国立天文台 理論研究部

田中雅臣助教が2015年度日本天文学会研究奨励賞を受賞


[上] 田中雅臣氏

 理論研究部の田中雅臣助教が2015年度日本天文学会研究奨励賞を受賞しました。この賞は1988年度から日本天文学会が実施している賞で、優れた研究成果をあげている若手天文学研究者を対象に表彰しているものです。今年度は田中氏を含め3名が受賞しました。2015年度日本天文学会春季年会(会場:首都大学東京)にて授賞式、および受賞記念講演が行われました。今回受賞となった田中氏の研究テーマは「重力波天体の電磁波放射に関する研究」です。重力波天体である連星中性子星合体からの電磁波放射の様子を明らかにした研究成果が評価され、研究奨励賞の受賞となりました。

 田中氏の研究は、宇宙に存在する中性子星やブラックホールの合体現象を対象にしたものです。これらの合体現象は、重力波の直接検出の有力なターゲットとなっています。実際、2015年9月には重力波望遠鏡Advanced LIGOがブラックホール同士の合体から重力波を直接検出し、「重力波天文学」の時代が幕を開けました。重力波天体の宇宙物理学的研究を行うためには、電磁波で対応天体を検出することが必要不可欠です。しかし、重力波天体の電磁波放射の性質には大きな不定性がありました。
 田中氏は自身が行ってきた超新星爆発における輻射輸送シミュレーションを発展させ、現実的な元素組成を加味した連星中性子星合体の電磁波輻射輸送シミュレーションに成功しました。その結果、中性子星合体からの電磁波放射はこれまで考えられていたよりも約10倍暗く、主に可視光の長波長側から赤外線で光ることを明らかにしました。この結果が発表されたのと同時期に、中性子星合体が引き起こしたと考えられているガンマ線バーストGRB 130603Bに付随して予想された通りの近赤外線放射が発見され、田中氏の計算結果が検証されました。
 この成果は、重力波が検出された後にどのような電磁波観測を行うべきかの指針となるもので、重力波天文学と電磁波天文学が連携した「マルチメッセンジャー天文学」の発展に大きく貢献するものです。田中氏自身も、自らの理論的予言に基づいて東京大学木曽観測所シュミット望遠鏡や国立天文台すばる望遠鏡を用いて重力波天体の追観測に参加しており、突発天体・重力波天体の探査観測において中心的な役割を果たしています。

 今回の受賞について田中氏はこのように話しています。「今回の受賞は、多くの方々との共同研究の結果によるものです。重力波天体のシミュレーション研究、また観測研究を一緒に行って下さった共同研究者の皆様に感謝致します。重力波天文学の黎明期にこの研究を行えたことは非常に幸運でした。これからの重力波天文学、そしてマルチメッセンジャー天文学の発展にぜひご期待下さい。」

[左] 連星中性子星合体における輻射輸送シミュレーション (Tanaka & Hotokezaka 2013, ApJ, 775, 113)。

日本天文学会研究奨励賞の概要・受賞理由

田中氏の研究成果に関連するリンク