし,どのような物理状態の分子雲で星が形成されるのかは明らかではなく,大きな問題とされてきました.これに対し井上氏は,星間媒質中での衝撃波や光の伝播,磁場などを考慮した大規模数値シミュレーションを行うことによって,希薄な星間媒質から星が生まれる直前の分子雲形成にいたるまでの一連の進化過程を明らかにしました.この研究により,星形成が起きる条件の解明につながりました.
さらに,星形成に対して行ってきた星間媒質のシミュレーションを超新星残骸の研究に応用し,超新星残骸が分子雲と衝突すると高エネルギー宇宙線の生成に有利な強い磁気嵐が発生することを明らかにしました.これは宇宙線の加速機構の解明につながる成果となりました.
これらの研究成果は星間媒質に対する理論的な理解のみならず,近年のアルマ望遠鏡などの観測データの解釈にも多大な示唆を与えるものとなっています.
今回の受賞について井上氏はこのように話しています.「今回の受賞は大学院時代の指導教官を始めとした多くの共同研究者に恵まれた結果だと思います.また,昨年の国立天文台着任から私も運用メンバーの一員となっている国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピュータが無ければ実現不可能な研究でした.今後はさらに進んだ研究を行うことで残された謎解きを楽しみたいと思います.」
[左]シミュレーションで再現された分子雲の3次元密度構造(Inoue & Inutuska 2012, ApJ).紫色で示された高密度領域では星の形成が始まろうとしている. |
日本天文学会研究奨励賞の概要・受賞理由と,井上氏については以下のリンクを御覧ください.