国立天文台 理論研究部

滝脇知也助教が2016年度日本天文学会研究奨励賞を受賞


[上] 滝脇知也氏

 理論研究部の滝脇知也助教*が2016年度日本天文学会研究奨励賞を受賞しました.この賞は1988年度から日本天文学会が実施している賞で,優れた研究成果をあげている若手天文学研究者を対象に表彰しているものです.今年度は滝脇氏を含め2名が受賞しました.2016年度日本天文学会春季年会(会場:九州大学)にて授賞式,および受賞記念講演が行われました.今回受賞となった滝脇氏の研究テーマは「大規模3次元シミュレーションに基づく重力崩壊型超新星の爆発機構に関する理論的研究」です.シミュレーション研究により超新星爆発機構の理解に前進をもたらしたことが評価され,研究奨励賞の受賞となりました.
(2017年3月28日 掲載)

* 総合研究大学院大学 物理科学研究科 天文科学専攻 助教



 滝脇氏の研究は,太陽の8倍以上の質量の星が一生の最期に起こす重力崩壊型超新星の爆発メカニズムの解明です.過去50年近い研究の歴史を持つ超新星爆発の研究ですが,そのメカニズムには未だ多くの謎が残されています.シミュレーション技術が発展してもなお,数値計算によって爆発を再現することは,長年困難とされてきました.
 滝脇氏は星が重力崩壊したときにできる原始中性子星から放射されるニュートリノに着目し,独自のニュートリノ輻射流体計算コードを開発しました.このコードを用いて,理化学研究所の「京」や国立天文台の「アテルイ」などのスーパーコンピュータ上で重力崩壊型超新星の高解像度3次元シミュレーションを実行しました.その結果,ニュートリノ加熱によっての衝撃波が外側へ押し進められ爆発にいたる過程を明らかにしました(2014年4月CfCAウェブリリース).さらに滝脇氏は星の自転にも着目し,自転をする重力崩壊型超新星の3次元シミュレーションを世界に先駆けて行いました.自転によって歪んだ原始中性子星がスクリューのように物質を撹拌することでニュートリノ加熱が進んで星が爆発をするという,新しいメカニズムを発見しました.
 これらの業績に加え,滝脇氏が開発した計算手法により,観測結果と比較できる3次元の超新星モデルの構築が可能となってきました.爆発時に放射されるニュートリノや重力波は,超新星爆発を理解するための重要な観測ターゲットとなっています.さらに,ポスト「京」を使った超新星爆発の3次元長時間計算の実現に向けて,滝脇氏を中心とした研究チームによるコード開発が進められています.

 このように,滝脇氏は先駆的な大規模3次元シミュレーションにより,超新星爆発の鍵となるニュートリノ加熱や星の自転の効果の重要性を明らかにし,爆発メカニズムの理解に大きな貢献をしました.さらに,次世代スーパーコンピュータや次世代観測による超新星研究において中心的な役割を果たしていくことが期待され,2016年度の日本天文学会研究奨励賞が授与されました.
 今回の受賞について,滝脇氏は次のように話しています.「今回素晴らしい賞を受賞できて大変光栄です.研究を始めた当初はコードがうまく動かなかったり,計算効率が悪くて抜本的な見直しが必要だったり,様々な困難がありました.その困難を一つずつ解決した苦労が報われて嬉しいです.その後,計算が小規模なものから大規模なものになり,次世代観測への予言をする段階になってからは多くの共同研究者に恵まれました.今回の受賞に当たってもお祝いの言葉を戴いています.ドイツの詩人,シラーは“友情は喜びを二倍にし,悲しみを半分にする“と述べたそうです.このような賞をいただいた喜びを多くの共同研究者と分かち合えることが何より嬉しいです.もっと困難な研究にチャレンジする勇気が涌きます.今後の研究にもご期待ください.」

滝脇氏の研究は,文部科学省HPCI戦略プログラム分野5「物質と宇宙の起源と構造」,ポスト「京」重点課題9「宇宙の基本法則と進化の解明」および計算基礎科学連携拠点(JICFuS)のもとで実施されました.

図:滝脇助教らが発見した自転によりニュートリノ加熱が助けられる新しい爆発メカニズム.図はエントロピーという熱さの指標を表し,爆発が強いところで赤や黄色となるよう色付けがしてある.白線で示された壁には断面図を表示し,中心には特に熱くなっている表面を描画した.白線の長さは1辺1000kmで(1)〜(4)の順に時間発展の様子を表す.それぞれの左上には原始中性子星ができた時刻からはかった時間を表示している.(1)や(2)では遠心力で赤道面に歪んでいる.(3)では下面に見られる渦が顕著になって爆発が外に向かい,(4)では1000kmの枠をはみ出すほど爆発が広がっている.(©滝脇知也)

日本天文学会研究奨励賞の概要・受賞理由

滝脇氏の研究成果に関連するリンク