国立天文台 理論研究部

理論研究部の研究者2名が平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞

国立天文台理論研究部の田中雅臣助教(注1)と銭谷誠司特任助教(国立天文台フェロー)が平成28年度文部科学大臣表彰・若手科学者賞を受賞し,4月20日文部科学省において表彰式が行われました.田中氏は「宇宙の爆発現象に関する理論的および観測的研究」で,銭谷氏は「相対論的磁気リコネクションの先駆的シミュレーション研究」でそれぞれ受賞しました.

(注1):総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文科学専攻 助教

画像: 田中雅臣 理論研究部助教(左)と銭谷誠司 理論研究部特任助教(右).中央は科学技術賞(開発部門)を受賞した国立天文台野辺山宇宙電波観測所所長の斎藤正雄 准教授.文部科学大臣表彰・表彰式にて(2016年4月20日).(クレジット: 国立天文台)


■田中雅臣 助教「宇宙の爆発現象に関する理論的および観測的研究」

 宇宙では,しばしば天体の爆発現象が起こっています.近年注目される爆発現象の一つに中性子星同士の衝突合体があります.この現象からは重力波が発生すると考えられており,今まさに始まったばかりの重力波天文学の重要なターゲットです.しかし,重力波の検出だけでは重力波源の正確な位置を特定することができず,電磁波による観測で対応天体を探し出すことが必要です.
 田中氏は,現実的な元素組成を考慮したシミュレーションを世界に先駆けて行い,中性子星合体が放射する電磁波の特徴を予測しました.その後,中性子星合体の候補と考えられるガンマ線バースト天体から,田中氏の計算結果が予測した電磁波の放射が発見され,観測的に検証されました.
 田中氏の研究は,重力波源の探査観測の指針を示す役割を果たし,重力波と電磁波観測による「マルチメッセンジャー天文学」の発展を推し進めるものです.そして田中氏自身も自らの理論予測に基づいて,重力波検出後の起源天体探査観測を行っています.


動画1: 中性子星同士の合体で放射される電磁波のシミュレーション.国立天文台天文シミュレーションプロジェクトのスーパーコンピュータ「アテルイ」で行われたもの.(©田中雅臣)

 田中氏はこれまでにも超新星爆発を対象とし,爆発の状態が天体の放つ電磁波に及ぼす影響をシミュレーションで導き出し,それを実際に観測し検証するという手法によって,天体の爆発現象の解明に貢献してきました.2012年には,爆発メカニズムの鍵となる超新星の三次元構造を偏光観測によって導き出せることを示しました(2012年8月2日プレスリリース).また,宇宙初期の初代星が起こす超新星爆発を捉える方法を提唱し,現在は実際にすばる望遠鏡等を使った探査観測を行っています.
 このようにして田中氏は,理論研究と観測研究を融合させることで,宇宙における爆発現象の解明にむけた新たな道筋を切り開いてきました.これらの功績が評価され,今回の受賞に至りました.田中氏は受賞について次のように述べています.「この度は栄えある賞を頂き大変光栄に思います.中性子星合体や超新星爆発など,様々なテーマの理論・観測研究を行うことができたのは多くの共同研究者の方々に恵まれたお陰です.重力波天文学が始まったことで,中性子星合体の研究はこれからますます本格化していきますし,強力な探査観測によって超新星爆発の研究も新たな展開を迎えています.今回の受賞を励みにして,今後も宇宙の爆発現象の謎に挑んでいきたいと思います.」



■銭谷誠司 特任助教(国立天文台フェロー)「相対論的磁気リコネクションの先駆的シミュレーション研究」

 磁力線が繋ぎかわる「磁気リコネクション」は,宇宙プラズマにおける重要な現象です.この現象は長年,太陽や惑星磁気圏物理の分野で研究が進められてきました.しかし近年では,パルサーやガンマ線バースト源のなどの高エネルギー天体周辺のような,相対性理論を考慮する必要があるプラズマ環境でも注目されるようになってきました.
 銭谷氏は,こうした環境で起きる「相対論的」磁気リコネクションの重要性を予見し,様々なシミュレーション方法でその基礎的な振る舞いを調べてきました.その計算方法は,これまでに太陽・惑星磁気圏のプラズマ研究で培われてきた手法が応用されたものです.電子・陽電子プラズマ中で起きる相対論的磁気リコネクションについて,プラズマ粒子の運動を解き進めるシミュレーションを世界に先駆けて行い,磁気リコネクションがプラズマ粒子を高いエネルギーまで加速することが明らかになりました.さらに,光速に近い速度を持つ流体の運動を計算するためのシミュレーションコードを開発し,相対論的磁気リコネクションの大きなスケールでの振る舞いを明らかにしました.これらの研究を踏まえることで,その後発見された「かに星雲」のガンマ線フレア現象を説明できる物理機構として,磁気リコネクションが有力視されるようになってきました.


動画2: 相対論的磁気リコネクションのジェット先端構造のシミュレーション.左遠方にリコネクション点(磁力線がつなぎ変わる点)があり,そこから噴き出したジェットが周辺のプラズマと衝突して美しいダイヤ型の衝撃波構造を作り出しています.(©銭谷誠司)

 さらに銭谷氏は,相対論から得た着想を用いることで,磁気リコネクション問題を詳しく解析するための新しい理論手法を提案しています.2015年にNASAが打ち上げた宇宙空間プラズマを計測するMMS衛星のデータをはじめ,様々な観測・シミュレーションデータの解釈に銭谷氏の提案する手法が役立つと期待されています.
 銭谷氏のこれらの研究は,高エネルギー天文学における磁気リコネクション効果を議論する出発点となり,そして多様な環境における宇宙プラズマ研究をさらに発展させるものです.銭谷氏は今回の受賞について以下のように語っています.「今回は栄誉ある賞をいただきまして光栄に思います.これまで研究の機会を提供し,サポートしてくださった共同研究者,学会,そして国立天文台の皆様に感謝します.最近,高エネルギー天文学では,磁気リコネクションへの注目がこれまで以上に高まっています.一方、地球磁気圏の分野も衛星による詳細観測が始まり,エキサイティングな局面を迎えています.高エネルギー天文学と磁気圏物理学をうまく『繋ぎかえる』ことを目指して,これまで以上に磁気リコネクションの素過程の研究に取り組んでいければと思います.」



 科学技術分野における文部科学大臣表彰・若手科学者賞は,科学技術における萌芽的な研究,独創的視点にたった研究等,高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた40歳未満の若手研究者におくられる賞です.



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